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気付いたら、車の上に家があった

こんにちは、opsol bookのヤナガワです。

弊社初の公募企画、「第1回ハナショウブ小説賞」の応募締め切りが、いよいよ本日となりました。締め切りまで残り3時間59分です。「介護」「医療」「福祉」をテーマにした小説を、長編部門、短編部門、中学生部門、小学生以下の部門の4部門で募集しています。

▼まだ間に合います! 長編部門大賞作品は書籍化+30万円!

それ、私の車なんですが

2020年、5月の出来事です。

同年4月、新型コロナウイルスの流行により、初めて日本国内に緊急事態宣言が発令されました。その頃の私はまだopsol bookの一員ではなく、とあるサービス業に従事していたのです。

緊急事態宣言の発令に伴う来店予約の減少に歯止めが効かず、ついにはサービスの提供が困難に。4月は何とか営業していたものの、5月は店を閉めることになりました。お客様がいないのであれば、その分従業員の出勤日数は減ります。清掃作業や電話対応のために出勤はしていたものの、それも僅か5日程度。今までの生活では有り得ないくらいの休日数でした。

自粛の民を極めていた私が、食糧調達のためにスーパーへ向かおうとした5月30日に、事件は起こります。

久しぶりに外に出て車に向かうと、車のルーフに何かが載っているのが見えました。茶色くて丸い、握り拳くらいの大きさの何か。枯れ葉かな? と思いながら近づいてみますが、正体までは掴めません。

更に近づいてみると、その物体がゴツゴツしていることがわかります。土? 岩? 車とほぼゼロ距離になって初めて、私はとあることに気が付いてしまいました。

圧倒的「ハチの巣」感。

そんなまさか、と思っていると、サプライズゲストが登場。そうです、ハチです。

確実に目が合いました。夢であってほしい。そう思いながら飛び上がり、一旦自宅へ。今後の作戦を練らねばなりません。このまま自宅に籠もるか、勇気を出して外出するか。できれば前者を選びたいところですが、目的が食糧調達となると妥協するわけにもいかず、しぶしぶ車に向かうことを決めました。

改めて外に出て、車の上を観察します。やはり、私の車のルーフには小さなハチの巣とその住民がいました。そりゃこの数分で何処かに行くわけがないですよね。ブンブン飛び回るハチが巣を離れた一瞬の隙に、意を決して猛ダッシュ。車内に滑り込み、無事に第1ミッションクリアです。

一安心して車を発進させると、窓の外からハチの攻撃が始まりました。どうやら、車が動き出したことに気が付き、戻ってきたようです。ひたすら窓に体当たりされたものの、幸いにも住民は1匹のみ。今のところタイマンです。逃げるために急いで車を出し、ついでにハチの巣を振り落としました(申し訳ない)。第2ミッションもクリア。

ハチからしてみれば、突如現れた人間のせいで、自宅は破壊されるわ、土地も失うわで、たまったものじゃないでしょう。でも、土地代も払わずに勝手に家を建てたのはそちらですから。しかるべき手続きを踏んでいただかないと、こちらも出るとこ出ますよ。

車内でそんなことを考えながら、私は近所のスーパーへ向かいました。30分程買い物をしていればいなくなっていることでしょう。ついでに書店にも寄ろっと。その時の私は、のんきにそんなことを考えていたのです。

住民の逆襲

買い物を終えた私は、ハチから解放されることを願って帰宅。駐車を終えても気配は感じません。しめしめ、これで一件落着! と車を降りようとしたその時。

コンコンコンコンコンコンコンッ!

車内にけたたましいノック音が響きました。そう、ハチの逆襲です。私が乗っている運転席の窓を体全体で叩き、こちらに訴えかけてきたのです。「おんどれ! 一体何処に家持っていったんじゃコラ! いいから一回出てこんかい!」とでも言わんばかりの攻撃力。

先ほどまで、「しかるべき手順を踏んでいただかないと~」と言っていた勢いは何処へやら。ビビりまくりの私は車から降りるのを断念し、再度車を発進させることに決めました。逃げます。

とはいえ、買い出しはすでに終えているため、何か用事があるわけではありません。特にすることがないので、気晴らしに洗車をすることにしました。

洗車中の車内から(ほぼモザイク)

このまま、車の汚れと共に一連の出来事もなかったことになりますように。そう願いながら洗車を終え、ピカピカの車に乗って二度目の帰宅チャレンジです。果てして結果は。

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンッ!

ダメでした。普通にいました。むしろ先ほどよりもキレている気がします。一度目で学習している私は、すぐさま車を発進させ、再び逃げの姿勢をとります。

逃げたは良いものの、さすがにもう行くところがありません。買い出しは終わっているし、書店にも行ったし、車も洗ったし。あまり遠くまで運転するのも嫌なので、近所の書店に向かうことにしました。スーパーの帰りに寄ったところとは別の書店です。店内をうろついていると、ずっと探していた書籍を発見。きっと、あのハチが私の車の上に住んでいなかったら、こうして出会うことはなかったでしょう。ありがとう、ハチ。許しませんけど。

予定になかった洗車や書籍の購入で、思っていたよりもお金を使ってしましました。財布の軽さにショックを受けながら帰宅。三度目の正直、ということで外に出ようと試みます。が、エンジンを切ったところで聞こえてくるあの音。

コココココココココココココココココココココココココココココッッッ!

いるぅ。

分かっていました。いるでしょうよ、そりゃ。相当お怒りになられているハチ様は、一度目とは比べ物にならない程小刻みにぶつかってきます。

この状況で車から降りられるはずもなく、かと言ってもう出かける気力もありません。途方に暮れながら30分程車内に籠もった後、帰宅した家族にヘルプ要請を出し、なんとか車外へ。玄関に向かう間も、ハチの上には「絶許」の2文字が浮かんでいました。

翌日以降も、しばらくそのハチは周辺をうろついており、洗濯物に張り付き不法侵入を試みたり、車に糞を置いてみたりと、あらゆる抵抗を見せました。この行為は1週間ほど続いたものの、最終的には向こうが引っ越したのか、ハチとのご近所トラブルは幕を閉じました。

最後に、6月から勤務先の営業が再開となり、久々に労働の喜びを感じた日のことです。

お客様が退店される際、「歩いて帰ろうか」と話しているのを耳にしました。本来、店を出られるお客様に対し、「ありがとうございます」と言わなければなりません。しかし、お客様が話していた内容に引っ張られ、私の口から出ていた言葉は、「歩いて帰ります!」。巷では、「最初と最後の文字さえ合っていれば間はなんでもいける説」が唱えられている昨今、「ありがとうございます」と聞こえていたことを願うばかりです。


ついに、第1回ハナショウブ小説賞の応募締め切り日がやってきました。1件も応募がなかったらどうしよう……と怯える日もありましたが、そんな日々を忘れるくらい、さまざまな作品をご応募いただいています。
引き続き、ハナショウブ小説賞をよろしくお願いいたします!

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