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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-10

  ネイラ様たちの罠によって、じわじわと追い詰められているらしいクローゼ子爵家は、作戦一日目にして、フェルトさんに接触してきた。
 でも、フェルトさんも総隊長さんも、まったく相手にしなかったからね。クローゼ子爵家からの使者は、すっかり途方に暮れたみたいで、何と〈野ばら亭〉に来るみたいなんだ。
 
 さっさと守備隊を追い出された使者の人は、スイシャク様の雀たちが聴いている前で、こそこそと話し合っていた。
 
「くそ。何という無礼者たちだ。由緒正しきクローゼ子爵家の使者に対して、このような扱いをするとは。あのフェルトという男も、しょせんは平民の血の入った〈まがい物〉ですな。あれが子爵家の当主になるなど、とんでもない話です」
「いい加減にせよ、ギョーム。今は、そんなことをいっている場合ではないのだ。閣下からは、一刻も早くフェルト殿を連れてくるようにと厳命されているのに、即答で断られたなどといえるものか。下手をしたら、使者に立った我らの首が飛ぶぞ」
「ですから、今から〈野ばら亭〉とかいう店に行って、フェルトの交際相手を連れ出して、王都に向えばいいのです。女を連れ去られたと知ったら、フェルトも追ってくるでしょう」
「早まるな。それは最後の手段だし、閣下のご指示があってのことだ。先程もいったとおり、今は相手の様子を探るだけにしよう。万が一、ことが露見したら、すべてが終わるんだからな」
 
 うわぁ。ヴェル様の予想が、ぴったりと当たってるよ。フェルトさんに断られたからって、アリアナお姉ちゃんを拐おうとするなんて、クローゼ子爵家は敵だね。何があっても許すことのできない、絶対的な敵だ。うん。
 わたしが、怒りと決意を新たにしていると、話を聞いていたヴェル様が、すぐに指示を出してくれた。
 
「クローゼ子爵らを炙り出すためにも、彼奴あやつらは、しばらく泳がせておきましょう。王国騎士団から守備隊へ、わたくしと共に派遣されてきた三人の騎士たちは、我が主人が選りすぐった精鋭揃い。すでに守備隊の人々と連携して、監視の手はずを整えているでしょう。カペラ殿と奥様は、〈野ばら亭〉で普段通りにお過ごしください」
「わかりました。チェルニはどういたしましょう? 普段は、決まった時間に食堂を手伝ってくれるんです。人手は足りているんですが、お客さんたちが、アリアナやチェルニの顔を見たいといわれるので」
「チェルニちゃんは、美人姉妹の看板娘だそうですものね。主人も、いつか〈野ばら亭〉にお邪魔して、チェルニちゃんに焼き立てパンを配っていただきたいのだそうです。いつかなどといわず、すぐにお出ましになればよろしいのに、そういう面では倫理観のかたまりですからね、あの方は。道のりは遥か彼方、というところでしょうか」
「はあ……まあ……そうですね……」
「ふふ。まあ、主人のことはさておき、チェルニちゃんは、お手伝いをお休みできますか? 危険を避ける手段は講じておりますし、御神霊の護りを破れる者など現世うつしよにはおりませんが、チェルニちゃんの美しい天色あまいろの瞳に、醜いものを映したくはありませんので」
「もちろんです、子爵閣下。チェルニは家にいさせます。いいな、チェルニ?」
「了解です、お父さん!」
 
 アリアナお姉ちゃんがいなくて、わたしもいなくて、常連のお客さんたちは、きっと寂しがってくれると思うけど、わたしたちカペラ家では、お父さんの命令は絶対なんだ。お父さんは、めったに命令なんかしないから、余計に。
 わたしがしっかりと返事をしたので、お父さんとお母さんは、そのまま〈野ばら亭〉に仕事に行った。わたしは、応接間に残ったまま、スイシャク様の雀たちからの連絡を待つ。隣にはヴェル様がいて、わたしから目を離さないようにしてくれるそうなので、ものすごく安心できるんだ。
 
 しばらくすると、ふすふすって、スイシャク様が小さな鼻息を吐いた。クローゼ子爵家の使者の人が、いよいよ〈野ばら亭〉に近づいてきたみたい。
 
 使者の二人……面倒だから、身分が上っぽい人が使者A、ひたすら偉そうな人が使者Bでいいや。
 使者AとBは、すぐには〈野ばら亭〉に入らないで、周りをぐるぐる歩いている。二人が乗ってきた馬は、預けるところがないみたいで、くつわを引っ張って連れ回しているよ。主人が馬鹿だと、馬も大変だね。
 うちの宿屋兼食堂が建っている場所は、キュレルの街では一等地なんだけど、やっぱり王都とは人口がちがう。立派な身なりをした見覚えのない人たちが、立派な馬を連れたまま、こそこそとうちの周りを伺っている姿は、ものすごく目立っていた。
 
 使者Bは、あっという間に苛立ってきたみたいで、何度も〈野ばら亭〉に突入しようって主張している。使者Aは、ひたすらそれを止めていたんだけど、さすがに面倒になったんだろう。溜息まじりに、こういったんだ。
 
「仕方がない。これ以上、帰りを遅くするわけにはいかん。多少は疑われたとしても、平民にはどうすることもできないだろう。食堂の方に、入ってみるか」
「そうしましょう。フェルトごときのために、これ以上時間を使うのは無駄というものです。さっさと女の顔を確認して、王都に戻りましょう」
「頼むから、不用意な発言は控えてくれ、ギョーム。失敗しようものなら、クローゼ子爵家に連なるものは、ことごとく処刑台に晒されることになるのだぞ。この店の中では、言動を慎め。わたしのいいつけが聞けないのなら、お前はここで待っていろ」
「わかっていますよ、それぐらい。必ずそのようにいたしますから、一緒に行かせてください。そもそも、わたしたちは昼食も取っていませんしね」
 
 使者Aは、ため息をついてから、馬の手綱をBに預け、先に食堂に入っていった。大きなお店になると、お客さんが馬に乗ってきた場合、一時的に預かることもできるから、それを頼みにいったんだろう。
 思った通り、食堂からうちの従業員さんが出てきて、二人の馬を預かった。Bは、すごく偉そうに文句をいいながら、自分も食堂に入っていく。スイシャク様の雀は、スーッと飛んでいって、食堂の出窓にとまったから、中の様子も伝えてくれるみたい。
 AとBは、空いている席に座って、お給仕に立っている、従業員のお姉さんを呼んだ。
 
「おい。注文だ」
「はい。いらっしゃいませ。何にいたしましょう」
「品書きの〈お肉のおすすめセット〉というものを二人分」
「エールも忘れるな」
「おい。帰りも馬に乗るのだぞ」
「エールくらい、大丈夫でしょう。飲まないと、やってられませんよ」
「まったく、お前は。一杯だけだぞ。その後は水を」
「かしこまりました。パンはサービスですので、別にお持ちしますね。いくつでも召し上がってくださいね」
「ふん。田舎街の食堂らしい、下品なサービスだな」
「この食堂には、美人の看板娘がいると聞いてきたんだ。きみがそうなのか?」
「いやですよ、お客様。わたしなんて、とてもとても。二人のお嬢さんたちは、そりゃあもう、すごく美人で可愛らしいですよ。生憎と、上のお嬢さんは、しばらく留守にされるそうです。お祖父様の具合が悪いので、泊まりがけで看病なんですって」
「それは確かか」
「はい。二、三日前に、出発なさいました。ひと月くらいは、戻られないかもしれません」 
「そうか。困ったな」
「いや、お前も、それなりに悪くないぞ。大して美人とはいえんが、田舎臭いところが、微妙に愛嬌になっている。わたしは、わりと好みだ。どうだ、一度……」
「黙れ、馬鹿者。祖父の家はわかるか?」
「はあ? さすがにそれは。わかりませんし、お教えできませんよ。あと、そちらのお客様。微妙なほめ言葉、ありがとうございます」
「では、妹の方はどうだ。店には出ないのか」
「下のお嬢さんは、王都の学院を受験されるので、今はお勉強が忙しいみたいですよ。では、お料理をご用意しますね」
「おい。エールは、お前が注いでくれよ。お前のやや太めの腹が、また微妙にわたしの好みで……」
 
 すごいな、使者B。完全に仕事を忘れて、いいたい放題だよ。でも、真面目に情報を得ようとしているAは、ものすごく怪しいのに、Bは、ある意味で雰囲気に溶け込んでいる。計算してやっているのならすごいけど、違うな、あれは。
 ちなみに、食堂のお姉さんの口が軽いのは、ちゃんと計算の上だ。ヴェル様の指示で、不自然にならない程度に、いろいろ情報を流していいって、事前にいわれているんだよ。
 
 お父さんは、むすっとした顔で厨房に入っていて、黙々と料理を作っている。クローゼ子爵家の使者だからって、料理には手を抜かないよ? いくら怒り狂っていても、それはそれ、これはこれ。わたしの大好きなお父さんは、そういう人なんだ。
 あっという間に料理が完成して、食堂のお姉さんは、エールと一緒に〈お肉のおすすめセット〉を持っていった。うちの名物のモツ煮込みと、お父さんの特製ソースが美味しいチキンカツ。お魚のセットもあるけど、やっぱり人気はお肉なんだ。
 
「お待たせしました。お肉のセットです。すぐにパンもお持ちしますね」
「なんだ、これは。下品な庶民の食べ物だな。ものすごく美味そうだが」
「美味しいですよ。たんと召し上がれ」
「おっ。いいな、今のいい方。おっ、おっ。なんだ、これは。ものすごく美味いぞ! エールにも、抜群に合うぞ!」
「おい、ギョーム。仕事中だというのに、お前は」
「どうぞ、パンですよ。いくつお取りしますか?」
「ふん。ありふれたパンだな。ものすごく良い匂いだが」
「うちの自慢のパンですよ。どうぞ召し上がれ」
「やっぱりいいな、そのいい方。とりあえず二つくれ。この田舎臭い料理も、すごく美味いぞ!」
「わたしは、ひとつでいい……」
「ふふ。パンのお代わりは、いつでもおっしゃってくださいね」
「おお! 美味い! これほど美味いパンは、王都でもめったにありませんよ。いい店ですな、ここは。安いし美味いし、店員は愛嬌があるし!」
「本当に自由だな、お前は。フェルト殿の女がいないとなると、いろいろと困るというのに」
「まあ、あれです。考えてみれば、クローゼ子爵家が潰れたところで、われわれは職を失うだけですからな。いいじゃありませんか。正直なところ、居心地のいい職場でもないし。パン、もうひとつ頼まれますか?」
「そう簡単な話のわけがなかろうに。そうだな、もうひとつ頼もうか。本当に美味いな、料理もパンも」
 
 使者AとBは、何だか毒気の抜けた顔で、美味しそうに料理を食べ出した。いいのかな、あれ。Aなんて、最初はもうちょっと、切れ者っぽい感じだったのに、どうしちゃったんだろう。
 わたしが不思議に思っていると、膝の上のスイシャク様と、肩の上のアマツ様が、何だか楽しそうに笑い出した。いや、鳥型のお姿だから、笑い出すっていうのも、単なるイメージなんだけど。
 スイシャク様たちがいうには、あっという間にAとBが変わっちゃったのは、うちのお父さんの力なんだって。何それ!?
 
     ◆
 
 スイシャク様とアマツ様は、それから交互に教えてくれた。わたしの大好きなお父さんは、□□□□□から印をいただくと同時に、強いご加護を授けられているんだって。
 
 お父さんに印をくれた神霊さんの中には、料理を司る神霊さんがいて、そのお陰でとっても美味しい料理を作ることができるんだって、わたしたちは思っていた。
 もちろん、努力家のお父さんは、普段は神霊さんに頼ったりしないよ。新しいメニューを開発するときとか、家族の大切な記念日とかに、料理の神霊術を使うくらいなんだ。
 
 でも、スイシャク様によれば、この□□□□□という神霊さんは、普通の料理を司っているわけじゃないんだって。□□□□□が司っているのは、神饌しんせん。〈みけ〉ともいわれる、神霊さんへの捧げ物としての料理なんだって。
 神霊さんが召し上がるものを作れるお父さんが、一生懸命に作った料理なんだから、人の子が喜ばないはずがない。勢い余って、人の子の〈けがれ〉さえ、少しは払ってしまえるんだって。
 
 今、うちの家には、スイシャク様とアマツ様がいるし、守護もかけられている。うちの屋根の上を何度も旋回していたのは、守護印を施すためだったんだ。
 そんなふうに、いわば〈霊的に強化された空間〉になっている〈野ばら亭〉で、クローゼ子爵家に対して怒り狂っているお父さんが、全身全霊を込めて、使者に食べさせる料理を用意したからね。スイシャク様たちも驚くくらい、〈穢れなきせん〉ができ上がって、使者たちの魂を一時的に浄化しちゃったんだって。
 
 もちろん、とっても汚れて曇っていた魂は、簡単には綺麗にならない。今回の浄化も、あくまでも一時的なものらしいんだけど、わたしのお父さんって、すごくない? 
 わたしがそう思って胸を張っていると、話を聞いていたヴェル様も、優しい声でほめてくれたんだ。
 
「チェルニちゃんのお父上は、素晴らしいですね。神への供物を司る御神霊の加護など、めったなことで授けられるものではありませんよ。お父上が神霊庁に所属しておられないのは、誠に残念。ルーラ王国にとって、大きな損失ですね」
 
 うれしい! ヴェル様に、ルーラ王国の損失とまで、いってもらっちゃたよ。まあ、お父さん本人も、料理を司る神霊さんだって思っているし、その勘違いのおかげで、わたしたちはずっとおいしいご飯を食べられたんだから、ありがたかったんだけどね。
 
 ちなみに、神霊庁っていうのは、ルーラ王国特有のお役所で、わたしが目指している就職先のひとつなんだ。王立学院の特待生として迎えてもらう以上、将来は王国の官公庁とかにお勤めして、ご恩を返そうかなって。
 ネイラ様への手紙にそう書いたら、とっても喜んでくれて、王国騎士団も候補先として考えてほしいって、真面目に誘ってもらった。神霊庁か王国騎士団か法理院か、王立学院で勉強する間に、しっかり考えようと思っているんだ。
 
 そんな話をして、ヴェル様からは、官公庁の仕事内容とかを教えてもらっているうちに、使者AとBは食事を終え、クローゼ子爵家に戻ることにしたみたいだ。Bってば、さっきのお姉さんに、「きっと、また来るから」なんていってるよ……。
 連れてこられた馬に乗って、キュレルの街の郊外に向かう間、AとBは、いろんな話をしていた。優秀この上ないスイシャク様の雀たちは、しっかりと話を拾ってくれたから、わたしは全部、ヴェル様に伝えておいた。まあ、ほとんどがクローゼ子爵家に対する愚痴だったけどね。
 
 しばらくして、郊外に出たAとBは、さっと馬に乗った。Bは、手慣れた仕草で印を切って、こういったんだ。
 
「風を司る神霊よ。わたしに力を貸してくれ。わたしと連れを王都まで、風の速さで駆けさせてくれ。対価は、わたしの魔力の必要分と、連れが持参した供物で払う」
 
 Bがそういうと同時に、Aが胸のポケットからハンカチを取り出した。そこに包まれていたのは、綺麗な水晶がひとつ。王都までの距離を、二人の人と馬を運ぶとなると、これくらいの対価は必要なんだろうな。
 詠唱が終わってすぐ、小さな水色の光が現れて、Aが捧げている水晶の周りを、くるくると回った。そして、水晶がどこへともなく消えるやいなや、水色の光がブワッと大きくなって、AとBを包み込む。
 
「さあ、行くぞ!」
 
 Bのかけ声に応じて、二頭の馬は、ものすごい速度で走り出した。意外なことに、それなりの神霊術の使い手だったよ、使者B。
 
 わたしが、ちょっと感心して見ていると、スイシャク様が新しいイメージを送ってくれた。めずらしいものを見せてあげるから、注目していなさいって。それから、今後の成長のために、スイシャク様から送られてくるイメージを、ヴェル様に送ってみるようにって、いわれたんだ。
 スイシャク様によると、ヴェル様はかなり特殊な能力を持っている人だから、言葉とか詳細な状況とかは無理だけど、短時間のイメージだけなら、受け止められるかもしれないらしい。
 
 ヴェル様にそういうと、氷色の瞳をきらきらさせて、わたしに向かって手を差し出した。ちょっと恥ずかしいけど、身体に触れていた方が、イメージは伝わりやすいからね。さすがに、ヴェル様はよくわかってる。
 わたしは、何も考えずに、ヴェル様に手を伸ばしたんだけど、握り合うことはできなかった。アマツ様が、すっと間に入ってきて、小さな真紅の羽先で、ヴェル様の手をペシっと叩いたから。
 
「これはこれは。いささか熱うございますな、炎の御方。チェルニちゃんの御手に触れることは、やはりなりませんか」
 
 そういって、ヴェル様は、いかにも楽しそうに忍び笑いを漏らしたんだけど、どうしちゃったんだろうね。
 
 パチパチと鱗粉を爆ぜさせているアマツ様に代わって、スイシャク様は、小さな白い羽根を浮かべて、ヴェル様に渡してくれた。この羽根を持っていれば、羽根が触媒になって、イメージを伝えやすくしてくれるんだって。
 わたしたちの準備が整った途端、視界から消えていった使者たちの姿が、もう一度くっきりと見えてきた。頑張って、そのイメージをヴェル様に送ってみると、何とか伝わったみたい。ヴェル様は、「おおっ!」っていう感嘆の声を漏らして、また嬉しそうに笑ったんだ。
 
 使者Bは、遠くに王都の影が見えてきたあたりで、じょじょに速度を落とし始めた。あのままの速度で王都に近づくと、周りの人も危険だからね。王都の門が迫ってくる頃には、水色の光は完全に消えていたから、神霊術を解いたんだろう。
 
 すると、そのときを待っていたみたいに、AとBに変化が起こった。Bの身体からは水色、Aの身体からは紫色の光が浮かび上がったかと思うと、帯みたいに長く伸びて、印らしき形を描き出したんだ。
 水色の印と紫色の印は、あっという間に輝きを失って、薄い灰色に変わっていった。それから、バラバラになって印の形さえ失ったかと思うと、そのまま煙みたいに消えちゃったんだ。
 スイシャク様に教えてもらうまでもなく、わたしにはわかった。これこそが、〈神去かんさり〉の瞬間なんだって。
 
 AもBも、自分たちが大切なものを失ったことには気がつかないみたいで、そのまま王都の門をくぐっていった。いつの間にか、二人の背中に貼られていた紙には、〈一時停止〉って書かれていたんだよ。
 
 スイシャク様がいうには、クローゼ子爵家に縁のあるAとBは、すっかり魂を穢してしまっているけど、まだ決定的な罪を犯したわけではないらしい。
 だから、今回の〈神去り〉は、警告を込めた一時的なもので、使えなくなった神霊術も、ひとつずつなんだって。ここで、自分の過ちに気づくことができなければ、本当に神霊さんたちが去っていってしまうんだ。
 
 使者AとBは、そのままクローゼ子爵家に帰っていった。二人の報告は、当然、クローゼ子爵家の人たちを激怒させて、〈乱倫〉の女の人、フェルトさんと結婚するつもりのカリナさんの乱入につながるんだけど、それはもうちょっとだけ先の話……。

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