見出し画像

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-27

 作戦五日目の朝、おいしい朝ご飯を食べ終わったところで、スイシャク様が合図をしてくれた。クローゼ子爵家で動きがありそうだから、見せてあげるよって。
 スイシャク様ってば、パンの食べ過ぎで、お腹をぽっこり膨らませているんだけど、可愛いからいいよね。
 
 クローゼ子爵家では、先代になったクローゼ子爵と、息子のアレンさんが、マチアスさんと向き合っていた。いつもの応接室じゃなくて、マチアスさんのいる別邸の一室なんだろう。こぢんまりとした部屋には、マチアスさんたちの他に、使者ABと、数人と護衛騎士の姿があったんだ。
 
 不機嫌な顔をしたクローゼ子爵に対して、余裕の笑みを浮かべたマチアスさんが、からかうような口調でいった。
 
「これはこれは。お前の方からわたしに会いにくるとは、めずらしいこともあったものだ。どういう風の吹き回しだ、オルト?」
「本邸の方で会っていると、母上やカリナが乱入してこないとも限りませんからね。あなたと話す意味はないので、要件のみ伝えます。本日の登城は、ご遠慮ください」
「ほう? 宰相閣下との面談が予定されていると、伝えてあったと思うのだがな。お前は、臣下の頂点であり、王家のお血筋でもある御方との約束を、反故ほごにしろとでもいうのか?」
「そうです。あなたは、クローゼ子爵家に養子に入る候補者と面談するために、王城に行くのでしょう。クローゼ子爵家の後継は、フェルトとなります。そう決定している以上、余分なことをされては迷惑だ。フェルトは、あなたの血を分けた息子だった、クルトの子なのですから、文句はないでしょう?」
「お前は、愉快なことをいうのだな。フェルトは、きっぱりと断ったと聞いているぞ。クルトの息子が、そうやすやすと気持ちを変えはしないだろう」
「そんなことはありませんよ、父上。あなたがそうだったように、クローゼ子爵家の地位と財産は、意地を捨ててでも獲得したいものなのでしょう。フェルトは、今日明日にでも、屋敷を訪ねてくることになっています」
「そうであっても、宰相閣下とのお約束をたがえることなど、許されるはずがないだろう。候補者との面談はともかく、王城には出向くぞ」
「不要です。もうすでに、大公殿下からの使いが、ロドニカ公爵に断りを入れています。いくら宰相とはいえ、大公殿下のご意向に逆らうことなどできませんよ」
 
 そういって、先代のクローゼ子爵は、マチアスさんを嘲笑あざわらった。息子のアレンさんも、片方の唇を吊り上げて、自分のお祖父さんであるはずのマチアスさんに、冷たい目を向けた。
 すっごく感じが悪くって、わたしが、思わずへの字の口になっていたら、さっと視界が切り替わった。次に目にしたのは、豪華で上品で洗練されていて、最高級のものだけが置かれた広い部屋。アマツ様が、記憶を通して見せてくれた、宰相閣下の執務室だったんだ。
 
 執務室では、くつろいだ様子の宰相閣下がいて、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。それだけで、名画の一枚に見えるくらいかっこいい。絵の題名は、〈優雅なる大貴族の朝〉とかってどうだろう?
 わたしが、馬鹿なことを考えていると、執務室に入ってきた人がいた。どこにでもいるような顔をした、平凡で特徴のない男性。昨夜、〈黒夜〉の長だって紹介された、ルー様こと、ポールさんだった。
 宰相閣下は、ポールさんを長椅子に座らせると、にこやかに微笑みかけた。
 
「お早う、ポール。朝早くから呼び出して、すまなかったな」
「とんでもございません。閣下こそ、昨夜は王城にお泊まりでございましたか?」
「そう。そなたからの報告によって、そろそろ物事が動く頃合いかと思ってな。王城に近いとはいえ、屋敷まで帰るのが面倒になったのだよ。早速だが、パヴェルの〈虜囚の鏡〉が捕らえた者たちは、どんな様子なのだ? 〈白夜〉の者どもに、疑われてはおらぬのか?」
「問題はございせん。今朝も、教えた通りの方法で、こちらに連絡をしてまいりました」
「そなたの息子は、実に優秀だな、ポール。人形を司る神霊のいんとは、次代の〈黒夜〉の長となるに、これ以上の人材はおるまいよ」
「思い通りに動かせる〈人形〉のなかに、正気を失った〈人間〉まで含まれるのだとわかるまでは、おのれに自信が持てず、屈折しておりましたけども。息子が使いものになりましたのは、〈神威しんいげき〉たる御方のご助言の賜物でございます」
「まったくであるな。レフのお陰で、〈黒夜〉は先々まで安泰というものだ。して、もたらされた情報とは、どのようなものなのだね?」
「クローゼ子爵家と〈白夜〉の者どもは、本日、誘拐を企てるそうでございます。フェルト殿の家族も婚約者も、未だに所在が知れずということになっておりますので、標的となるのは、婚約者の妹だとか。白昼堂々、お嬢様を自宅から拐い、その身柄を盾にして、フェルト殿を連行するつもりだそうでございます」
「予想の通りとはいえ、気分の悪い計画であるな。まったく、愚かにもほどがある」
「御意にございます、閣下。しかし、そもそもチェルニちゃんから、フェルト殿の婚約を知らされていなければ、成功した可能性のある愚行でございます」
「そう考えれば、レフと令嬢の文通とやらに、皆が助けられたか。それにしても、ポール。そなたが〈チェルニちゃん〉呼びとは、驚いたことであるな」
「わたくしのことは、ルー様とお呼びくださるそうでございますよ、閣下。おうらやましゅうございましょう?」
 
 ルー様が、そういって笑うと、宰相閣下も楽しそうに笑った。余裕のある大人っていう感じで、とっても素敵だったけど、待って、待って! わたしってば、今日、うちから拐われる計画になってるの?
 びっくりして、ヴェル様を見ると、優しくうなずいてくれた。マルティノさんたちも、わたしを勇気づけるみたいに、右のこぶしで胸を叩いてくれた。これは、あれだ。ヴェル様たちは、今朝のうちに計画を把握していて、もうしっかりと対策を立ててくれているんだろう。
 わたしが、お礼と質問のために口を開こうとしたら、またまた視界が切り替わった。今度は、まったく知らない部屋で、まったく知らない人たちが、何か相談をしているみたいだった。
 スイシャク様の羽根の力で、視界を共有しているヴェル様が、ひっそりとした冷たい声でいった。〈ここが王都の表通り、忌まわしき《白夜》の根城ねじろですよ〉って。
 
 部屋の中にいたのは、五人の男の人だった。悪者のはずなのに、わりと上品な感じで、服装とかも高級で、きちんとした商会の人に見えた。本当の悪人って、見た目には善良そうなのかもしれないね。
 一番上品で身なりのいい、銀髪のおじいちゃんぽい人が、葉巻をくゆらせながら、淡々とした口調でいった。
 
「それで、〈野ばら亭〉の下の娘は、間違いなく家にいるんだな?」
「〈野ばら亭〉の従業員に確かめましたので、間違いありません。王立学院の入試が近いので、家に引きこもって勉強だそうですよ。ご苦労なことだ」
「手はずはついたのか?」
「昼食どきは、大人は食堂にかかりきりで、家には手伝いの女くらいしか残らないそうです。あの店の従業員は、どうも口が軽いらしく、ぺらぺらとしゃべってくれましたよ。今日、荷物配達の馬車を装って家を訪ね、家から下の娘を拐います」
「足はつかないのか?」
「急ぎの仕事ですから、ある程度は仕方ありません。娘はすぐに別の馬車に乗せ替え、馬車は街の外で乗り捨てにします。親が騒ぎ出す前に、店ごと燃やしてしまえば、うやむやになりますよ」
「ということは、放火も昼間か?」
「はい。人目を避けるのは、〈仕込み〉のときだけです。犯行そのものは、白昼堂々、人目のあるところで実行する方が、何かと安全ですからね。〈罪の種火〉と炎の神霊術は、我ら〈白夜〉の得意技ですし、しくじりはしませんよ」
「いいだろう。〈野ばら亭〉の店も客も、娘の不在で騒ぎそうな親も、まとめて焼き殺してしまえ。抜かるなよ」
「もちろんです。ところで、用済みになった娘は、どうなるんですか?」
「あのミラン様が噛んでいるんだ。お前たちまで、回ってはこないだろうさ。なんだ、興味があるのか、お前たち?」
「そりゃあ……」
 
 〈白夜〉を見ていた視界は、ここで強引に断ち切られた。多分、わたしの教育上に良くないことを、話していたんだろう。アマツ様が怒ると怖いから、わたしもそうしてもらった方が嬉しいよ。
 
 それにしても、〈白夜〉の人たちって、なんて悪人なんだろう。わたしを拐うっていうだけでも、とんでもない犯罪者なのに、お店やお客さんやお父さんやお母さんを、物みたいに焼き殺そうとするなんて……。
 さすがに驚いて、落ち込んで、それ以上に腹を立てているわたしに、ヴェル様がにこにこと笑いながらいった。
 
「何ひとつ、心配はいりませんよ、チェルニちゃん。すべて罠のうちです。口の軽い従業員だと嘲笑された、我が部下たちの言動も含めて。御二柱おんふたはしらのお怒りに触れ、王都が火の海になる前に、我らが一網打尽いちもうだじんにいたします。チェルニちゃんはもちろん、〈野ばら亭〉にもご家族にも、指一本触れさせるものですか」
 
     ◆
 
 そして、ヴェル様の笑顔を怖いと思う間もなく、わたしの視界はあっさりと切り替わった。次に目にしたのは、またしてもクローゼ子爵家の別邸で、さっきと同じ部屋だった。クローゼ子爵とアレンさんは、もう出ていったんだろう。部屋には、マチアスさんと使者ABだけが残って、真剣な顔で話そうとしているところだった。
 
「まず、防音の神霊術を使ってくれ、ロマン」
「畏まりました」
「本日の登城を止められてしまいましたが、よろしかったのですか、閣下?」
「かまわないさ、ギョーム」
「防音が完了いたしました」
「今日も神霊術が使えて、良かったですね、ロマン様」
「ありがとう、ギョーム。先ほど、ギョームも申し上げましたが、登城しなくてもよろしいのですか、閣下? お打ち合わせがあるのではありませんか? 何か理由をつけて、屋敷の外に出ますか?」
「いや、こういう事態も想定していたので、問題はない。というよりも、わたしが登城すること自体が、オルトを焦らせるための方便だからな。宰相閣下とは、簡単に連絡がつくようになっているのだ」
「それを聞いて安心いたしました」
「それで、わたしたちは何をしたらいいんですか、閣下? のんびりしているうちに、ルルナたちに危険が迫っていたら、どうしてくれるんですか!」
「おい、ギョーム。無礼だぞ。まあ、お前は常に無礼なんだが」
「はは。存外、面白い男だな、ギョームは。〈野ばら亭〉は、厳重に守られているので、何の心配もないぞ。それこそ、国王陛下の御座所ござしょよりも、王城の奥の奥の宝物殿よりも、厳重な守りだろうさ。あちらはお任せして、我らは宰相閣下の御命令に従おう。結果的に、それがルルナ嬢の安全にもつながるからな」
「仕方がない。信じますよ、閣下。それで、わたしたちは何をすればいいのですか?」
「我らは、屋敷の中で〈探し物〉をする。そのために、わたしがこの屋敷に戻ったのだからな。お前たちも協力してくれ」
「もちろん、仰せに従いますが、何をお探しするのですか、閣下?」
「決定的な証拠だよ、ギョーム。証拠隠滅のために破棄されては困るもの、絶対に確保しておきたいもの。クローゼ子爵家とヨアニヤ王国とのつながりを裏付ける、〈外患誘致罪がいかんゆうちざい〉の証拠が、この屋敷にあるはずなのだ」
 
 おお! マチアスさんが、クローゼ子爵家のお屋敷に戻ったのは、そういう理由だったんだね。でも、証拠を探すだけだったら、〈黒夜〉のルー様たちが、忍び込んで探したりできなかったんだろうか?
 
「なるほど。〈外患誘致罪〉でございますか」
「お前たちも関わっていたのか、ロマン、ギョーム?」
「関わってはおりませんが、見て見ぬ振りをしておりましたので、同罪でございましょうな。せめて、若いギョームだけは、助けてやりたいのですが」
「仕方ありませんよ、ロマン様。不穏な気配を感じてはいても、それを探って告発するような勇気は、わたしたちにはなかったんですから。第一、そんなに年齢は違わないじゃないですか、わたしたち」
「いや、問題にするのはそこではないだろう、ギョーム」
「やはり愉快な男だな、お前たちは。ともかく、今は証拠を探し出して、少しでも罪を償おう。見て見ぬ振りは、わたしも同じだったからな」
「お心当たりがあるのですか、閣下?」
「ある。クローゼ子爵家には、鉄壁の隠し場所があるのだ。クローゼ子爵家の初代は、神霊術の使い手でな。契約を司るご神霊と、〈影〉を司るご神霊から印を授けられ、その神霊術を二重に駆使して、重要書類の隠し場所を作ったのだ。クローゼ子爵の爵位を継いだ者にしか、触れることのできない隠し場所を。今日、護衛騎士やオルトたちは、それぞれに出かけていくはずだ。そのときがきたら、一気に仕掛けるぞ。そのためだけに、わたしは、クローゼ子爵位に戻ったのだから」
 
 そういって、マチアスさんは笑った。昨日と同じ、〈獰猛どうもう〉っていう言葉がぴったりな、猛々しくて楽しそうな顔だった。
 
 わたしも、今の話を聞いて、なるほどって、すごく納得できたよ。〈外患誘致罪〉って、絶対に死刑になることが確定している大罪だから、普通なら証拠を残したりしないはずなんだけど、クローゼ子爵にしか取り出せない場所があるのなら、保存されている可能性が高いんじゃないかな。
 宰相閣下とネイラ様は、クローゼ子爵たちを捕まえることよりも、証拠を探し出したり、支援している〈権力者〉を特定するために、罠を張ったんだよ、きっと。確認するつもりで、ヴェル様を見ると、優しくうなずきながら、こういった。
 
「捕らえるだけであれば、いつでもできたのです。しかし、拐われた子らの行方を探すにも、犯人を罰するにも、公式には他国を巻き込まねばなりませんからね。わたくしたちは、絶対的な証拠を必要としていました。アイギス王国に対しては、我が主人が揺さぶりをかけてくださいましたので、後は確たる証拠さえあれば、我らの思惑通りとなるでしょう」
「現行犯で捕まえた、セレント子爵の証言ではだめなんですか、ヴェル様?」
「むずかしいですね。もちろん、シャルル・ド・セレントを含め、犯人どもを処罰することはできます。しかし、我らが目的とするのは、そこではありませんので」
 
 にんまり。そうとしか表現のしようのない顔で、ヴェル様が微笑んだ。すごく深刻で、わたしが想像もつかないことが、近い将来に起こる気がする。ヴェル様の笑顔を見て、わたしはそう思った。だって、わたしの背筋が、ぞわぞわしているんだから。
 スイシャク様とアマツ様は、楽しそうな気配をまとわせて、交互にメッセージを送ってきた。〈《改朝換代かいちょうかんだいと相なろうか〉〈我らは見守るのみ〉〈全ては《神威の覡》の手の内也〉〈神世の再来となるや否や〉って。さすがにむずかしすぎて、意味がわからないよ……。
 
 ちょっとだけ腹が立って、ふっくふくのスイシャク様と、大きくなったままのアマツ様を、まとめて抱っこして、ぎゅうぎゅうしているうちに、食堂にいた皆んなが、それぞれに出かけていった。
 王国騎士団の三人の騎士さんたちは、フェルトさんやアリオンお兄ちゃんと一緒に、守備隊の本部へ。お父さんお母さんと、ヴェル様の部下の人たちは、いったん〈野ばら亭〉へ。ヴェル様は、うちの家に残って、〈黒夜〉の人たちと一緒に、襲撃してくる〈白夜〉の人たちを捕まえるんだって。
 ヴェル様に、〈ヴェル様は、危なくないんですか?〉って聞いたら、皆んなが笑った。ヴェル様ってば、ものすごく強いんだって。ヴェル様に戦闘で勝てる人は、ルーラ王国中を探しても、十人といないらしい。すごいね。
 
 わたしはというと、今でもルーラ王国で一番安全らしい。何といっても、スイシャク様とアマツ様がいてくれるんだから。本来なら、〈白夜〉なんて、うちの家の近くにも寄れないんだけど、そこはわざと〈穴〉を開けてあるんだって。
 それでも、念には念を入れまくって、襲撃が予想される午後の間だけ、わたしは自分の部屋に引きこもることになった。スイシャク様とアマツ様が、わたしの部屋を〈現世うつしよから一時的に切り離す〉から、誰も何も、わたしを害することはできないらしい。
 
 話し合いの後は、食堂でそのまま勉強した。ヴェル様が、いろいろと教えてくれて、太鼓判を押してくれた。わたしの学力だったら、入学試験に相当上位で合格するのは間違いないって、褒めてくれたんだ。やったね。
 
 お昼ご飯は、田舎パンのサンドイッチとスープで、簡単に済ませた。お父さんの作ってくれたサンドイッチだから、すごくおいしかった。
 厚切りの香ばしいベーコンと、シャキシャキした生野菜と、目玉焼きを挟んだものがひとつ。白身魚のフライと、ピクルスの酸っぱさがおいしいタルタルソースと、ふんわりした千切りキャベツを挟んだものがひとつ。スープは、わたしの大好きな、きのこのクリームスープだった。
 ヴェル様は、わたしと同じサンドイッチに追加して、お父さん特製のローストビーフと玉ねぎだけを、ぎっしりと挟んだものがひとつ。自家製のスモークサーモンと、黒胡椒を振ったクリームチーズと、辛味のある生野菜を挟んだものがひとつ。
 おいしそうに食べてくれて、このまま〈野ばら亭〉に下宿したいっていうヴェル様に、ヴェル様と同じだけ食べている、スイシャク様とアマツ様まで、しっかりうなずいていたよ。
 
 食事を終えて、ゆっくりと紅茶を飲んだところで、ヴェル様がいった。
 
「では、お部屋に行ってもらえますか、チェルニちゃん? もうしばらくすれば、愚かにして悪辣極まる者どもが、神聖なるこの場に乱入してくるでしょう。何ひとつ心配は要りませんし、すぐに終わります。いい子にして、待っていてくれますね?」
「はい! わかっています! ヴェル様が呼んでくれるまで、何があっても部屋からは出ません!」
「良い子ですね、チェルニちゃん。よろしくお願いします」
 
 元気良く返事をして、わたしは自分の部屋に閉じこもった。わたしが一緒にいたって、ヴェル様の足手まといになるだけだからね。正しい命令には、全力で従う少女なのだ、わたしは。
 
 部屋に入ってからは、さすがに落ち着かなくて、勉強をする気持ちにもなれなくて、スイシャク様とアマツ様を抱っこしながら、ネイラ様に手紙を書いた。書きたいことも、お礼をいいたいことも、いくらでもあったからね。
 やがて、一枚目の便箋が、わたしの汚い字で埋まった頃、スイシャク様とアマツ様が、ぶわっと気配を膨らませた。
 
 秋晴れの爽やかな午後、わたしの大切な〈野ばら亭〉と、わたしの大好きなお家に、遂に襲撃者が現れたんだ!

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!