連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 幕間書簡(13) ユーゼフ・バランとエルヴェ・ルクラ・クラルメ
幕間書簡(13)
ユーゼフ・バランとエルヴェ・ルクラ・クラルメ
〈キュレルの街の町立学校で校長を務めるユーゼフと王立学院の前学院長であるエルヴェとの書簡〉
∞
エルヴェ・ルクラ・クラルメ先生 御机下
朝晩、いくらか冷え込むようになってまいりましたが、お元気でいらっしゃいますか、先生? 大切な御身なのですから、くれぐれも無理をなさらず、ぬくぬくと着膨れしていただきますよう、お願い申し上げます。
さて、いつもお心にかけていただいております、不肖の弟子から、先生にご報告がございます。わたくし共の町立学校の天才児であり、可愛い教え子でありますところのチェルニ・カペラ嬢が、本年度の王立学院の入学試験において、外部受験生として試験を受けることとなりました。
先生もご存知の通り、チェルニ・カペラ嬢は、特待生としての入学が決まっておりますが、本人の卓越した実力を示し、入学後の騒音を少しでも消し去るためには、入学試験に挑むべきだと考え、推奨した次第でございます。
わたしたちの可愛い〈サクラっ娘〉は、思慮深い反面、非常に素直に好意を受け取ることのできる生徒であると同時に、困難に立ち向かう勇気に溢れております。サクラっ娘のためのみならず、ぬるま湯で茹だった傲慢な生徒たちに、大海の存在を知らしめる意味でも、望ましい成り行きであると信じております。
王立学院の生徒たちは、それなりに優秀であるとはいえ、わたしたちの可愛いサクラっ娘に及ばぬこと、火を見るよりも明らかですからな!
ということで、先生。キュレルの街の町立学校の教職員の総意として、われわれは今後とも、サクラっ娘を応援し続ける所存であり、その決意の一環として、わたくしも王立学院に職を得たいと考えております。かねてからのお勧めをお受けいたしますので、サクラっ娘を教えられる立場に置いていただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
サクラっ娘は、入学したての七歳の頃から、ずっと校長室に遊びに来てくれました。ポケットに入れた父上の手作りおやつを、小さな手で半分に分けて、いつもわたしに食べさせてくれたのです。〈校長先生の方が身体が大きいから〉といって、どんなときでも必ず、大きい方のおやつをくれるような生徒を、可愛く思わないはずがありません。
高度な学びの場である反面、心根のねじ曲がった者の少なくない王立学院で、サクラっ娘の心が傷ついたとき、すぐに支えられる場に居たいと、心より願っております。
ユーゼフ・バラン拝
追伸/
今回、王都へは単身で赴任する予定でおります。わが恐妻は、わたくしと王立学院の相性の悪さ……というか、驕慢な貴族に対して、いたずらに反骨精神を発揮してしまう、わたくしの悪癖を理解しており、すぐにキュレルの街に帰ってくると思っているようです。教育者たる者、可愛い教え子のためなら、耐え難きを耐える生き物である点、理解しておらぬようです。今度こそ、短気を起こして帰ったりしませんよ、わたくしは!
←→
親愛なるユーゼフへ
相変わらずの手紙をありがとう。まったく、きみときたら、とことん権威や身分というものが嫌いなのだね。大抵の者の場合、そうした反抗心は、〈妬み嫉み〉と表裏一体になっているものだが、きみは違うからね。
きみのことを、〈学会の反逆児〉と呼ぶ者もいるけれど、それほど可愛げのある者ではないと、わたしはいつも思っている。ユーゼフ・バランは、革命家だよ。国の体制そのものに牙を剥きかねない、筋金入りの革命家だ。ルーラ王国が安定した国であり、きみの関心が学問に向いていたのは、僥倖だったと思っているよ。
さて、その反骨精神に溢れたユーゼフが、遂にわたしの招聘に応じてくれたこと、誠に嬉しい。きみの素晴らしい学識によって、ルーラ王国の中枢を担うであろう子供たちに、薫陶を与えてやりたいのだよ、わたしは。
きみのことだから、〈サクラっ娘〉のためといいながら、学ぶ意欲のある全ての生徒に、等しく手をかけてくれることはわかっている。よろしく頼むよ、ユーゼフ。
それにしても、チェルニ・カペラ嬢にお目にかかれるのが、今から楽しみで仕方がないよ。ユーゼフが天才児と呼び、〈神威の覡〉で在られる御方様が特別視なさり、錚々たる方々が推薦者として名を連ねられ、あの高徳のコンラッド猊下に王立学院を威圧させた少女……。
わたしなどには、とても想像が及ばず、興味を掻き立てられているのだよ、ユーゼフ。何よりも、小さな手でおやつを割って、大きい方をユーゼフに差し出してくれた、可愛い〈サクラっ娘〉に、わたしも早く会ってみたいものだ。
できたら近々、王都まで出てきてはもらえないかね? きみの職務内容や、単身赴任する家についても、打ち合わせをしておこう。きみに会えるのを、楽しみにしているよ。
エルヴェ・ルクラ・クラルメ
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
いつも『神霊術少女チェルニ 往復書簡』をお読みいただき、ありがとうございます。
今話にて、『神霊術少女チェルニ 往復書簡』幕間書簡の投稿は終了となります。
現在、著者の須尾見蓮さんは、『小説家になろう』での『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』の連載を一旦お休みされ、『神霊術少女チェルニ』の書籍版続刊作業、そして、別名義である菫乃薗ゑさんとして執筆している『フェオファーン聖譚曲オラトリオ』シリーズ書籍の執筆作業を行っています。
連載再開・第5部スタートの詳細な日程が決定次第、note及び公式Twitterなどでお知らせさせていただきます。
▼須尾見蓮さん公式Twitterはこちら
@suomi_ren
▼opsol book公式Twitterはこちら
@opsolbook
また、明日からは、『邂逅 ー神霊術少女チェルニ外伝ー』をnoteにも投稿いたします。『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』の外伝作品であり、前編・中編・後編の全3部構成となっています。こちらもぜひ、お楽しみください!