連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-38
「〈神託の巫〉たるわたくしは、約を司りし御神霊、□□□□□□□□様の眷属にござります。尊き□□□□□□□□様の御命により、わたくしが□□□□□□□□様の依代となり、言霊を賜りまする。皆々、心してお聞きあれ」
自分のものだとは、とても思えない、荘厳な響きを帯びた声が、〈神秤の間〉を満たしていく。え? ええ? わたし、今まで一度も、こんな話し方をしたことはないよ? そこは文学少女だし、神霊術の関係で古語だって得意だから、やろうと思えばできるんだけど。
おまけに、ときどき発光する少女であるわたしは、今もやっぱり光っている。ぴかぴかと明滅しているんじゃなく、辺りを照らすように、ほの白く発光しているんだよ。
わたしの魂が、ふわりと身体から離れ、周りの大気に溶け出して、外側から自分自身を見つめている。これは、何度か経験した〈神降〉のときと同じだった。わたしであってわたしではなく、でも、確かにチェルニ・カペラの意識ともつながっているのが、はっきりとわかった。
すぐ側にいたお父さんは、そんな〈わたし〉を支えようとして手を出しかけて、ぐっと押し止まった。お母さんもヴェル様も、後ろに控えてくれている神職さんたちも、何もいわずに、〈わたし〉を見守っている。今の〈わたし〉は、尊い神霊さんの〈器〉なんだって、わかってくれているんだろう。
〈わたし〉は、すっと席から立ち上がり、本来は青い色の瞳を、鏡みたいな銀色に輝かせながら、厳かな声でいった。〈階〉って、一言だけ。
何のことか考えるよりも先に、どこからともなく漂ってきた五色の雲が、〈わたし〉のいる貴賓席のあたりに立ち込めてきた。〈どうして雲なの?〉とか、〈五色って、どういうこと?〉とか、〈階って何さ?〉とか、〈わたしって生意気じゃない?〉とか、わたしの意識は盛んに疑問を投げかけるんだけど、発光する少女である〈わたし〉は、感情の読めない人形のような表情をして、たなびく雲を眺めている。
五色の雲は、あっという間により集まって、段々に重なりあった。ふわふわと揺れ動き、淡い光を放って輝いている。わたしが両手を広げたくらいの大きさで、貴賓席から〈神秤の間〉の中空へと続いている、五色の雲の階段になったんだよ。
〈神秤の間〉に集まった人たちは、皆んな、息を呑んで見つめている。〈わたし〉は、浅沓を脱いで、その階段へと足を進めた。五色の雲の階段なんて、本当だったら、怖いし畏れ多いし、とても足をかける気にならなかったと思うけど、今の〈わたし〉は、いつものわたしじゃないからね。一度、階段に向かって深々と頭を下げてから、戸惑いもなく足を踏み出したんだ。
五色の雲の階段が、どんな歩き心地なのか、大気に漂っているわたしには、あんまりよくわからない。ただ、わりとしっかりしていて、あんまり高い場所が好きじゃないわたしでも、安心して歩けているんじゃないかと思う。多分。
本来のわたしとは似ても似つかない、何とも優雅な足さばきで、〈神託の巫〉の〈わたし〉は、静々と雲の階段を進んでいく。そのまま階段の先端あたり、ちょうど〈神秤の間〉の中空に着いたところで、〈わたし〉は座礼を取り、両手をついて、深く深く頭を下げた。〈わたし〉を待ってくれている、金色に輝く神威、契約を司る神霊さんである、クニツ様へ。
〈わたし〉は、すっと頭を上げると、〈神秤の間〉にいる人たちに向かって、厳かに宣言した。
「約を司りし御神霊、いとも尊き□□□□□□□□様が、畏れ多くも畏くも、この裁判にて〈ご証言〉をとお望みでござります。只今より、わたくしの口を通して語られますは、□□□□□□□□様より賜りまする、言霊にござります」
それだけいうと、〈わたし〉は、銀色に輝く瞳を半ば閉じ、半眼になって姿勢を正した。ほの白く光っていた〈わたし〉の身体は、すぐに光の色を変え、金色に輝き始める。〈わたし〉の頭の中には、くっきりとした金色の文字が浮かび上がり、口は自動的にそれを読み上げていく。
〈神を謀る悪行が 悪しき因果の因となり〉
〈現世の 業を背負いし罪人は 人の裁きを身に受けるらん〉
〈現世で裁き尽くせぬ罪なれば 神の裁きとなりぬべき〉
〈現世に限りて神の見放せし 神去りもまた慈悲の内也〉
〈神世の裁き待つらん大罪人 神去りさえも成らぬ者有り〉
〈神には神の理有りて 善悪分たぬことも有り〉
〈長き刻経た末にこそ 神の裁きの見えるらん〉
〈わたし〉の口から出た声は、人のものとは思えなかった。どこまでも荘厳で清々しく、神事の鈴の音のように響き渡り、〈神秤の間〉の隅々まで、神秘的な気配で包み込んだんだ。
傍聴席の人たちも、貴賓席に座っている人たちも、呆然とした表情を浮かべたまま、〈わたし〉を見つめている。〈神秤の間〉のあちらこちらにいる神職さんたちは、裁判官席のマチェク様やコンラッド猊下、ヴェル様まで、いつの間にか床にひざまずいて座礼を取って、〈わたし〉の言葉に聞き入っている。神職さんたちの顔が、うっとりというか、ちょっと恍惚とした感じになっているのは、見なかったことにしよう。そうしよう。
いとも神々しい余韻を残し、クニツ様の言霊が、ゆっくりと〈神秤の間〉の空気に溶けていく。クニツ様の金色に光っていた〈わたし〉も、静かに輝きを薄め、ほわりと白い光をまとった、元の〈わたし〉に戻っていった。
これで終わりなのかって、一瞬だけ思ったけど、〈わたし〉のお役目は、まだまだ続くようだった。自分でもやっぱり理解できないまま、〈わたし〉は、何一つ迷いのない口調で、言葉を続けたんだ。
「尊き御神霊の言霊は、多くの言説を賜るものではござりませぬ。誠に僭越な仕儀ながら、□□□□□□□□様の御下命により、わたくしが、現世の言葉を重ねまする」
クニツ様の金色から、元々の白い光に変わった〈わたし〉は、そういって話し始めた。今回の事件の原因は、何十年も前に遡ること。元大公のお父さんと元大公の二人が、無理矢理、オディール様をヨアニヤ王国に嫁がせたこと。オディール様と愛し合っていたマチアス様を騙し、〈誓文〉で縛りつけて、クローゼ子爵家のエリナさんと結婚させたこと。マチアス様との結婚後も、元大公とエリナさんの関係は続き、元クローゼ子爵のオルトさんと、弟のナリスさんを産ませたこと。そして、そうした一連の歪みを生み出したのは、神霊術に優れたオディール様に対する、元大公の妬み嫉みだったこと……。
十四歳のわたし、チェルニ・カペラが、理解しているはずのない事実を、〈わたし〉は淡々と語っていく。確かに少女の声なのに、威厳に溢れた重々しい響きは、絶対にわたしのものじゃなかったよ。
発光する〈わたし〉は、ここで、真っ直ぐにオルトさんに視線を向けた。半ば口を開けて、〈わたし〉を見つめていたオルトさんは、雷に打たれたみたいに、大きく身体を震わせる。大きく喘ぎ始めたオルトさんに、ぴたりと視線を据えたまま、〈わたし〉は続けた。
「〈神去り〉になる者と、ならぬ者。人の身に過ぎぬ我らには、その差は確とはわかりませぬ。現世のみの罪なればこそ、現世のみの〈神去り〉となるときもあり、あまりにも罪重き故にこそ、現世では〈神去り〉にならぬときもあり。尊き神々の成さりようは、人が知るに能わぬ理にござります。ただ、元ルーラ大公、アレクサンス殿……」
〈わたし〉の視線は、今にも崩れ落ちてしまいそうなオルトさんから、被疑者席に座り込んだままでいる、元大公へと移っていった。ミランさんが逃亡しても、ナリスさんやアレンさんがおじいちゃんになっちゃっても、オルトさんが自分を庇ってくれても、力なく下を向いていた元大公は、しっかりと〈わたし〉を見据えていた。憎しみとも恐怖ともつかない、煮えたぎるほどの感情をたたえた瞳で。
〈わたし〉は、そんな元大公に怯える様子もなく、銀色の瞳を元大公に向けたまま、厳粛な声でいったんだ。
「すべての因果の因にして、数多の悲しみを生み出したるアレクサンス殿の罪は、人の裁きに留まるものではござりませぬ。まして、尊き御神霊を謀り、神聖なる誓文を穢したる所業は、神々に対する不敬の極みにござります。森羅万象八百万、遍く御坐す御神霊は、アレクサンス殿をお赦しにはなりませぬ。元ルーラ大公、アレクサンス殿こそは、《神敵》にござります」
◆
《神敵》
神霊王国であるルーラ王国では、あまりにも重く、あまりにも恐ろしく、決して取り返しのつかない致命的な言葉に、〈神秤の間〉は沈黙に包まれた。今回の神前裁判の間中、何度も悲鳴が上がったり、沈黙が立ち込めたりしたけど、そのどれとも比べられないほど、圧倒的な恐怖を呼び起こす宣言だった。
オルトさんは、顔面蒼白を通り越し、灰色になった顔で、元大公を振り返った。元大公は……わたしが鏡越しに見たように、額に輝き出した〈神敵〉の文字に気づきもせず、呆然と〈わたし〉を見つめている。それは、捕縛された日、レフ様の神威に魂を焼かれてから、元大公が初めて見せた、深い絶望の表情だったと思う。
大気に溶け出しているわたしは、自分でも理解できない複雑な思いで、元大公とオルトさんから目を離せないでいた。一方、ほの白く発光する〈わたし〉は、そんな戸惑いを感じることもなく、視線を元大公に据えたまま、淡々とマチェク様に話しかけた。
「尊き御神器、神秤〈銀光〉様のご加護を賜りしマチェク殿」
「御前に。〈神託の巫〉たる御方様」
「約を司られる□□□□□□□□様は、これにて〈ご証言〉を終わられましてござります。先に証言したオルト殿につきましては、これまで通り、〈銀光〉様の〈神判〉をお進めなされまし。元大公アレクサンス殿は、〈神敵〉となり、神々の〈虜囚〉となります故、人の裁きは不要にござりまする」
「畏まりましてございます。早速に?」
「神霊庁の皆様には、その後の仕様もござりましょうから、まずはアレクサンス殿から。アレクサンス殿の魂が虜囚となり、現世から離れましたる後、神前裁判をお続けくださりませ」
「忝うござります。仰せの通りにいたします。畏み畏み」
〈わたし〉は、マチェク様の返事にうなずくと、姿勢を正して、すっと半眼になった。〈わたし〉が意識を集中し、クニツ様に呼びかけると、あっという間に金色の光が辺りを満たし、〈わたし〉の身体も金色に輝き始める。もう一度、クニツ様の言霊が降りてくるんだって、すぐにわかった。
コンラッド猊下も宰相閣下も、あの怖いもの知らずな王太子殿下でさえ、何も口をはさめないでいるうちに、金色に輝く〈わたし〉が、頭の中に浮かび上がった言霊を口にした。たった一言、〈虜囚の鏡〉って。
わたしは、〈虜囚の鏡〉を見たことがあった。ご神鏡の印を持っているヴェル様が、世にも不思議なご神鏡の鏡界の中に、わたしを連れていってくれたから。満天の星のように、幾千万の鏡が瞬くご神鏡の世界には、重い罪を犯した人の魂を封じ込めた、〈虜囚の鏡〉が存在していたんだ。
美しく輝く無数の鏡の中に、まるで黒いしみのように浮かんでいる、不気味な〈虜囚の鏡〉があった。明るい光の影になって、ほとんどわからないくらいなんだけど、じっと目を凝らしていると、くすんだ黒い鏡面の中で、何かが苦しそうにのたうち回っている姿が見えてくる。人の世の裁きだけでは、許されないほどの罪を犯した人たちの魂を、黒い鏡の中に閉じ込め、耐えがたい苦痛の中で、何十年、何百年と罪を浄化しているんだって、ヴェル様が、そっと教えてくれたんだよ。
〈虜囚の鏡〉っていう言葉は、〈神秤の間〉にも、大きな変化をもたらした。傍聴席の人や、神職の人たちの中には、〈虜囚の鏡〉について、知っている人もいたんだろう。か細い悲鳴が上がったかと思うと、目に見え、手でつかめる気がするほどはっきりと、場の空気が凍りついていった。
そして、どこからともなく差し込んできたのは、銀色の光だった。ご神秤の〈銀光〉様の輝きにも似た、荘厳で神々しく、見る人によっては魂が震えるくらい恐ろしい一条の光は、あっという間に広がっていき、大きな鏡の形になった。銀色の豪華な縁飾りがあって、見るからに高級そうな鏡。その鏡面は、絶望そのものみたいに揺らめいている、暗い暗い漆黒だったけど……。
〈わたし〉は、ゆっくりと半眼を見開き、いつの間にか床に崩れ落ちた元大公に向かって、冷たく宣告した。
「元ルーラ大公アレクサンス殿は、有罪にござります。その罪はあまりにも重く、耐えがたく不敬であり、数多の因果の因となりました故、人の裁きではなく、御神々のお裁きとなりまする。課せられましたる刑罰は、魂の炎荊。〈虜囚の鏡〉の内にて、死さえ許されぬまま、浄化の業火で魂を焼かれ続けるとのことでござります。刑期は、アレクサンス殿の改心にて変わりますけれど、まずは三百年にござります」
声にならない悲鳴に、〈神秤の間〉が揺れた。あまりの刑の重さに、誰もが恐れ慄いたんだろう。漆黒の鏡面の中では、炎のような影がうごめき、轟々と音を立てて燃え盛っているように見えていた。
わたしにとって、いつも優しくて、親切で、暖かくて、大好きな神霊さんたちは、今、無慈悲なほどに神々しく、圧倒的で、荘厳で……怖いほどに〈神〉だった。クニツ様の金色に発光している〈わたし〉は、平然と座り続けているけど、すぐ側の大気に溶け出しているわたしは、何だかやたらと苦しかった。
元大公は、身動きもできず、まるで死人みたいな顔で、だんだんと近づいてくる〈虜囚の鏡〉を見つめている。誰も、何もいえない空間の中で、たった一人、オルトさんだけが、元大公の側に行こうとして、震える身体で床を這っていた。必死の形相で歯を食いしばり、〈父上、父上〉ってつぶやきながら。
オルトさんの姿を見ているうちに、わたしは、いろいろな情景を思い出していた。〈息子として愛せなくてすまなかった〉って、オルトさんに頭を下げたマチアス様とか。フェルトさんが、力を司る神霊さんの印を持っているって知ったときの、オルトさんの激情とか。ルルナお姉さんのために、命懸けでオルトさんを裏切ろうとした使者Bの決意とか。妬みと怒りと恐怖に歪んだ、ロザリーの顔とか。誘拐された子供たちを追っていた、総隊長さんたちの必死な様子とか。わたしに、ロザリーを覚えていてほしいっていったときの、校長先生の悲しそうな瞳とか……。
元大公の間近に迫った〈虜囚の鏡〉から、漆黒の光の帯が何本も放たれて、元大公の両手両足に巻きついた。抵抗もできず、声も出せず、元大公が、ずるずると鏡に飲み込まれている。身体ごと囚われるのか、魂だけが留められて、身体は返されてくるのか、わたしにはわからないけど、元大公が逃げられないことだけは、誰の目にも明らかだった。
クニツ様の神威に圧倒され、叫ぶ力さえ失ったオルトさんは、目から涙を溢れさせ、指先から血を流しながら、元大公に近づこうとしている。〈わたしも〉って。〈許されぬなら、わたしも共に〉って、唇が動いていて……わたしは、嫌だって思った。この神前裁判の結果が、こんな終わり方になったら嫌だって、なぜだかそう思ったんだ。強く、強く。
その瞬間、ふわふわと漂っていただけのわたしは、〈わたし〉の中へ吸い込まれていった。何が起こったのか、何が正しいのか、まったくわからなかったけど、気がついたら、〈わたし〉じゃないわたしは、五色の雲の階の上で、懇願していた。誓文を穢されたクニツ様や、神前裁判に力を貸してくれたたくさんの神霊さんたちに、額をこすりつけて、こう叫んでいたんだ。
「待ってください! お願いです! 元大公は、人に、わたしたちに、裁かせてください。鏡の中で魂を焼かれるより先に、元大公に、自分の罪を気づかせたいんです。元大公は、どうでもいいけど、そうじゃないと、きっと救われない人たちがいると思うんです。子供たちを取り返して、元大公たちの罪を明らかにして、共犯者にだって罪を償わせたい。それまで、元大公を連れていかないでほしいんです。お願いです、クニツ様! お願いです、神霊さん!」
必死に叫んでから、ようやく正気に戻ったわたしは、気を失いそうになった。だって、さっきまでの〈わたし〉とは、真逆のことをいっちゃったんだよ? 十四歳の平民の少女が、何を偉そうにいってるの? そもそも、神霊さんたちが決めたことに、真正面から反対しちゃったよ、わたし……。
自分のしでかしたことの、あまりの不敬に、ざざっと音を立てて血の気が引いていった。それでも、お願いを撤回しようとは思えなかった。怒られても仕方ないし、罰を与えられるかもしれないし、自分のいっていることが、正しいっていう自信もなかったけど、なけなしの勇気をかき集めて、わたしは、ひたすら額をこすりつけた。元大公のためなんかじゃなく、多分、人の子の誇りっていうもののために、どうかどうか、お願いします……。
ものすごく長い時間のように感じられた、痛いほどの沈黙の後、最初に動いたのは、スイシャク様だった。いつも側にいて、わたしを守ってくれる、大好きなスイシャク様。〈神秤の間〉の中空に、突如として現れた、神々しい純白の光球は、ゆらりゆらりと揺れながら、人とも見える形を作ると、辺り一面に響き渡る玉音で、例えようもなく荘厳な言霊を降ろしてくれたんだ。〈是〉って。
スイシャク様に続いて、真紅に煌めく光球となって顕現したアマツ様が、炎を吹き上げるご神鳥の姿に変わり、荘厳な言霊を降ろしてくれた。〈是〉って。
誓文を穢された、誰よりも怒っているはずのクニツ様も、太陽を思わせる黄金の光球となって顕現すると、世にも優美な龍に転じて、言霊を降ろしてくれた。仕方ないよねって苦笑している感じで、〈是〉って。
ありがたくて、尊くて、わたしが、知らずにぼろぼろと泣き始めると、それが引き金になったみたいに、数えきれないほどの言霊が、いっせいに天上から降り注いだ。
《是》
《《是》》
《《《是》》》
《《《《是》》》》
《《《《《是》》》》》
鈴の音のように清らかに、鐘の音のように荘厳に、響き合う言霊に満たされて、〈神秤の間〉が、目もくらむばかりの神威に溢れたとき、純白に発光するスイシャク様が、裁判官席のさらに上、もっとも高い位置にある貴賓席に向かって、静かに問いかけた。
《森羅万象八百万、遍く在りし神々は、雛が祈りを是と致す。御赦しあるか、□□□□□□□□□□□》
スイシャク様の玉音に応えて、するすると御簾が巻き上がり、何もない天空に足を踏み出したのは、レフ様だった。純白の装束も神々しく、銀色の瞳をご神鏡よりも美しく輝かせたレフ様は、数歩、宙を歩いて立ち止まり、わたしに優しい眼差しを向けながら、一言だけいった。〈諾〉って。
その瞬間、〈神秤の間〉で爆発した、あまりにもすさまじい神霊さんたちの歓喜の気配に、今度こそ気を失いながら、わたしは、そっと抱き上げてくれる力強い腕に、安心して身を任せた。
いつもわたしを抱きしめてくれる、お父さんの腕じゃない。それは、わたしが好きになった、わたしを好きになってくれた、わたしの大切な、レフ様の腕だったんだよ……。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
いつも『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』をお読みいただき、ありがとうございます。
今話にて、第4部が完結となります。
現在、著者の須尾見蓮さんは、『小説家になろう』での『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』の連載を一旦お休みされ、『神霊術少女チェルニ』の書籍版続刊作業、そして、別名義である菫乃薗ゑさんとして執筆している『フェオファーン聖譚曲』シリーズ書籍の執筆作業を行っています。
連載再開・第5部スタートの詳細な日程が決定次第、note及び公式Twitterなどでお知らせさせていただきます。
▼須尾見蓮さん公式Twitterはこちら
@suomi_ren
▼opsol book公式Twitterはこちら
@opsolbook
また、明日からは、『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』の外伝シリーズである、『神霊術少女チェルニ 往復書簡』をnoteにも投稿いたします。こちらもぜひ、お楽しみください!