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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 22通目

レフ・ティルグ・ネイラ様。

 びっくりですよ、ネイラ様。いや、びっくりを通り越して、驚愕です。難しい言葉を使うと、驚天動地きょうてんどうちっていう感じです。ネイラ様ってば、ただの平民の少女に、何というものを贈ってくれたんですか!

 今日の夜、晩ご飯を食べ終わった頃のことです。食後のデザートに、大好きなチーズソースの焼きりんごを食べていたところに、紅い鳥のご分体が、荷物を届けてくれました。いつものネイラ様の手紙と一緒に、どこからか出してきた、可愛くリボンをかけられた紙包かみづつみを渡してくれたんです。
 ネイラ様が、前回の手紙に書いてくれたショートマフラーだって、すぐにわかりました。だって、小さな紙包からは、ちょっと尋常じゃないくらい濃密に、ご神霊の気配が漂っていて、ただの荷物じゃないことは、それこそ一目瞭然いちもくりょうぜんでしたから。

 お父さん達は、紅い鳥が運んでくれたことで、すぐにネイラ様からの荷物だって気がついたみたいです。お母さんとお姉ちゃんは、お揃いのエメラルドみたいな瞳を、きらきらと輝かせて、嬉しそうにわたしを見ていました。お父さんは、瀕死の重病人みたいに生気のない目をして、呆然としていました。
 お父さんが変だったので、少し心配になりましたが、お母さんがうなずいてくれたので、わたしは、大急ぎで残りの焼きリンゴを飲み込んで、自分の部屋に戻りました。だって、一人っきりで包みを開けたかったんです。

 嬉しさ半分、緊張半分で、わたしは慎重にリボンを解きました。(あのリボンって、誰が結んでくれたんですか?)
 中から出てきたのは、淡いピンクのショートマフラーでした。すごく優しい色で、手触りも最高に気持ち良くて、おまけにびっくりするくらい綺麗な編み上がりなんですけど!? 編み物が上手すぎませんかね、ネイラ様ってば。

 そして、サクラの花みたいに素敵な毛糸の中に、チカチカって、真紅の星みたいに小さくまたたいているのって、紅い鳥の羽根じゃないんですか?
 見ているだけで尊くて、とてつもなく強い力を感じるので、そうだろうなって思って。けっこう前の手紙で、紅い鳥の羽根を編み込んで……とか、書いてあった気がしますが、さすがに冗談だと思ってましたよ。
 王都の王立博物館で、年に一回、王城の宝物の一部が公開されますよね? わたしも、お父さん達と見に行ったことがあるんですが、そのときに展示されていた、いくつかの〈神器じんぎ〉より、ピンクの毛糸のショートマフラーの方が、圧倒的に神々しいような気がするんですけど……。

 ここまで書いてから、ちゃんとお礼をいっていないことに気づきました。すみません、ネイラ様。あまりにもすごいものをいただいて、動転しちゃってました。
 十四歳の少女が、こんなマフラーを持っていていいのかっていう不安はさておき(おいといていいんでしょうか?)、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
 ため息が出るくらい素敵で、うっとりするくらい可愛いマフラーです。何よりも、ネイラ様からの贈り物で、ネイラ様がわざわざ作ってくださったんだって思ったら、嬉しくて嬉しくて、ちょっと泣いてしまいました。チェルニ・カペラの一生の宝物にします。本当にありがとうございました!

 この手紙と一緒に、マロングラッセを送ります。お父さんが作ってくれたもので、お返しにはならないので、単なるおすそ分けです。よかったら、召し上がってください。

 それから、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんが、紙包に結んであった真紅のリボンを使って、髪留めを作ってくれるそうなので、そちらも楽しみです。

 では、また。次の手紙でお会いしましょうね!

     汚すのが怖くて、このマフラーを使う勇気を持てそうにない、チェルニ・カペラより

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素晴らしい〈目〉を持っている、チェルニ・カペラ様

 サクラ色のショートマフラーが、無事にきみの手元に届いて、何よりです。気に入ってもらえたようで、安心しました。(リボンは副官に用意してもらって、わたしが結びました)

 きみには叱られましたが、あのマフラーが神気しんきを宿したものになってしまったのは、わたしではなく、主に紅い鳥の所為せいですからね。あの神鳥は、きみのことが大変に気に入っていて、〈加護をかけさせろ〉といってきかなかったのです。

 真紅の星が瞬くかのごとく、毛糸のなかできらめいているのは、紅い鳥の尾羽を糸にしたものです。神鳥にいわせると、きみの髪が〈尾羽の中段の根元の色目に似ている〉らしく、どうしてもその一本を使えというのです。ご丁寧なことに、羊を司る神霊に頼んで、さっさと尾羽を毛糸に加工してきたのですから、わたしも断れませんでした。
 その紅い毛糸は、ほんの少ししか使いませんでしたので、あの程度の神気だったともいえます。全部使っていたら、王家の宝物殿の奥にある、〈神御衣かむみそ〉に匹敵する御物ぎょぶつになっていたかもしれませんね。

 とはいえ、普通の人の目には、紅い煌めきは見えないのですよ? 何となく尊い感じがする、という程度のことは感じても、神気を帯びたものだとは気づかず、紅い色が混じっていることも、ほとんどの人にはわからないのです。(神霊から強い加護を受けた人なら、神気は感じ取れるでしょうから、きみのご家族であれば、気がつくかもしれませんね)

 あのショートマフラーは、きみが風邪をひいたりしないように、日常的に使ってほしいと思って作りました。神鳥の加護は余分でしたけれど、護りが厚くなるのは、悪いことではありませんからね。
 何も気にせず、どうか気軽に使ってください。毛糸はまだまだ余っているので、汚してしまっても、すぐに代わりを作りますので。

 それから、マロングラッセを送ってくれて、どうもありがとう。この手紙を書く前に、早速いただきました。きみが勧めてくれたので、熱くて濃い紅茶と一緒に。
 一目見ただけで、美味しいことのわかる菓子でした。香りも素晴らしく、口に入れた瞬間に、芳醇な洋酒の風味と、栗の持つ野性味が、ふわりと立ち上ってきました。
 もちろん、味も極上で、栗の味を生かしたほのかな甘味は、あまり菓子が好きではないわたしにも、とても美味しく感じられました。

 きみの父上は、本当に素晴らしい腕前を持っておられるのですね。〈野ばら亭〉にお邪魔する日が、ますます楽しみです。ありがとう。

 では、また、次の手紙で会いましょうね。

     泣くほど喜んでもらえて、とても幸せな気分になった、レフ・ティルグ・ネイラ

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