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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-30

 どこまでも重々しく、荘厳そうごんな鐘の音が一度、神前裁判の舞台となる〈神秤しんしょうの間〉に響き渡った。それまで、声をひそめてささやき合っていた、傍聴席の人たちが、ぴたりと口を閉ざし、椅子の上で姿勢を正す。
 黒い御簾みすを下ろした小部屋から、〈神秤の間〉の様子をうかがっていた、わたしたちも、思わず緊張して、背筋を伸ばしちゃった。遠く長く余韻よいんを残して、今も微かに鳴っている鐘の音は、そうせずにはいられないくらい、神々しい気配に満ちていたんだよ。
 
 神前裁判に慣れないわたしのために、裁判の間中、ずっと側にいてくれるらしいヴェル様が、そっと教えてくれた。
 
「一度目の鐘は、神前裁判の開始を予告する、いわば予鈴でございます。しばらくの間をおいて、二度目の鐘が鳴ると、貴賓席の傍聴者がご入場になられます。そして、三度目の鐘で、裁判の関係者が席につき、四度目の鐘が打ち鳴らされると同時に、神前裁判が始まるのです。クローゼ元子爵の〈神去かんさり〉にたんを発し、神霊庁への告発を経て、ルーラ元大公の捕縛にまで発展した事件も、いよいよ山場でございます。とてつもなく長いようにも、瞬く間の出来事のようにも思われますね、チェルニちゃん」
 
 うん。本当に、ヴェル様のいう通りだと思う。フェルトさんが、アリアナお姉ちゃんに求婚し、レフ様が、手紙でクローゼ子爵家の〈神去り〉を教えてくれてから、まだ半年にもならない。時間にしたら、あっという間なんだけど、わたしには、ずいぶん前のことのように感じられるんだ。
 この半年足らずの間に、フェルトさんは、ルーラ大公家の後継になり、アリアナお姉ちゃんは、正式にフェルトさんの婚約者になった。わたしは……わたしは、レフ様を好きになっちゃって、〈神託しんたく〉の宣旨せんじを受けて、王立学院の試験を首席で合格して、レフ様と、こっ、婚約の話が決まろうとしている。今日だけで、もう何回目になるかわからないくらい、〈なんて遠くに来たんだろう〉って、感傷的になるのも、仕方のないところだろう。
 
 わたしの膝の上と、肩の上には、今も、スイシャク様とアマツ様がいてくれる。その暖かさに励まされて、何とか心を落ち着けているうちに、再び鐘の音が響き渡った。一度目と同じ、どこまでも荘厳で神々しい音が、ゆっくりと消えていく頃、傍聴席の入り口あたりに、一人の神職さんが現れた。
 純白の着物に純白のはかま格衣かくえ羽織はおらず、腰のあたりに水色の腰紐こしひもを巻いている。清々しい立ち姿で、堂々と背筋を伸ばしている人は、ヴェル様と一緒に〈野ばら亭〉に来てくれていた、ハイムさんだった。
 
 ハイムさんは、〈神秤の間〉の最奥、神座かみざにあたる方向に、深々と頭を下げ、傍聴席に集まっている人たちに向かって、丁寧に会釈えしゃくをしてから、朗々ろうろうとした声を響かせた。
 
定刻ていこくに至りましたので、これより、神前裁判の開始と相成あいなります。本日は、尊き方々もご臨席りんせきでございますので、御名ぎょめいをお知らせ申し上げます。これは、ご臨席を知らず、結果的に無礼なる振る舞いをす方が現れぬように、とのご配慮でございます。この〈神秤の間〉において、拝跪はいきの礼は不要でございますので、ご着席のまま礼をお取りください」
 
 ハイムさんの言葉に、〈神秤の間〉は、これまでとは違った緊張感に包まれた。身分の高い人が来るからじゃなく、〈いよいよ歴史的な裁判が始まるんだ〉って、誰もが固唾かたずを呑んだんだと思う。元大公が裁かれるほどの神前裁判なんて、本当に何百年に一度の大事件なんじゃないかな。
 ハイムさんは、二階席くらいの高さにある、貴賓席の一つに向かって、丁寧に頭を下げてから、最初の名前を口にした。
 
「ルーラ王国外務大臣、ヘルマン・デュエル・ラスカー侯爵閣下。ルーラ王国財務大臣、モーリツ・ファテオ・ラデク侯爵閣下。ルーラ王国文部大臣、ワンダ・ザルティ・ランバート侯爵閣下」
 
 ハイムさんが呼んだのは、十四歳の平民の少女でも、知っている名前ばかりだった。だって、毎日の新聞に、必ずっていうくらいの確率で、書かれているんだから。ちゃんとすみから隅まで、新聞に目を通す少女なのだ、わたしは。
 名前を呼び終わると同時に、貴賓室の御簾が巻き上げられ、落ち着いた色合いの貴族服を着た人たちが三人、並んで座っている姿が見えた。傍聴席にいた人たちは、前を向いて目線を下げたまま、いっせいに頭を下げる。すごく洗練されていて、優雅な感じの礼は、傍聴席に集まっている人たちのほとんどが、貴族だからだろう。
 
 異様な場の雰囲気に、ますます緊張したわたしに、ヴェル様が、そっと教えてくれた。〈神秤の間〉には、現世うつしよの身分は持ち込まないっていう原則があるんだけど、いろいろな混乱を避ける意味でも、侯爵位以上の大貴族か、それに匹敵ひってきする身分の人たちは、貴賓室に通されるんだって。ヴェル様は、〈警備が面倒なだけですよ〉って、冷たい感じに微笑んでいたけどね。
 ハイムさんは、別の方向の貴賓室に向かって頭を下げ、次の名前を口にする。それを三回くり返してから、よく知っている名前が呼ばれた。
 
「神霊庁が大神使だいしんし、エミール・パレ・コンラッド猊下げいか。ルーラ王国宰相、アルベルトス・ティグネル・ロドニカ公爵閣下。ルーラ王国法務大臣、アスレリオス・ティルグ・ネイラ侯爵閣下」
 
 するすると御簾が巻き上げられ、薄暗い〈神秤の間〉の一画に、三人の姿が浮かび上がったとき、わたしは、思わず大きく息をいた。気品があるっていうか、威厳があるっていうか、迫力があるっていうか……。とにかく、国を動かす〈為政者いせいしゃ〉っていうのは、こういう人たちなんだって、理屈抜きで納得させられるくらい、風格があったんだよ。
 コンラッド猊下とは、何回も会っているし、何だったら、〈ミル様〉〈チェルニちゃん〉って呼び合うくらい、仲良くしてもらっているけど、今、わたしの目の前にいるのは、まるで別人だった。優しくて、すぐに冗談をいうミル様じゃなく、神霊庁の頂点にして、ルーラ王国の国王陛下と同格の存在である、大神使様がそこにいたんだ。
 ネイラ侯爵閣下と宰相閣下は、鏡越しには見たことがあった。そのときも、立派な人たちだなって思ったけど、実際にのあたりにすると、やっぱりすごい。わたしだけじゃなく、お父さんやお母さんまで、思わず深々と頭を下げちゃったからね。
 
 宰相閣下たちが、重々しく会釈をしたのを見て、ハイムさんは、次の名前を口にした。わたしが知っている、もう一組の大貴族の名前を。
 
「ルーラ大公家、オディール・ティグネルト・ルーラ大公殿下。ルーラ大公家、マチアス・ティグネルト・ルーラ公配殿下こうはいでんか
 
 ハイムさんの言葉が終わると、〈神秤の間〉に沈黙が落ちた。そして、一呼吸ひとこきゅうおいて、一気にざわめきが広がっていく。あんなに洗練されて、作法通りの動きを繰り返してきた人たちが、頭を下げることも忘れて、ひそひそとささやき合っているんだよ。
 貴族の人たちの反応は、オディール様が女大公にょたいこうになり、マチアスさんが〈公配殿下〉になったっていう事実に、動揺しているからだろう。何だったら、反発しているっていっても、いいのかもしれない。ルーラ元大公は、まだ有罪が確定したわけじゃないし、下級貴族だったマチアスさんが、王族になったのも、納得できない……のかな?
 
 御簾を上げたオディール様は、穏やかな微笑みを浮かべたまま、微かに礼をした。オディール様の瞳は、抵抗するみたいに猛々たけだけしい色を浮かべていたから、穏やかなのは表面だけなんだと思うけど。
 マチアス様は、傍聴席の人たちには目もくれず、静かにオディール様に寄り添っている。いろいろと批判されるのは、身分の低いマチアス様の方なのに、多分、全然、気にしていないんだろう。
 
 ハイムさんは、少しの間、ざわめくままにしておいてから、りんとした声を出した。〈静粛せいしゅくに〉〈尊き御神霊が、我らをご覧になっておられますこと、お忘れになりませんように〉って。
 傍聴席の人たちは、さっと口を閉じて、頭を下げた。ハイムさんは、その様子を見回してから、貴賓席の一画に向かって、深々と礼を取った。わたしたちのいる席の向かい側、ほとんど真正面っていえるくらいの位置に、ほわっと人影が浮かび上がり、ハイムさんが、その名前を呼んだんだ。
 
「ルーラ王国が世継よつぎの君。アレクサンドロス・ティグネルト・ルーラ王太子殿下。本日、王太子殿下は、国王陛下の御名代ごみょうだいとして、御成おなりにございます」
 
     ◆
 
 ハイムさんの声と共に、わたしの向かい側の貴賓席の御簾が、ゆっくりと巻き上がっていく。傍聴席の人たちは、深々と頭を下げたまま、動こうとはしない。わたしも、思わず下を向きそうになったけど、ヴェル様に止められた。〈神託の巫〉は、国王陛下に頭を下げなくても、普通だと思われるくらいの地位にいるんだから、王太子殿下に対しても、会釈だけにしてくださいねって。
 国王陛下と大神使猊下は、同格の存在だっていわれていて、その大神使猊下より、〈神託の巫〉の方が、さらに立場が上になるらしい。そうじゃないかって、わかっていた。わかってはいたけど、十四歳の平民の少女にとっては、精神力をけずられる話だよね。
 
 一瞬、気が遠くなっている間に、王太子殿下を隠していた御簾が完全に上がり、ついに実物の王太子殿下が登場した。四十歳くらいの王太子殿下は、ほっそりとしていて、賢そうで、上品な男の人なんだ。年齢よりもずっと若々しいのに、じっと見ていると、コンラッド猊下くらいのおじいちゃんにも思えてくる。老成した人って、きっとこういう人をいうんだろう。
 穏やかで優雅な姿の中で、瞳だけが特別なのは、子雀のアーちゃんの視界で見たときと同じだった。落ち着いた青灰せいはい色の瞳の中、黒い虹彩こうさいの周りにだけ、黄色や赤茶色が混ざっていて、ものすごく複雑な色になっているんだ。見た目通りの人じゃない、絶対に只者ただものじゃないって、十四歳の少女にだってわかるのが、ルーラ王国の王太子殿下なんだよ……。
 
 ゆったりと長椅子に座っている、王太子殿下の後ろには、たくさんの人たちが並んでいた。純白の軍服に金のボタン、腰に黒と金で装飾された剣を下げているのは、近衛騎士団の騎士たちだろう。何の飾りもない、灰色の貴族服を着た王太子殿下に比べて、華やかで、きらびやかで……王家の権威っていうものを示すには、ぴったりの配置だよね。
 本当なら、王家直属で、王族を守ることだけを考えているはずの近衛騎士団は、このルーラ王国では、レフ様が指揮権を持っている。レフ様からもらった手紙の中でも、それが〈ゆがみ〉だって教えてもらったけど、本当にそうだと思う。わたしが王太子殿下だったら……やっぱり、良い気分じゃないと思うんだ。
 
 王太子殿下が、小さくうなずくのを待って、ハイムさんは、次の名前を口にした。ルーラ王国の王太子殿下よりも、〈神秤の間〉の神座に近い貴賓席に座っている、わたし、チェルニ・カペラの名を。
 
「世にも尊き〈神託の巫〉、神々の愛子まなごたられる、チェルニ・カペラ様。カペラ様は、いまだご成人あそばしませぬゆえ、御簾は下ろしたままといたします」
 
 その瞬間、〈神秤の間〉に広がったざわめきは、オディール様のときよりも、ずっとずっと大きかった。傍聴席の人たちは、さっきまでの儀礼も忘れたみたいで、それぞれに顔を見合わせ、〈ささやき〉っていうにははっきりとした声で、口々に話し始めた。
 〈噂の通りか。《神託の巫》が現れるとは!〉〈どうなっているんだ、当代は。巫覡ふげきが揃うだけでも、何百年に一度のことなのに〉〈よりにもよって、《神威しんいげき》と《神託の巫》だと?〉〈信じられぬ。これは、何かの予兆か?〉〈名前からして、平民だろう。王家の血を引く《神威の覡》はまだしも、平民に平伏へいふくせよというのか〉〈陛下も王太子殿下も、何とおいたわしい〉って。
 
 耳に聞こえてくる言葉は、わたしが、これまで聞いたことのないものだった。この夏、レフ様に出会って以降、わたしが知っている貴族の人たちは、皆んな優しくて、親切で、わたしを〈平民〉だって馬鹿にする人なんて、一人もいなかったからね。
 お父さんは、何もいわず、わたしの手をぎゅっと握ってくれた。お母さんは、エメラルドみたいな瞳を冷たく光らせていて、立ち上る雰囲気が怖かった。完全に戦闘体制に入っちゃってるよ、お母さん。
 ヴェル様は、まったく表情を変えないまま、静かに微笑んでいた。ただ、アイスブルーの綺麗な瞳の奥で、何かが燃え盛っている気配がするし、ぎりっぎりって、微かに聞こえてくるのは、歯を噛み締めている音じゃないよね? 
 
 周りは皆んな、怒っちゃっているけど、正直なところ、わたし自身は、それどころじゃなかった。ハイムさんが、わたしの名前を呼んだ途端、王太子殿下が、複雑な輝きに満ちた瞳を見開いて、じっとわたしを見つめてきたんだ。
 黒い御簾は下ろされたままだから、王太子殿下には、わたしの姿は見えないはずなのに、今、確かに目が合っている。わたしは、何かに引き寄せられるみたいに、王太子殿下から目が離せない。王太子殿下は、瞳を細め、じっとわたしを見つめ続けている。そこに浮かんでいる感情は、十四歳の少女に読み取れるほど、簡単なものじゃなくて、深い深い水の底をのぞき込んでいるみたいだった。
 
 〈神秤の間〉のざわめきをよそに、王太子殿下とわたしは、無言で視線を合わせ続けた。やがて、王太子殿下が、ほのかな微笑みを浮かべたとき、わたしは、はっきりと見た。王太子殿下の後ろに、黒白こくびゃくに輝く光が立ち上り、燃え盛る炎のように、ゆらゆらと揺れているのを……。
 その光の炎は、すごく不思議だった。純白と漆黒が入り混じり、け合ったかと思ったら、どちらか一方の色に染まり、またもう一方の色に染まり変わり、常に動き続けているんだ。漆黒でもなく、純白でもなく、漆黒であって、純白でもある、あまりにも不思議なゆらめきに、わたしは、目を奪われずにはいられなかった。
 
 わたしが、半ば硬直していると、スイシャク様とアマツ様が、交互にイメージを送ってくれた。今はもう、声に出していわれたのと同じくらい、はっきりと理解できるイメージは、多分、王太子殿下の本質を語っていたんだと思う。
の者は、□□□□□□□の愛子なり〉〈□□□□□□□は、善悪、共に司る神にして〉〈の愛子たる者は、善にして悪、悪にして善なる道をば進むらん〉〈人の子には、重き定めの加護ならん〉〈善は悪に転じ、悪は善に転ず。其は神のことわりにして、人の理にあらざる也〉って。
 
 スイシャク様とアマツ様のメッセージは、わたしには、むずかし過ぎる。どう受け止めて良いのか、すぐにはわからなくて、口が〈へ〉の形に曲がっちゃったとき、ハイムさんが、強い声でいった。
 
「皆様、ご静粛に。ここは神霊庁が〈神秤の間〉。現世うつしよで、もっとも御神霊に近しき〈場〉の一つ。すでに数多あまたの神々が、我らをご照覧しょうらんでございましょう。〈神託の巫〉たる御方おんかたへの不敬にあたるお言葉は、御神霊がお許しになられませぬ。また、御神霊のしもべたる神霊庁も、決して許しはいたしませぬ。そうと知って、口を閉じられぬ方は、只今より、我ら神霊庁の敵でございます」
 
 ハイムさんの言葉は、〈神秤の間〉に重苦しい沈黙をもたらした。傍聴席の人たちは、慌てて口をつぐみ、頭を下げる。わたしにっていうよりも、神霊庁を敵に回したくなくて、必死に取り繕っているんだろう。
 ずっと、わたしを見つめたままだった王太子殿下は、ここでやっと視線を外してくれた。そのことに安心して、身体から力が抜けそうになったとき、わたしの手を握ったままだったお父さんが、もう一度、優しく握りしめてくれた。お父さん、大好き。
 
 まるで威圧するみたいに、傍聴席に目を向けていたハイムさんは、〈神秤の間〉が落ち着きを取り戻したのを見て、大きくうなずいた。そして、軽く手を上げて、誰にともなく合図をしたんだ。〈第三の鐘を〉って。
 一度、二度、三度、荘厳な鐘の音が響き渡る。そして、長く美しい余韻よいんが消えたところで、〈神秤の間〉の大きな扉が、重い音を立てて開かれた。
 
「第三の鐘は、神前裁判の関係者をお呼びするものでございます。いっせいに読み上げをさせていただきます。まず、告発者として出廷しゅっていした者は四名。ルーラ大公家継嗣けいし予定者、フェルト・ハルキス様。並びに御婚約者、アリアナ・カペラ様。ルーラ王国騎士団中隊長、リオネル・セラ・コーエン伯爵令息。ルーラ大公騎士団副団長、ヴィドール・シーラ様。告発者は他にもおられますけれど、ひとまずは四名様のみ、告発者席へお進みください」
 
 大きく開かれた扉から入ってきたのは、アリアナお姉ちゃんたちだった。アリアナお姉ちゃんは、黒いレースのベールがついた帽子を被って、顔を半ば隠している。白鳥みたいに優美な身体つきとか、ベールからちらっと見える横顔から、尋常じんじょうじゃない美少女だっていうことは、誰にだってわかるけどね。
 お姉ちゃんたちは、傍聴席の中央に作られている通路を通って、告発者のための席に着いた。前列にフェルトさんとお姉ちゃん、後列に総隊長さん……じゃない副団長さんと、レフ様の副官の一人であるリオネルさん。全員が堂々としていて、何だか頼もしかった。
 
「続いて、告発を受けた被疑者として、この場に出廷する者が六名。ルーラ元大公、アレクサンス殿。元大公騎士団長、バルナ殿。クローゼ元子爵家より、オルト殿、アレン殿、ナリス殿、ミラン殿。神前裁判の被疑者は、国王陛下の御下命ごかめいにより、身分を凍結とうけつされておりますので、名のみを読み上げました」
 
 ハイムさんの言葉が終わると同時に、入り口に注意を払っていた傍聴人たちから、抑えても抑え切れない声が上がった。それが、まるで悲鳴みたいに聞こえるのは、わたしも、小さな悲鳴を上げそうになったからだろう。
 だって、被疑者の先頭に立って、ゆっくりと傍聴人席を通り抜けようとしている、ルーラ元大公は……まるで別人に変わっていたんだよ……。