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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-18

神去かんさりて 開けゆくちょうこそ 目出たけれ 神は神の世 人は人の世」
 
 王太子殿下が、そうんだ途端、世界が揺れた。比喩ではなく、本当に。お父さんやお母さんには、わからなかったみたいだけど、遥かに高い天上で、神霊さんたちがざわめく気配が伝わってくる。そして、神霊さんたちに呼応するみたいに、わたしたちが見ている空も、立っている大地も、漂う空気までもが、耳には聞こえない音を立てて、きしんだ気がするんだ。
 
 〈神託しんたく〉の宣旨せんじを受けたとはいえ、十四歳の少女でしかないわたしには、王太子殿下の歌の意味が、正確に理解できたとは限らない。でも、そこに込められた危うさだけは、はっきりと感じ取れたんじゃないかと思う。
 人の子は、神霊さんたちの力を借りずに、自分たちで〈現世うつしよ〉を治めていく。神霊さんには、天上の〈神世かみのよ〉にいてもらって、人の世に干渉しないでほしい。自分たちには、神霊さんは必要ない……。王太子殿下は、そういいたいんだろう。世にも尊い神霊さんたちを、〈要らない〉って! 
 
 わたしは、目の前が紅く染まったみたいな気がした。しっかりと目を開けて、王太子殿下をにらんでいるはずなのに、その姿まで紅くかすんで見える。目から血が流れているんじゃないかって、不安になって、大急ぎでぬぐってみたら、手には一滴の血もついていなかったけど。
 どうやら、わたしは、ものすごく怒っているらしい。たくさんの恩恵を受けて、眷属けんぞくだっていってもらって、いつも一緒にいてもらって、力強く守ってもらっているんだから、そんな神霊さんたちを否定した王太子殿下に、わたしが怒るのは、ものすごく当たり前のことだろう。
 
 〈鬼哭きこくの鏡〉を通して、王太子殿下の歌を聞いたお父さんは、うめくような声で、〈ばち当たりが……〉ってつぶやいた。横にいるお母さんは、何もいわないまま、ぎりぎりと奥歯を噛み締めていた。神霊さんたちへ、深い崇敬すうけいを捧げている二人だから、ものすごく激しい怒りが伝わってくる。お母さんなんて、今にも鬼になりそうで、めちゃくちゃ怖いよ……。
 
 お父さんとお母さんの怒りを前に、かえって冷静になったわたしは、宰相執務室に意識を集中させた。紅く霞んでいた王太子殿下は、もう普通に見えてきたし、部屋の様子もわかってきた。わたしたちが、激怒するくらいなんだから、宰相閣下たちは、さぞかし怒っているんだろう。特に、神霊庁の大神使だいしんしであるコンラッド猊下けいかなんて、怒りを我慢できないんじゃないだろうか? 
 そう思って、一人一人の様子に注目して、わたしは、目を見開いた。だって、険しい表情を浮かべているだけで、皆んな、氷みたいに冷静だったんだから。え? ええ? 皆んな、怒ってないの?
 他の誰よりも、怒っていい立場にいるはずのコンラッド猊下は、重々しくも静かな声で、王太子殿下にいった。
 
「人の世に、神々は不要との仰せでございますか? いとも尊き御神霊の恩寵おんちょうを授かりし神霊王国で、世継ぎの君たる王太子殿下が」
 
 いつも優しくて、慈愛に満ちたコンラッド猊下の声は、温かみを失っていた。でも、冷たいとか、怒っているとかいうわけじゃなく、何だかとっても悲しそうだった。まるで、雨に打たれた花みたい。男の人で、わりと年配の猊下を表すには、似合わない言葉かもしれないけど、そう思ったんだ。
 王太子殿下は、そんなコンラッド猊下の顔を見て、少しだけ複雑そうな顔で微笑んで、迷いのない口調で答えた。
 
「ええ。そう申しましたよ、猊下。ここで怒り出しもせず、悲しそうなお顔をなさる猊下には、申し訳なきことながら」
「アレクサンス殿を見逃すことと、先ほど御詠みになられた王太子殿下の御製ぎょせいと、どう関係するのか、お教えいただけますか?」
「アレクサンス殿は、〈円環えんかん〉の一つなのですよ、猊下。わたしは、長い時間をかけて、いくつもの小さな輪をつなげてきました。アレクサンス殿も、その輪の一つであり、それが欠けてしまうと、大きな輪が完成しないのです。アレクサンス殿ご自身は、不出来ふできもろく、いびつびた円環であったとしても」
「殿下は、嘘はつかぬと仰せになられました。確かに、わたくしの知る王太子殿下は、物事を誘導するための作り話はなさいますけれど、つまらぬ嘘はおつきにならぬ御方おかたでございます。つまりは、今、具体的な理由をお聞かせいただくわけにはいかぬのでございますね」
「ええ。仰せの通りです、猊下」
「殿下がお作りになろうとしておられる、大きな輪が壊れれば、御神霊も不要になるのでございますか? 逆に、大きな輪が完成するのであれば、殿下は、御神霊への崇敬をお捨てにならぬのでございますか?」
「正確には、新しき世を引き寄せ、ルーラ王国を守るための輪が作れなければ、少しばかり乱暴な手法を取る可能性がある、ということです。わたしは、限られた命、限られた力しか持たぬ〈只人ただびと〉ですから、他に方法がないのです。できることなら穏便おんびんに、この世を変えていきたいとは思いますが」
「御神霊の加護なき世を望まれますか、殿下?」
「神話の時代は、いつか終わるものでしょう。実際、ルーラ王国以外の国では、神は去っていきました。何故なにゆえ、ルーラ王国だけ、神の永遠を信じられるのでしょうか。我がルーラ王国も、神なき世に生き残る方途ほうとを探らねばなりません。準備も覚悟もないまま、王国から神々が去れば、諸外国に食い荒らされましょう。神霊術が使えなければ、我らの軍勢は、魔術を使う国々には決して勝てない。足を縛られた子兎こうさぎよりも、弱く哀れな獲物ですよ」
「この議論そのものが、御神霊への不敬とは思われませぬか、殿下?」
「思いませぬ。神とは、強大にして崇高すうこう傲慢ごうまんにして冷然たるもの。弱き人の子が、神なき世を語ろうと、お怒りにはなりますまい。〈神威しんいげき〉たるレフヴォレフ殿が、この場におられても、平然と聞き流してしまわれましょう」
 
 王太子殿下の言葉に、わたしは、はっと胸を突かれた。そう、確かに王太子殿下のいうように、神霊さんたちは怒っていない。驚きと失望のざわめきが、世界を軋ませたくらいなのに、そこに怒りは感じられないんだ。
 今も側にいてくれる、スイシャク様とアマツ様も、様子は同じだった。スイシャク様は、少し膨らみが減って、全体的にぺしょんとなっちゃった気がするけど、黒曜石みたいに輝く瞳は、穏やかなまま。わりとすぐに、王都を燃やしちゃおうとするアマツ様も、銀色の瞳をえときらめかせて、静かに王太子殿下に注目しているみたいだった。王太子殿下の許しがたい発言は、神霊さんたちにとって、怒るべきものじゃないんだろうか……。
 
 わたしが、混乱しているうちに、動いたのは宰相閣下だった。ちょっとだけ眉間みけんにしわを寄せて、でも、平然と王太子殿下を見すえていた宰相閣下は、コンラッド猊下に視線を向ける。猊下は、たったそれだけで意味がわかったみたいで、小さくうなずき返してから、こういった。
 
「確かに、レフ様であれば、王太子殿下の御発言にも、動じたりはなさいませぬな。心を乱されるのは、同じ人の子のみでございましょう。ともあれ、そうした現世のまつりごとについては、多くが宰相閣下の御領分ごりょうぶんと存じます。宰相閣下の御意見をうかがっても、よろしゅうございますか、殿下?」
「よろしいですよ、猊下。さぞかし、いいたいことがあるのであろうな、宰相殿?」
「発言の御許可をいただき、ありがたく存じます、殿下。我らが王太子殿下は、極めて御聡明であらせられますゆえ、これほどの大事を、軽々しくお話しにはなりますまい。すでに、殿下の御心のうちでは、いく通りかの道がかれているのでございましょう。先のことは先のこととして、わたくしが、どうしてもこの場でお尋ねせねばならぬのは、ただ一つでございます。アレクサンス殿は、我がルーラ王国の子供らが誘拐された事件に、関わっておられるものと思われます。王太子殿下は、それを否定なさるのでございますか? あるいは、子らの誘拐を容認なさるのでございますか? 千年余の歴史を誇る神霊王国、我らがルーラの輝ける宝玉ほうぎょく、正統な世継ぎの君にお尋ね申す」
 
 宰相閣下は、王太子殿下を見すえたまま、はっきりといった。落ち着いた静かな声だったのに、その瞬間、わたしの頭の中に浮かんだのは、猛々たけだけしく咆哮ほうこうする、巨大な獅子の姿だった。宰相閣下ってば、やっぱりものすごく怒っているんだよ!
 
 真正面から問いただされて、王太子殿下は、どう答えるんだろう? そもそも、クローゼ子爵家の事件の発端は、クローゼ子爵家の人たちが〈神去かんさり〉になったことで、調べていくうちに、子供たちの誘拐事件に関わっている可能性が出てきたんだった。元大公だって、誘拐事件につながる証拠を隠し持っていたんだから、無関係のはずがない。王太子殿下だって、そのことは知っているはずなんだ。
 尊くて優しい神霊さんたちを、〈要らない〉っていった王太子殿下を、わたしは、許すことができないし、万が一、王太子殿下まで、子供たちの誘拐事件に関わっているんだったら、わたしたちは、どうやって国を信じれば良いんだろう?
 
 ちょっと泣きそうになりながら、わたしも、お父さんとお母さんも、宰相閣下たちも、じっと固唾かたずを飲んで、王太子殿下の答えを待ったんだよ……。
 
     ◆
 
 手で触れたら切れちゃいそうなくらい、固く張りつめた空気の中で、堂々と顔を上げたまま、王太子殿下はいった。〈いな〉って。
 
「答は否だよ、宰相」
「否とは、アレクサンス殿は、誘拐には関わっていないという意味でございますか? あるいは、王太子殿下は、子供らの誘拐を容認してはおられないという意味でございますか?」   
「どちらもだよ、宰相。アレクサンス殿は、他国の求めに応じて、ルーラ王国の民を出国させる手助けをしただけで、子供たちを誘拐しようなどとは、考えていなかったに違いないのだ。また、わたしは、誘拐を容認する考えはなく、アレクサンス殿が、誘拐事件の主犯ではないと信じるが故に、王前裁判を望んでいる」
「……その御答に、一応は安堵あんどいたしました。けれども、ルーラ王国の民を出国させるとは、誘拐と同じではございませんか?」
「違う。アレクサンス殿から聞いたわけではないが、あの方は、孤児院の子供たちを誘拐させたりはなさらない。そのような危ない橋を渡らずとも、金で己が身を売る者は、いくらでもいるのだから、そこから〈調達ちょうたつ〉しようと考えたはずだ」
「アレクサンス殿が、ご自分の〈玩具がんぐ〉にしておられた女性たちのように、でございますか?」
「そう。自らの意志で身を売るのだから、アレクサンス殿は罪には問われぬ。正確には、いくつかの罪状はつくであろうが、大罪たいざいとまではいえまい」
「では、何故、子供たちは誘拐されたのでございましょうか?」
「それは知らぬよ、宰相。わたしは、関わってはいないのだから。推測するとすれば、人集めを依頼された者たちが、欲を出したのではないか? 大金を渡して人を集めずとも、孤児院から子供をさらってくれば、〈買取費用〉まで、その者たちの利益になるのだからな。生まれついての王族であるアレクサンス殿には、日陰で生きる者の思惑は読めぬ。そうではないか、宰相?」
「……確かに、王太子殿下の御言葉にも、一理いちりはございますな。証言や証拠を調べ尽くさぬうちは、答は出せませんけれど」
「だからこそ、その調べは、人の手で行うべきだと申しておるのだ。繰り返しになるが、アレクサンス殿自身は、神霊庁に告発されていないのだから」
 
 王太子殿下の答に、宰相執務室は、冷んやりとした沈黙に包まれた。どの人も、むずかしい顔をして考え込んでいるだけで、王太子殿下にいい返そうとはしない。宰相閣下もコンラッド猊下もネイラ侯爵閣下も、本当に公平で、理性的な人たちだから、王太子殿下の答に、それなりの合理性を感じちゃってるんじゃないかな?
 宰相閣下は、沈黙を守ったまま、さっと視線を投げた。コンラッド猊下でもネイラ侯爵閣下でもなく、壁際に並んだまま、じっとこの一幕ひとまくを見つめていた、フェルトさんに向かって。
 
 フェルトさんは、宰相閣下の視線を受け止めると、わたしから見てもわかるくらい、大きく身体を震わせた。そして、両手、両膝を床につけると、深く深く頭を下げ、緊張のにじむ声でいったんだ。
 
「許されざる不敬、御無礼は承知の上で、王太子殿下に申し上げたき儀がございます。何卒なにとぞ、発言をお許しくださいませ」
「……確かに不敬であるな。あの者は、オディール姫の連れか、宰相?」
「左様でございます。現在の名を、フェルト・ハルキス。オディール姫が、にょ大公となられたあかつきには、ルーラ大公家の籍に入り、フェルト・ティグネルト・ルーラの名を得ることになろうかと存じます。殿下も御存知の通り、陛下の内諾ないだくたまわっております。フェルト殿の発言を御許しいただきたく、わたくしからもお願い申し上げます」
「わたくしからも、同様にお願いいたします。よろしゅうに、王太子殿下」
「……宰相や猊下に頭を下げられては、致し方ございません。フェルト・ハルキス。特別の温情にて、そなたの不敬には目をつむろう。話すが良い」
「ありがたき幸せに存じます。王太子殿下におかれましては、さぞや御不快に思われるものと拝察申し上げますが、それでも、申し上げないわけには参りません。わたくし、フェルト・ハルキスは、神霊庁に対し、アレクサンス・ティグネルト・ルーラ元大公を告発いたします。罪状は、大公騎士団に命じ、キュレル守備隊本部への襲撃を行わせたことでございます」
 
 え!? 何をいってるの、フェルトさん? 元大公自身は、神霊庁に告発されていないから、王前裁判で良いんじゃないかって、王太子殿下がいってたよね? 逆にいうと、元大公が神霊庁に告発されたら、神前裁判にするしかないんじゃないの?
 わたしの予想を裏付けるみたいに、王太子殿下は、さっと表情を変えた。堂々としていて、冷静なのは同じだけど、まとう空気が氷みたいに冷たくなったんだ。王太子殿下は、フェルトさんに問いかけた。
 
「そなた、先ほどの話を聞いた上で、なお、アレクサンス殿を神霊庁に告発するというのか。おのれの言葉一つで、ルーラ王国の未来が変わるかもしれぬと、わかった上での発言か」
「わたくしごときに、王太子殿下の御心がわかろうはずもございません。ですが、わたくしは、自らが正しいと思うことをすだけでございます。元大公が知っていようが、知らなかろうが、現実に子供たちは拐われました。今も、祖国に帰ることもできず、行方知れずになっている子供が、何十人もおります。わたくしは、キュレルの街の守備隊員として、子供たちを拐った犯人どもを追いました。犯人に連なる者どもは、到底とうてい、許すわけにはいきませんので、元大公を告発するのです」
 
 王太子殿下に冷たい目で見つめられ、顔色を青くしたフェルトさんは、それでも、はっきりといい切った。そうだよ! あの夏の日、わたしたちは子供たちを助け出すことができたけど、その前に拐われていた、何十人もの子供たちは、まだ帰ってきていない。ルーラ王国が、アイギス王国に対して申し入れた期限は、約半年。いつの間にか、残された時間は、二ヶ月くらいになっているんだ。
 子供たちが、全員、無事に帰ってくるまで、事件は終わらない。そして、事件が終わったって、誘拐犯の罪は消えない。王太子殿下の雰囲気に飲まれちゃって、一瞬、元大公を神前裁判にかけて良いのかどうか、疑問を持ちそうになったのは、チェルニ・カペラ、一生の不覚だよ。
 
 わたしが、アリアナお姉ちゃんのお婿さん、つまり、未来のお義兄さんのかっこ良さにしびれているうちに、鈴の音みたいに可憐な声が、フェルトさんの告発に続いた。もう一人、元大公を告発する資格を持った、アリアナお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは、フェルトさんと同じ座礼を取り、綺麗な額を床に擦り付けて、こういった。
 
「お許しもなく、発言いたします不敬を、幾重いくえにもお詫び申し上げます。わたくし、アリアナ・カペラは、アレクサンス・ティグネルト・ルーラ元大公を、神霊庁に告発いたします。罪状は、キュレル守備隊本部への襲撃。わたくしも、その場で目撃した当事者でございます」 
 
 妹のわたしがびっくりするくらい、りんとして発言したアリアナお姉ちゃんの言葉に、いくつもの声が重なった。
 
「ルーラ王国神霊庁が大神使、エミール・パレ・コンラッドは、フェルト・ハルキス殿、並びにアリアナ・カペラ殿に、告発の意志があることを確認いたしました」
「ルーラ王国宰相、アルベルトス・ティグネル・ロドニカは、フェルト・ハルキス殿、並びにアリアナ・カペラ殿に、告発の意志があることを確認した」
「クローゼ子爵家当主、マチアス・セル・クローゼは、我が孫であるフェルト・ハルキス、並びにアリアナ・カペラ嬢に、告発の意志があることを確認した」
「ルーラ大公家息女、オディール・ティグネルト・ルーラは、我が孫であるフェルト・ハルキス、並びにアリアナ・カペラ嬢に、告発の意思があることを確認いたしました」
「ルーラ王国法務大臣、アスレリオス・ティルグ・ネイラは、フェルト・ハルキス殿、並びにアリアナ・カペラ嬢に、告発の意志のあることを確認した。これをって、アレクサンス殿の裁判は、神前裁判が妥当であると思量しりょういたします、王太子殿下」
 
 レフ様のお父さんが、最後にそう宣言して、部屋はまたしても静まり返った。王太子殿下は、フェルトさんを見て、アリアナお姉ちゃんを見て、フェルトさんを見て、じっとアリアナお姉ちゃんを見つめて……小さく息を吐いてから、音もなく椅子から立ち上がった。
 
「決まってしまったものは、致し方あるまい。神前裁判にて、ご神霊の裁きを見守るとしよう。その場には、数百年ぶりに現れし〈神託しんたく〉も、姿を見せるのであろう? この世で最も美しい、薔薇と黄金の乙女よ」
 
 王太子殿下は、宰相執務室を出ていく間際、アリアナお姉ちゃんを振り返って、そういった。アリアナお姉ちゃんの美貌を誉めるのに、こんなに熱のこもらない目をした人って、初めてだよ、わたし。
 アリアナお姉ちゃんは、無言のまま、ますます深く頭を下げた。王太子殿下の口から、わたしのことが話されるのって、めちゃくちゃ怖いけど……ともあれ、王太子殿下の乱入は、ひとまず無事に終わった……んだよね?
 

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