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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 幕間書簡(2) ロベルト・ミーゼルとロッテ・ミーゼル

幕間書簡(2)

ロベルト・ミーゼルとロッテ・ミーゼル

〈キュレルの街の法理院分院で、専門官として勤務しているロベルトと、新妻であるロッテとの書簡〉

   ∞

愛するロッテへ

 今日は、久々に早く帰れることになったんだ。風の神霊術が使えると、こういうときに便利で良いな。愛する奥さんに知らせたいからって、仕事の最中に〈風屋かぜや〉まで走って、手紙を出してもらうわけにもいかないもんな。

 あと一時間もしたら、帰り支度じたくを始めて、定時になった瞬間に法理院を出るから、今晩は二人でゆっくり食事をしよう。もう用意してくれているんなら、おいしくいただくし、まだ準備を始めていなかったら、外に食べにいかないか?
 〈野ばら亭〉は、今からだと予約が取れないよね? 婚約時代に二人でよく行った、〈子猫のしっぽ亭〉はどうかな? ローストビーフが名物の、〈マーベラス・モーモー〉も良いかな? 愛する奥さんは、どこに行きたい?

     きみのロベルトより

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ロベルトへ

 正直に白状なさい。何をやったの?

 定時に帰ってきてくれるのはうれしいけど、ちょっとテンションがおかしいわよ、ロベルト。だいたい〈きみのロベルト〉なんて、一度だって手紙に書いてきたことがないじゃないの。絶対に何かあったんだって、妻の勘が告げているのよ!

 女? まさか、女? 真面目なあなたに限って、そんなことはないわよね?

     ロッテ

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ロッテへ

 違うから! 絶対に違うから! さっきの手紙、うちの母さんに送ってもらったんじゃないだろうね? ちゃんと事情を説明するので、落ち着いてください。冤罪、反対!

 実は、今日、めずらしい申請者が来たんだよ。愛する妻にでも、個人情報は漏らせないので、詳しいことは聞かないでほしいんだけど、彼の存在が、ぼくに妻への愛を語らせているんだ。

 その申請者は、若い男前で、誠実そうで、すごく感じが良かった。一緒に来ていたのは、すっごい美人のご婦人と、すっごい美少年だった。変な組み合わせだとは思ったけど、有名な法務事務所で申請書類を作ってくれていて、仕事は簡単に終わった。すべての申請者が、こうだったら、いつも定時に帰れるのにな。
 いや、そうじゃなくて、問題は申請書類の中身だった。その男前は、ある貴族令嬢の求婚を断っているらしく、勝手に籍を入れられたりしないように、事前手続きに来ていたんだ。これって、かなりめずらしいケースなんだよ。

 その貴族令嬢がどんな人か、われわれにはわからない。わかっているのは、これで強引に結婚させられることのなくなった男前が、すっごい美少年の手を握って、優しく微笑みかけたことだけだ。
 美少年は、薄っすらと頬を染めて、男前の手を握り返した。男前は、ますます優しい目になって、じっと美少年を見つめると、美少年も目を潤ませて……。とにかく、二人がそういう関係であることは、火を見るよりも明らかだった。

 ぼくは、必死に平静を装って、すっごい美人のご婦人の顔色をうかがった。ご婦人は、聖母のごとき慈愛の眼差しで、二人を見守っている。そして、ぼくは、ご婦人の微笑みを目にした瞬間、まさしく天啓てんけいを得たんだ。
 性別も年齢も生まれも事情も、愛の前には無価値である。愛は、愛こそは、すべての隔たりをも超えられる、と。

 愛するロッテ。だから、ぼくは、浮気なんてしていません。男前とすっごい美少年の〈愛の劇場〉を垣間かいま見て、新婚の奥さんが恋しくなっただけです。そろそろ定時の鐘が鳴るので、飛んで帰るよ!

     きみだけのロベルトより

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最愛のロベルトへ

 ごめんなさい、あなた。疑うような真似をしたこと、許してね。手紙を飛ばしてくださった、お義母さんの誤解も、ちゃんと解いておきますからね。

 夕食は、下ごしらえを始めたところだし、明日の分に回すので大丈夫よ。今夜は、二人で〈子猫のしっぽ亭〉に行きましょう。個人情報に触れない範囲内で、いろいろと教えてね。男前と美少年の禁断の愛とか、禁断の愛とか、禁断の愛とか!

     楽しみで仕方ない新妻のロッテ