見出し画像

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-14

 町立学校の卒業式の翌日、わたしたち家族は、王都に向かって出発した。本格的な引っ越しは、もう少し先なんだけど、アリアナお姉ちゃんの王城訪問っていう、とんでもない予定が入っちゃったから、急いで王都の家に行くことになったんだ。
 〈野ばら亭〉で働いてくれている、優しいルルナお姉さんは、何人かの従業員さんと一緒に、朝のうちから王都に向かってくれた。新しいお店の用事だけじゃなく、わたしたちの家の準備もしてくれるんだって。もちろん、わたしだって、一生懸命にお手伝いするけどね。
 
 ルルナお姉さんは、キュレルの街の〈野ばら亭〉で働くか、王都の店の方に移るか、すごく悩んでいたらしい。ほら、ルルナお姉さんってば、なぜかクローゼ子爵家の使者Bと、良い感じになっちゃってるから。
 ルルナお姉さんは、ご両親を早くに亡くして、女手おんなで一つで二人の弟さんを育ててきた。弟さんたちは、ルルナお姉さんとはちょっと歳が離れていて、まだ十歳と八歳で、町立学校に通っている。ルルナお姉さんは、使者Bの近くに行きたい気持ちと、弟たちにはキュレルの街のままの方が良いんじゃないかって思う気持ちで、揺れていたそうなんだ。
 
 ルルナお姉さんと使者Bが、いつの間にか、そんな悩みを持つほどの仲になっていたことに、密かに衝撃を受けたのは、わたしだけじゃないと思う。お母さんとアリアナお姉ちゃんは、にっこりと微笑んむだけだったけどね。
 朝食後、王都に向けて出発する、ルルナお姉さんたちを見送りながら、わたしは、こっそりと聞いてみた。
 
「ねえねえ、ルルナお姉さん」
「何ですか、チェルニちゃん?」
「ルルナお姉さんは、ずっと王都にいてくれるの? それとも、今回の引っ越しを手伝ってくれるだけなの?」
「ずっと王都にいさせてもらいますよ。〈野ばら亭〉の王都支店で、働かせてもらうんです。よろしくお願いしますね、チェルニちゃん」
「うれしい! うれしいけど、弟さんたちはどうするの?」
「もちろん、一緒ですよ。二人とも、また小さいですからね。王都の都立学校に転校してもらいます。楽しみだって、王都で暮らしてみたいって、喜んでくれていますよ。〈野ばら亭〉は、とっても条件の良い職場なので、王都で暮らす家も用意してもらいました。ありがたいことですよねぇ。ここまでしてくれる職場なんて、そうそうありませんよ」
「使者B……じゃなくて、ギョームさんとのこと、聞いてもいい、お姉さん?」
「良いですよ、チェルニちゃん」
「ルルナお姉さんは、ギョームさんとお付き合いしてるの?」
「してませんよ。してませんけど、そうなりそうな感じです。えへへ。ギョーム様って、傲慢ごうまんそうなわりに優しい人で、弟たちの心配は要らないっていってくれるんですよ。わたしの弟は、自分にとっても弟だから、結婚したら一緒に暮らそうって」
「結婚って、もうそんな話が出てるの? お付き合いもしてないのに? それって、大丈夫なの? 後で、気が合わなかったってわかって、困ったりしないの?」
「……チェルニちゃんには、いわれたくない気もしますけどねぇ。ギョーム様が、わたしとは真剣に付き合いたいって、結婚を前提にしているっていって、申し込んでくれたんですよ。正直なところ、うれしかったですねぇ。一度だけ、弟たちとも会ってもらって、すっかり仲良くなってくれました。弟たちってば、〈変なおもしろいお兄ちゃん〉ですって」
 
 そういって、うふふと笑ったルルナお姉さんは、とってもうれしそうで、とっても綺麗だった。いつの間にか、ルルナお姉さんと使者Bの間では、すっかり話し合いができているらしい。素早いじゃないの、使者B!
 
 ルルナお姉さんたちを見送って、箱詰めした洋服なんかを馬車に積み込んでから、わたしたちは、お昼過ぎに自宅を出発した。住み慣れた、大好きな自宅を後にして、キュレルの街の通用門を出たところで、わたしは、何だか泣きたくなった。引っ越しっていっても、キュレルの街には〈野ばら亭〉の本店があるし、家だって部屋だってそのままで、しょっちゅう帰れるのはわかっているんだけど、やっぱり〈巣立っていく〉っていう気分になったんだ。
 キュレルの街での暮らしは、満ち足りていて、わたしは家族が大好きで、金銭的にも不自由なく過ごさせてもらった。幸せで幸せで……自分が、いかに恵まれた子供時代を与えられたのか、改めて実感した。そして、そう感じる自分は、きっと大人への階段を登り始めているんだろう。
 
 わたしたちの乗った馬車は、通用門を出ると、一気に加速した。今日の馬車は貸切で、御者ぎょしゃさんは風の神霊術を使える人だから、数時間で王都まで移動できる。文字通り、風のようにける馬車の中では、スイシャク様とアマツ様が、揃って窓に張り付いて、丸くて可愛いお尻と、ほっそりした真紅のお尻を振って、流れる景色を見ていた。いとも尊い神霊さんなのに、相変わらず、現世うつしよの生活に興味津々なんだよ、うちの二柱ふたはしらは。
 
 風を司る神霊さんのお陰で、馬車はほとんど揺れずに進んでいく。窓の外で流れる景色は、キュレルの街のにぎわいから遠く離れて、広々とした草原を走り抜けているところだった。それなりに人の手の入った草原には、ところどころに目印の石畳が敷かれていて、王都までの道筋を示している。
 運命の夏の日、わたしは、フェルトさんと一緒に馬に乗り、羅針盤らしんばんを司る神霊さんの導きで、誘拐された子供たちを追っていった。この草原を駆けたときから、たった数ヶ月しか経っていないのに、わたしも、わたしの家族も、なんて激しい変化にさらされているんだろう……。
 
 思わず感傷的になっちゃって、無言のまま窓の外をながめていたわたしは、馬車が王都へと進むごとに、少しずつ元気になっていった。だって、わたしにも、わたしの家族にも、やるべきことが山ほどあって、わたしたちは、自分の意志でそれを受け入れているんだから、呆然としている暇なんてないんだよ、きっと。
 たくさんの幸せと、ほんの少しの悲しさに彩られた、キュレルの街での暮らしは、いったん終わりを告げたけど、チェルニ・カペラの人生は、まだ始まったばっかりだからね。自分の頬を、両手でぱしっと叩いて、わたしはアリアナお姉ちゃんに目を向けた。白百合か薔薇の花かとばかりに、今日も強烈に美しいアリアナお姉ちゃんに、聞いておくべきことがあったんだ。
 
「あのね、アリアナお姉ちゃん。お姉ちゃんたちが王城に行くのは、明日なんだよね? 緊張したりしない? 大丈夫?」
「ありがとう、チェルニ。もちろん、緊張はしているわよ。ただの平民のわたしが、王城に呼ばれていくんですもの。フェルトさんとも、緊張するねって、話していたのよ。ほんの何ヶ月か前までは、想像したこともなかった成り行きだもの」
「そうだよね。アリアナお姉ちゃんもだけど、フェルトさんだって、ものすごい変化だよね。フェルトさんが大公家の後継者になるなんて、今でも信じられないよ。というか、フェルトさんって、本当に後継者として認められるのかな?」
「あら、心配なの、子猫ちゃん?」
「うん。だって、元大公が捕まったとき、気になることをいってたでしょう? 〈王太子殿下は、わたしを慕ってくださっているんだ〉って。それって、ルーラ王国の王族は、元大公の味方だっていう意味じゃないの? だったら、フェルトさんも、お姫様も、むずかしい立場に立たされないのかなって、心配になったんだよ、お母さん」
「本当に賢いわね、子猫ちゃんは。オディール姫様には、宰相閣下と神霊庁がお味方しているから、基本的には予定通りに進むんですって。アリアナまで連れて王城に向かわれるのも、話の大筋が決まっているからよ。ただ、最終決定は、神霊庁の裁判の後になるそうよ。御神霊がおんみずから罪人を断罪なさる、神聖な神霊庁の裁判ですもの。そこで、元大公の罪があばかれ、逆にオディール姫とマチアス閣下の潔白が証明されたら、元大公と親しい王太子殿下も、殿下のお気持ちと立場を尊重しておられる国王陛下も、宰相閣下からの申請を認めないわけにはいかないんですって」
「……その神霊庁の裁判って、神霊さんたちに頼まれて、わたしも出廷することになっている裁判だよね? もしかして、わたしの言動が、アリアナお姉ちゃんやフェルトさんの将来を左右するかもしれない……なんていわないよね、お母さん?」
「かもしれない、じゃないわね。大きく、確実に、絶対的に左右するのよ、子猫ちゃん?」
「気にしないで、チェルニ。わたしとフェルトさんは、大公家の後継の件は、あまり重要だと思っていないの。わたしは、キュレルの街の守備隊のフェルトさんで十分だし、フェルトさんも、わたしがいるだけで幸せだって、いってくれているのよ」
 
 そういって、柔らかな微笑みを浮かべるアリアナお姉ちゃんには、少しの嘘もなくて、フェルトさんの身分や財産なんて、大切だと思っていないんだなって、すごく良くわかった。わたしのお父さんとお母さんも、どちらかといえば、大公家の後継じゃない、ただの平民のフェルトさんの方が、面倒がなくて良かった……くらいに考えているだろう。でも、当の本人であるわたしは、一瞬、気が遠くなりそうだった。
 ロザリーや蛇と向き合った結果、盛大に反省したばっかりなのに、わたしは、またしても、重大なお役目を任されちゃうみたいなんだよ……。
 
     ◆
 
 王都の家に到着すると、先に出発していたルルナお姉さんと従業員さんたちが、にこやかに出迎えてくれた。大きな家具なんかは、王立学院の受験の前から、少しずつ運び込まれていて、すっかり生活の準備は整っている。おまけに、ルルナお姉さんたちが、家中をぴかぴかに磨いてくれたみたいで、とっても気持ちの良い空間になっていた。キュレルの街の自宅に比べると、ちょっと慣れない気もするけど、この家も〈わが家〉なんだって、改めて思ったよ。
 
 従業員さんたちが驚かないように、気配を薄くしていたスイシャク様とアマツ様は、家の玄関を入ったところで、すいっと姿を消した。どこかに行ったわけじゃなく、家の屋根の上を回っているみたい。わたしの頭の中に、神々しい純白の光の渦と、輝かしい真紅の光の渦が、ぐるぐると旋回する光景が映し出されたのは、きっと二柱がイメージを送ってくれたからだろう。
 単なる円じゃない、複雑な形の動きは、スイシャク様とアマツ様の印に近いと思う。世にも尊い二柱は、わたしたちの王都の家にも、改めて強い守護を施してくれているんだろう。誰にも気づかれないまま、王都の家は、神霊さんたちの〈やしろ〉になったんだ。
 
 馬車に積んでいた荷物を運び込んで、自分の部屋を片付けて、ようやく落ち着いた頃、お客さんが訪ねてきた。大きな花束を二つ、両腕に抱えたフェルトさんと、いくつも積み重ねた箱を持った総隊長さん。両手に大きな箱を捧げ持っているのは、キュレルの街の守備隊の人だった。誘拐された子供たちを追っていたとき、風の神霊術を使って馬を駆けさせ、王都から救援を呼んできた、若くてかっこ良いアランさんだよね?
 
「お義父さん、お義母さん、引っ越し、お疲れ様でした。チェルニちゃん、町立学校の卒業おめでとう。それから……その……会いたかったです、アリアナさん」
 
 ほんのり赤くなりながら、フェルトさんはいった。〈お疲れ様〉のところと、〈卒業おめでとう〉のところだけ、わたしたちに目を向けて微笑んでくれたけど、後はずっとアリアナお姉ちゃんを見つめているよ、フェルトさんってば。本人も自覚のないまま、視線を離せないんだってわかっているから、怒ったりはしないけどね。年齢のわりに、理解のある少女なのだ、わたしは。
 
「おお、ありがとう、フェルト。明日の予定もあるのに、来てくれたんだな」
「もちろんです、お義父さん。あの、アリアナさんとチェルニちゃんの卒業のお祝いに、花を持ってきたんですが、お渡ししても良いですか? お義母さんにも、鉢植えの秋薔薇をお持ちしました。かなり大きいので、勝手をして、玄関前に置かせてもらっています。オレンジ色の秋薔薇です。あの、祖母が持たせてくれまして」
「まあ、ありがとう、フェルトさん。オディール様に、お礼を申し上げなくっちゃ。うれしいわ、とっても」
「アリアナはともかく、チェルニにまで気を遣ってもらって、すまないな、フェルト」
 
 お父さんたちとフェルトさんって、かなり頻繁ひんぱんに連絡を取り合っているんだろうか。わたしは、どうして総隊長さんとアランさんがいるのかとか、いつの間にオディール様を〈祖母〉って呼ぶようになったのかとか、いろいろと疑問でいっぱいだったけど、不思議そうな顔をしているのは、わたしだけだった。
 
 フェルトさんは、左腕に抱えたピンク色の薔薇の花束を、わたしに差し出してくれた。〈卒業、おめでとう、チェルニちゃん〉って、明るい笑顔と一緒に。すっごくかっこ良くて、優しそうで、この人がわたしのお兄ちゃんになってくれるのかと思うと、改めてうれしくなっちゃったよ。
 フェルトさんが右腕に抱えていたのは、純白の薔薇の花束で、アリアナお姉ちゃんにぴったりだった。お姉ちゃんも、女学校を卒業したところだから、〈卒業、おめでとう〉っていわれていたけど、むしろ結婚式のブーケみたい。お父さんが、ふらふらとよろけるのを、お母さんが支えていたのは、そう思ったのが、わたしだけじゃないからだろう。
 
 それから、フェルトさんは、総隊長さんとアランさんから、それぞれに箱を受け取って、アリアナお姉ちゃんにいった。
 
「これらの箱は、祖母からアリアナさんへの贈り物です。明日、王城に行くときに、着ていただきたいドレスだそうです。装飾品やケープなどもあるそうです。もしよろしかったら、受け取っていただけないでしょうか。差し出がましい真似をして、申し訳ありません、お義父さん、お義母さん」
「ありがとうございます、フェルトさん。オディール様のお心遣い、とてもありがたいことです。ねえ、お父さん、お母さん」
「ああ。明日の登城とじょう相応ふさわしいドレスとなると、平民にはわからないような、いろいろな決まり事があるんだろう。オディール様のご好意は、ありがたく存じ上げますと、お伝えしてくれ、フェルト」
「そうよ、フェルトさん。オディール様のお見立てなら、間違いはないもの。素直に甘えさせていただくのが、合理的な判断というものよ。ありがたいわ、とっても。ねえ、早速見せてくれない、お花ちゃん? 子猫ちゃんだって、見たいでしょう?」
「もちろん! 見せて、見せて、お姉ちゃん」
「ふふ。そうね。せっかくのオディール様のご好意ですもの。箱を開けさせていただきましょう。わたしに着こなせると良いんだけど」
「祖母は、大張り切りでドレスを選んでいて、〈どのドレスでもアリアナさんには不十分〉だと、楽しそうに悩んでいました。祖母が生き生きとして、十歳は若返ったと、祖父も喜んでいます。わたしは、その、どんなドレスでも、アリアナさんが着てくれるだけで、素晴らしく見えると思うんですが……」
 
 とろけそうな顔で、お姉ちゃんを見つめるフェルトさんには、勝手に語ってもらうことにして、わたしたちは、いそいそと箱を開けた。大きな箱から出てきたのは、それはそれは綺麗な、淡い薔薇色のドレスだった。
 咲き始めた薔薇の花びらみたいに、可憐な色の生地は、光沢のある絹で、極上のものなんだって、ひと目でわかった。派手に光っているわけでもないのに、内側からほんのりと光が射しているような、何ともいえない輝きがあるんだよ。
 ドレスのデザインは、わりとあっさりしていて、スカートもふんわりとふくらんでいるくらいだった。襟元えりもとからウエストにかけて、白いレースの切り替えになっているのと、袖口のすそにも白いレースが使われているのが、目立つといえば目立つ。ものすごく繊細そうなレースと、ボタンの替わりに縫い付けられている真珠からも、めちゃくちゃに高価なドレスだってわかるけどね。
 
 お母さんとアリアナお姉ちゃんは、ドレスを見た途端に、深々とため息をいた。清楚で地味なくらいのデザインなのに、圧倒的に上品で、とにかく素敵だったからね。純白の毛皮のケープも、ドレスと同じ生地の靴も、ドレスに負けていなくて、二人はやっぱりため息を吐いた。
 お父さんや総隊長さんたちは、贈り物の素晴らしさに感心して、アリアナお姉ちゃんに似合うだろうって、喜んでいた。フェルトさんは……まあ、どうでも良いんだけど、わたしは、単純には喜べなかった。 
 
 だって、アリアナお姉ちゃんだよ? アリオンお兄ちゃんになったときでさえ、絶世の美少年になっちゃってたんだよ? 素晴らしく似合うはずのドレス姿で、王城とかに行っちゃったら、とんでもない数のめ事を引き寄せてくるんじゃないの?
 そっと頭を抱えるわたしに、答えてくれているみたいに、かすかに聞こえてきたのは、はさみの音。まるで〈任せておきなさい〉っていうみたいな、御神鋏ごしんきょうの〈紫光しこう〉様からの合図に、心の中で手を合わせたのは、とりあえずわたしだけの秘密にしておこう。
 
 ふるふると頭を振って、気持ちを切り替え、わたしは、総隊長さんに質問することにした。だって、総隊長さんとアランさんが、どうしてフェルトさんと一緒にいるのか、気になったんだよ。
 
「はい! はい!」
「どうした、チェルニ?」
「わたし、総隊長さんに質問があります」
「おう、どうした、チェルニちゃん?」
「総隊長さんとアランさんは、どうしてうちにいるの? 遊びに来てくれるのは、いつでも大歓迎なんだけど、今日は違うんじゃないかと思って」
「相変わらず賢いな、チェルニちゃんは。正解だよ。おれとアランが、ここにいるのは、転職したからなんだ」
「転職? 総隊長さんとアランさんが? まさか、キュレルの街の守備隊を辞めちゃうの? 街の皆んなが泣いちゃうよ?」
「はは。ありがとう、チェルニちゃん。守備隊の方は、しっかりとした奴がたくさんいるから、心配ないよ。おれとアランは、大公騎士団に転職したんだ」
「ええ? 大公騎士団って、ルーラ大公騎士団? 守備隊を襲撃した、あの大公騎士団に転職するの?」
「総隊長とアラン先輩には、おれからお願いしたんだよ、チェルニちゃん。ルーラ元大公の捕縛ほばくを受けて、仮の当主となった祖母が、大公騎士団を解体したんだ。今は、一人の騎士も残していない。これから、新しい大公騎士団を立ち上げるんだけど、アリアナさんや祖母を守る役目を負うんだから、信頼できる人がいないと困るだろう? だから、いったんは祖父が大公騎士団の団長になり、総隊長に副団長、アラン先輩に副官をお願いしたんだよ」
「マチアス閣下の下で働けるなんて、剣を持つ者にとっては、望外ぼうがいの喜びだからな。それに、この選択は、チェルニちゃんのお陰でもあるんだよ」
「ええ、わたし? わたし、何もしてないよ、総隊長さん?」
 
 びっくりして、思わず声を上げると、総隊長さんは、男らしい笑顔を浮かべていったんだ。〈神亀じんきのご加護だよ、チェルニちゃん〉って……。
 

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!