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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-38

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 わずかに明るさの増してきた満月の夜空に、ネイラ様……じゃなくて、レフ様の声が、厳かに響き渡った。
 
「〈神威の覡〉とは、神々の一柱いっちゅうが、仮初かりそめに人の血肉を受けて、この現世うつしよ顕現けんげんした者。魂の本質は神であり、束の間、人として生きるもの。〈神託の巫〉は、神々に愛される資質を持った人の魂が、必要とされるとき、様々な加護を得て生まれた者。きみは、神と人とをつなぐという、重き役目を持った神々の愛子まなごですよ、チェルニちゃん」
 
 その言葉を聞いた瞬間、わたしは、大きく身体を震わせた。いろいろな感情が、一気にき上がってきて、どうすることもできなかったから…….。
 魂の本質が神様だっていうことは、レフ様って、本当に人とはいえないんじゃないの、とか。神々に愛される資質を持った人の子の魂って、本当にわたしなの、とか。神々と人をつなぐような重過ぎるお役目が、本当にわたしに務まるの、とか。レフ様の言葉のすべてが、怖くて、重くて仕方なかったんだよ。
 
 衝撃のあまり、わたしが震えたのがわかったんだろう。金銀の獅子様たちは、わたしを守るみたいに、ぴったりと身体を擦り寄せてくれた。ふわふわでさらさらの、極上の絹糸を思わせる毛並みが、ほんのりと温かくて、少しだけ心が軽くなった気がした。
 そして、神霊さんそのものに見えていたレフ様は、いつの間にか元に戻っていて、心配そうな顔で、わたしを覗き込んできたんだ。
 
「急に重い話をして、驚かせてしまいましたか? 少し身体が震えている気がする。大丈夫ですか、チェルニちゃん?」
「……はい。多分」
「やはり、わたしは気が利かないな。ゆん彦と彦から、強い思いのこもった念が送られていますよ。〈ひなを動揺させるとは、我らが主人の罪深きこと〉と。もう少し、当たりさわりのない表現にするべきだったね」
「いえ、大丈夫です。はっきりいってもらった方が良いんです、わたし。ただ、ちょっと驚いただけなんです。教えてくださって、ありがとうございます。本当の本心から、そう思っています」
「そういってもらえるのなら、少しばかり、わたしの心も軽くなるのだけれど……」
「あの、レフ様……」
「ん?」
「さっきのお話について、いくつか質問しても良いですか?」
「もちろん。どうぞ」
 
 金銀の獅子様たちは、それぞれ心配そうな顔をして、わたしを見上げている。わたしの周りに顕現けんげんする神霊さんたちは、ものすごく優しくて、親切なんだよね。わたしは、ぴすぴすと息をらしている、湿った鼻先の温かさに励まされて、思い切って質問した。今の機会を逃したら、もう聞く勇気が出なくなるかもしれないから……。
 
「さっき、〈神威しんいげき〉は、神様の一柱が、人として生まれた方なんだって、仰いましたよね? 魂の本質は神様だって。ということは、レフ様は、神様なんですか?」
 
 わたしは、レフ様の顔を見ないように、下を向いて獅子様たちを撫でたまま、震える声でそう尋ねた。神霊さんの存在には、さすがに慣れてきちゃってるから、隣に神様がいたとしても、それだけで緊張したりはしない。第一、わたしがいつも抱っこしているスイシャク様も、ずっと撫で回している獅子様たちも、尊いご神霊なんだから。
 でも、レフ様が神様なんだとしたら、話は別だよね? もともと身分違いだし、存在としての格が違い過ぎるし、年齢だって離れているから、レフ様に想いが通じるとは思っていない。思ってはいないけど、相手が神様だったら、この場で未来が終わっちゃうよね?
 
 息を殺して、レフ様の答えを待ちながら、自覚しちゃったことがある。わたしってば、〈身分違いでどうしようもない〉とか、〈一生ものの失恋が確定した〉とかいいながら、実は、心のどこかで期待していたみたいなんだ。
 レフ様が、あんまりにも優しくて、わたしのことを大切にしてくれて、特別に扱ってくれるから。ひょっとして、もしかして、死ぬ気で頑張ったら、れっ、恋愛的な意味でも、ちょっとは好きになってもらえるんじゃないかって、思い始めていたんじゃないだろうか……。
 
 自分自身のあまりの厚かましさに、半ば呆然としているわたしの耳に、レフ様の深い声が響いてきた。
 
「神といい切ることはできないよ、チェルニちゃん。わたしの魂は、確かに神のものではあるけれど、神そのものではないのだから。神々の御霊みたまは、人の子が身に宿すには巨大過ぎ、深淵であり過ぎるのです。天上高く存在する一柱の神の御霊から、わずかな欠片かけらとして降り立ったのが、今のわたしだと思ってほしい。力と知識のほとんどは天にあり、今のこの身は、〈神威の覡〉として考え得る限界の中にあるのだろう。欠片ではあっても、天上の神と繋がってはいるので、大いなる力を使うことはできるけれど、そうしてしまったら、人の身体の内には留まれず、人の世を離れる結果になるのではないかな」
「人の世を離れるって、死んじゃうんですか、ネイラ様!?」
「呼び方が戻っているよ、チェルニちゃん? 大丈夫。心配してくれなくとも、死を意味するわけではないし、めったなことでそうはならないから。人の血肉はもろく、魂の受容にも限界はあるけれど、〈神威の覡〉という器は、それなりに強力ではあると思う。わたしが人の身を離れ、天上に戻らねばならない程の力を使えば、人の世の方が深く傷ついてしまうだろうね」
「もし、レフ様の魂が天上に帰っちゃったら、今のレフ様はどうなるんですか? いなくなっちゃうんですか?」
「神霊はいつにして多、多にして一。わずかな欠片であっても、神の御霊であることに変わりはなく、巨大な御霊だったとしても、欠片たるわたしとは同一の存在へと収斂しゅうれんしていくのだと思ってほしい」
「えっと……それって?」
「わたしはわたしであるけれど、肉体は失われるだろうね。ばらばらにほどけ、大気に溶けていくのだろう。それは、人が死と呼ぶ概念とは別のものだよ、チェルニちゃん。強いていえば、今この場に居る、魂魄こんぱくとしてのわたしに近いものになると考えてほしい。知識や力が膨大になるので、個性あるいは性格と呼ぶべきものも、多少は変わるかもしれないけれど」
 
 レフ様のいうことは、正直、すごくむずかしかった。アマツ様が、いつもわたしと一緒にいてくれて、レフ様のところに居なくても良いのか聞いたときも、同じような答えだったけど。神霊さんは〈一にして多、多にして一〉の存在だから、わたしと一緒にいてくれるアマツ様の他に、レフ様と一緒にいるアマツ様が居て、どちらも同じアマツ様なんだって。
 ただ、天上の神様の一柱と、わたしの知っているレフ様とは、今のところ、全く同じ存在じゃないんだよね? それって、やっぱり、人の子として生まれ、人の身体を持っているから……なんだろうな、多分。
 
 わたしは、自分の、こっ、恋心のことだけを、厚かましくも考えていた。結局のところ、レフ様は、神様と同一の存在なんだろうか? 別の存在なんだろうか? もっと率直にいうと、レフ様に、わたしのことを、すっ、好きになってもらえるように、頑張ってみても良いんだろうか? もちろん、報われない覚悟はするにしても。
 
 わたしが、われながら自分勝手な、こっ、恋心にぐるぐるしていると、レフ様が優しく話しかけてくれた。〈他に聞きたいことはないですか?〉って。こんなふうに、レフ様に質問できる機会なんて、めったにないんだから、気になることはちゃんと聞いておかないとだめだよね。
 
「はい! はい!」
「ふふ。きみが、そんなふうに元気よく話しかけてくれるのだと、パヴェルから聞いていたのだけれど、本当だったのだね。何だろう、チェルニちゃん?」
「〈神託の巫〉のお役目って、神霊さんと人とをつなぐことなんですよね? それって、具体的にはどうすれば良いんですか?」
「むずかしく考えなくても、大丈夫だろうと思う。きみの周りには、数多くの神霊が存在し、それぞれに望みを告げていくだろうから、可能な範囲で、それに応えてほしいだけだよ。すでにそうしてくれているように」
「じゃあ、もう一つ質問です。わたしは〈神託の巫〉なんですよね? 〈神託の巫〉って、今までにも何人か居たと思うんですけど、その人たちとわたしって、同じ魂だったりするんでしょうか? 何が聞きたいかっていうと、わたしが〈神託の巫〉になるのって、あらかじめ決まっていて、わたしとレフ様が、こうして、しっ、親しくなれたのも、〈神威の覡〉と〈神託の巫〉だったからじゃないのかっていうことなんですけど」
「きみが、〈神託の巫〉として生を受けたのは、宿命というものだろうね。〈神威の覡〉であるわたしと出会うのも、また必定。必ずそうであると決まった定めです。しかし、私たちが親しくなったのは、宿命でも運命でもないよ」
「え? 違うんですか?」
「そう。〈神託の巫〉と〈神威の覡〉の出会いこそ、天命によって定められた宿命ではあるけれど、どういう関わり方になるかは、必ずしも決められていないのです。ルーラ王国建国以前、〈神託の巫〉と〈神威の覡〉が揃ったことが何度かあり、その度に関係性も異なっていたのだから。確か、原初の二人は親友とも呼べる間柄になり、二度目の二人は師弟となり、三度目は敵同士として争い、四度目は顔見知り程度の関係で、五度目だけは祖父と孫という血縁。最後の六度目に至っては、生涯に一度だけ、相見あいまみえたのではなかったかな」
「ええ!? そうなんですか、レフ様?」
 
 〈神威の覡〉と〈神託の巫〉が敵同士だったり、一生に一回しか会わなかったりしたなんて、それで良いの!? 想像もしていなかった話に、わたしはびっくりして、思わず声を上げちゃったんだ。
 
     ◆
 
 レフ様は、大きくうなずいてから、説明を続けてくれた。神霊さんから授けられる言霊と違って、人の子としてのレフ様の話は、わたしにもわかりやすいものだったから、すごくありがたかった。
 〈神威の覡〉と〈神託の巫〉が、親密な関係になるって、必ずしも決められていないんだったら、わたしとレフ様が親しくなったのも、自由な選択の結果だよね? わたしは、優しくて温かくて生真面目なレフ様のことが、すっ、好きになっちゃったし、レフ様だって、わたしと親しくなりたいと思ってくれているんだよね? 
 
 自分の気持ちを信じるって決めていたし、レフ様のことも信じていたけど、やっぱり嬉しかった。レフ様は、わたしが〈神託の巫〉だから、気にかけてくれたのかもしれないけど、親しくなったのは、レフ様の希望だって考えても良いだろう。えへへ。
 
「きみは、過去に生まれた何人かの〈神託の巫〉と、チェルニ・カペラ嬢が、同じ魂なのかと尋ねましたね。きみと過去の〈神託の巫〉とは、まったく異なる魂なのだと、〈神威の覡〉であるわたしが断言しよう。人の魂は、往々にして生まれ変わるものではあるけれど、過去の〈神託の巫〉ときみとは、何の関係もありません。むしろ、ほとんどの〈神託の巫〉は、過去に生きた経験を持たない魂、新しく生まれいずる〈新魂にいだま〉から選ばれるのです。生まれたての魂は、神世かみのよの気配を色濃く残した、無垢なものだから」
「〈新魂〉って、初めて聞きました。そうなんですか、わたし?」
「そう。現世うつしよでは、あまり理解されていない概念だから、知らなくて当然だろうね。詩的な表現をするなら、きみという人は、〈神のその〉たる〈斎庭さにわ〉に生まれた〈清浄せいじょうなる意識の萌芽ほうが〉が、初めて人の子としての生を受けた者。無垢にして愛しき〈新魂〉なのです」
 
 レフ様の言葉は、段々と難解になってくるけど、意味は理解できた。幼い子供たちは、身分の高い人が相手でも物怖ものおじしないことがあるけど、わたしが神霊さんに馴染みやすいのって、そんな感じなんじゃないのかな。
 いつの間にか、前向きでわたしの膝の上に座って、がばっと足を開いちゃってる金獅子様と、わたしの指を甘噛みしている銀獅子様からは、〈いとけなき雛は可愛ゆけれど、幼子にはあらず〉〈無垢とは、心をけがすことのなき者也〉って、わりと抽象的な言霊が送られてきたけどね。
 
 わたしは、いつもの癖が出て、銀獅子様に甘噛みされていない方の手をあげ、レフ様に質問を重ねた。
 
「はい! はい!」
「何だろう、チェルニちゃん?」
「わたしが〈新魂〉っていう魂で、過去の〈神託の巫〉とは別人だったら、レフ様はどうなんですか? 〈神威の覡〉の場合は、同じ神様が何度も人として生まれてこられるんですか?」
「なかなか鋭い質問ですね。〈神威の覡〉も、それぞれが別の神格なのだよ、チェルニちゃん。必要に応じて、あるいは神の気まぐれで、八百万やおよろずの神霊の中の一柱が、仮初に人の子として生まれ出るのだと考えてほしい」
「必要に応じてっていうのは、わかりますけど、気まぐれっていう場合もあるんですか?」
「神とは、本質的に気まぐれなものだからね。きみのいうスイシャク様のように、四方万里しほうばんりとどろくほどの慈悲をもって、あまね衆生しゅじょうに救済をもたらそうとする神の方が、少ないだろう。例えば、〈神託の巫〉と敵同士になったときの〈神威の覡〉は、たけき力を司る武断ぶだんの神で、うっかり神威を高め過ぎて、〈神託の巫〉が王女の一人であった国を、一夜にして攻め滅ぼしてしまってね」
「……それは、わりとひどいですね」
「まあ、滅ぼされるに足る理由はあったのだけれど。〈神威の覡〉としての生を終え、神世に戻ったの神は、それなりに反省しているようだったよ」
「あの……」
「ん?」
「レフ様の本体っていうか、神世の神格って、どんな神様なんですか? 聞いて良いのなら、ですけど。わたしの魂の器って、今はいっぱいになっちゃっているみたいだから、聞いてもわからないんでしょうか?」
「いつか、神名を受け入れてくれるときが来るとは思うけれど、今はむずかしいだろうね。わたしは、根源と混沌と秩序を司る神の欠片ですよ、チェルニちゃん。今は、神の化身であって神でなく、〈神託の巫〉であるきみとは同じ、怒りも喜びも悲しみもする、一人の〈人〉に過ぎない者だと思ってほしい。チェルニ・カペラ嬢と親しくなった、只のレフ・ティルグ・ネイラです」
 
 レフ様は、楽しそうに微笑んだ。この月の銀橋に来てから何回も目にした、明るくて優しい微笑み。良いな。素敵だなって思った途端、わたしの口から言葉が滑り出ていった。
 
「だったら。だったら、わたしが、レフ様のことを、すっ、好きになっちゃってても、許されるんでしょうか? 不敬じゃありませんか? れっ、恋愛的な意味で、どうにかなるって思うほど、自惚れてるわけじゃないですけど、すっ、好きでいても良いですか?」
 
 ……。え? え?? ええぇ!? 待って、待って! わたしってば、何をいった? レッ、レフ様に面と向かって、何をいっちゃったの? 今の言葉って、こっ、告白じゃないの! 本人の意思をまったく無視して、何をいってるのさ、わたしの口は!
 
 わたしが、告白としか思えないことをいっちゃった瞬間、少しずつ明るさを増してきた月の銀橋で、時が止まった。わたしの呼吸も、確実に止まった。いや、もともとが魂魄こんぱくなんだから、呼吸しているのかどうかもはっきりしないけど、それぐらいの衝撃だったんだよ。
 
 わたしの膝の上で、がばっと足を開いた姿勢でくつろいでいた金獅子様は、驚いて飛び上がった拍子に、膝から転げ落ちちゃった。ずっとわたしの指を甘噛みしていた銀獅子様は、思わず牙に力が入ったみたいで、魂魄なのにわりと痛い。慌てて口から指を吐き出して、噛んだところを舐めてくれるんだけど、舌がざらざらしているから、余計に痛いよ。
 何の前振りもなく、真剣で大切な話をしている最中、急にひと回り近く年下の少女に、こっ、告白されたレフ様は……硬直していた。満月か、ご神鏡かっていうくらい、神秘的に輝く銀色の瞳を丸くして、穏やかな微笑を浮かべていた唇が、〈え?〉っていう形に固まっちゃってるよ……。
 
 硬直しているレフ様を見ているうちに、わたしは、どうしようもなく泣きたくなってきた。だって、いくら何でも、ここで告白しちゃうなんて、あんまりじゃない? 身分違いの相手で、絶望的にむずかしい恋で、でも諦め切れなくて、大切に大切に胸の中で温めていたんだよ、わたし。
 もし、万が一、無理を承知で告白するとしても、精一杯の努力をしてからにするべきだと思う。一生懸命に勉強して、レフ様にご恩返しができるくらいの人になって、もっと親しくなって、レフ様の迷惑にはならないって確信してからだよね? 
 
 魂魄だけのこの不思議な世界は、感情を抑制するのがむずかしくて、素直になり過ぎる場所ではあるみたいだけど、物事には限度があると思う。いきなり告白しちゃうなんて、いくら何でもめちゃくちゃだよ。
 わたしは、あっという間にこぼれてきた涙をぬぐうこともできず、呆然とレフ様を見つめているしかなかったんだ……。
 
 どれくらいの時間が経ったのか、緊張に耐えられなくなって、わたしがぐらぐらと倒れそうになったところで、レフ様が動いた。さっと手を出して、両手でわたしの肩を支えてくれたんだ。
 それなりの距離を空けて座っていたはずなのに、息がかかるくらい近くにレフ様がいる。わたしの肩を支えてくれている手は、大きくて、繊細で、ほんのりと温かい。あまりにも胸が高鳴って、涙さえ止まっちゃって、震えることしかできないわたしに、レフ様が、ほんの少し震えているように聞こえる声でいった。
 
「さっきのきみの言葉は、真実だと考えて良いだろうか、チェルニちゃん? いや、嘘だなどと疑っているのではなく、きみが、言葉の意味を理解していってくれたのかどうか、知りたいのだけれど」
「……わっ、わかっています。理解しています。そんな、こっ、告白なんて、するつもりじゃなくて、口が勝手にいっちゃっただけですけど。すみません。迷惑をかけちゃって、本当にすみません」
「謝ってもらう必要など、欠片もないよ、チェルニちゃん。とても嬉しい。わたしの方こそ、きみを特別に思っているから」
「……え?」
「十四歳の少女であるきみには、会いに行くことさえはばかられるので、きみが王立学院を卒業したら、少しずつ親しくなって、その上で申し込みをさせてもらおうと考えていたのだけれど」
 
 レフ様は、わたしの肩を支える手に、ほんの少しだけ力を入れて、間近で向かい合うような姿勢になった。そして、わたしの瞳を見つめながら、こういったんだ。
 
「わたしの胸を満たすこの気持ちが、人の子が恋と呼ぶものと同じかどうか、わたしにはわからない。けれども、こうして愛しく思う女性は、現世うつしよ神世の隔てなく、きみ一人であろうと知っています。チェルニ・カペラ嬢へ、我レフ・ティルグ・ネイラ、神名、□□□□□□□□□□□が妻問つまどい致す。我が妻となる約束を、結んではもらえませんか、チェルニちゃん?」
 
 十六夜いざよいの月の夜空は白々と開け始め、流れていったはずの〈明けの明星〉が、ひときわ美しくきらめく中。信じられない言葉に、呆然とレフ様の瞳を見つめていたわたしは、ゆっくりと意識を失っていったんだ……。
 

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