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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 幕間書簡(3) ユーゼフ・バランとトマス・ド・ベルクマン

幕間書簡(3)

ユーゼフ・バランとトマス・ド・ベルクマン

〈キュレルの街の町立学校長であるユーゼフと、ルーラ王国王立学院の入試課の課長であるトマスとの書簡〉

   ∞

トマス・ド・ベルクマン先生 御机下おんきか

 突然、御手紙を出させて頂きます御無礼を、何卒なにとぞ御容赦下さいませ。私くしは、キュレル街で町立学校長の職を拝命しております、ユーゼフ・バランと申します。
 貴院の代表受付に、本年度の入学試験について御問い合わせをさせて頂きましたところ、トマス・ド・ベルクマン先生が、入試課課長の要職についておられると御教え頂きましたので、この手紙を書かせて頂きました。御手数とは存じますが、御教示の程、何卒なにとぞよろしく御願い申し上げます。

 御教え頂きたいのは、推薦入学のえいよくしました、特待生についてでございます。誠に有り難きことに、本年度、本校の生徒の一人を、特待生に御選び頂きましたよし、御通知を賜りました。生徒はチェルニ・カペラと申しまして、生徒の保護者並びに本校からは、入学を希望致しますむね、既に御返事をさせて頂いております。誠に有り難う存じます。
 御推薦を賜りました生徒は、非常に向学心が高く、学業は稀に見る優秀さで、神霊術においても稀有な才能を有しております。栄えある王立学院の特待生として頂きましても、十二分に期待に御応えできますことは、私くしからも保証をさせて頂きます。

 私くしども、キュレル街の町立学校と致しましては、素晴らしい可能性を秘めた生徒が、ルーラ王国で最高の教育機関であられる貴院において、より一層いっそう、学びの環境を整えられるよう、切に願っております。つきましては、特待生として入学させて頂くだけでなく、一般枠で入学試験を受験させて頂き、当該生徒の実力を発揮する場を、御与え頂けませんでしょうか。
 貴院の入試制度上、特待生の一般受験に制限はなく、他の受験生の不都合にもならないものと拝察致します。必要な手続き等、御教示頂きますよう、重ねて御願い申し上げます。

 末尾になりましたが、貴院の益々の御発展を御祈り申し上げますと共に、トマス・ド・ベルクマン先生の御多幸を祈念申し上げます。

     ユーゼフ・バラン はい

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ユーゼフ・バラン殿

 当入試課では、キュレル街のチェルニ・カペラなる生徒が、特待生として入学するという事実のみ把握しており、詳細は存じ上げません。断片的な情報として聞くところによると、高位貴族の方がお困りの際、たまたま居合わせたカペラ嬢が、神霊術でお助けする機会に恵まれたそうですね。
 都会ではありふれた神霊術でも、田舎で困っているときには、貴重だったのでしょう。そのささやかな神霊術の礼が、栄えある王立学院への入学許可とは、前代未聞の事態であり、我ら教職員一同、当惑しております。上手うまくやりましたね。

 貴殿がお書きになった通り、特待生が一般枠で入試を受けるのは、自由といえば自由です。他の受験生の合格者数に影響することもありません。ただ、入試の結果は、入学後に影響しますよ?
 今のままなら、高位貴族の方のご意向の通り、最上級の学力のクラスに振り分けられるでしょう。それが、入試を受けたばっかりに、最下位クラスになったら、生徒が困るのではありませんか?

 人には、〈分相応ぶんそうおう〉というものがあります。田舎町の平民である生徒が、王立学院の受験で上位を狙えると考えるのは、思い上がりというものです。生徒に恥をかかせないよう、自重を教えるのが、教育者の役目でしょうに。
 どうしてもということなら、入試課の事務官に直接願書を提出してください。その結果、推薦者である世間知らずの高位貴族の方に呆れられ、推薦を取り消されても、当職は関知致しませんので、悪しからず。

     トマス・ド・ベルクマン

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トマス・ド・ベルクマン殿

 貴殿の手紙を読んで、うっかり急性高血圧であの世に行くところであった。

 このユーゼフ・バラン、無知と偏見と傲慢と無礼には、人一倍慣れているつもりじゃったが、可愛い生徒のことをいわれると、腹の立ちようも格別じゃな。

 入試課の事務官には、願書を提出しておいたので、くだらぬ邪魔はせぬことじゃ。無礼以上の邪魔をして、我が生徒に不利益があった場合は、数ならぬ身の全力で、貴殿に敵対させてもらおう。そのつもりでおるように。

 いやはや、王立学院の質の低下が、ここまで進んでおったとは、予想外であった。我らの秘蔵っ子が、そなたらの目の曇りを晴らしてやるであろうから、首を洗って待っておれよ!

     ユーゼフ・バラン

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ユーゼフ・バラン先生 御侍史おんじし

 すみません。申し訳ございません。私くしが愚かでした。どうかお許しください、バラン先生!

 いや、だって、チェルニ・カペラ嬢の推薦者が、神霊庁の大神使であられるコンラッド猊下げいかと、宰相であられるロドニカ公爵閣下と、法務大臣であられるネイラ侯爵閣下だなんて、思うわけがないじゃないですか!
 おまけに、コンラッド猊下からは、推薦を申し込まれた際、〈チェルニ・カペラ嬢に無礼があれば、神霊庁は王立学院の敵となる〉っていう、めちゃくちゃなご通達があったそうです。何ですか。何なんですか、それ? わたし、神霊庁の敵に認定されるんですか?

 ご無礼なお手紙を出してしまいましたことは、誠心誠意、謝罪をさせていただきます。誠に申し訳ございません! すぐにキュレルの街まで、お詫びに参上いたしますので、お時間をいただきますよう、お願い申し上げます。

     トマス・ド・ベルクマン 拝

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ユーゼフ・バラン先生

 お送りした手紙が、封も切られないまま、風屋から返ってきました。永遠に受取拒否だって……。

 あまりにも困ったので、わたしの上司に打ち明けたところ、〈あの学会の反逆児を怒らせたんだから、諦めろ。簡単に謝罪を受け取るような、生やさしい相手じゃないから〉って、死人を見るような目をされました。

 わたし、これでも妻子を愛しているんです。諦められません。許して、バラン先生!!

     トマス

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