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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 3通目

レフ・ティルグ・ネイラ様
 
 来ました、来ました! 今日、町立学校から帰ってくると、お父さんが、王立学院の入学案内の書類を見せてくれたんです。
 入学許可のお手紙はもらっていましたが、こうして案内書類が送られてくると、いよいよなんだなって、嬉しくなります。ご推薦いただいて、本当にありがとうございました。
 
 そういえば、最初に入学許可のお手紙が届いたときのことです。わたしはお母さんと一緒に、町立学校の先生たちに報告に行ったんです。先生たちは、ずっと王都の高等学校に進学するように勧めてくれていたので、きっと喜んでもらえるだろうって、わくわくしていました。
 お母さんとわたしは、すぐに校長先生の部屋に通されました。うちの校長先生は、かなりのお年寄りなんですけど、とっても元気が良くて、優しくって、わたしは大好きです。
 
 その校長先生に、進路が決まりましたっていって、入学許可書を差し出すと、さっと目を通してから、大きな声で「ひゃっほい!」っていったんです。
 物語の中では、たまに「ひゃっほい!」っていう人が出てきますが、現実に聞いたのは初めてでした。ネイラ様は、聞いたことがありますか? 
 わたしは爆笑しそうになったので、必死に頑張って堪えました。あまりにも頬っぺたに力を入れたので、翌日までちょっと痛かったくらいです。お母さんは、平気な顔でニコニコしていました。すごいですよね、大人って。
 
 ともかく、校長先生も他の先生たちも、すごく喜んでくれました。担任の先生なんて、涙を流してくれたくらいです。(優しいお母さんみたいな先生で、わたしは大好きです。先生は、すごい猫好きで、いつも洋服を毛だらけにしているので、先生についた毛を払ってあげるのが、わたしたちの日課になっています)
 
 実は、わたしはかなり成績優秀なんです。校長先生は、「町立学校始まって以来の秀才」なんていってくれます。まあ、キュレルの街の秀才なので、王都の学校に行ったら、平均よりもちょっと優秀かも、っていうくらいだと思います。
 先生たちは、神霊術が得意で、キュレルの街では成績優秀なわたしに、王都の高等学校に行くようにって、ずっといってくれていました。わたしも、行きたい気持ちはあったんですけど、家から離れたくなくって、悩んでいたんです。
 でも、ルーラ王国で最高の教育を受けられる、王立学院に入学できるんですからね。今は、まったく悩んでいません。家から離れるのはすごく寂しいけど、一生懸命に勉強します。それに、王都からキュレルの街までは、半日で移動できるので、いつでも家に帰ってこられるはずです。
 
 お父さんとお母さんは、わたしの下宿問題について、何だかこそこそと話し合っているようです。王立学院の寮に入れてもらえるそうなので、心配はいらないんですけどね。
 お母さんに、何を相談しているのかを聞いたら、「今はまだ秘密よ、わたしの可愛い子猫ちゃん」ですって! そんなふうに呼ばれて、不良になる気配もないわたしたち姉妹って、けっこう忍耐強いと思うんです。ネイラ様は、どう思われますか?
 
 王国騎士団のことを、もっと質問させてもらおうと思っていたのに、何だか長い手紙になってしまいました。あんまり長いと、読みにくいですよね?
 りんごパンのことは、もういいとして、ネイラ様の書いてくださる手紙が、とっても楽しいってことを、しっかり伝えたかったのに。仕方がないので、また次のお手紙でお会いしましょう!
 
 
     よく話が飛躍してしまう、チェルニ・カペラより
 
 
 
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可愛い子猫ちゃんの、チェルニ・カペラ様
 
 思い切って書いてみましたが、少し冷たい汗が流れています。自分の性格に合わないことをするのは、とても勇気がいるのですね。
 女性に対して、わたしが「子猫ちゃん」などと書く日が来るとは、夢にも思いませんでした。わたしにとって、きみは未知のかたまりです。大好きな人たちで溢れている、きみの世界を伝えてもらうことが、本当に楽しみでなりません。ありがとう。
 
 しかし、好奇心が旺盛で、大きな瞳を輝かせているだろう姿は、確かに子猫のようでしょうね。きみのお母上の言語センスは、やや特殊ではあるものの、しっかりと本質を現したものだと思います。他にもきみの呼び名があるのであれば、ぜひ教えてください。
 
 町立学校の校長先生の話は、とても面白くて、しばらく笑いが止まりませんでした。わたしは、きみよりもひと回りも年上ですが、今まで「ひゃっほい!」という人には、巡り会ったことがありません。非常に残念です。
 
 王立学院に入学するために、きみがご両親やお姉さんと別に住まなくてはならなくなるのは、とても申し訳なく思います。
 嫡男であれば、将来的には家に戻るわけですから、学院の寮生活も良い経験になります。また、高位貴族の子弟は、王都に住んでいる場合が多いので、寮に入る者は限られているのです。
 きみのように、暖かく親密な家庭に生まれ育った少女を、早くに親元から引き離してしまうのかと思うと、心が痛みます。きみが寂しくならないように、あるいは、できるだけ頻繁に帰れるように、わたしも考えてみます。
 
 前回の手紙で、きみが聞いてくれたことに答えると、わたしも王立学院の卒業生です。ただ、王国騎士団に奉職する者は、武官を養成する士官学校の卒業生が多く、わたしも王立学院を卒業した後に、改めて士官学校に在籍しました。
 学問的な授業は終わっていたので、騎士としての授業だけを受ける、特待生待遇の二年間でした。士官学校は、様々な年齢の者たちが入学してくるところなので、その面でも、多くを学べたのではないかと思っています。
 
 ここまで書いて、読み直してみて、少し頭を抱えてしまいました。きみが送ってくれる手紙に比べると、何とも平凡で、面白味がありませんね。自分では、それほどの堅物ではないと思っていたのですが、勘違いだったのかもしれません。
 
 とはいえ、石が花に変われるでもなし、わたしも自分なりに書き綴っていきましょう。また、次の手紙で会いましょうね。
 
 
     「ひゃっほい!」を実際に聞いてみたくて仕方のない、レフ・ティルグ・ネイラ

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