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神霊術少女チェルニ〈連載版〉

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『小説家になろう』で大好評連載中! 須尾見蓮先生による『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』を、こちらからまとめて読むことができます。 ※本連載投稿は、『小説家になろう』に連載されてい… もっと読む
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2022年8月の記事一覧

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-3

 大公家のお姫様だったオディール様の、あまりの早口と勢いに圧倒されて、わたしの家族と総隊長さんは、ちょっと呆然としちゃった。  大公のお屋敷では、相手を怒らせるために、わざと煽っているのかと思ってたんだけど、お姫様って、普段からこういう人だったの? 悲劇のお姫様っていうイメージが、一気に崩れたのは、いいこと……なんだよね、きっと。  お姫様に寄り添うように、横に座っていたマチアスさんは、すっごく優しい目をして、オディール様を見つめている。マチアスさんは、お姫様のことが、可

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-2

 わたしが受験する王立学院では、六科目の学科試験の他に、実際に神霊術を使う実技試験がある。学科と実技の合計で、合格者を決めるわけじゃなく、実技はあくまでも〈参考〉らしいんだけど。  わたしと文通してくれている、ネイラ様の説明によると、勉強は得意ではないけど、神霊術に素晴らしい才能を持っている生徒のために、実技が組まれているんだって。ルーラ王国で最高の教育機関である王立学院が、神霊術の才能を見逃すっていうのは、あんまり外聞のいいことじゃないんだろう。  そのあたりの事情は、

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-1

 すっかり秋の気配が濃くなって、ひんやり冷たい風が吹き抜ける中、わたしは一人で町立学校に向かって歩いていた。とぼとぼとぼとぼ、とぼとぼとぼとぼ。  われながら、元気のない足取りになるのは、仕方のないことだと思う。だって、十四歳のわたし、チェルニ・カペラは、今、大きな悩みを抱えているんだから。  キュレルの街の守備隊分隊長のフェルトさんと、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんをめぐる事件は、一応、三日前に終わりを迎えた。後始末は山ほどあって、神霊庁の裁判まで控えているけど、そ

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-37

 熊みたいな総隊長さんの挑発に乗って、大公騎士団の団長は、四十人もいる騎士たちに抜刀を命じた。キュレルの街のど真ん中で、まだ夜も早い時間なのに!  あまりにも馬鹿だから、わたしの口がパカンと開いちゃったんだけど、お母さんにいわせると、必ずしも馬鹿だとはいえないんだって。 「わたしたちは、ネイラ様のご助力や、神霊様のご加護があるから、気持ちを強くしていられるのよ。王族である大公の権力は強いから、普通だったら、総隊長さんも要求を拒否できなかったと思うし、力づくで押し通されたら

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-36

 ヴェル様が、うちの食堂を出て行くのと入れ違いに、お父さんとお母さんが戻ってきた。〈野ばら亭〉の従業員さんの振りをしている、神職の人たちから、大まかな話を聞かせてもらったんだって。  わたしの大好きなお母さんは、エメラルドみたいに澄み切った緑の瞳を、好奇心できらきら輝かせながら、満面の笑顔だった。 「オルソン子爵閣下から、ご伝言をいただいたの。いよいよ作戦の大詰めだから、〈捕縛の瞬間は、ご両親にもご覧に入れましょう〉って、いってくださったのよ。わたしの可愛い子猫ちゃんや、

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-35

 高貴なお姫様に、とんでもない勢いで罵倒されて、応接間にいた人たちは、呆然とした顔で固まっていた。お姫様は、大公に冷たい目を向けてから、黙って空いている長椅子に腰かけた。優雅で上品で、まるで自分の家みたいに自然な動作だった。  呆然としていた大公は、自分が何をいわれたのか、だんだんと理解してきたんだろう。真っ赤になったかと思うと、青白くなり、最後には墓石みたいな顔色になった。人間って、あんまり怒ると、最後は灰色になるのかな。 「……その無礼な態度は何だ。許されると思っ

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-34

 それからは、何もかもが急だった。まるで激流に流されるみたいな勢いで、すべての物事が激しく動いていったんだよ。  まず、オルトさんたちの話を聞いた大公は、執事っぽい男の人に命令して、大公騎士団を動かした。ヴェル様の解説によると、ルーラ王国の大公家は、近衛騎士団の代わりに、大公直属の騎士団を持つことを許されているんだって。   ドーラっていう名前の、執事っぽい男の人の手配で、すぐに大公の執務室にやって来たのは、二人の騎士だった。そのうちの一人は、フェルトさんを誘拐しようとし

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-33

 クローゼ子爵家の図書室で、自由に動けるようになったオルトさん達は、すぐに逃げるための準備を始めた。オルトさんと息子のアレンさん、それからオルトさんの弟のナリスさんは、貴重品を取りに走った。残されたミランさんは、転移魔術の準備をするらしい。  額に神霊さんの文字で、大きく〈嗜虐〉って書かれているミランさんは、いつも冷たい目をして、薄笑いを浮かべていたんだけど、今は真剣な顔をして、ぶつぶつと何かをつぶやいている。  わたしは、ミランさんを横目で見ながら、ヴェル様に質問した。

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-32

 クローゼ子爵家にいるマチアスさんと、使者ABは、図書室でオルトさんたちを待つことに決めたみたい。いくつかの書類らしきものを持ち出すと、隠し部屋の扉を閉めて、そのまま図書室に残ったんだ。  マチアスさんは、図書室の大きな窓に近づいて、カーテンを全開にすると、指で素早く印を切った。 「影を司る御神霊よ。今日は、もう一度力を貸してほしい。しばらくすると、この場に何人かの愚か者が現れるだろう。わたしが指を鳴らしたら、〈影縫い〉の術を発動して、侵入者の動きを止めてくれないか。

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-31

 スイシャク様が見せてくれる視界は、それからも目まぐるしく入れ替わった。くるりくるり、くるりくるり。数日のうちに、その不思議さに慣れてきちゃったけど、考えてみたら、これってすごいことなんだよね?  改めて、腕の中でふくふくしている、スイシャク様を覗き込むと、つぶらな瞳で首をかしげられた。尊い神霊さんのご分体で、わたしだって崇敬していて、でもとっても可愛いくて、思わず口元がむにむにしちゃったよ。  ともあれ、次にわたしの目に映ったのは、必死に馬を走らせている騎士っぽい人だっ

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-30

 馬車から降りたフェルトさんは、正面から悪人たちに向き合った。王都の外れに位置するらしい、〈白夜〉の拠点に集まっていたのは、見るからに怖そうな悪人たちと、数人の騎士っぽい格好をした人たちだった。  何度もスイシャク様に見せてもらったから、私にはわかる。騎士っぽい人たちは、使者AとBのお供をしたり、お屋敷でマチアスさんを見張ったりしていた、クローゼ子爵家の護衛騎士だよ!  フェルトさんは、護衛騎士たちにさっと視線を向けただけで、緊張した素振りもなかった。ただ、腰に差していた

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-29

 フェルトさんのいる、守備隊の本部にやってきたのは、普通っぽい感じの、中年の男の人だった。リオネルさんに連れられて、フェルトさんとアリオンお兄ちゃんが受付まで行くと、慌てた感じで口を開いたんだ。 「あの、あなたがフェルト・ハルキス様ですか? その、ちょっと問題が起こりまして、一緒に来ていただきたいんです。わたしは、〈野ばら亭〉に出入りしている馬丁なんですが、急ぎでハルキス様をお連れするように、〈野ばら亭〉のご主人に頼まれまして」 「わたしは、今朝も〈野ばら亭〉から出勤して

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-28

 襲撃者の登場を感知した、スイシャク様とアマツ様は、次の瞬間には、わたしを紅白の光の帯で包んでくれた。ぐるぐるを通り越して、ぐるんぐるんに。  そして、わたしを包み込んだものと同じ、紅白の眩い光の帯が、薄い幕みたいに広がって、部屋中を覆ったんだ。王都の家具屋さんで見つけて、素敵だなって憧れていた、天蓋付きのベッドみたいな感じだった。  スイシャク様とアマツ様からは、わたしを励ますみたいなメッセージが、次々に送られてきた。〈其の身柄は、現世の理の外に在り〉〈刹那の業也〉〈今

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-27

 作戦五日目の朝、おいしい朝ご飯を食べ終わったところで、スイシャク様が合図をしてくれた。クローゼ子爵家で動きがありそうだから、見せてあげるよって。  スイシャク様ってば、パンの食べ過ぎで、お腹をぽっこり膨らませているんだけど、可愛いからいいよね。  クローゼ子爵家では、先代になったクローゼ子爵と、息子のアレンさんが、マチアスさんと向き合っていた。いつもの応接室じゃなくて、マチアスさんのいる別邸の一室なんだろう。こぢんまりとした部屋には、マチアスさんたちの他に、使者ABと、