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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 88通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 やった! やりましたよ、ネイラ様!

 いきなり、何のことかと思うかもしれませんが、うれしくて、思わず書いてしまいました。おじいちゃんの校長先生と一緒に、王立学院の名誉学院長だっていう、白いひげのおじいちゃん……クラルメ先生が来てくれて、入学試験の結果を教えてくれたんです。わたし、首席合格でした、ネイラ様!

 前の手紙にも書いたように、今日は、コンラッド猊下げいかのミル様とヴェル様が、王都の家を訪ねてくれました。神霊術の実技試験が終わった途端に、わたしが気を失ってしまったので、その後にどうなったか、情報を伝えたいっていうことでした。
 ミル様とヴェル様の話は、物騒ぶっそうというか、面倒というか、厄介やっかいというか……とにかく、あんまり知りたくない内容でした。ヨアニヤ王国やアイギス王国の将来なんて、十四歳の少女には、聞くだけで重圧がかかりますからね。(ミル様とヴェル様は、ネイラ様がいる限り、何があっても大丈夫だって、絶対的な自信を持っているようでした。何だかんだいって、わたしも、大船に乗った気がしています)

 そして、ミル様とヴェル様が、お父さんの手作りのマロングラッセを、おいしそうに食べながら、自分の家みたいにくつろいでいるところに、連れ立って訪ねてきてくれたのが、おじいちゃんの校長先生と、白いひげのクラルメ先生でした。
 クラルメ先生は、わたしが、主席合格だったことを教えてくれて、〈大変よく勉強されていますね〉〈素晴らしい出来栄できばえでした〉って、ほめてくれました。わたし、全教科、満点の首席だったんですって。
 これだけの点数が出せたんだから、ネイラ様たちの推薦がなくても、特待生で合格していたって聞かされて、本当にうれしかったです。推薦してくれたネイラ様に、恥をかかせないだけの結果を残したいと思っていたので、良かったです。(満点の首席合格は、ネイラ様以来だって教えてもらいました。おそろいですね!)

 クラルメ先生からは、わたしの神霊術の実技試験を、模範演技ということにさせてほしいって、お願いされてしまいました。〈神託しんたく〉の〈神降かみおろし〉を、採点なんてできないし、〈斎庭さにわ〉の奇跡を、採点対象として考えること自体が、不敬だからっていうことでした。
 〈斎庭〉の器となったわたしではなく、神霊さんたちへの不敬だっていうのなら、確かにその通りかもしれません。わたしとしても、これ以上目立ちたいなんて思っていないので、喜んで了解しました。実技試験の採点がなくても、わたしが首席合格だった事実は、変わらないそうですし。

 あの夏の日、キュレルの街の守備隊の総隊長さんが、王立学院からの手紙を持ってきてくれたときのことを、改めて思い出します。ネイラ様が、わたしを推薦してくれたから、王立学院が、特待生として受け入れるっていってくれて。それから、ほんの何ヶ月かの間に、たくさんの出来事があって……今、こうして手紙を書いていても、すごく不思議な気持ちになります。
 一つだけ、自信を持って断言できるのは、ネイラ様に出会えて、本当に幸せだっていうことです。ありがとうございます。

     合格の喜びに興奮している、チェルニ・カペラより

追伸/
 そして、何と、おじいちゃんの校長先生が、王立学院の先生になって、わたしに授業をしてくれるそうです。町立学校の下級生には申し訳ありませんが、ものすごくうれしいです。やった!!

追伸の追伸/
 喜びすぎて、書き忘れていました。また、次の手紙で会いましょうね!

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可憐なだけでなく、非常に優秀な少女である、チェルニ・カペラ様

 首席合格、おめでとう。喜びにあふれた、きみの手紙を読んでいると、わたしまで嬉しい気持ちになりました。王立学院の合格も、首席も、きみの実力です。きみが優秀であることも、余裕で合格することも、よくわかっていましたが、満点の首席とは、さすがに予想以上でした。
 わたしはもちろん、推薦者に名を連ねた人たちも、鼻が高いと思います。優秀であるところに、きみの価値があるわけではないけれど、きみの努力の成果だと考えると、素晴らしいですね。頑張ってくれて、本当にありがとう。

 実をいうと、ユーゼフ・バラン先生を、王立学院に招聘しょうへいする件は、事前に相談を受けていました。きみを推薦した人々の名と、〈神託しんたく〉の宣旨せんじ、さらには、神霊庁や〈黒夜こくや〉からの圧力もあり、チェルニ・カペラ嬢の教育は、王立学院の最重要課題になっているからです。
 きみの大好きな〈おじいちゃんの校長先生〉なら、教育者としても、きみの指導担当としても、間違いがないと思われたのでしょう。わたしも、きみの手紙から、バラン先生の人柄は理解していましたので、是非にと勧めていました。

 〈学会の反逆児〉と呼ばれ、王立学院の権威主義を嫌っていたバラン先生が、クラルメ先生からの要請に応じ、王立学院で教鞭きょうべんを取ってくれると聞いたときの、学院関係者の喜びは、大変なものでした。バラン先生に、きみの指導を一任いちにんし、自分たちは勉強だけを教えていればいい、などと考える不心得ふこころえな教師も、多かったのかもしれませんね。
 
 きみの手紙にもあったように、バラン先生という素晴らしい教育者を、町立学校から引き離すのは、キュレルの街の人々には、申し訳ない気持ちになります。きみが、〈おじいちゃんの校長先生〉が大好きだったように、多くの生徒が、素晴らしい薫陶くんとうを受けていたことでしょう。
 とはいえ、選択をしたのはバラン先生自身であり、先生の存在を必要としている生徒は、王立学院にも少なくありません。わたしたちは、バラン先生に感謝し、期待と共にきみの成長を見守りたいと思います。

 では、また、次の手紙で会いましょう。近い将来、わたしの口から、直接お祝いをいわせてくださいね。

     きみのことを、皆に自慢して歩きたい気分の、レフ・ティルグ・ネイラ