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フェオファーン聖譚曲op.Ⅰ 3-7

03 リトゥス 儀式は止められず|7 父と子

 アイラトの来訪を許したエリク王は、引見に用いる執務室ではなく、滅多めったに人を立ち入らせることのない居間へと、己が王子を招き入れた。巧みに気配を消した二人の護衛騎士とタラス、アイラトの供をしたゼーニャが居るだけの密室である。スニェークと名付けた純白の子猫を膝に乗せ、エリク王は寛いだ様子でアイラトに声を掛けた。

く来たね、トーチカ。ここへ来て御座り」

 しかし、アイラトは父王ちちおうの前まで進み出ると、無言のまま両膝を床に突き、自らの首筋を差し出した。この場で斬首されても構わない覚悟を示す、最も重い謝罪の形である。物に動じないはずのタラスがわずかに目を見張り、護衛騎士達も思わず身体を強張こわばらせた。ただ、エリク王と子猫だけは、少しも動揺する素振そぶりを見せず、静かな眼差まなざしでアイラトを見詰めた。

「これはまた、唐突に何の真似をしているのだね、トーチカ。余には、愛する息子の首を落としたがるような、物騒な趣味はないよ」

 敢えて揶揄からかいを含ませたエリク王の言葉を聞いても、アイラトは顔を上げなかった。父王の眼差しを受け止めようとせず、身動きの一つもしようとせず、謝罪の姿勢を貫いたまま、アイラトは硬い声で言った。

わたくしには、陛下に懺悔させて頂かなくてはならない罪がございます。私くしの話を御聞き頂ければ僥倖ぎょうこうでございますけれど、それすら叶わず、今この場で死をたまわりましても当然だと思われる程に、重く許されぬ罪でございます」
「そなたの言う罪が何であるかはさて置き、ずは御座り。そうして跪かれたままでは、話を聞くことも出来ぬ。タラス」

 エリク王がタラスの名を呼ぶと、忠実なる家令かれいは、素早くアイラトの傍らに寄って跪き、丁寧な物腰で促した。

「アイラト王子殿下。陛下の御言葉でございます。どうか御立ちになられまして、陛下の横へ御掛け下さいませ。仮に、貴方様に罪が有ったと致しましても、いまだ何も決まってはおりません。陛下の御下知げちは絶対でございます」

 タラスに諭されたアイラトは、もう一度深々と頭を下げてから、静かに身を起こした。そのおもては固く強張こわばり、エリク王の視線を避けて目を伏せていたが、アイラトをく知る者が見れば、奇妙な感慨に打たれただろう。洗練の極地とも言える王城の中に在ってさえ、息を飲む程に典雅であり、どこか謎めいて掴み所のなかったアイラトが、何故か青年らしい純粋さをたたえ、無骨にすら見える表情を覗かせていたのである。

 アイラトの変化を見極めようとでもしているのか、微かに目を細めたエリク王が、無言のままの王子に言った。

「さて、余の大切なトーチカは、一体どうしたというのだろう。そなたが正式な先触さきぶれを立てて謁見えっけんを求め、人払いまで頼んでくるなど、余の記憶にはなかった仕儀である故、案じていたのだ。はっきりと分かるように説明してくれるが良い」

 アイラトは、ここでようやく顔を上げた。苦渋と覚悟に満ちた眼差まなざしで父王ちちおうを見詰めながらも、答える口調にはわずかの迷いもなかった。

わたくしは、陛下に軽蔑され見放されるのが、何よりも辛うございます。物心の付いた頃から、陛下の御目に留まることだけが、私くしの生きる意味でございました。けれども、陛下の息子と呼ばれる身として、沈黙しているわけには参りません。陛下、元第四側妃であった女の不貞ふていは、自然に起こった罪ではございませんでした。我が妃たるマリベルが行った、愚劣な誘導の結果だったそうでございます。マリベルの息の掛かった女官を、事前にローザ宮に入り込ませ、不貞をそそのかしておりました」
「成る程。そなたは、いつ気付いたのだ、トーチカ」
「元々疑ってはいたのです。本人の資質がどうであれ、常に人目の有る王城で、陛下の側妃ともあろう者の不貞など、容易には行えるものではございません。ローザ宮の王子達の失脚を狙って、誰かが餌を撒いたのではないか、と。昨日、マリベルが得意気にほのめかしましたので、正面から確かめました所、呆気あっけなく認めました」

 エリク王は、特に表情を変えず、微かに肩の力だけを抜いた。己の膝で丸くなったままの子猫を抱き上げると、傍で手を差し出したタラスに預け、気怠気に頬杖を突く。一国の王にしては砕けた姿は、同時に退廃的な艶に満ちていた。

「余は面倒故に好まぬだけで、陰謀は王城の華でもあろう。策士を気取るマリベルよりも、聡明にして複雑な思考を有するそなたの方が、遥かに謀略には長けているであろうに、何故それ程に苦し気な目をしているのだね、トーチカ」
「陛下のおおせの通り、私くしはアリスタリス殿下とは違い、清らかな心根の王子ではございません。マリベルがローザ宮の者達に毒を盛ったり、何か他の醜聞を広げたりしたというのであれば、私くしはきっとそれを黙認していたことでしょう。しかし、あの女は事もあろうに、陛下の側妃に不貞を働かせ、結果として陛下の尊き御名を穢しました。それだけは、何としても許すわけにはいかないのです」

 そう口にする間にも、アイラトの瞳は激しい怒りに燃え上がった。自分でも言うように、優れた謀略家の素質を持つアイラトであっても、ロジオン王家の一員として、またエリク王の王子として、崇拝すうはいする父王ちちおうを貶めるような真似だけは、何があっても許容しない。ひっそりとアイラトの背後に立って見守っているゼーニャ以外、誰にとっても意外なことに、それこそがアイラトの真実だったのである。

 一切表情には出さないまま、王家の夜の統率者に相応ふさわしい鋭さで、じっとアイラトの様子を注視していたタラスは、エリク王にそっと目配せした。エリク王は鷹揚おうように頷いてから、アイラトの告白とは全く関係のない質問をした。

「そなたは、何故余のことを陛下と呼ぶのだ、トーチカ」

 唐突な質問に、アイラトは思わず目を瞬いた。合理主義者であるエリク王は、めったに話の論旨を違えない。父王の意図が分からず、アイラトは戸惑った。

「何故と申されましても、陛下はロジオン王国の至高の君、唯一無二の国王陛下で在らせられます故、陛下と御呼びする以外に術がございません」
「公の場であればそうであろう。しかし、ここは余の私室であり、周りにはタラスとそなたの家令かれい、そしてわずかな護衛騎士しかおらぬ。余はそなたを愛称で呼んでいるのだから、父と呼べば良かろうに、そなたは頑なに陛下と呼ぶ。何故なのだ」

 この緊迫した場で父が呼称などにこだわる理由が、やはりアイラトには理解出来なかった。しかし、全てを告白すると決めていたアイラトは、俯向いてエリク王の視線を避けると、これまで一度として口にしなかった本心を告げた。

わたくしはここで罰せられ、二度と陛下に御目に掛かれないかも知れないのですから、御下問に御答え申し上げます。私くしが十歳のとき、王妃陛下がアリスタリス殿下を御出産になられました。当然、正嫡せいちゃくたるアリスタリス殿下が、王太子として冊立される日が来るのだと思ったら、私くしは悔しくてたまらなかったのです。陛下の跡を継ぎ、誰よりも陛下に必要とされるのは、あの愛らしい王子殿下になったのだ、と。私くしにとっては、陛下から御関心を向けて頂くことこそが、己の存在意義でございましたのに」

 己の物言いの余りの幼稚さに、アイラトは居た堪れない程の羞恥を感じながらも、話を止めようとはしなかった。最後になるかもしれない機会に、アイラトは敬愛する父へ、素直な思いを告げておきたくなったのである。

「陛下もきっと、アリスタリス殿下の御成長を待っておられる。であるならば、私くしは異母兄として、アリスタリス殿下を支える道を模索するべきでしたのに、どうしても出来なかったのです。父の最愛の座を奪われたのなら、せめて玉座くらい自分が手にしてやろう、王太子であるならば、陛下に認めて頂けるのではないかと、私くしは考えました。そのような愚か者に、陛下を父と呼ぶ資格など有ろうはずがございません」

 十歳の少年が囚われた幼い嫉妬は、二十八歳になっても己を縛っているのだと、そこまで一気に言い切ってから、アイラトはおもむろに口をつぐんだ。王子の率直過ぎる告白に、エリク王は一つ溜息を吐き、物憂気に言った。

「何とまあ、驚いたことだな。聡明さで音に聞こえた王子が、そのように幼い意地を張っていたとは。流石に余にも分からなかったよ、トーチカ。何と愚かな」

 遂に父王ちちおうに軽蔑されたのかと、アイラトは悲し気に顔を歪め、益々深く俯いた。エリク王は、構わずに続けた。

「十八年だ、トーチカ。十八年もの長き間、そなたの心など知りもせず、息子に距離を置かれたと悩んでいたとは、余は自分の愚かさに呆れるしかないな」

 想像だにしていなかったエリク王の言葉に、アイラトは驚いて顔を上げた。アイラトの目に映ったエリク王は、めずらしくも眉をひそめ、微かに唇をとがらせている。大ロジオンの国主がするとも思えず、常に感情の読み取れないエリク王にも不似合いな表情に、アイラトは思わず言った。

「陛下、何を仰るのです」
「いつでも余の側に居たがったそなたが、小さな可愛い余のトーチカが、急に他人行儀な距離を置いて、頑なに余を陛下としか呼ばなくなったのだ。父として悩んだとて、何も不思議ではないであろう。其々の母に溺愛できあいされ、王太子に仕立て上げる為に養育された王子達と違って、可愛いトーチカは、余が育てたも同然であったのに。第四側妃の不貞ふていなどよりも、余にはトーチカの態度の方が、余程心痛だったのだよ」

 幼い頃から一心に慕い、誰よりも偉大な存在として憧れ続けた父の、信じられない恨み言に、アイラトは震える程の喜びを感じた。複雑にして深淵しんえんなる精神を持つ父王が、言葉で言う程単純な思考をしていないことは、エリク王と似通った精神性を有するアイラトには、く分かっていた。しかし、同時に、エリク王は嘘を吐かない。絶対的な王者たるエリク王には、嘘を吐く必要がないからである。
 陛下という呼び方にこだわったように、エリク王がアイラトとの距離感に悩んでいたというのは、一つの真実なのだろう。エリク王の真実がそれ一つではなかったとしても、アイラトには十分だった。内側から光を灯したかのごとき微笑みを浮かべ、アイラトは言った。

「有難うございます。嬉しゅうございます。その御言葉を頂けただけで、懺悔に参った甲斐がございました。陛下、いえ、父上。私くしには、もう何一つ心残りはこざいません。どうか我が罪を御裁き下さいませ」
「そなたを罰する理由など有りはしないよ、トーチカ。詰まらぬ女を正妃としたのは、ただの政略に過ぎぬ。クレメンテ公爵家の後ろ盾を得る為に、余と宰相が定めただけの縁であろうに。そなたはこうして余の元に参ったのだから、それで良い」

 豪奢ごうしゃな椅子から身を起こし、不意に手を伸ばしたエリク王は、自分と同じ色をしたアイラトの艶やかな黒髪を撫でた。驚きに目を見開いたアイラトに、緩りと微笑み掛けてから、エリク王は神妙に子猫を抱いたままのタラスに目を向けた。

「タラスよ、そなたに抜かりはあるまい。ローザ宮の不義を後押しした者がいたと、王家の夜でも掴んでおるのであろう」
「御意にございます、陛下。元第四側妃の愛人だった男は、見目が良く女にだらしがないと、近衛このえ騎士の中でも有名でございました。そうした男を態々わざわざ選んで側妃の護衛騎士に就け、教育の行き届かぬ女官を先導して、不貞ふていを行い易い状況に誘導した者がいるのだと、早くから承知しておりました。只、疑うに足る者が何名かおりましたので、我らが候補を絞り切るまでには、もう数日は必要でございました」
「マリベルとエリザベタ、どちらも動機と手段を持っている。第三側妃は世捨人に等しく思われているが、絶対にないとは言い切れない。特に、あの王妃が計画したとなれば、敢えてアリスタリスの立場を貶めてでも第四側妃に謀略を仕掛け、トーチカに疑いの目を向けさせるくらいは、平気で考えるであろうしな」

 タラスは無言のまま一揖いちゆうし、エリク王に賛同と称賛の意を示した。最も身近な女達が相手であっても、容易に感情に流されないエリク王の客観性に対して、タラスは常に尊敬と忠誠を捧げているのである。

「トーチカの告白の御陰で、火元はマリベルと定まった。当然、正妃にもそれは分かっている。ならば、アリスタリスの立場を回復させる為に、これから王妃が動くであろう。そなたはどう考える、トーチカ」

 質問を投げ掛けられたアイラトが考え込んでいたのは、わずかな時間だった。正妃マリベルの罪を告発し、いまだ何の沙汰も受けていないアイラトではあったが、エリク王から思いもよらない形で受け入れられたことによって、生来の聡明さを取り戻していたのである。アイラトは、確定した未来を読み取る確かさで言った。

わたくしの知る王妃陛下であれば、ぐにでもタラス伯を呼び出しましょう。ドロフェイ宮が陰謀の元であるから、陛下の御名を穢した責を問うべきであると、王妃の権限で命じられるのではないでしょうか。我が国の王権を手にしておられるのは、国王陛下のみではございますが、王妃の名の下に命じられてしまえば、タラス伯も無視は出来ないでしょう」

 アイラトの回答は、エリク王の見立てとも一致していたのだろう。それを聞いたエリク王は、頷きながら婉然えんぜんと微笑んだ。

「そなたは、く王妃を理解している。そうではないか、タラスよ」
 タラスもまた、アイラトに微笑みを浮かべて首肯した。穏やかに装われた表情の下で、エリク王以外の者には常に冷徹な目を向けているタラスが見せた、めずらしくも温か味を感じさせる微笑みだった。

「御意にございます。アイラト殿下は、流石に御目が確かで在らせられます。恐らく数日の内には、王妃陛下から私くしへ、内々に御呼出しがございましょう。アイラト殿下のおおせの通り、王妃陛下としての権限で御命じになられましたら、何らかの御応えをせぬわけには参りません。如何いかが致しますか、陛下」
「此度は、王妃の思惑通りに動いてやれば良かろう。元第四側妃の不貞ふていはかりごとの影があると、地位有る者に指摘されてしまえば、王家の夜も動かざる得まい。マリベルが仕掛けた謀が公になれば、アリスタリスの立場は一気に回復し、トーチカは小さくはない失点を被る。それでも良いのだな、トーチカ」
勿論もちろんでございます、父上。どうか私くしに罰を御与え下さい」

 エリク王の問い掛けに、アイラトは一瞬の迷いもなく答えた。大逆罪による死さえ覚悟していたアイラトは、マリベルの策謀が公になり、自らの汚点になる未来に、何の異論も持ってはいなかったのである。エリク王は重ねてたずねた。

「王太子位争いから一歩後退しても、構わぬというのだな、トーチカ」
「構いません。元々玉座を望んだのは、幼稚な嫉妬の故でございます。私くしの生きる縁であられる父上が、今も私くしを御心に掛けて下さっていると分かりましたからには、今この場で、アリスタリス殿下の臣下に下れと御下命がございましても、否やはございません」
「それは詰まらぬ。余が未だに王太子を決めぬのは、それなりの存念があるからなのだよ、トーチカ。訳はやがて明らかになるであろうから、それまではもっと闘ってみるが良い。その結果がどうであれ、そなたが余の大切な息子である事実は変わらぬ。仮にアリスタリスが王太子と決まったら、トーチカは余と共にあれば良いのだ」

 エリク王の言葉に、アイラトは花が咲いたように笑った。ボーフ宮を訪れたときにまとっていた暗さを払拭した、何処どこまでも明るい笑顔だった。そっとアイラトの背後に控えていたゼーニャも、思わず嬉し気な笑みをこぼした。

「召喚魔術とやらが終わったら、少しドロフェイ宮の掃除をするとしよう。マリベルはしば幽閉ゆうへいして存分に詮議し、王籍を剥奪はくだつした上でクレメンテ公爵家に差し戻す。娘のはかりごとを黙認したと思しきクレメンテ公爵にも、それなりの責は及ぶであろう。トーチカ、そなたは謹慎の上、マリベルとは正式に離別となる。構わぬな」
「御意にございます、父上」
「そなたの謹慎が終わり次第、新しい妃を選んでやろう。余のトーチカの力になれるであろう娘に、誰か心当たりは有るか、タラス」

 タラスは、そっとエリク王の顔色をうかがった。王子王女が次々に成人しつつある今、常に準備を整えている婚姻候補者の名簿の中で、どの名が最もエリク王の意に叶うのか、素早く思案したのである。やがて、タラスは明瞭に言った。

「アリスタリス殿下には、近衛このえの支持がございましょう。更に、王妃陛下の御実家であるグリンカ公爵家は、三代以内に王家の血を引く公爵家でございますので、約一万人の騎士団を擁しております。同程度の騎士団を持つクレメンテ公爵家を切り捨てるのであれば、アイラト殿下にも武力が必要かと愚考致します。いささか爵位は低うございますが、王国騎士団の団長を務めるスラーヴァ伯爵の息女は如何いかがでございましょう。スラーヴァ伯爵の末の娘が、数年前に長患いの婚約者を亡くしております。いまだ新たな婚約者は決まっておらず、聡明で清楚、穏やかな人柄の息女だと評判でございます」

 貴族家の一令嬢について、詳細な事情まで把握しているタラスに、視線だけで満足を伝えながら、エリク王が頷いた。

「一度、トーチカと会わせてみれば良い。トーチカが気にいるのであれば、話を進めよ。伯爵家では王子の正妃には不足であろうから、スラーヴァ伯爵を侯爵に陞爵しょうしゃくさせ、正妃不在のまま側妃と致そうか。マリベルの処分から日が経たぬ故、ぐに正妃に立てずとも不思議はあるまい。新たに別の正妃を迎えるか、その娘を正妃に直すかは、トーチカの好きにすれば良い。タラス、早速諸処の手配をせよ」
「御意にございます、陛下」
「それで良いか、トーチカ。そなたに思う所が有るのであれば、ここで話してしまうが良い。叶えられる願いであれば、余が力になろう。誰ぞ、望む娘は居らぬのか」

 思いもよらない父王ちちおうの計らいに、アイラトは喜びをにじませた。父王を侮蔑したマリベルへの愛情など、既に一欠片も存在しておらず、他に心を傾ける相手もいない。婚姻を政略と考えるのが当然の身分であるアイラトにとって、新たな後ろ盾を得させようとするエリク王の思惑は、純粋な情愛に等しかった。

わたくしには、何の存念もございませんので、全て父上のおおせの通りに致します。タラス伯が推薦し、父上が御認め下さった令嬢であれば、それだけで私くしには十分でございます。有難うございます、父上。御心、嬉しゅうございます」
「左様か。ならば、幼い頃のそなたのように、これからは余を御父様と呼んでも構わないのだよ、可愛いトーチカ」

 とうに大人になった息子を揶揄からかいながら、黄金の国ロジオンの至尊の主たるエリク王は、上機嫌に笑ったのだった。


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