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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 18通目

レフ・ティルグ・ネイラ様
 
 ネイラ様のお手紙って、お説教じみてますか? わたしは、全然、まったく、そんなふうには思いません。正直なところ、〈えっ、そうなの?〉っていう感じで、とても驚いてしまいました。
 
 ただ、ここまで書いて、ひとつ気づいたことがあります。ひょっとすると、ネイラ様と同じように、わたしも〈説教じみた〉少女で、だからこそ、ネイラ様がちょっとくらい先生みたいでも、何とも思わないのかもしれないなって……。
 
 わたし、町立学校の同級生たちとは、そんなに仲良くないんだって、以前に書きましたよね。その大きな理由は、〈大人ぶってる〉からなんだそうです。
 わたしが、王立学院を受験すると聞いて、〈ずるい〉って抗議をしにきた、可愛いと評判の同級生にも、いわれたことがあります。〈チェルニちゃんって、わたしたちのことを、子供だって思っているんでしょう?〉って。
 わたし自身は、そんなつもりはないんですけど、周りからは、大人ぶった感じの悪い少女に見えるのでしょうか? それって、〈説教じみている〉ことと、ほとんど同じなんじゃないでしょうか?(うわぁ、書いていて落ち込みそうになりました。気にしない、気にしない!)
 
 何をいいたいのかというと、ネイラ様が〈説教じみている〉かどうかは、わたしにはよくわからなくて、でも、わたしはちょっと先生みたいなネイラ様の手紙が、大好きだっていうことです。そう感じる理由は、わたしが〈大人ぶってる〉からかもしれませんが、ネイラ様が、そんなわたしを嫌だと思わずにいてくれるのなら、何の問題もないですよね。
 あれ? ちょっとだけ不安になりました。わたしのこと、嫌じゃないですよね、ネイラ様? だったら、大丈夫です。お説教じみたネイラ様と、大人ぶってるわたしで、楽しく文通をしたいなって、心から願っています。
 
 さて、ここからは、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんと、フェルトさんのことです。わたしが、〈野ばら亭〉のお手伝いをするようになった頃には、アリアナお姉ちゃんは、フェルトさんのことが大好きで、フェルトさんだって、アリアナお姉ちゃんしか目に入っていなかったと思います。それなのに、そこからがまったく進展しないんです!
 
 わたしが、二人の気持ちに気づいてから、もう二年近くになります。その間、あの二人ってば、美人の看板娘の姉の方と、カッコいい常連客という立ち位置から、一歩たりとも近づいていません。
 〈いらっしゃいませ、フェルトさん〉〈こんにちは、アリアナさん〉〈今日はいいお天気ですね〉〈そうですね〉〈今日のおすすめは〇〇です〉〈じゃあ、それをお願いします〉〈とってもおいしかったです、アリアナさん〉〈ありがとうございました〉。
 二年間の二人の会話って、本当にほぼこれだけです。〈いいお天気〉が、〈暑いですね〉とか〈寒いですね〉に変わることはあっても、それだけ。アリアナお姉ちゃんはともかく、フェルトさんてば、意気地がないにもほどがあると思いませんか?
 
 最初のうちは、〈アリアナちゃんに近づいたら、わしらが制裁する!〉とかいって怒っていた、常連のおじさんたちも、今ではただの見物客です。フェルトさんが、アリアナお姉ちゃんをデートに誘うまで、この先何年かかるのか、こっそり賭けたりして、お父さんに叱られていました。
 お父さんにバレるまでの集計でいうと、一番人気のあった回答が、〈三年後〉なんですって。もし、本当にそうなったら、フェルトさんなんて排除しちゃって、お姉ちゃんには別の人に目を向けてもらおうかなって、考え始めているところです。
 
 昨日、アリアナお姉ちゃんが、編み上がった秋りんご色のカーディガンをプレゼントしてくれました。すっごく可愛くて、軽くて、暖かくて、素敵なカーディガンです。お姉ちゃんてば、水色のセーターをどうするのかな? 
 お姉ちゃんの可憐な乙女心を思うにつけ、へたれなフェルトさんへの怒りが増してくる、今日この頃。また、次のお手紙で、相談させてくださいね!
 
 
     ネイラ様との二つ目の約束を検討している、チェルニ・カペラより
 
 
 
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大人びているというよりも、聡明な少女だと思う、チェルニ・カペラ様
 
 わたしが困っていることに、丁寧に回答してくれて、どうもありがとう。わたしの手紙が、神霊庁の説話集のように〈説教じみている〉のかどうか、答えは出ないようですが、きみが嫌でないといってくれるのであれば、まったく問題はありません。思ったまま、感じたままに、きみに手紙を書き続けることにしましょう。
 
 もちろん、わたしがきみのことを、嫌だなどと思うはずがありません。そもそも、大人の目から見たきみは、年齢に比べても純真な少女であり、だからこそいっそう、周りの人たちに愛されているのだと思います。
 きみは、真に聡明な人ですから、同年代の少年少女にとっては、近づきがたいところもあるのでしょう。そうした違和感は、年齢を重ねるごとに、ある程度は埋まっていくと思います。あくまでも、ある程度であり、完全にはなくならないでしょうが。
 
 きみが書いてくれたように、〈説教じみている〉わたしと、〈大人ぶっている〉きみで、交流を深めていくというのは、とても素晴らしい未来ですね。わたしの心の中に、小さくて可愛らしい、まるできみそのもののような明かりが、そっと灯された気がして、嬉しくなりました。ありがとう。
 
 さて、きみがこっそり教えてくれた、お姉さんとフェルトさんの件ですが……。すみません。わたしが考えても、フェルトさんは、絶望的に奥手というか、女性に対して消極的すぎるようですね。
 きみのいう〈へたれ〉とは、意気地のない男性のことですか? そうであれば、十四歳の少女にへたれといわれてしまっても、仕方がないのではないでしょうか。
 
 ただ、フェルトさんを擁護するとしたら、アリアナさんの年齢の問題があるかもしれませんよ。アリアナさんは、もうすぐ高等学校を卒業すると聞いていますので、そうした年頃になるまで、じっと待っている可能性もあります。
 誠実な男性であり、相手の女性のことを真剣に思っているのなら、女性が相応しい年齢になるまで、みだりに誘うような真似はしないでしょう。まあ、賭けの一番人気にあった、〈三年後〉まで動かないのなら、フェルトさんに見切りをつけてもいいのではないかと、わたしも思いますが。
 
 これまでのわたしは、人の恋愛というものに、ほとんど興味を持ったことがありませんでした。わたしにとって、大切だと感じる人については、幸せを祈ってはいましたが、ただそれだけでした。
 ところが、きみの大好きなお姉さんのことだと思うと、アリアナさんとフェルトさんの今後が、とても気になるのです。人の心の動きというのは、不思議なものなのですね。
 
 では、また、次の手紙で会いましょう。朝晩は冷え始めたので、風邪などひかないでくださいね。
 
 
     きみが提案してくれる約束を楽しみにしている、レフ・ティルグ・ネイラ