見出し画像

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-12

 作戦二日目の朝、元気いっぱいに朝ごはんを食べたわたしたちは、それぞれの〈持ち場〉についた。まあ、フェルトさんとアリオンお兄ちゃんは守備隊、お父さんとお母さんは〈野ばら亭〉に、それぞれ出勤しただけなんだけど。
 わたしは、家の応接間に参考書を持ち込んで、力試しに受けさせてもらうことになった、王立学院の入試に向けて勉強する。そばにはヴェル様がいてくれるし、相変わらず膝の上にスイシャクさま、肩の上にアマツ様がいるから、何の心配もない。クローゼ子爵家に動きがあったら、それをわたしからヴェル様に伝えて、すぐに〈野ばら亭〉と守備隊に伝言してもらう手筈なんだ。
 
 詳しくはわからないけど、ヴェル様の部下の人たちも、変装して〈野ばら亭〉に詰めてくれているらしい。ネイラ様が、どんなことが起こっても、万にひとつも、わたしたちが危険な目にあわないようにって、たくさんの人を手配してくれたんだ。
 ヴェル様に、優しい笑顔でそう教えられたときは、なぜだか顔が真っ赤になっちゃった。とっても嬉しくて、でも申し訳なくて、やっぱりとっても嬉しかったから。
 
 スイシャク様とアマツ様はといえば、今朝も普通にご飯を食べていた。お父さんも、わたしも、供物とは思っていなかったから、本当に普通のメニューだったんだけど、別に構わないからって。
 トウモロコシのたくさん入った、ちょっと甘めのオムレツと、色とりどりの野菜サラダ。トマト味の酸味のあるスープには、いろんな野菜が入っていて、すごく深い味がする。ベーコンは自家製で、塩味を限界まで薄くして、代わりに燻す時間を長くしてあるから、びっくりするくらい香り高い。チップを変えて作ってあるマスの燻製は、軽くあぶってあるだけで、ほんのりと溶け出した油が光っていて、目から食欲を刺激される……って、料理の説明はどうでもいいんだった。
 
 わたしたちは、神霊さんのご分体が、当たり前みたいにご飯を食べることに驚いたんだけど、スイシャク様とアマツ様は、まったく気にしていなかった。食べものそのものに、穢れなどあるはずもないから、〈かせ多き現世うつしよの不自由を楽しむ〉んだって。
 スイシャク様なんて、ベーコンのお代わりまでしてたよ。豚肉って、神饌にすることは許されないはずなのにね。
 ヴェル様は、何だかすごい顔になって、〈霊肉一致れいにくいっち〉〈如是我聞にょぜがもん〉とか唸ってたから、そのうち意味を教えてもらうことにしよう。
 
 そうこうするうちに、クローゼ子爵家を見張っている雀たちから、スイシャク様に連絡が入った。フェルトさんを訪ねてくる予定のカリナさんが、ついに動き出したんだ!
 
 雀の視点とつなげてもらうと、カリナさんは、使者AとBの二人と、何人かの護衛役に守られながら、クローゼ子爵家の立派な馬車に乗り込むところだった。応接間でいつもけんかをしていた、従兄弟のミランっていう人も同行するみたい。
 馬車に乗るのは、カリナさんとミランさん、侍女っぽい女の人の三人だけで、他の人は馬に乗ろうとしている。ただ、フェルトさんに話をしにくるだけのはずなのに、ずいぶんな大人数だった。
 
「お見送り、ありがとうございます、お父様。行ってまいります」
「頼んだぞ、カリナ。気をつけて行け。しっかりとカリナを守るのだぞ、ミラン」
「戦地に行くわけでもなし、心配はご無用ですよ、伯父上。フェルトとかいう男の本音を、しっかり見抜いてまいりますよ」
「では、行ってこい。風の神霊術の対価は持ったのか、ギョーム」
「お預かりしております、閣下」
「よかろう。昨日のような不首尾は許されないと思え。行け!」
 
 クローゼ子爵家を出発した一行は、それなりの時間をかけて、王都の通用門に到着した。貴族用らしい立派な門を出て、整備された街道をちょっと外れると、キュレルの街までは一直線なんだ。
 カリナさんは、馬車の窓を開けさせると、使者Bに風の神霊術を使うように命令した。使者Bは、すぐに命令のとおりにしようとしたんだけど、急に顔色をなくして、馬の上で硬直したんだ。
 
 使者Bに何が起こっているのか、わたしにはよくわかる。だって、風の神霊さんがくれた印は、昨日のうちにばらばらに解けて消えちゃったからね。
 神霊さんの文字で〈一時停止〉と書かれた紙も、相変わらずべったりと背中に張りついている。使者AとBに課せられた、一時的な〈神去り〉は、本当に起こっているんだよ。
 
「何をやっているの、ギョーム。早くなさい」
「どうしたんだ、ギョーム。お前、自由すぎて使えないし、口は悪いし、態度はひどいし、たいていの相手を怒らせるという特技を持った男だが、神霊術は得意だろう。今日も時間は限られているんだから、すぐに術をかけてくれ」
「ロマン様は、わたしのことを、そんなふうに思っていたんですか。あんまりですよ。いや、しかし、今はそれどころじゃない。できないんです、ロマン様」
「できないとは、何のことだ。まさか、風の神霊術じゃないだろうな」
「そのまさかです。できません。できないんですよ。わたしの中から、神霊の印が消えてしまった……」
「馬鹿なことをいうな! お前、昨日も風の神霊術を使っていたじゃないか」
「でも、本当にできないんです。印がなければ、術の行使どころか、神霊に呼びかけることさえできないんですよ!」
「だから、印が消えるなんてこと、あるはずがないではないか。お前は、一体……」
「それって、〈神去かんさり〉だろう?」
「は? ミラン様、何を……」
「だから、〈神去り〉だって。ある日突然、自分の中から神霊にもらった印が消えて、神霊術を使えなくなるんだ。クローゼ子爵家の家臣なんだから、お前たちが〈神去り〉にあっても、不思議ではないだろう?」
 
 ミランっていう、フェルトさんの従兄弟らしい男の人は、そういってニンマリと笑ったんだ。それはそれは嬉しそうに。
 多分、美男子なんだろうなって思う顔には、灰色の文字で〈嗜虐しぎゃく〉って、でかでかと書かれていた。この言葉の意味は、わたしにもわかる。人を虐めて楽しむことだ。クローゼ子爵家って、本当にどうしようもないね……。
 
 それからも、クローゼ子爵家の一行は、使者Bを責めたりしていたけど、〈神去り〉になった以上、どうやっても神霊術は使えないからね。カリナさんの命令で、護衛の人が一人、〈風屋かぜや〉さんを探すために、通用門の中に戻っていったんだ。
 風屋さんっていうのは、大きな街の通用門のところでお店を出している、風の神霊術師のこと。風の神霊術を、それなりのレベルで使える人は、かなりめずらしいから、十分に商売になるみたいなんだ。
 
 風屋さんを待っている間、使者Bは、いろんな神霊術を試していた。火をおこしたり、土を耕したり、高く飛び上がったり、早く走ったり。使者Bって、やっぱりかなりの神霊術の使い手だったね。
 ひとつひとつ、神霊術が使えるたびに、使者Bは泣きそうな顔をした。ミランさんが、つまらなそうに唇をゆがめていたのは、きっと使者Bを虐められないからだろう。使者Aは、Bと一緒になって喜んでいたけど、Aだって〈一時停止〉にされている神霊術があるって、いつになったら気づくんだろうね。
 
 しばらくすると、護衛の人が戻ってきた。一緒に連れてきたのは、綺麗な白髪をひとつに結んだ、上品そうなおじいさんだった。おじいさんは、事前に依頼を聞かされていたみたいで、使者Bから小さな布包みを受け取ると、すぐに詠唱を始めたんだ。
 
「さあさあ、風の神霊様よ。今日も、わたしに力を貸してくだされ。立派な馬車とそこに乗る方々、騎乗した五人の方々と馬たちを、キュレルの街の通用門まで運んでくだされ。風のように早く、安全に。大きな術になりますからな。対価は美しいこの水晶と、わたしの魔力のある程度」
 
 おじいさんの詠唱が終わると同時に、手のひらくらいの水色の光球が現れて、水晶の周りをくるくる回り始めた。そして、水晶が消えたかと思うと、水色の光がぶわっと広がって、おじいさん以外の全員を包み込んだんだ。
 風の神霊術を使うときの、それは決まった手順だったんだけど、使者Bだけは、とっても悲しそうな顔をして、おじいさんを見ていたよ。
 
 おじいさんが合図をすると、クローゼ子爵家の一行は、そのままキュレルの街を目指して走り始めた。
 いよいよ〈乱倫〉のカリナさんと、〈嗜虐〉のミランさんの登場だ。どう考えても、ろくなことにならないだろうけど……。
 
     ◆
 
 風屋さんは、さすがに王都の門前にお店を出しているだけあって、とっても優秀だった。王都からキュレルの街の通用門まで、あっという間に到着しちゃったんだ。
 そこから速度を緩めて、通用門を通って、一行が目指しているのは、守備隊の本部だった。今日も、フェルトさんは出勤しているから、そこで面談を申し込むんだろう。
 
 カリナさんたちが、守備隊に来ることは、ヴェル様から総隊長さんに、もう連絡してもらっている。フェルトさんはもちろん、アリオンお兄ちゃんも総隊長さんも、そのつもりで待っているんだ。
 ちょうど、お店の仕込みが終わった頃だったから、お父さんとお母さんも、知らせを聞いて家に戻ってきた。応接間にみんなが集まって、スイシャク様は膝の上、アマツ様は肩の上っていう定位置で、カリナさんたちの到着を待つ。昨日の晩ご飯から、アマツ様が二回りくらい大きくなったままで、いっそう鮮やかな真紅に光り輝いていることは、わたしたちの誰も、あえて突っ込まなかったよ……。
 
 しばらくすると、クローゼ子爵家の馬車が、守備隊の本部に到着した。雀たちの視点を通しているからだと思うけど、お芝居を見にいったときみたいで、何となく興奮してきたよ。カリナさんとミランさんなんて、お芝居の悪役そのものじゃない?
 
 護衛役の人が一人、さっと馬を飛び降りて、素早く守備隊の建物の中に入っていった。ヴェル様によると、カリナさんたちの到着を知らせて、待たせないように準備させるための、〈先触さきぶれ〉なんだって。
 もう一人の護衛役は、馬車の中に声をかけて、ゆっくりと扉を開けた。一番先に出てきたのが中年の侍女で、次がミランさん。最後に、ミランさんが差し出した手を取って、カリナさんが馬車から降りてきたんだ。
 
 馬車に乗るときには、よく見えなかったんだけど、舞台女優みたいに降り立ったカリナさんは、すごく気合を入れて着飾っていた。つやつやした栗色の髪は、ゆるく結い上げて、宝石のいっぱいついた髪飾りが留められている。ほんの少し、額のあたりに前髪を垂らしているのは、綿密に計算した結果だと思う。
 カリナさんのお化粧は、クローゼ子爵家にいるときよりも薄めだった。目立つのはほんのり紅い唇くらいで、とっても清楚な薄化粧に見える。わたしは、少女とはいえ女の端くれだから、〈薄化粧に見えるように全力を挙げた、しっかりコッテリのお化粧〉だって、すぐにわかったけどね。
 着ているドレスは、深い緑色のシンプルな生地の上に、柔らかい黄色のチュールレースを重ねて、ふんわりと膨らませたもの。ほっそりとして背の高いカリナさんには、とてもよく似合っている。
 正直なところ、今の季節にぴったりな装いといい、派手になりすぎない程度の豪華さといい、真っ白な胸元の適度な露出といい、キュレルの街ではちょっと見ないくらい、綺麗な女の人だった。
 
 一方のミランさんは、ベージュのシャツとズボンの上に、焦茶色の貴族っぽい上着を着ていた。これだけだと地味に聞こえるんだけど、えりや袖にはレースがついてるし、ボタンは宝石っぽく煌めいているし、焦茶色の生地全体に光沢があるから、けっこう派手だった。
 ミランさんの髪は、濡れて光ったみたいな漆黒で、ゆるく波打って額にかかっている。男の人なのに、唇がつやつや光っているのは、何か油でも塗っているんだろうか。
 これは、あれだ。この間読んだ本に出てきた、〈色悪いろあく〉っていう感じだと思う。美男子で色気があって、女の人をもてあそぶ男の人。お母さんには、「そんな言葉を覚えるんじゃありません。困った子羊ちゃんね!」って怒られたけどね。
 
 カリナさんとミランさんは、使者AとBに先導されて、堂々と守備隊に入っていった。見るからに貴族っぽく着飾った二人は、ものすごく目立っていたけど、全然気にならないみたい。カリナさんなんて、すれ違った守備隊の隊員さんたちにまで、にっこりと微笑みかけてるよ。
 いきなり美人に微笑まれて、隊員さんたちが赤くなったりするたびに、カリナさんの額に〈乱倫〉の文字が浮かび上がって、表面に走った亀裂が深くなっていく。スイシャク様とアマツ様は、〈程なく変じるか〉〈十日は持つまいよ〉なんて、不気味なイメージを送ってくるし。本当に怖いよ、カリナさん……。
 
 カリナさんたちは、途中から案内に出てきた隊員さんに連れられて、応接室に入っていった。昨日、使者AとBが来たときに、総隊長さんの後ろにいた人だから、多分、王国騎士団の騎士さんだろう。
 カリナさんは、この騎士さんにも微笑んで、上目遣いに見つめていたけど、騎士さんは、まったく相手にしていなかったからね。
 応接室には、もう総隊長さんが待っていて、静かにカリナさんたちに頭を下げた。使者AとBのときに見せたみたいな、威圧感はまったくなくて、無表情っていってもいいくらい。わたしは空気の読める少女だから、いつも優しい総隊長さんが、本当に不機嫌になっているんだって、すぐにわかったよ。
 
 挨拶をして、向かい合って座ったところに、フェルトさんとアリオンお兄ちゃんが登場した。ここで、アリオンお兄ちゃんの胸ポケットの中の子雀へ、さっと視点が切り替わったから、本当の特等席になった。
 フェルトさんを目にしたカリナさんが、とろけそうに微笑んだのも、フェルトさんが見ていないところで、ニタァって唇を歪めたのも、ミランさんと目を見交わして、意味深にうなずき合ったのも、全部見えちゃってるよ。
 
 フェルトさんは、そんなカリナさんたちを、ほとんど無視したまま、総隊長さんに話しかけたんだ。
 
「申し訳ありません、総隊長。どうやら、またしても勤務中に、わたしの身内を名乗る方々が押しかけたようですね」
「まあ、そういうな、フェルト。昨日の客は名乗りもしなかったが、今日はクローゼ子爵家のご令嬢と、ご一門のご令息が、正式に訪問されたからな。わたしには場を取り仕切る責任があり、お前には話を聞く義務があるようだ」
「面倒なこと、この上ないですね、総隊長。わたしは勤務中なので、用件のみ手短にお願いします、お客様」
「これはまた、話に聞く以上に無礼な対応だな。わたしは、ミラン・セル・クローゼ。クローゼ子爵閣下の弟、ナリス・セル・クローゼの嫡男で、きみの従兄弟ということになる。理解できるかね?」
「ミランたら、失礼な物言いはおやめになって。わたくしは、カリナ・セル・クローゼですわ。クローゼ子爵の長女で、あなたの従兄弟になりますのよ、フェルト様。今後ともよろしくお願いいたしますね」
「わたしは、フェルト・ハルキス。母の婚外子で平民です。クローゼ子爵のご令嬢と、ご一門のご令息が、わざわざキュレルの街までお出でになったのは、何のご用でしょうか。端的にお願いします」
「だから、無礼だというのだ。いくら貴族の血を引いていても、平民育ちは始末に負えないな」
「失礼なことを言わないでちょうだい、ミラン。ごめんなさいね、フェルト様。ミランは、あなたとお目にかかれると思って、楽しみにしていたのよ。どうか、わたくしたちの話を聞いてくださらないかしら。できれば、人払いもお願いしたいの。とても込み入った話になるのですもの」
「わたしには、いかなる話もありませんので、端的に要件を伝えてください。それができないのなら、お引き取りを。まして、わたしにとっては父にも等しく、守備隊の指揮官でもある総隊長に聞かせられないような話なら、聞く必要はありません。お引き取りを」
 
 おお。さすがだね、フェルトさん。カリナさんほどの美人が、ずっと潤んだ上目遣いで見つめているのに、まったく反応してないよ。
 多分、ミランさんがわざと失礼なことをいって、カリナさんがなだめて、〈カリナさんって優しい人〉だと思わせようとしてたみたいなんだけど、完全に空振りしてる。アリアナお姉ちゃんっていう、本当に心の綺麗な美少女とお付き合いしているフェルトさんが、今さら〈乱倫〉の人に惑わされるはずがないからね。
 
 カリナさんとミランさんは、あまりにもフェルトさんが冷たいので、次の作戦に出るみたいだ。カリナさんってば、器用にも頬を赤らめて、こういったんだ。
 
「わかりましたわ、フェルト様。わたくしの口から申し上げるのははしたないことですし、できれば二人でお話したかったのですけれど、仕方がありません。今日、わたくしたちがまいりましたのは、わたくしとフェルト様の婚約の話をしたかったからですの」
 
 カリナさんは、そういって、恥ずかしそうにうつむいた。ミランさんは、〈やれやれ、女性からいわせちゃったよ。美女が恥じらってるんだから、お前が慰めろよ〉っていう感じの小芝居をしながら、フェルトさんの表情を伺った。
 アリオンお兄ちゃんの胸ポケットの子雀が、びくって身体を震わせて、わたしの視界まで震えちゃったのは、気のせいだと思いたい。アリオンお兄ちゃんから殺気が漏れ出したりなんて、絶対にしないはずだ。多分。
 
「婚約ですか? わたしと、あなたの?」
「そうですの。事情はご説明しますけれど、わたくしと婚約して、クローゼ子爵家に入っていただきたいのです。わたくしは一人娘ですので、わたくしの夫が、将来のクローゼ子爵になりますのよ」
「お断りします」
「は?」
「おい。間違えているぞ。即答するなら、お願いします、だろう?」
「お断りします。わたしは、すでに婚約していますし、クローゼ子爵家とは無関係です。興味もありません」
「正気か、おまえは。クローゼ子爵家の家督が、手に入るかもしれないんだぞ。しかも、カリナほどの美女との結婚で!」
「クローゼ子爵家には、一切の興味がありません。迷惑です。美女といっても、上辺だけでしょう。腐った性根が隠せていませんよ。わたしの大事な婚約者とは、比べ物にもなりませんね」
 
 興奮するそぶりもなく、フェルトさんが淡々といい切った瞬間、カリナさんの額の文字がばらばらにひび割れて、どろりと溶け出した。
 スイシャク様とアマツ様は、〈来たぞ、変化へんげだ〉って、強いイメージを送ってきたけど、いわれるまでもなく、わたしの目は釘づけだった。わたしが見たのは、世にもめずらしい、〈鬼成きなり〉の瞬間だったんだよ……。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!