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神霊術少女チェルニ〈連載版〉

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『小説家になろう』で大好評連載中! 須尾見蓮先生による『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』を、こちらからまとめて読むことができます。 ※本連載投稿は、『小説家になろう』に連載されてい… もっと読む
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2022年9月の記事一覧

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-33

 わたしが、元気良く公開実技をお願いすると、司会役の先生が、なぜか微妙な顔をした。そして、手元の名簿を見ながら、大きな溜息を吐いていったんだ。 「ああ、その、公開実技を希望するんだね、チェルニ・カペラ君?」 「はい! お願いします」 「……わかった。そうすると、あれだ。きみが公開実技を希望した場合、間近で見学したいと希望している方々がおられるのだが、かまわないかね?」 「見学ですか? ご父兄とは別ですか?」 「きみの父兄だと思ってほしいと、むちゃくちゃ……いや、強制的に…

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-32

 秋晴れの空の下、王立学院では、いよいよ神霊術の実技試験が行われようとしていた。神霊術の実技点は百点満点なんだけど、この点数は、受験の合否に直接は影響しない。ルーラ王国では、神霊術に優劣はないっていう考え方をしているから、合否を判断するのは、基本的には学科試験の点数なんだ。  だったら、どうして神霊術の実技試験を実施するかというと、優秀な人材を見逃さないようにするためなんだって。学科試験の合格定員とは別に、特に優れた神霊術を披露した何人かの生徒は、特別枠で入試に合格できるらし

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-31

 午前中の筆記試験を終えて、わたしは、保護者の控え室に向かった。大好きなお父さんたちが、お昼ご飯を用意して待っていてくれるはずだから、おいしいものをたくさん食べて、午後からの実技試験に備えるんだ。  保護者控室までの道順は、大きく矢印で表示されているから、すぐにわかる。お母さんとアリアナお姉ちゃんは、もう神霊庁から移動できたのかな……と、思いながら歩いていたら、控室が近づくにつれて、さざなみみたいな声が聞こえてきた。  〈誰だ、あれ?〉〈とてつもない美少女だよな〉〈誰の家

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-30

 わたしは、耳障りな声のする方に向かって、冷たい視線を投げかけた。そこにいたのは、やたらにきらきらした服を着た、同じ年頃の男の子だった。後ろにお付きの人っぽい子がいるから、多分、地方の貴族なんだろう。内部進学じゃない地方貴族の子たちは、平民と一緒に試験を受けるからね。  子どものくせに偉そうな態度からして、間違いないと思う。顔は……妙に赤い気がするけど、別にどうでも良いや。わざわざ立ち上がるのも面倒なので、わたしは、どっしりと椅子に座ったまま、男の子にいった。 「初対面の

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-29

 今朝は、見事な秋晴れだった。えいやって、元気良く起き上がって、出かける準備を開始する。今日は、わたしにとって大切な一日、ついに迎えた王立学院の入試日なんだから。  わたしの枕元では、真っ白でふくふくのスイシャク様と、真紅でつやつやのアマツ様が、微かな寝息を立てていた。〈神霊さんって、人の子みたいに寝るものなの?〉とか、〈わたしが起き上がっても、そのままなんだ……〉とか、疑問に思うこともあるけど、もう慣れちゃったし、可愛いから何の問題もない。ないったら、ない。  二柱に守って

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-28

 王都への濃密すぎる旅を終えて、わたしの日常が戻ってきた。といっても、十日もしないうちに王立学院の入試があるから、のんびりしている暇はないんだけどね。  一日空けて、午後から町立学校に登校する。卒業学年のわたしたちは、授業はとっくに終了していて、今は卒業までの予備期間になる。高等学校を受験する人や、卒業試験で赤点を取っちゃった人は、毎日のように用意されている補習授業を受けているし、自宅で勉強したい人は、そうしても良いんだ。  わたしは、補修を受ける予定はないから、町立学校

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-27

 初めての神霊庁訪問を終えた次の日、わたしたちは、王都を出発することになった。といっても、お父さんとお母さんの仕事は、まだ残っている。それも、王都に進出する〈野ばら亭〉の物件を決めるっていう、ものすごく重要な仕事なんだ。  フェルトさんと総隊長さんは、マチアスさんのところへ行ってから、王国騎士団にご挨拶に行くそうで、今朝からは別行動になった。王国騎士団って聞いて、わたしが、ぐらぐらに動揺しちゃったのは、仕方のないところだろう。一応、こっ、恋する少女なのだ、わたしは。  気

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-26

 アリアナお姉ちゃんは、自分を拐おうとしている悪人たちから伸ばされた、不気味でどす黒い思念の糸を、思い切り良く截ち切っていった。普通の女の人だったら、怖がって泣いちゃうところだと思うんだけど、お姉ちゃんは怯まない。怯まないったら、怯まない。  凛々しい美少女が、ほんのり紫色に光る握り鋏を振るって、次々と悪縁の糸を截ち切っていく情景は、昔々の神話みたいで、とっても美しかった。皆んな、感心した顔でお姉ちゃんを見ているし、フェルトさんなんて、なぜか頬を薔薇色に染めちゃってるよ……。

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-25

 巨大鋏の〈神成〉を手伝って、失神しちゃったらしいわたしが、目覚めと共に目にしたのは、まったく予想外の光景だった。アリアナお姉ちゃんの膝に、紫色のクッションぽいものが置かれていて、その上には可愛らしい握り鋏。あれって、大きさは全然違うけど、あの巨大鋏なんだよね?  びっくりして、思わずヴェル様とミル様に目を向けたら、二人は、そろって首を横に振った。お父さんとお母さんを見ても、当事者のアリアナお姉ちゃんを見ても、反応は同じだった。フェルトさんと総隊長さんは、改めていうまでもない

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-24

《縁結ばれたり》 《其が告げるべし、神成の刻》  羊を司る神霊さんは、白黒に輝く長い被毛のところどころに、輝かしい極彩色の毛を光らせながら、そういった。これ以上ないくらい神秘的な場面なのに、わたしが、ちょっとだけ笑いたくなったのは、誰にも内緒にしたいと思う。  だって、わたしの知っている羊の神霊さんは、とっても可愛らしい編みぐるみで、現世に顕現している間は、ずっとわたしの腰回りに寄りかかっていたのに。今は、あまりにも神々しいお姿だから、違和感がすごかったんだ。後になって考

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-23

 あんなに巨大な扉が、一瞬で消えてしまったことに驚いて、わたしたちは、揃って呆然と立ちすくんだ。ヴェル様は、そんなわたしたちの様子に、楽しそうに微笑みながら、宝物庫の秘密を教えてくれた。 「ふふふ。驚きましたか、チェルニちゃん?」 「もちろんですよ、ヴェル様。あんなに大きな扉が、一瞬で消えちゃったんですから。どうなっているんですか?」 「畏れ多くも、御神霊が門衛の御役目を務めてくださる御扉に、何の不思議がありましょう。宝物庫の御扉には、継ぎ目も入り口もないのです。四季守護

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-22

 パレルモさんの話を聞いて、部屋にいる人たちは、いっせいにわたしを見た。神霊庁の奥殿の宝物庫、そのさらに最奥にある〈神物庫〉の中から、不審な音がするらしいんだけど、わたしは、何も知らなかった。  まあ、部屋にいる人たちは、わたしっていうより、わたしの腕の中のスイシャク様と、肩の上にいるアマツ様に注目しているんだろう。神霊さんに関係する不思議は、神霊さんに聞くのが確実だからね。  無言の圧力に押されて、わたしは、スイシャク様とアマツ様に尋ねてみた。最近は、言葉にして会話する

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-21

 コンラッド猊下は、率直に説明してくれた。わたしを〈神託の巫〉だって認める宣旨を、いきなり出しちゃったのは、〈目障りな鼠が、いろいろと嗅ぎ回ろうとしていた〉からだって。そして、〈鼠〉っていうのは、ちゅうちゅう鳴く本物の鼠じゃなく、一部の王族や、〈王家派〉の貴族のことらしい。  上品で穏やかで威厳のある、とっても徳の高いコンラッド猊下は、その王族や貴族の人たちを、〈溝鼠〉だっていい切った。ただの鼠じゃなくて、溝鼠。物語の中だと、よくそういう表現も出てくるけど、実際には中々いわな

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-20

「貴方様こそは、数百年ぶりにルーラ王国にご誕生になった〈神託の巫〉。お目もじ叶い、誠に光栄と存じます、チェルニ・カペラ様」  コンラッド猊下は、そういって、額を床につけるくらい、深い深い座礼を取った。猊下の後ろに座っていた人たちも、一緒に〈神座の間〉に移動してきた神職さんたちも、わたしを先導していたヴェル様まで、すべての人たちが、同じように座礼を取った。腕の中のスイシャク様や、肩の上のアマツ様じゃなく、このわたし、十四歳の平民の少女であるチェルニ・カペラに向かって。