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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-27

 初めての神霊庁訪問を終えた次の日、わたしたちは、王都を出発することになった。といっても、お父さんとお母さんの仕事は、まだ残っている。それも、王都に進出する〈野ばら亭〉の物件を決めるっていう、ものすごく重要な仕事なんだ。
 フェルトさんと総隊長さんは、マチアスさんのところへ行ってから、王国騎士団にご挨拶に行くそうで、今朝からは別行動になった。王国騎士団って聞いて、わたしが、ぐらぐらに動揺しちゃったのは、仕方のないところだろう。一応、こっ、恋する少女なのだ、わたしは。
 
 気持ちの良い秋の日差しの中、お父さんとお母さん、アリアナお姉ちゃん、ルクスさん、ルルナお姉さん、そしてわたしと三体の神霊さんは、揃って貸切馬車に乗り込んだ。アリアナお姉ちゃんは、すっかり元気になって、顔色も晴れやかで、うっかり直視すると目がくらみそうなくらい、強烈な美少女だった。
 せっかく、ご神きょうの力を借りて、悪縁をち切ったんだから、あんまり執着だの嫉妬だのっていう感情を、引き寄せないようにしてほしいんだけど、これも仕方のないところだろう。何ていったって、アリアナお姉ちゃんなんだから。
 スイシャク様とアマツ様によると、〈紫光〉の使い手に選ばれたアリアナお姉ちゃんには、ご神鋏の加護が与えられていて、少しくらいの悪縁だったら、ご神鋏を使う前に加護の力で自動的に切ってしまえるらしいから、大丈夫……だといいな。
 
 ぱかぱか、ぱかぱか。可愛らしい貸切馬車は、今日も軽やかに馬車道を進んでいく。迎えに来てくれた御者さんが、神霊庁まで乗せてくれたのと同じ人で、何だか顔が青くて、〈おはようごじゃいまゅ〉なんて、噛んじゃうくらい緊張しているのは、きっと気のせいに違いない。違いないったら、違いない。
 ぱかぱかぱかぱか、ぱかぱかぱかぱか。わたしたちを乗せた馬車が向かっているのは、王都の表通りで、たくさんのお店がのきを並べている大通りらしい。例の〈白夜びゃくや〉が隠れ蓑にしていた、葉巻のお店のあるあたり。嫌といえば嫌だけど、そこが王都の中心部だし、街並み自体は素敵だったから、こだわるのはやめようって、みんなで話し合ったんだ。
 
 スイシャク様とアマツ様は、今朝も上機嫌で、まん丸で可愛いお尻と、すらっとした可愛いお尻を振りながら、窓に張り付いて外の景色を眺めている。編みぐるみのムスヒ様も、同じように窓から外を眺めているんだけど、白黒の可愛い羊の編みぐるみが、空中をすいすい泳いでいくのは、やっぱり不思議な光景だった。
 スイシャク様とアマツ様は、お店の候補になっている物件を一緒に見にいって、〈吉凶を占わん〉って、張り切ってくれている。ムスヒ様まで、神世かみのよに帰ろうとせず、わたしたちと一緒に馬車に乗っているのは、〈雛らと店との縁をつながんが為〉なんだって。神霊さんのご分体が三体も顕現して、店舗見学に付き合ってくれるなんて、不動産屋さんが聞いたら感涙ものだよね。
 
 しばらく馬車に揺られて、最初に到着したのは、王都に来たときに行った海老と蟹の料理店、その名も〈エビール・カニーナ〉に近い場所だった。お店の前には、年配の男の人と若い男の人が待っていて、お父さんやお母さんと親しげに挨拶を交わしている。王都でも信用のある不動産屋さんだそうで、今日の物件見学には、三件ともこの二人が同行してくれるんだって。
 若い方の男の人が、アリアナお姉ちゃんを見た瞬間、茹でたタコみたいに赤くなっちゃったのは、見なかったことにしてあげよう。
 
 肝心のお店は、とっても広かった。大きな表通りに面した門をくぐり、白い石を敷いた小道を歩いてから、堂々としたポーチに到着する。このお店って、かなりの高級店だったのかな? 玄関の扉ひとつをとっても、すごく重厚で豪華な感じがするんだよ。
 にこにこ顔の不動産屋さんに連れられて、中に入ってみると、やっぱりすごかった。ものすごく広いホールがあって、使われていないテーブルと椅子が並べてあって……軽く五十人くらいは座れると思う。〈野ばら亭〉の大食堂と、ほとんど同じくらいの広さなんだけど、このお店の方がずっと高級そう。大食堂というよりは、高級宿の〈野ばら亭〉の方にある、宿泊客用の食堂みたいな感じだった。
 
 お父さんとルクスさんが、真剣に厨房を見ていたり、お母さんが不動産屋さんと話していたりする間に、わたしは、姿と気配を消して両肩に乗っている、スイシャク様とアマツ様に、こっそりと聞いてみた。〈このお店はいかがですか?〉って。編みぐるみのムスヒ様だけは、神霊さんの尊い気配だけ消してもらって、わたしが左脇に抱えている。何しろ見た目が編みぐるみだから、別に良いよね、多分。
 三体の神霊さんは、すぐに返事を返してくれた。〈可もなく不可も無し〉〈多少のけがれは有りたるも、我らがひと吹きにてはらい清めん〉〈王都と呼ばれし場所に、清らかなる土地の少なければ〉って。ここが〈野ばら亭〉の支店になっても、別に悪くはないみたいだよ、お父さん、お母さん。
 
 それなりの時間をかけて、じっくりと見学してから、わたしたちは、次の物件に移動した。馬車に乗ってすぐ、歩いて行くのも苦にならないくらい近くにあったのは、一件目と同じくらい大きな建物で、同じくらい豪華だった。
 どこかの国の宮殿ですかっていう感じで、玄関にはどどんと大きな像が置かれている。右側の像が獅子で、左側が象っていう動物だろう。ルーラ王国には象はいないから、動物図鑑で見ただけだけど。
 
 スイシャク様とアマツ様は、なぜか巨大な像に大喜びしていた。〈面白き〉〈しかれども動かず〉〈何故なにゆえに壁に在らざる〉〈壁にて動く《エビール・カニーナ》の優れたる〉って、残念そうにもしていたけど。うちの神霊さんたちは、どうやら〈エビール・カニーナ〉の人形が、大のお気に入りみたいなんだ。
 二件目のお店の中は、やたらときらめいていて、いかにも高級店っていう感じだった。見せてもらったお手洗いなんて、壁が金箔きんぱくだったから。面白いのは面白いけど、あんまり上品とはいえないし、一件目よりは食堂も狭い。多分、二十人は座れないんじゃないかな?
 王都に進出しても、〈野ばら亭〉が大人気になるのは間違いないから、きっとすぐに手狭になるだろう。お父さんたちも、わりと早めに見学を切り上げていたから、そう判断したんだと思う。大食堂の方の〈野ばら亭〉は、たくさんの人にお腹いっぱい食べてもらう、薄利多売が流儀なんだ。
 
 三件目のお店も、歩いて行ける距離だったけど、表通りからは何本か道を入ったところに建っていた。その分だけ、敷地そのものが広くって、よく王都にこれだけの土地があったなって、感心するくらいだった。
 煉瓦れんが造りの外べいに囲まれた門をくぐると、ちょっとだけ荒れた感じの庭があって、その奥に二階建ての邸宅が建っていた。そう、店舗っていうよりは、邸宅っていう方がしっくりくる感じの、控えめで落ち着いた建物だったんだ。
 ぎぎぎって、重い音を立てながら扉を開けてもらうと、広い玄関ホールと、すごく広い厨房と、ものすごく広い食堂があった。この食堂って、八十人くらい座れる気がする。二階には、大小の個室がいくつもあるらしいから、全部で百人以上はご飯を食べられるんじゃないかな? 大きさといい、上等なのに素朴な造りといい、とっても良い感じだよね。
 
「素敵ね。とっても良いわ。今のままでも十分だけど、少し手を入れたら、見違えるほど素敵になるわ。ねえ、ダーリン。そう思わない?」
「ああ、いいな。気に入った。店も良いし、厨房も十分な広さがある。理想以上の物件だな。おまえはどうだ、ルクス?」
「素晴らしいですよ、親父さん。王都のど真ん中に、これだけの店が残っているなんて、奇跡的ですよ。逆に、いろいろと心配になるくらいです。もちろん、ケチをつけるつもりじゃないんですよ?」
「わかってるさ。おれも、同じ気持ちだからな。この店は、買い取りだったな。買い手がつくには高すぎるのか、ローズ?」
「いいえ。むしろ格安なくらいよ。ねえ、何か条件のようなものがあるのなら、教えてくださるかしら、ご主人?」
 
 そういって、お母さんは、不動産屋さんのご主人に話しかけた。ご主人は、重々しくうなずいてから、お母さんにいった。
 
「実は、一つだけ、面倒な条件が付いているんです。この店は、ある大商会の持ち物なのですが、そこの会頭が、とにかく味にうるさい方なんです。自分が毎日でも食べに行きたいと思える店になるなら、いつでも譲る。資金的に厳しいなら、格安で賃貸にしても良いとおっしゃるんですよ。逆に、味に納得できなかったら、いくら高値を出されても売らないって、譲ってくれません。これだけの物件ですから、王都の名のあるレストランが、いくつも手をあげたんですが、まったくだめでした。正直なところ、すっかり不動産屋泣かせの物件になっているんです」
 
 困った顔で頭をかいたご主人に、わたしの大好きなお母さんは、にんまりと微笑んだ。もう、満面の笑みっていう感じ。そして、お母さんは、わたしに目くばせして、尋ねたんだ。〈どう思う、子猫ちゃん?〉って。
 これは、あれだ。神霊さんたちにお伺いを立てろっていうことだよね、お母さん? わたしが、お母さんの意図を察知して質問しようとしたら、先に喜びのメッセージが送られてきた。〈この場にで営むが良し。大いに吉也〉〈清々しき気配也〉〈この屋敷をば、我らのやしろの一つとせん〉〈人の子が好みたる《個室》とぞいう場所で、我らも食さんとてす也〉って。
 
 わたしの両肩に乗ったスイシャク様とアマツ様、右脇に抱えているムスヒ様は、どうやらこの店を〈野ばら亭〉の支店に決めたみたいだよ、お母さん……。
 
     ◆
 
 わたしは、不動産屋さんのご主人の真似をして、重々しくうなずいてから、小さな声でお母さんに答えた。
 
「とっても良いと思うよ、お母さん。ここにしよう。大吉だよ」
「あらあら。そういうことね、子猫ちゃん?」
「うん。新しい〈社〉に決めちゃったみたい」
「わかったわ。お母さんに任せて」
 
 満足げに微笑んだお母さんは、お父さんがうなずくのを確認してから、不動産屋さんに顔を向けた。エメラルドみたいに澄んだ瞳をきらきらさせた、お母さんの微笑みに、今度は不動産屋さんのご主人が茹でた海老みたいになったのは、無理のないところだろう。
 
「決まりですわ。この物件の購入を希望します。お値段の方は、公示されている価格で結構です。この先、どうさせていただけばよろしいかしら?」
「おお! 即断即決ですね。さすが、カペラ様。誠にありがとうございます。すぐに、売り主様にお話したうえで、改めてご連絡申し上げます。ご商談がうまくいけば、わたくしどももありがたいのですが」
「大丈夫ですわよ、ご主人。うちのダーリンのお料理が気に入らない人なんて、いるはずがありませんもの。この物件は、きっと、わたしたちを待っていてくれたのですわ。さくさく進めてくださいな」
「ええ、ええ。〈野ばら亭〉様のことは、王都でも密かな噂になっておりますからね。本日、早速、売り主様のところに行って参ります」
「それから、一件目も仮押さえしてくださいます? 万が一、売り手の方が味音痴だった場合は、一件目にしますわ。こちらが決まっても、追加でお願いするかもしれませんし」
「ますます、ありがとうございます。良いお取り引きになりますよう、わたくしどもも願っております。いやあ、素晴らしい」
 
 お母さんと不動産屋さんのご主人は、がっちりと握手をし、にこにこと微笑み合った。キュレルの街で〈豪腕〉の経営者として有名なお母さんは、何事においても判断が早いんだ。まあ、今回は、神霊さんたちが意見を聞かせてくれるので、迷うところもないんだけどね。後は、売り主さんっていう人が、味音痴じゃないことを祈るだけだろう。
 
 お店の玄関を出て、何気なく目をやると、きらきら輝く金色の糸が、建物の周りをくるくるっと囲んでいるのが見えた。わたしにしか見えないらしい金の糸は、すいっと伸びてきて、くるくるくるっとお父さんの右手とからまったんだ。
 これって、ムスヒ様が縁をつないでくれたんだよね? 売り主さんが、お父さんの料理を気に入ってくれるかどうかなんて、全然、まったく心配していなかったけど、もう決まりなのかな? わたしが、うれしい気持ちで見直すと、お店とお父さんの間の糸は、ちかちかって、ひときわ強い輝きを放ってから、秋の日差しに溶けていった。
 
 上機嫌の不動産屋さんに別れを告げて、わたしたちは、貸切馬車に乗り込んだ。これで、王都での用事は終わったから、後はお土産を買って帰るだけ。おいしいお昼ご飯を食べて、お父さんとルクスさんが、あらかじめ目をつけていたお菓子屋さんに寄って、皆んなに大量のお菓子を買って……。これで準備は万全なんだ。
 わたしたちの乗った貸切馬車は、〈野ばら亭〉まで送ってくれることになっている。わたしは、すっかりくつろいで、ルルナお姉さんに話しかけた。
 
「ねえ、ルルナお姉さん」
「何ですか、チェルニちゃん?」
「昨日、わたしたちが出かけている間、ルルナお姉さんはどうしてたの? ルクスさんは、王都の下調べと買い出しでしょう? ルルナお姉さんも一緒だったの?」
「ど、どうして、そっ、そんなことを聞くんですか? わたしは、その、女将さんのお遣いで、出かけていたんですよ」
「どこへ?」
「子猫ちゃんたら、予想しているくせに、からかっちゃだめよ? ルルナちゃんが、食べ頃の白桃みたいに赤くなってるじゃないの。可愛いわ」
「へへへ。ルルナお姉さんは、マチアス様のところまで、お遣いだったんでしょう? お父さんとお母さんが、お礼のお菓子とお手紙を用意していたから、そうかなって思ったんだ。ねえねえ、ルルナお姉さん。使者B……じゃなくて、ギョーム様とは会ったの? こういうのって、聞かない方が良い? だったら、黙ってるよ、わたし」
「……チェルニちゃんだったら、聞いてくれても良いですよ。あのね、オディール様のご配慮で、貸切馬車を先に帰して、ギョーム様に王都のお家まで送ってもらったんです。大公家の馬車なんて、ものすごく緊張したんですけど、楽しかったですねぇ」
「わぁ、さすが、ディー様! 気が利くね。良かったね、ルルナお姉さん。それで、どんな話をしたの?」
「チェルニったら、あんまり立ち入ったことを聞いたりしたら、だめでしょう? ルルナお姉さんが困ってしまうわよ?」
「違うよ、お姉ちゃん。うまくいってるときは、聞いても良いんだよ。黙ってるのは、だめそうなときと、先がわからないときなんだよ」
「まあ、わたしの可愛い小鳥ちゃんは、いつの間にそんな機微きびがわかるようになったのかしら?」
「あのね、おじいちゃんの校長先生がいってたの。校長先生は、受験の合否とかの話のつもりだったんだけど、恋愛も同じじゃない?」
 
 わたしたちは、そんな話をしながら、王都を後にした。王都の通用門を出るときには、風の神霊術を使う〈風屋さん〉を頼んだから、晩ご飯の前には、キュレルの街に着くだろう。スイシャク様やアマツ様と一緒になって、馬車の窓から外を眺めているムスヒ様は、うちの家で晩ご飯を食べたら、いったん神世かみのよに帰るらしい。
 スイシャク様とアマツ様は、ずっといてくれる神霊さんで、ムスヒ様やクニツ様は、通いの神霊さん……って、言葉の響きがおかしいよね、やっぱり。
 
 それにしても、たった二泊三日の王都だったのに、本当に目まぐるしいくらい、いろいろな出来事が起こったと思う。〈野ばら亭〉が王都に支店を出すことになって、わたしたちの住む家が用意されていて、フェルトさんが大公家を継ぐみたいで、わたしが〈神託しんたく〉だって宣旨せんじを受けて、神器の鋏が〈神成かんなり〉して、アリアナお姉ちゃんがご神鋏の使い手に選ばれて、そのご神鋏で悪縁を截ち切って……。
 うん。簡単に振り返るだけでも、頭がぐるぐるしてくるくらい。十四歳の少女には、濃密すぎる経験だったんじゃないかな? クローゼ子爵家の事件の頃から考えると、わたし、チェルニ・カペラの人生は、わりと波瀾万丈だよね?
 
 風の神霊さんの光球に包まれて、すごい速度で駆け抜ける馬車から、わたしは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。キュレルの街に帰ったら、一度は町立学校に行って、おじいちゃんの校長先生に会って、それから十日もしないうちに、いよいよ王立学院の入試の日がやってくる。
 ネッ、ネイラ様に推薦してもらって、特待生として入学することは決まっているけど、力試しとして入試を受ける以上は、それなりの結果を残したい。ネッ、ネイラ様に恥をかかせるのは嫌だし、わたしのために王立学院の先生とけんかをしちゃった、おじいちゃんの校長先生にも、喜んでもらいたい。そして何より、わたし自身が、意欲に燃えているからね。勉強には、自信のある少女なのだ、わたしは。
 
「ねえ、お父さん、お母さん」
「何だ、チェルニ?」
「わたしが、王立学院を受験するときって、誰か一緒に王都に来てくれるのかな? 一人でも、大丈夫といえば大丈夫なんだけど」
「もちろん、皆んなで行くわよ、子羊ちゃん。わたしとダーリンは、王都に支店を出す準備があるし、わたしの可愛い白薔薇ちゃんは、神霊庁での聞き取りがあるんでしょう?」
「ええ、お母さん。好きなときに来てくださいって、コンラッド猊下げいかおおせになられたので、わたしも一緒に行くわ。陰ながら、チェルニを応援したいもの。うるさく話しかけたりしないから、同行させてね、チェルニ?」
「ありがとう、お姉ちゃん。うれしいよ。お父さんとお母さんも来てくれるんなら、百人力だよ。頑張るからね、わたし!」
「ふふ。わたしの子猫ちゃんの実力を疑っているらしい、王立学院の先生たちに、現実っていうものを見せてやってね」
「いや、ほどほどで良いんだぞ、チェルニ。周りの期待なんて気にするなよ?」
「ダーリンったら。わたしの子虎ちゃんは、期待に押しつぶされたりしないわよ。本番に強い子だもの。大丈夫よ」
「そうはいうが、チェルニはまだ小さいんだから……」
「受験生は、だいたいが同い年よ、ダーリン」
 
 お父さんとお母さんが、仲良く話し合っている合間に、スイシャク様とアマツ様が、わたしにメッセージを送ってくれた。〈案ずるに及ばず〉〈我らも同行致すゆえ、安んじて挑むべし〉〈人の子のすなる《入試》とは、いとも面白き仕組み也〉〈王立学院とは、如何なる場所なるか〉〈我は《神威しんいげき》の供をして、学院へも通いたりける〉って。
 そうじゃないかっていう気はしていたんだけど、スイシャク様とアマツ様は、わたしと一緒に王立学院に行くつもりらしい。神霊さんのご分体を二柱ふたはしらもお連れして、入試を受ける少女。その突飛とっぴさを思えば、今さら受験で緊張することもないような気がするよ……。
 

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