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神霊術少女チェルニ〈連載版〉

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『小説家になろう』で大好評連載中! 須尾見蓮先生による『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』を、こちらからまとめて読むことができます。 ※本連載投稿は、『小説家になろう』に連載されてい… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-9

 フェルトさんが、クローゼ子爵家のいいなりにならなかったら、アリアナお姉ちゃんたちを誘拐して脅迫するか、フェルトさんやわたしたちを殺そうとするかもしれない……。  ヴェル様の話が怖すぎて、思わず硬直していると、腕の中のスイシャク様と、肩にとまったままのアマツ様が、白と紅の光で、わたしの身体をぐるぐる巻きにしてくれた。  何も心配することはない、ちゃんと守ってあげるから、自分にできることで立ち向かいなさいって。そのメッセージが本当に優しくて、心の底からありがたくって、わたし

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-8

 神去りのクローゼ子爵家から、フェルトさんとアリアナお姉ちゃんを守り、子供たちの誘拐事件の真相に迫るために、ネイラ様と王城が罠を仕掛ける一日目……って、長いな。この先は、単に〈作戦一日目〉とかにしよう。  作戦一日目は、気持ちの良い快晴だった。朝起きると、左の肩口にスイシャク様、右の肩口に紅い鳥のアマツ様がいて、わたしの頬にぴったりとくっついて眠ってた。  柔らかくて、温かくて、すごく気持ちがいい。これが本当の羽毛布団だねって、わたしは軽く現実逃避しながら思った。畏れ多い

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-7

 二つの大きな力は、あっという間に近づいてきて、うちの家に到着した。でも、すぐには入ってこなくて、スイシャク様と紅い鳥は、ゆっくりとうちの家の上を回っている。スイシャク様は右回りに三回、紅い鳥は左回りに三回。  わざと軌道をずらしているみたいで、分体が動いた後にできる光の帯が、まるで何かの印みたいに見える。そう、家のなかにいるのに〈視える〉んだ。万事に気の利くスイシャク様が、今だけ視点を共有させてくれたから。  旋回が終わると、スイシャク様と紅い鳥は、音もなく応接室に入

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-6

 さて、それからも長い時間をかけて話し合ったわたしたちは、翌日からさっそく行動を起こすことにした。善は急げっていうし、いろいろと予想していながら、結果的に間に合わなかったりしたら、余計に悔しいからね。  わたしの最初の役割は、ネイラ様に手紙を書いて、事情をお知らせすることだ。できるだけ正確に情報を伝えて、ネイラ様の指示を仰ぐ。  本当にクローゼ子爵家とセレント子爵がつながっているとしたら、ルーラ王国にとって一大事だから、ネイラ様の指示に従うのが一番だって、皆んなで決めたん

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-5

 クローゼ子爵家のお屋敷にいる雀は、一羽だけじゃなかったみたい。入り口に張り廻らされている、神霊さんからの〈縁切り状〉を見て、わたしが硬直していると、今度はヒョイって視点が上がったんだ。  目に入ってきたのは、大きくて立派な部屋だった。多分、応接間とか居間とか、人が集まる場所なんだろう。そこには十人近い人たちがいて、怖い顔で何かを話し合っていたんだけど、わたしは話の内容どころじゃなかった。だって、その人たち、顔が大変なことになっているんだよ!?  その人のたちの額の真

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-4

 突然現れた巨大な雀は、不機嫌そうな顔のまま、わたしをじっと見詰めている。わたしはさっと床に下りると、雀の前でひざまずいた。  ふくふくした羽毛とか、真っ黒でまんまるな瞳とか、ジタバタしたくなるくらい可愛いくても、これはただの雀じゃない。いや、もちろん大きさ的にもただの雀じゃないんだけど、それ以前に、この雀は神霊さんの分体なんだから、礼を尽くすのは当たり前なんだ。  でも、わたしが学校で習ったご挨拶の〈祝詞〉を口にする前に、雀は強いイメージを送ってきた。ずっと呼び出される

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-3

 神去りっていうのは、わたしたちルーラ王国の国民にとっては、ものすごく怖い言葉だ。神霊さんの恩寵を失って、何の術も使えなくなること。神霊さんに見放されて、見守ってもらえなくなること。それを神去りっていう。  何かの犯罪を犯したとか、意地悪な人だとか、それだけでは神去りになるとは限らない。わたしたちの目から見て、神霊さんの恩寵に相応しくないような人でも、神霊術を使い続けられたりするし、逆に立派な人だと評判だったのに、いきなり神霊さんに去られたりする場合もあるんだって。  神

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-2

 アリアナお姉ちゃんとフェルトさんは、順調に結婚を前提にしたお付き合いというのを始めた。半年くらいお付き合いしてから婚約し、結婚式とか具体的なことを決めるんだって。普段から優しい笑顔のアリアナお姉ちゃんが、もっと幸せそうに笑っているから、お母さんもわたしも、とっても嬉しい。  お父さんだけは、ちょっと寂しそうな顔をして、仲良くなった総隊長さんと一緒に、お酒を飲みに行ったりしているらしいけど、そこは仕方がないだろう。花嫁の父は複雑なんだって、わたしでも知っているからね。  

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-1

 ルーラ王国の南部、都会でも田舎でもないキュレルの街に、大人気の食堂兼宿屋〈野ばら亭〉がある。名物として有名なのは、エールのお供に最適なモツ煮込みと、主人の自慢の焼き立てパン。そして、昼間の間だけ手伝いに出る美人姉妹の看板娘だ。  その妹の方で、可愛さと親しみやすさが魅力のわたし、十四歳になったばかりのチェルニ・カペラは、どきどきする胸を押さえながら、お客様を待っていた。 「来たわよ、チェルニ。どうしよう。お母さん、どこかおかしいところはないかしら」  そういって、ふっく

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 1 最初の冒険

 『小説家になろう』で大好評連載中! 須尾見蓮先生による『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』を、本日から毎日21時に、noteにも連載投稿いたします。  初めましての皆様も、すでにお読みいただいている皆様も、お仕事前に、お仕事終わりに、そして、おやすみ前に。皆様の日常のひとときに、ぜひお楽しみください! 『神霊術少女チェルニ1 神去り子爵家と微睡の雛』opsol bookより好評発売中です。   『神霊術少女チェルニ』公式Webサイトはこちら   須尾見蓮先生の公式Twitt