連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 2-19
ヴェル様に連れてきてもらった御神鏡の世界で、最初に教えられたのは、〈虜囚の鏡〉のことだった。アリアナお姉ちゃんの使っている、薔薇の縁飾りのついた手鏡にそっくりな、可愛らしい鏡。でも、その小さな手鏡は、わたしの家や〈野ばら亭〉への侵入者の魂を、その黒い鏡面の中に閉じ込めてしまえるんだって。
ヴェル様は、わたしを安心させるように、優しく微笑みながらいった。
「この場にある〈虜囚の鏡〉は、罪なき者には害がありませんので、何も怖がることはありませんよ、チェルニちゃん。我がルーラ王国は、御神霊の守護を賜る〈神霊王国〉であり、他国とは比べ物にならないほど平和で、治安も保たれています。悪しきことを行えば、〈神去り〉となって、御神霊の印を失うかもしれないのですからね。〈虜囚の鏡〉を憚らなくてはならない者は、決して多くはありません」
うん。それは、ヴェル様のいう通りだと思う。わたしたち、ルーラ王国の国民は、ほんの子供の頃から、繰り返し繰り返し、何度も教えられるんだ。〈神霊さんに去られるような人間になっちゃいけない。誰が見ていなくても、神霊さんは見ているよ〉って。だから〈正しく生きなさい〉って。
町立学校の教科書には、昔の人が作ったらしい詩歌が、必ず太い文字で書かれていて、わたしたちは、これを暗唱しながら育つんだよ。
『神去りて捨てらるる身の寄る辺なき 天にも地にも生きる瀬もなし』
大抵のルーラ国民は、神霊さんに見捨てられないように、自分から罪を犯そうとはしない。他の国から見たら、奇跡的だっていわれるくらい、悪いことをする人が少ないのは、わたしたちがいつも神霊さんに見られているって、知っているからなんだろう。
「とはいえ、人が人である限り、悪しき心に囚われる者は存在します。自分だけは、神去りになどならないのだと思い込んで、悪行を為すのです。この〈鏡界〉に浮かぶ黒い鏡の中には、人の法では裁けないほどの罪を犯したものの魂が、それぞれに閉じ込められているのです。たとえば、このように」
そういって、ヴェル様が小さく印を切ると、両手で抱えるくらいの大きさのある鏡が、音もなく降ってきた。立派な縁飾りが彫られていて、宝石っぽい石までついている、ものすごく高そうな鏡だった。
黒い鏡面を見ると、うねうねうねうね、何かがのたうち回っている。もっと、じっと目を凝らして見ると、ほのかに黒い光を放つ鏡面に、人の顔みたいなものが、ぼんやりと浮かび上がってきた。すごく苦しそうで、とっても怒っている、男の人の顔だったと思う。
びっくりして、怖くって、思わず叫び出しそうになって、腕の中のスイシャク様をぎゅっと抱きしめると、とたんに厳かなイメージが送られてきた。〈其は我らが眷属にして、八百万の守護の内。現世神世の何方にても、害すること能わず〉〈これなる鏡に閉じ込められしは、《妄執の簒奪者》の魂にして、八百余年の禊と為す〉って。
ヴェル様は、怖がるわたしをなだめるみたいに、穏やかな口調で、ちっとも穏やかじゃないことをいった。
「驚かせてしまって、申し訳ありません、チェルニちゃん。この鏡には、六百年ほど前に、兄である国王陛下の毒殺を行った、王弟の魂が捕われているのです。もう定まった過去の遺物ですので、我々に害をなす力はありませんよ。ルーラ王国の正史では、何ひとつ触れられておらず、国王陛下は病没なさったことになっていますが、国の中枢にいる者にとっては、よく真相を知られた重大事件です。この王弟は、兄である国王への妄執ともいえる嫉妬心に囚われ、王位を簒奪するために、毒を飼ったのだといわれています」
ひいぃ。だから、ヴェル様ってば、十四歳になったばっかりの平民の少女に、王国の重要機密を漏らさないでほしいんだって。
さすがにちょっとだけ腹が立ったから、わたしの目をのぞき込んできたヴェル様を、思わずにらんじゃったんだけど、心の中ではひとつ気づいていたことがあった。
わたしたちの暮らすルーラ王国は、立派な王家が治める国で、優しい人ばっかりで、いつでも平和で、神霊さんに守られているんだって思っていた。わたしは、ちょっと神霊術が得意で、勉強ができるだけの少女で、愛情いっぱいの家族に恵まれて、元気に毎日を過ごしていた。これから先も、そんな生活が続いていくんだって、何の根拠もなく信じていた。
でも、もしかしたら、この世界は、わたしが見ているだけのものじゃないのかもしれないんだね。
クローゼ子爵家の人たちは、一族のほとんどが神去りになった。若くて美人のカリナさんは、胸元から蛇を三匹も生やしているのに、それに気づきもしない。孤児院の子供たちは、外国の貴族に拐われて、まだ助けられていない。わたしの目に映らないだけで、悪いことをしている人も、悲しみに囚われている人も、怒りに我を忘れている人も、きっとたくさんいるんだろう。
大好きなお父さんとお母さんは、わたしの目に美しいものばかり見せてくれたけど、これからわたしが大人になって、もっと広い世界に出て行ったら、美しくないものも、たくさん見ていくことになるんだろうか。
夜空の星みたいに瞬ている、満天の鏡を見上げて、わたしは、やっぱりネイラ様の瞳を思い出した。
自分でいうのもなんだけど、無邪気な少女だったチェルニ・カペラは、ここ最近、激流に飲み込まれた木の葉みたいに、きりきり振り回される毎日を送っている。わたしは、ネイラ様の役に立つ人になるって決めたから、このとんでもない経験も、そのための道筋だったらいいのにな……。
そんなふうに、わたしがちょっとしんみりしていると、スイシャク様が、ひときわ勢いよく鼻息を吹いて、強いイメージを送ってきた。ふふふっっす、ふふふっっす。ヴェル様に、古い〈鬼哭の鏡〉を一枚、召喚させなさいって。
「今、スイシャク様からヴェル様へ、ご伝言が伝わってきました。お話してもいいですか、ヴェル様?」
「もちろんですよ、チェルニちゃん。尊き御神鳥は、何と仰せなのでございますか?」
「古い〈鬼哭の鏡〉を一枚、召喚しなさいっておっしゃってます」
ヴェル様は、一瞬だけ目を見開いて、すぐに大きくうなずいた。そして、指先を振って、〈妄執の簒奪者の鏡〉を空の彼方に消し飛ばすと、今度は丁寧に印を切って、新しい鏡を呼び出したんだ。
鏡の夜空から静かに降ってきたのは、縁が欠けてぼろぼろになった、古ぼけた鏡だった。正直なところ、すぐにごみに出したいくらい汚くて、みすぼらしかったけど、問題はそんなことじゃなかった。
両手に乗るくらいの大きさの鏡は、もう真っ黒じゃなくて、濃い灰色に煤けて、一切の輝きを失っていた。そして、その鏡からは、ぽたりぽたりと、真っ赤な血が滴っていたんだよ。
煤けた灰色の鏡面からにじみ出る、痛いほどに紅い鮮血は、欠けた縁を伝ってこぼれ落ちると、紅い霧になって消えていく。
どこからどう見ても、怖くて不気味な光景のはずなのに、わたしが感じたのは哀しみだった。見ていて苦しくなるくらい、ぼろぼろになった〈鬼哭の鏡〉が、かわいそうでかわいそうでしょうがなかった。
自然に涙が浮かんで、目の前がにじんできちゃったわたしに、ヴェル様がそっと教えてくれた。
「御神鏡の印をいただいた私には、一枚一枚の鏡の意味が、おのずと理解されるのですよ、チェルニちゃん。この鏡は、愛娘を失った母の魂を、数百年にわたって封じた鏡です。どのようにして娘を失ったのか、チェルニちゃんにお話するのは控えましょう。ただ、あまりにも悲惨な運命に見舞われた娘を悼み、犯人たちを憎み尽くした母親が、血の涙を流しながら〈鬼成り〉してしまったのです。母親は、娘の仇を討ちました。けれど、復讐の後も、激しい憎しみに囚われ続けた魂は、自身も穢れに堕ち、鏡の虜囚となったのです」
〈鬼哭の鏡〉は、二度三度、ゆっくりと揺らめいた。まるで、ヴェル様の言葉に呼応するみたい。わたしが、それを見つめていると、スイシャク様とアマツ様が、またしても強いイメージを送ってきた。
〈定めし禊の刻を越えても、哀しき鬼哭の痛苦は癒えず〉〈彼の鏡に我が慈悲を伝えよ〉〈掬い、援い、救へ〉って。
スイシャク様とアマツ様は、わたしに〈鬼哭の鏡〉を助けさせたいんだね……って、ちょっと待って。どう考えたって無理でしょう、そんなこと?
◆
スイシャク様とアマツ様は、とってもわたしに優しいけど、一面ではけっこう厳しいと思う。ただの十四歳の少女に、〈鬼哭の鏡〉を助けるなんてこと、できるはずがないのに、腕の中と肩の上から、どんどん圧力をかけてくるんだよ。
〈鬼哭の鏡〉は、もう何百年も苦しんできて、罪は償っているんだから、自分が赦され、救われていることを教えてあげなさい。〈鬼哭の鏡〉が、自分の怨みと哀しみから、少しでも目をそらしてくれれば、それで十分だからって。
本当に仕方なく、〈鬼哭の鏡〉に目を向けると、ぼろぼろのみすぼらしい鏡は、ぽたりぽたりと血の涙を流しながら、じっとわたしを見ていた。変なことをいってるって、自分でも思うけど、それは〈見ている〉としかいいようのない感覚だった。
わたしが少女で、誰かの娘っていわれる存在だから、気になったのかもしれない。そして、そう考えた途端に、まるで心臓をぎゅっとつかまれたみたいに、苦しくて苦しくてたまらなくなったんだ。
だって、もしも、わたしやアリアナお姉ちゃんが死んじゃったら、わたしの大好きなお母さんは、気が狂うくらい悲しむだろう。それが、誰かに酷い目にあわされて、殺されたんだとしたら、わたしのお母さんも鬼になる。わたしやアリアナお姉ちゃんが、どんなにやめてほしいと思っても、お母さんは必ず鬼になるだろう。
〈鬼哭の鏡〉は、まるでわたしの心を読んだみたいに、ひっそりと揺れていた。鏡の中の魂は、きっと優しいお母さんで、〈鬼成り〉してしまうくらい、娘さんのことが大切だったんだろう。わたしにできることだったら、そんな人を、ほんの一瞬でも慰めたい……。
そう思った瞬間、印をもらったばかりの神霊さんのことが、ふいに頭に浮かんで、わたしの口は、勝手に詠唱を始めていたんだ。
「鈴を司る神霊さん。哀しみに心を閉ざしている〈鬼哭の鏡〉に、救済の音を響かせてほしいんです。嫌でも耳に入るくらいに、大きな音を鳴らしましょうよ。対価は、わたしの魔力を必要なだけ。足りなかったら、わたしの髪を好きなだけ」
そうして、わたしは新しい印を切った。初めて使う印だけど、まったく戸惑いはなかった。ただ、なんとなく、鈴の神霊術だけだと届かないかもしれないなって思ったら、わたしの口はまたしても、勝手に詠唱を続けていた。
「塩を司る神霊さん。救済の鈴の音が、大きく大きく響くように、この場を清めてほしいんです。空から落ちる雪みたいに、浄めの塩を降らせましょうよ。わたしの魔力を対価にして、足らなかったら髪をどうぞ」
もう一度、今度は塩の神霊さんにもらった印を切った。鈴の神霊さんの印と同じく、初めて使う印だったけど、生まれたときから身に備わっていたみたいに、自由に使うことができた。
わたしが印を切り終わると同時に、無数の鏡が輝く空から、純白の雪みたいな塩が降り始めた。きらきらきらきら、きらきらきらきら、輝きながら降ってくる。広大な〈鏡界〉のすみずみまで届くくらいの、それはそれは圧倒的な白だった。
なんて綺麗なんだろうって、感動して言葉を失っていると、今度はどこからともなく、鈴の音が聞こえてきた。ちりんちりんって、可愛いはずの音なのに、何重にも重なり合う音色は、鏡の世界を満たすくらいの音量で響き渡った。これが荘厳っていうことなんだって、自然に思ったよ。
〈鬼哭の鏡〉は、最初はなんの反応もなく、血の涙を流し続けていた。でも、雪みたいに降る塩が、灰色の鏡面にかかると、そこがきらきらって光って、一粒の分だけずつ白くなっていくんだ。
鈴の音も、〈鬼哭の鏡〉の鏡面が、音を遮断しているみたいな感じだったのに、いつの間にか共鳴するようになっていた。塩一粒の分だけ、白くなったところから、次々に音が吸い込まれていったから、きっと鏡面の中で浄めの音を響かせていたんだろう。
どのくらいの時間が経ったのか、気がついたときには、塩も鈴の音も消えていて、鏡からにじみ出る血も止まっていた。まだまだ、鏡面のほとんどはくすんだ灰色のままだったけど、胸が苦しくなるほどの哀しみは、もう〈鬼哭の鏡〉から拭い去られていた。少なくとも、わたしにはそう思えた。
スイシャク様とアマツ様は、おめでたい紅白の光でわたしをぐるぐる巻きにしながら、大喜びのイメージを送ってくれた。〈重畳、重畳〉〈我らが□□□□の得難きこと〉〈哀しき《鬼哭の鏡》に、慰めが訪れん〉って。
〈鬼哭の鏡〉に閉じ込められたお母さんが、ほんのちょっぴりでも慰められたのであれば、わたしも本当に嬉しい。
それにしても、鈴を司る神霊さんと、塩を司る神霊さんって、大きな浄めの力を持っていたんだね。
鈴と塩の神霊術とか、わりと意味がわからないって思っていて、ごめんなさい。わたしってば、塩の神霊さんにお願いして、豚肉の塩釜蒸しを作ろうとか思ってたよ……。
皆んなに内緒で、こっそり反省していると、わたしの名前を優しく呼ぶ声がした。振り向くと、目を赤く潤ませたヴェル様が、わたしに微笑みかけていたんだ。
そして、国王陛下にも膝をつかないはずの、神霊庁の神使であるヴェル様は、流れるみたいに優雅な動作で、わたしに向かって片膝をついた。胸に抱っこしたスイシャク様や、頬にすりすりしているアマツ様じゃなく、キュレルの街の十四歳の平民の少女である、わたし、チェルニ・カペラ一人に向かって。
「ありがとうございます、チェルニちゃん。あの《鬼哭の鏡》は、わたくしの胸にも痛い程に、苦しみ悶えていたのです。お救いいただきましたこと、心より御礼申し上げます」
「うわぁ! やめてください、ヴェル様! どうしてひざまずいたりしてるんですか!」
わたしは、大慌てで悲鳴を上げた。スイシャク様とアマツ様が離れてくれないから、引っ張って立ってもらうわけにもいかなくて、どうしようもなかったんだ。
「わたくしに力をお貸しくださっている《御神鏡》も、ことの他お喜びでございます。かの鏡の他にも、浄化の慈悲を受けた鏡はございましょう。誠にありがたいことでございます」
「わたしなんて、鈴を司る神霊さんと、塩を司る神霊さんに、お願いしただけですから! スイシャク様とアマツ様の、いう通りにしただけですから! とにかく、立ってくださいってば、ヴェル様!」
「そうはおっしゃいますが、我が師がひざまずいておられるものを、弟子であるわたくしが、立っているわけにはいかないのですよ、チェルニちゃん」
「は? なんのことですか、ヴェル様?」
「どうぞ、後ろをご覧ください。わたくしの師が、チェルニちゃんにご挨拶をさせていただきたいそうですので」
ヴェル様にいわれて、急いで振り返ると、一体いつの間に現れたのか、そこには巨大な鏡が煌々(こうこう)と輝いていた。わたしの身長を超えるくらいの、とっても大きくて、とっても立派な鏡だった。
鏡の中に映っていたのは、どこかのお屋敷の部屋みたいで、わたしの目でもわかるくらい、上品で高級そうに見えた。そして、綺麗な銀色の髪をした高齢の男の人が、わたしに向かって、鏡の中から片膝をついていたんだよ。
その男の人は、おじいちゃんっていうにはちょっとだけ若くて、思わず頭を下げたくなるくらいの威厳と、甘えて近寄りたくなるような優しさを合わせ持っていた。わたしみたいな少女にも、ちゃんとわかる。きっとこういう人のことを、〈徳が高い〉っていうんだろう。
「その大きな鏡は、神霊庁の一室にかけられた鏡と、表裏一体をなすもの。鏡を通して、はるか離れた場所とつながり合うことも、《鏡渡》の能力のひとつなのです。そこにおられるのは、エミール・パレ・コンラッド猊下ですよ、チェルニちゃん」
ヴェル様が、平然と紹介してくれた言葉を聞いて、わたしは血の気が引くのを感じた。比喩ではなく、本当に。だって、エミール・パレ・コンラッド猊下って、さっき教えてもらったばっかりの、神霊庁の大神使様じゃないの!
コンラッド猊下は、パカッと口を開けたままのわたしに、柔らかく微笑みかけて、鏡の中からこうおっしゃった。
「お初にお目にかかります、お嬢様。拝謁の栄に浴しましたこと、恐悦至極に存じます。パヴェルの招きにより、先ほどの浄めの儀を拝見させていただきました。誠にありがたく、喜ばしきことでございました」
優しい笑顔に、ようやく正気に返ったわたしは、即座にひざまずいた。腕にすごい力が入ったみたいで、スイシャク様はふすふす怒ってるし、振り落としそうになったアマツ様からは、強めに頭突きをされたけど、それどころじゃないんだってば。
「あの、初めてお目にかかります。チェルニ・カペラ、十四歳です。お会いできて、とっても光栄です。ヴェル様には、大変お世話になっています。ありがとうございます、コンラッド猊下」
「ほほ。御二柱の眷属たる御方は、なんともお可愛らしいことですね。パヴェルのことは、ヴェル様と呼んでくださっているそうですね。わたくしのことは、ミルとお呼びくださいませ。わたくしも、パヴェルにならって、チェルニちゃんとお呼びすることを、お許しくださいませんか?」
「……。畏まりました、ミル猊下」
「ミルですよ、チェルニちゃん」
「……ミル様」
「ありがとうございます、チェルニちゃん。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
うん。コンラッド猊下ってば、さすがにヴェル様のお師匠様だね。優しいところも、部分的に押しが強いところも、そっくりだよ。
御神鏡の神秘的な〈鏡界〉の中で、二柱の神霊さんの御分体と、神霊庁の大神使様と神使様に囲まれて、わたしがちょっとだけ呆然としちゃったのは、仕方がないことだったと思うんだ。
クローゼ子爵家に罠を張って二日目の夜は、十四歳の少女には濃密すぎる出会いをもたらして、ようやく、ようやく終わりを告げようとしていた……。