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神霊術少女チェルニ〈連載版〉

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『小説家になろう』で大好評連載中! 須尾見蓮先生による『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』を、こちらからまとめて読むことができます。 ※本連載投稿は、『小説家になろう』に連載されてい…
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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-38

「〈神託の巫〉たるわたくしは、約を司りし御神霊、□□□□□□□□様の眷属にござります。尊き□□□□□□□□様の御命により、わたくしが□□□□□□□□様の依代となり、言霊を賜りまする。皆々、心してお聞きあれ」    自分のものだとは、とても思えない、荘厳な響きを帯びた声が、〈神秤の間〉を満たしていく。え? ええ? わたし、今まで一度も、こんな話し方をしたことはないよ? そこは文学少女だし、神霊術の関係で古語だって得意だから、やろうと思えばできるんだけど。  おまけに、ときどき発

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-37

〈手負いの獣の如く也〉  〈崩れゆく廃墟とも見ゆ〉    スイシャク様とアマツ様から、そう形容されたオルトさんは、うずくまっていた床から立ち上がり、今にも崩れ落ちそうな足取りで、証言台へと歩いていった。被疑者の席から証言台まで、距離にしたらわずかなのに、見ているわたしたちにとっても、オルトさん自身にとっても、遠くに感じられる歩みだった。  〈神秤の間〉に入ってきたときから、痩せてやつれて、別人のようになっていたオルトさんは、もう重病人にしか見えなかった。自分の息子であるアレン

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-36

〈おさらば〉     ミランさんが、そういった瞬間、足下に広がっていた魔術陣が、激しく明滅し始めた。青黒い光が、〈神秤の間〉に広がるにつれ、唇を吊り上げたミランさんの顔が、少しずつ揺らぎ始める。よりにもよって、ルーラ王国の神霊庁の奥の奥、神聖な〈神秤の間〉で、魔術を使おうとしているんだよ、ミランさんは!    〈神秤の間〉に集まっている傍聴の人たちは、突然の事態に、ものすごく混乱しているようだった。ある人は席から立ち上がり、ある人は悲鳴を上げ、ある人は隣の人の手を握り、ある人

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-35

 ご神秤の印を持つマチェク様の声は、〈神秤の間〉いっぱいに、朗々と響きわたった。荒々しいわけじゃないのに、罪のある人を鞭打つみたいな、重みと威厳のこもった声。名前を呼ばれた元大公騎士団長、今は一切の身分を凍結されているから、ただのバルナとしか呼ばれない人は、マチェク様の呼びかけに、応えることはなかった。  正確にいうと、アリアナお姉ちゃんの証言のあたりから、精神的に追いつめられちゃったんだろう。大きな身体を縮め、耳をふさぐような格好で、被疑者席の椅子の上にうずくまったままなん

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-34

 世にも可憐な美少女だったはずのアリアナお姉ちゃんが、威厳と気品に溢れた女王様に変身して、告発者の席に戻っていく。何をいっているのか、自分でも謎だと思うけど、そうとしかいいようがないくらい、このときのアリアナお姉ちゃんは、凛としていたんだよ。  アリアナお姉ちゃんの婚約者であるフェルトさんが、そんなお姉ちゃんをどう思うのか、ちょっと不安になって見てみると……わたしの心配なんて、全然、まったくむだだった。フェルトさんってば、男らしい顔を薔薇色に染めて、うっとりとアリアナお姉ちゃ

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-33

 初めて目にしたご神秤、御名〈銀光〉様の神威に、〈神秤の間〉にきた人たちが、揃って頭を下げたあと、マチェク様の声が、さらに朗々と響き渡った。   「続いて、新たなる告発者に移ろう。第一の告発者でもある、カペラ家長女、アリアナ・カペラ殿」 「はい」 「証言台に進まれよ」 「畏まりましてございます、マチェク猊下」    マチェク様が呼んだのは、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは、鈴を振ったみたいに可憐な声で返事をすると、告発者の席から立ち上がり、マチェク様と貴

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-32

 ここは、神前裁判の舞台となった、神霊庁の〈神秤の間〉。重々しくも厳かに、四度目の鐘の音が響き渡った後、いよいよ裁判が始まった。裁判官の役割を担う神使の一人、神器である〈神秤〉の印を持つ、クレメンス・ド・マチェク様が、最初に呼んだのは、フェルトさんの名前だった。    フェルトさんは、アリアナお姉ちゃんに微笑みかけてから、堂々と証言台に向かった。フェルトさんやお姉ちゃんたちが座っている、告発者のための席から、マチェク様が指し示した証言台に進み出て、フェルトさんは何回か礼をした

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-31

 ルーラ王国の大貴族中の大貴族にして、前の王弟殿下を祖父に持つ王族。子どもたちの誘拐事件の主犯かもしれない、アレクサンス・ティグネルト・ルーラ元大公は……まったく別人みたいな姿で、わたしたちの前に登場した。    元大公は、重い足を引きずるようにして、被疑者の先頭に立って歩いている。元大公が着ているのは、濃い目の灰色のシャツとズボンで、飾りは何もついていなかったけど、かなり上等な生地であることは、一目でわかった。髪もひげも綺麗に整えられているし、靴もぴかぴかに磨かれているし、

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-30

 どこまでも重々しく、荘厳な鐘の音が一度、神前裁判の舞台となる〈神秤の間〉に響き渡った。それまで、声をひそめてささやき合っていた、傍聴席の人たちが、ぴたりと口を閉ざし、椅子の上で姿勢を正す。  黒い御簾を下ろした小部屋から、〈神秤の間〉の様子をうかがっていた、わたしたちも、思わず緊張して、背筋を伸ばしちゃった。遠く長く余韻を残して、今も微かに鳴っている鐘の音は、そうせずにはいられないくらい、神々しい気配に満ちていたんだよ。    神前裁判に慣れないわたしのために、裁判の間中、

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-29

 純白の小袖と袴、純白に銀糸の刺繍の千早、髪には銀細工の前天冠をつけてもらって、わたしの装束は完成した。ちなみに、足下には絹の足袋と、純白に染めた鹿皮の浅沓を履くんだよ。  わたしが、〈神託の巫〉の宣旨を受けたとき、特別な装束なんかは、神霊庁で用意したいっていわれたんだけど、こうして着せてもらうと、なるほどなって思う。多分、ものすごく高価なんだろうし、特別も特別、どこに売っているのか見当もつかないくらいだから、神霊庁でしか揃えられないんだろう。    わたしは、アンナさんに片

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-28

 その朝は、どこまでも高く澄み切った秋晴れだった。純白の柔らかな羽毛と、真紅の艶やかな羽毛に、左右の肩口を暖められ、夢も見ずに安眠していたわたしは、誰に起こされるでもなく、すっきりと目を覚ました。  今日こそは、わたしが、強い予感を感じていた日。わたしにとっても、カペラ家にとっても、たくさんの貴族たちにとっても、王太子殿下にとっても、ルーラ王国にとっても……何だったら、世界中の国にとって、大きな分水嶺になるはずの日。神霊庁で行われる、重大な神前裁判の当日なんだ。    極上の

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-27

「畏れ多くも〈巫覡〉が対の御装束にて、この度の神前裁判を御照覧になられますこと、我ら神職一同、生涯の誉と感じ入ってございます」    神霊庁が誇る七人の神使の一人、神前裁判で重要な役割を務めるらしい、クレメンス・ド・マチェク様は、そういって深々と頭を下げた。他の誰でもない、十四歳の平民の少女であるチェルニ・カペラに。  わたしも、急いで礼を返したんだけど、頭の中は、クレメンス様の言葉でぐらぐらしていた。だって、わたしと、レフ様が、お揃いっぽい装束で、沢山の高位貴族が傍聴してい

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-26

 大成功のうちに〈勝負の食事会〉を終え、王都の家に帰ったとき、わたしたちを待っていたのは、神霊庁からの手紙だった。もちろん、無造作に郵便受けに入れられていたわけじゃなく、白木の郵便箱を捧げ持って、郵便馬車の配達員さんが、玄関前に直立していたんだけど。    神霊庁の手紙については、以前、ヴェル様に教えてもらったことがあった。ありとあらゆる神事を司る神霊庁だから、郵便一つをとっても、昔からの意味としきたりがあるんだって。  例えば、神使の位にある人が、神職として手紙を出す場合、

連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-25

〈天上天下に並びなく 四方万里に轟き渡る 菩薩の威光 弥栄 衆生を救いし観世音 大慈大悲の尊けれ〉    わたしの耳元で降ろされた、アマツ様の言霊は、やがて、誇らかで朗々とした響となって、部屋中を満たしていった。わたしは、言霊に込められた重さ……いわば、神威とでもいうべきものに圧倒されて、半ば意識を失いかけていた。本当に、それは何て巨大だったんだろう!    呆然として、ふらふらしながら立ちすくんでいた、わたしの身体を、純白の光の帯と、真紅の光の帯が、ぐるぐるっと巻き込んでく