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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-34

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〈見よ、れこそは神秘郷しんぴきょう。神託の巫にのみ許されし、神のそのたる《斎庭さにわ》也〉
 
 七柱ななはしらの神霊さんたちが、思い思いの姿で顕現した空間に、スイシャク様とアマツ様の〈言霊ことだま〉がとどろき渡った瞬間、わたしは、ふっと気が遠くなった。
 王都の新しい家で、フェルトさんに〈神託しんたく〉を伝え、ぴかぴか発光しちゃったときと似ている。十四歳の少女であるわたし、チェルニ・カペラの自我が、どんどん薄くなって、大気にほどけてしまいそうになったんだ。
 
 わたしの魂の器では、スイシャク様とアマツ様のいう、〈斎庭〉を作り出すのは、きっと荷が重かったんだろう。わたしの意識は、チェルニ・カペラの身体には留まれなくて、ふわりとそらへ浮かび上がった。
 すかさず、スイシャク様の純白の光の帯と、アマツ様の真紅の光の帯が伸びてきて、魂だけになったわたしを、ぐるぐる巻きにしてくれる。すごく安心して、そのまま身体に戻ろうとしたところで、スイシャク様とアマツ様から、はっきりとした言霊が流れてきた。
〈雛には過ぎたるわざなれば、今しばらくは休むらん〉〈が招きたる神々は、高き場所へと戻りたる〉〈我らと共に、実技試験とぞいうものの顛末てんまつをば見届けん〉〈皆々、混乱の極み也〉って。
 
 あっと思って、慌てて目をらすと、王立学院の校庭は、すごいことになっていた。まず、わたしなんだけど、やっぱり発光しちゃってたんだ。全身がぴかぴかに光って、瞳が銀色になって、こっちもぴかぴか発光している。さっき、父兄の控室でお昼ご飯を食べているとき、お父さんは〈いつもより余分に発光しても良いんだぞ〉とかいってたけど、本当にそうなっちゃってるし……。
 校庭にいる受験生と見学の父兄たちは、ほとんど椅子から転げ落ちていた。うずくまっている人もいるし、泣いている人もいるし、気絶しちゃってる人もいる気がする。誰一人、声を出す人のいないまま、発光しているわたしを、呆然と見ているんだ。
 
 ミル様やヴェル様、マルティノ様たち見学組は、さすがに落ち着いていた。中には、青い顔をして微かに震えている人もいるけど、皆んな、姿勢を正して椅子に座ったまま、じっとわたしを見つめていた。
 威厳と優しさをたたえたミル様は、ぴかぴか発光しているわたしじゃなく、ふわりと宙に浮かんでいるわたしを見て、優しくいった。
 
「お見事でございました、チェルニちゃん。ルーラ王国千余年の歴史の中で、初めて行われし〈斎庭〉の奇跡、しかと我が目に焼き付けました。本日、ここにることをお許しいただき、誠にさいわいに存じます」
 
 ミル様の穏やかな笑顔と声に、〈終わったんだ〉と思った途端、わたしの瞳は元の青色に戻り、ぴかぴかした身体の光も収まっていった。やがて、光の消えた身体は、ふらふらと揺れて、今にも倒れそうになる。ヴェル様やマルティノ様やルー様が、さっと立ち上がって、わたしを抱き止めようとしてくれたけど、それよりも早かったのは、わたしの大好きなお父さんだった。
 いつの間にか、すぐそばで待機してくれていたお父さんは、さっとわたしを抱き止めてくれた。身長が高くて筋肉質のお父さんは、見た目よりずっと力があるから、わたし一人くらい余裕なんだろう。ヴェル様たちに頭を下げてから、軽々と抱き上げてくれたんだ。
 
 ミル様は、そんなお父さんに丁寧に頭を下げてから、優雅に立ち上がり、わたしの身体の側まで歩いてきた。ヴェル様たち神霊庁の人も、マルティノ様たち王国騎士団の人も、ルー様たち〈黒夜こくや〉の人も、次々と後に続く。静まり返った校庭で、土を踏むミル様たちの足音だけ、やけにはっきりと響いていた。
 ミル様たちは、試験官の先生たちの机の前、受験生たちや父兄たちと、正面から向かい合った位置で整列した。いったい何が始まるのか、校庭にいる全員が注目する中、ミル様がおごそかに口を開いた。
 
「ルーラ王国神霊庁が大神使しんし、エミール・パレ・コンラッドの名において、この場の皆々に、宣旨せんじつかわす。ここにられるチェルニ・カペラ様こそは、ルーラ王国に数百年ぶりにご誕生になられた〈神託しんたく〉。いとも尊き神々が、御鍾愛しょうあい遊ばす御眷属にて、我らと神々のよすがとなられる御方おんかたである。チェルニ・カペラ様への無礼は、我ら神霊庁が決して許さぬ。我がげんに従わぬ者は、神霊庁の敵にして、〈神敵〉ともなる覚悟を致せ」
 
 ミル様ってば! わたしが〈神託の巫〉だって、堂々と宣言しちゃっただけじゃなく、わたしに無礼を働いただけで、神霊庁の敵だの、〈神敵〉だのっていっちゃってるよ。〈神降かみおろし〉の神霊さんたちが、〈神託の巫〉だって言霊ことだまを残していったから、仕方がないのかもしれないけど、この瞬間、わたしの平穏な学院生活は、完全に夢となって消えたんじゃないだろうか……。
 
 さらに、ミル様の次には、漆黒の軍服姿も凛々りりしいマルティノ様が、すっごい威圧感を漂わせながら、こういった。
 
「ルーラ王国騎士団大隊長にして、この世の太陽たる王国騎士団長閣下の筆頭副官を拝命する、マルティノ・エル・パロマの名において、この場にいる皆々に宣言致す。我らが灼熱の信仰を御捧げ致す王国騎士団長閣下、御神霊の化身たる至尊の御方、我らがレフヴォレフ・ティルグ・ネイラ様は、チェルニ・カペラ様の安寧を御望みである。従って、チェルニ・カペラ様にあだなす者、仇なさんとたくらむ者は、ことごとく王国騎士団の敵となる。身分を問わず、我らが佩刀はいとうさびとしてくれよう」
 
 あの優しくて紳士的なマルティノ様が、いつも穏やかな微笑みを浮かべているマルティノ様が、見学の父兄ならまだしも、少年少女の受験生までおどしちゃってるよ……。ネッ、ネイラ様が、わたしを心配して、〈安寧を望んでいる〉なんていわれるのは、ものすごくうれしいけどさ。
 それにしても、ルーラ王国って、国王陛下がいて、王家のある国だったよね? その王国の騎士団が、ネイラ様に〈灼熱の信仰を捧げる〉とか、〈至尊の御方〉とか、〈この世の太陽〉とかいっちゃって、許されるものなんだろうか? わたしが国王陛下だったら、ものすごく嫌だと思うんだけど? まあ、温厚な人格者だと思っていたマルティノ様が、わりと危ない感じの人だってわかったことの方が、わたしには衝撃だけどね……。
 
 マルティノ様の挑戦的な宣言の次は、ルー様の番だった。飄々ひょうひょうとしてつかみどころがなく、ほとんど記憶に残らない容姿のはずのルー様が、怖いほどの迫力を見せながら、冷たい声でいったんだ。
 
「ポール・ド・バランの名ではなく、〈黒夜〉のおさとして宣言致す。我ら〈黒夜〉の信仰は、世にも尊き唯一の星、〈神威しんいげき〉であられるレフヴォレフ・ティルグ・ネイラ様の身許みもとにあり。その尊き御方様に近しき御方、ありがたき〈神託の巫〉たるチェルニ・カペラ様を、我ら〈黒夜〉の総力にて御まもり致す。如何いか狡猾こうかつ溝鼠どぶねずみであれ、泡沫うたかたの権力を誇りし古狐であれ、チェルニ・カペラ様に近づかんとする者は、我ら〈黒夜〉が狩ってくれよう。我がげんが偽りか否か、恐れを知らぬ者は試してみるが良い」
 
 ルー様は、そういって笑った。にやりっていう感じの、底冷えのする笑顔だった。わたしが皆んなの立場だったら、ミル様やマルティノ様よりも、ルー様の方が怖いって思ったかもしれない。だって、ルー様と〈黒夜〉だけは、容赦ようしゃがないっていうか、手段を選ばない感じがするんだよ。
 そもそも、ミル様とマルティノ様は、わたしに危害を加えないようにって、くぎを刺してくれているのに、ルー様ってば、近づこうとするだけで〈狩る〉っていっちゃってるし。とりあえず、金魚少年の安否が気になるので、一応、手出しをしないように頼んでおこう。目が覚めたときに覚えていたら、だけど。
 
 それにしても、ルー様まで、ネイラ様を〈信仰〉してるって、大勢の前で断言しちゃってるんだけど、これって問題にならないのかな? ミル様にしろマルティノ様にしろルー様にしろ、ものすごく思慮深い人たちだから、何らかの事情、もしくは確信があって、口にしているんだとは思うけどね。
 万が一、わたしが常識人で、マルティノ様たちが想像よりもっと危ない人たちだったら……何て、考えるのはやめよう。わりと鋭いわたしの勘が、そこには触れないでおこうって、警鐘をがんがん鳴らしているんだから。スイシャク様やアマツ様の口調を真似ると、〈は見ぬが吉〉〈人の子の思いとぞいうものは、我らにも計り難き〉っていう感じなんだろう。
 
 神霊庁に王国騎士団に〈黒夜〉っていう、圧倒的な力を持つ組織の人たちに、半ば恫喝どうかつされてしまった受験生たちは、誰も何もいわなかった。青い顔をして震えていたり、泣き出しちゃったりする子がいるのは、無理のないところだろう。見学の父兄たちも、やっぱり反論する人はいなくって、必死にミル様たちの視線を避けているんだ。  
 わたしは、自分と同じ年頃の子どもたちや、子どもたちを見守っていただけの人たちに、余計な負荷をかけた気がして、ちょっと悲しい気持ちになった。わたしが、十四歳の少女で、〈神託の巫〉じゃなかったら、怖い思いをさせることもなかったのにって。
 
 思わず落ち込みそうになったわたしに、スイシャク様とアマツ様が、優しいイメージを送ってくれた。〈我らが雛の責にはあらず〉〈我らより対価を授けん〉って。
 次の瞬間、魂の抜けたままのわたしの身体から、穏やかな紅白の光が溢れ出て、校庭にいるすべての人々にゆっくりと降り注いでいった。スイシャク様とアマツ様からの、小さくて暖かい言祝ことほぎなんだって理解したときには、空を漂っていたわたしの魂は、するすると身体に引き寄せられ、同時に意識をなくしていったんだよ……。
 
     ◆
 
 わたしが目を覚ましたのは、何と翌日の朝だった。わたしってば、王立学院の入学試験で、神霊術の実技を公開した直後に、気絶したっていうか、ぐっすりと眠り込んだっていうか……。お父さんやお母さんやアリアナお姉ちゃんは、当然、すごく心配してくれたんだけど、そこはスイシャク様とアマツ様から、直々じきじき言霊ことだまがあったらしい。
 わたしの魂は、自在に〈斎庭〉を作り出せるほど、成熟しているわけじゃないから、十分な休息を取らせたい。そのうち、何の問題もなく起きてきて、魂の器も少し広がっているはずだから、安心して見守っていなさいって。お父さんたちは、スイシャク様とアマツ様のイメージは受け取れないから、ミル様を通しての伝言だった。
 
 翌朝、元気いっぱいに飛び起きたわたしは、ずっと家族と一緒に王都の家にいて、のんびりとした一日を過ごした。腕の中のスイシャク様と、肩の上のアマツ様も、すごく上機嫌にくつろいでいて、スイシャク様はふっくふくに膨らみ、アマツ様はぱちぱちと鱗粉を振りまいていた。
 お父さんは、ものすごくおいしいご飯を作ってくれて、お母さんは、わたしのそばに寄り添ってくれて、アリアナお姉ちゃんは、わたしにセーターを編んでくれていた。わたしは、ごろごろと長椅子に寝そべって、本を読んで、お父さんたちとたわいもない話をして……すごく楽しくて、幸せだった。
 
 そして、入学試験から二日目、何だか身体中に活力がみなぎっているような気がした頃、わたしたちの王都の家に、何人かのお客さんが来てくれたんだ。もちろん、事前に都合を聞いてもらって、会いますって返事をした人たちだけだから、訪ねてもらってうれしかった。
 最初に来てくれたのは、パレルモさんをお供にした、ミル様とヴェル様だった。ミル様たちは、わたしが気絶した後、どんなことが起こったのか、情報を持ってきてくれたんだ。
 
「王立学院の入学試験から今日で二日目、我が神霊庁も、中々に対応に追われております。チェルニちゃんの存在が、あまりにも衝撃的であったので、いろいろとかぎ回っていた溝鼠も、顔色を失ったようでございます」
「えっと、わたしには、抽象的な表現っていうのは、まだむずかしいので、比喩とかをはぶいて、できるだけわかりやすい言葉でお願いできますか?」
「ほほほ。チェルニちゃんの素直で率直なこと。日頃、ぐねぐねとした貴族を相手にする機会が多いだけに、心を洗われるようですね。そう、簡単にいうと、チェルニちゃんの存在というか、チェルニちゃんを守ろうとする勢力があまりにも強力だったので、〈神託の巫〉に選ばれた少女を囲い込んで、利益を図ろうと画策していた者たちが、大いに慌てているのです。市井しせいの言葉でいうと、〈やばい相手〉から全力で逃げないと、自分たちの身が危ない、というわけです。溝鼠どもは、保身の術にはけておりますからね」
猊下げいかの尊いお口から、〈やばい相手〉などといわれては、チェルニちゃんが困惑してしまいますよ。まあ、確かに〈やばい相手〉ではありますが。神霊庁と王国騎士団と〈黒夜〉を同時に敵に回すことなど、何人なんぴとたりとも不可能でございましょう。唯一、レフ様であれば、歯牙しがにもおかけになりませんでしょうが、誰よりもチェルニちゃんを守護せんとしておられるのは、そのレフ様でございますので」
「おや? どうなさいました、チェルニちゃん? 白桃のように初々しく可憐な頬が、赤くなっておりますよ?」
「それ以上、一言でも余計なことを申されたら、チェルニちゃんに嫌われますからね。お覚悟はよろしいですか、コンラッド猊下?」
「相変わらず、私の愛弟子の可愛げのないこと。けれども、万が一にも、チェルニちゃんに嫌われてしまったら困りますので、話題を変えるとしましょう。チェルニちゃんは、受験生たちのことも、気にかけておられるのでしょう?」
「そうなんです! 他の受験生たちが大丈夫だったのか、教えてもらえますか、ミル様?」
「もちろんですとも。チェルニちゃんの公開実技の後なのですが……」
 
 ミル様とヴェル様は、それからいろいろなことを説明してくれた。わたしが作り出したらしい〈斎庭〉は、受験生にも父兄たちにもちゃんと見えていて、神霊さんたちの言霊も聞こえていたこと。見聞きするだけでも、魂に大きな負荷がかかるはずなんだけど、スイシャク様とアマツ様のものらしき神威が、皆んなの負担をやわらげてくれていたこと。最後の最後、わたしが気絶したあたりで、紅白の二柱ふたはしらから、ほとんどの人たちへ、お詫びの意味で〈言祝ぎ〉が降り注いだこと。その〈言祝ぎ〉は、人それぞれに与えられた新しい印で、皆んなが一つだけ、新しい神霊術を使えるようになっていたこと……。
 それから、わたしがのんびりと寝ている間に、神霊庁には国中から問い合わせが殺到したらしい。〈神託の巫〉の出現は真実なのか、真実ならどこの誰なのか、面会は可能なのか、〈神託の巫〉はどのような立場になるのかって、何百通もの手紙が届いたり、何十人もの面会希望が寄せられたりしたそうなんだ。
 
 ミル様たちは、そうした問い合わせを、容赦なくぶった切っている。神霊庁の公式見解になっている、〈まだいとけなき《神託の巫》には、如何いかなる接触も認めない〉〈《神託の巫》のお立場は、御神霊が定められるのみ〉って印刷した手紙を、コンラッド猊下のお名前で送り返しているんだって。
 神霊庁の中で、わたしに関することの窓口になったヴェル様が、氷みたいに冷たい目をして、にっこりと微笑んだ。
 
「チェルニちゃんが、とてつもない奇跡を見せてくださったお陰で、とてもやりやすくなりました。溝鼠どもは、予想を超えた〈神託の巫〉の力と、到底食い込む隙のない守護に、ほぞを噛んでおりますよ。今後も、〈おこぼれ〉くらいは狙いにくるとして、本気で歯向かってくる者はおりませんでしょう」
「パヴェルの申す通りですよ、チェルニちゃん。カペラ家の皆様も、ご安心ください。レフ様ご誕生のおり、手出しをした者がどうなったか、溝鼠どもも思い出したことでしょう。ヨアニヤ王国やアイギス王国でも、ほとんどの者が恐れおののいておると、報告が入っております」
「ヨアニヤもアイギスも、レフ様の一振りで魔術師どもの魔力を絶たれておりますし、アイギス王国に至っては、奇跡の御業みわざたる〈神鳴かんなり〉で、神の怒りに打たれておりますからね。レフ様に逆らうような者は、さすがにおりますまい」
「我らが王国の子供たちを誘拐した上に、チェルニちゃんをさらう計画でも立てようものなら、レフ様や御神霊が本気でお怒りになりましょう。国ごと灰塵かいじんすのは、目に見えております。我らは、御神霊に手厚く守護されたチェルニちゃんよりも、二国の罪なき民を守るためにこそ、四方を威嚇いかくしているようなものかもしれませぬ」
「まったく、面倒なことでございますな、猊下。わたくしと致しましては、レフ様の逆鱗に触れた二国がめっされ、残された国民だけを支援する形の方が、簡単な気が致しますが……」
 
 ミル様とヴェル様ってば、平然と物騒ぶっそうな話をしてない? わたしを狙いそうな相手って、ルーラ王国の貴族なのかと思ったら、むしろヨアニヤ王国やアイギス王国だったのか! 外交官が主犯になって、ルーラ王国から子供たちを拐い、奴隷に売るような国が相手なんだったら、神霊庁も王国騎士団も〈黒夜〉も、過剰なくらい警戒するのが当然だよね。
 さすがのお父さんとお母さんも、青い顔をして黙り込んじゃう中、アリアナお姉ちゃんだけは、ふんわり優しく微笑んでいた。〈チェルニの安全が確保されるのなら、良かったわ〉って。うん。やっぱり大物だよ、アリアナお姉ちゃん。
 
 ミル様たちの話がひと段落した頃、わたしを訪ねてきてくれたのは、真っ白なひげのおじいちゃんと、わたしの大好きなおじいちゃんぽい校長先生だった。応接間に入ってきた二人は、ミル様の顔を見た途端、がちんと固まっちゃった。神霊庁の大神使猊下が、自分の家みたいにくつろいで、おいしそうにマロングラッセを食べているんだから、そりゃあ反応に困るだろう。
 丁寧にわたしたちに挨拶をしてから、真っ白なひげのおじいちゃんと校長先生は、ミル様に座礼を取ろうとした。徳の高い慈愛の微笑みを見せたミル様に、すぐに止められていたけどね。
 
「どうかおなおりください、クラルメ先生。お久しぶりでございます。ご同行なさったのは、かの有名なユーゼフ・バラン先生でございましょう? 初めまして、バラン先生。お目にかかれて、光栄に存じます」
「お久しぶりでございます、コンラッド猊下。ご尊顔を拝見できましたこと、誠にありがたく存じます」
「わたくし如きの名をご記憶いただきましたこと、恐悦至極きょうえつしごくに存じます、コンラッド猊下。ユーゼフ・バランと申します。何卒なにとぞ、よろしくお願い申し上げます」
「バラン先生は、チェルニちゃんの校長先生であられるのですよね、パヴェル?」
「左様でございます、猊下。チェルニちゃんが、いつも〈わたしの大好きな校長先生〉と話しておられます」
「ええ、ええ。そうでしたね。誠に微笑ましいことです。それで、本日のご用は? わたくしがそう申し上げるのも、妙なものではございますが」
 
 うん。わりと妙だけど、もう気にしてもしょうがないからね。お父さんもお母さんも、苦笑いしているし、話を聞かせてもらうことにしよう。
 そう思って、紅茶に手を伸ばしたところで、真っ白なひげのおじいちゃん、王立学院の前学院長で、今は名誉学院長であるクラルメ先生は、ちらりとわたしに視線を向けた。そして、深みのある優しい声で、こういったんだ。
 
「今年度の入学試験の結果が出ましたので、ご報告に上がりました。本来は、現在の学院長が参るべきところではございますが、正式な発表は十日ほど後となりますので、内々にわたくしが参上致しました。今しばらくは、ご内密にお願い申し上げます」
 
 おお! もう試験結果を教えてもらえるの? わたしは、期待半分、不安半分で、椅子から身を乗り出した。わたし、チェルニ・カペラの王立学院入試は、果たしてどんな順位だったのかな……?
 

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