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おばあちゃんのちらし寿司、おじいちゃんからのティッシュ

こんにちは、opsol bookのヤナガワです。

数年前、成人式を終え、振袖姿の写真を祖父母に見せに行った時のことです。

この日、初めて自分の運転で祖父母の家へ向かいました。

私は祖母が作るちらし寿司が大好きで、「何か作ろうか?」と聞かれると、必ずちらし寿司をお願いします。この日は、リクエストをするまでもなく、「ちらし寿司、作っておくからね」と準備をしてくれていました。

久しぶりに会った二人と小さなテーブルを囲み、普段の生活のこと、家族のこと、友人のことなど、祖母作のちらし寿司を食べながらいろいろな話をしました。祖父は無口な人なので、私との会話の9割が相槌でしたが。

祖母の作るちらし寿司には、錦糸卵、しいたけ、きゅうり、かまぼこ、にんじん、油揚げが入っています。お皿に盛り付けた後は、自分が必要な分だけ味付けのりをちぎって散らします。私はどちらかというと大量にのりを散らしたいタイプなのですが、欲望のままに行動してしまうと、味付けのり大量使用罪の容疑で家族から文句を言われてしまうのです。

しかし、ここにいるのは我がおじいさまとおばあさまであり、何ひとつ文句は言われません。もちろん、この場には私を含む三人しかいないので、告発する人もいません。しめしめ、やりたい放題だぜ。ということで、思う存分のりを散らしました。やはり、あるのとないのとじゃ全然違いますね。

昼食を食べ終えてから、本来の目的である写真を二人に渡しました。私は、写真撮影になると途端に顔が引きつり、お世辞にも写真うつりがいいタイプとはいえません。学生時代の集合写真では目を閉じてしまっている写真も多くありました。これまでの人生で、数えきれないほど「ちょっとだけまばたき我慢しようか!」とカメラ越しに言われています。

カメラアプリや加工技術がどんどん進化し、それに頼り切った生活をしていた私には、撮影スタジオで撮った写真を人様に見せるのは、少し抵抗がありました。たとえそれが身内であってもです。もちろん綺麗に撮ってくれてはいますが、そこには現実がはっきりと写っています。カメラアプリのように、極端に目が大きくなったり、顔がシュっとなったりすることはありません。ぎこちない笑顔+高画質の本来の自分というダブルコンボに、私のライフはもはや0です。

自信を持って見せられるような写真ではありませんでしたが、それでも、二人は写真を見てうれしそうに言葉を掛けてくれました。

別嬪さんやねえ。よう似合っとるよ。こっちの写真もええね。

ちょっぴり写りの悪い写真もあったはずなのに、二人は全ての写真を褒めてくれました。

弟が産まれて間もない頃、弟の体調の関係で母子ともに入院が必要になり、私は2か月ほど祖父母と一緒に暮らしていました。私は当時3歳くらいだったと思います。母と離れて寂しいと泣く私を励ますために、二人はとことん甘やかしてくれました。その結果、約3キロ太ったわけですが、それはまあ一旦置いておきましょう。その時のことは全く覚えていないものの、精一杯二人が私を可愛がってくれたことは、話を聞いているだけでも十分わかります。

大人になってから、昔のように祖父母に会いに行く時間はぐっと減りました。それでも、二人がくれる愛情はあの頃のままだということを、私はこの日、改めて知ったのです。

3時間ほど滞在し、そろそろ帰ることに。当時は丁度3月頃で、花粉症の私は、滞在中も鼻水がズルズルの状態でした。ティッシュを取っては鼻をかみ、またティッシュを取って鼻をかみ、の繰り返しです。

その様子を見た祖父は、「花粉症か?」と言うや否や、納戸へと向かっていきました。一体どうしたのだと納戸の方を見つめていると、そこから出てきた祖父の両手には、大量のボックスティッシュが。

何度も納戸と居間を行ったり来たり(納戸と居間は扉一枚で繋がっています)している祖父の手には、やはりボックスティッシュ。畳の上にこれでもかというほどのボックスティッシュが積まれていきます。

「これ、家に持って帰りな。まだ奥にもあるから」

そう言って、祖父は再び納戸へ向かい、ボックスティッシュを追加で持ってきました。

持っていきなと言ってくれたものの、ここにあるのは、祖父母宅のストック分のはず。さすがに「ラッキー! ありがとう!」とのんきに全てを貰っていくわけにもいきません。いいよいいよと遠慮をしても、素早い動作で祖母が紙袋を用意し、祖父はその中にボックスティッシュを詰めていきます。

結局、二人は膨大な量のボックスティッシュを持たせてくれました。お昼に食べたちらし寿司の残りと、お米も一緒に。

私は、車を祖父母宅から少し離れたところに停めていたため、祖父が軽トラで駐車場まで送ってくれることになりました。軽トラは二人乗りなので、祖母はスーパーカブで一緒に向かいます。

三人でお米やティッシュを私の車に運び終え、ついに帰宅の時間です。

たった3時間ではありましたが、それだけの時間でも、昔の思い出がたくさん蘇りました。

寝転びながら足をバタバタさせていたら障子を破ってしまい怒られたな、とか。襖に空いている穴に指を突っ込み、更に穴を広げたこととか。冬の朝でも勝手口から外に出て、井戸水で顔を洗ったこととか。祖母と従兄妹とお昼の散歩に出かけ、EXILEさんの楽曲の替え歌を歌ったりとか。そうそう、お散歩では猿を見かけたりもしました。祖母が後ろに手を組んで歩くので、それを真似して歩いてみたこともあります。「こっちのほうが楽な気がする!」とか言いながら。勝手に祖母用のドモホルンリンクルを拝借したことも、あったような、なかったような。寝室に繋がる引き戸で右手の人差し指を挟み、初めて真っ黒のドデカ血豆ができた時は、ドン引きした記憶もあります。

私が好きだと知っているから、わざわざちらし寿司を用意してくれた祖母。ただ花粉症で鼻水が出ているだけなのに、ありったけのボックスティッシュを持たせてくれた祖父。どれだけ時間が経っていても、やっぱり二人は私の大好きなおばあちゃんとおじいちゃんなのだと、改めて感じた一日でした。


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