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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-4

 新しい王都の家の応接間は、十人以上の人がゆったりと座れるくらい広々としている。〈野ばら亭〉の向かいに建っている、キュレルの街の家ならともかく、王都でこんな広間は必要ないんじゃないのって思ったんだけど、全然、まったく、そんなことはなかった。ネイラ侯爵家からの、きゅっ、求婚のお使者をお迎えしたら、もう窮屈きゅうくつなくらいだった。ヴェル様にマルティノ様、ネイラ侯爵家とロドニカ公爵家の家令さんに加えて、それぞれの従者さんたちまでいるんだから、当然といえば当然だろう。
 そもそも、四人のお使者の人たちって、揃って存在感があるというか、見るからに只者ただものじゃない雰囲気をかもし出している。うちの応接間に置かれている椅子に、びしっと背筋を伸ばして座っているだけで、気品とか威厳とか優雅さを感じさせるんだよ。貴族ってすごい……と思ったけど、元クローゼ子爵や元大公なんて、単に偉そうなだけだったから、貴族がすごいんじゃなくて、ヴェル様たちがすごいんだね、きっと。
 
 四人のお使者の中で、最初に口を開いたのはヴェル様だった。ヴェル様は、さっきまでの満面の笑みを消して、すっごく真面目な顔でいった。
 
「今朝ほどは、突然、お邪魔をいたしまして、誠に申し訳ございませんでした、カペラ殿。我らの無礼にもかかわらず、早々にお手紙を頂戴いたしましたこと、大変ありがたく存じます。つきましては、今後のお話をさせていただきたく、改めてお願い申し上げます」
「ご丁寧なお言葉を頂戴し、おそれ多うございます、オルソン猊下げいか。こちらこそ、再度のご訪問をたまわり、恐縮でございます。我が娘、チェルニと共に、改めてお話をお聞かせいただきたく、お願い申し上げます」
 
 うわ。お父さんもヴェル様も、すっごく他人行儀な感じで話してるよ。ヴェル様は、めずらしく緊張しているみたいに見えるし、お父さんってば、また瞳が硝子がらす玉になってるし。これが、大人の社交辞令ってものなんだろうか?
 わたしが首を傾げていると、ヴェル様が、ちらっとわたしに視線を移してから、もう一度お父さんにいった。
 
「早速ではございますが、最初にわたくし、レフヴォレフ・ティルグ・ネイラ様の執事を拝命しております、パヴェル・ノア・オルソンより、お話を申し上げます。我が主人たるレフヴォレフ・ティルグ・ネイラ様は、生涯にただお一人の方として、チェルニ・カペラ嬢との婚姻をお望みであり、チェルニ嬢がご成人になられるまでは、ご婚約者として、節度ある交流を持たせていただきたいと、お考えでございます」
「……今の猊下のお言葉が、当家からお申し入れをさせていただいた、僭越せんえつなお願いへのご返答ということでしょうか? ネイラ様ほどのお立場の方に、あまりにも無礼な条件だと思うのですが」
 
 お父さんは、苦虫にがむしを噛み潰したみたいな顔で、ヴェル様を見た。この〈苦虫を噛み潰した〉っていう表現は、小説なんかによく出てくるけど、考えてみたら変だよね? 噛んだら苦そうな虫とかって、わりと気持ち悪いし。
 ヴェル様は、いつもみたいに受け流さず、ものすごく真剣な瞳でお父さんを見つめ、わたしにもうなずきかけてくれた。
 
「無礼だなどと、滅相めっそうもない。チェルニ・カペラ様は、尊き〈神託しんたく〉にして、いと高きおん神々のご眷属けんぞくであられます。その御方おんかたのお父君が、愛しきご令嬢のお幸せのために、約束をお求めになられるのは、当然でございましょう。そして、我が主人も、カペラ殿の条件を至極しごく当然のものとお考えになっておられます」
「こっ、婚姻は、娘の成人後。それまでの交流は、厳しく節度を守ったものにしていただきたいのです。そして、婚約中も結婚後も、他の女性をお求めになられた瞬間に、婚約の破棄、もしくは離縁をしていただきたい。たとえ娘が嫌がろうと、それだけは譲れません。よろしいのですか、猊下? 高位貴族であられれば、後継者を得るためにも、側室を持たれることを、とがめられはいたしませんでしょう。それを、名もなき平民の要求で、お約束なされるのですか? 我が娘が、〈神託の巫〉の宣旨せんじたまわったとはいえ、非常識な要求でございましょう?」
「とんでもない。我が主人は、カペラ殿が出された条件をお聞きになり、大変に納得しておられました。と申しますか、カペラ殿がお求めになられる以前に、ご自身がそうなさるおつもりでおられました。元々、ご令嬢が王立学院をご卒業になるまでは、お会いにはならず、文通だけを続けようとお考えだったのですから。側室もしくはそれに類する女性などは、論外でございますし、何の問題もございません」
「……左様でございますか……」
「お気持ちは、よくわかっておりますよ、カペラ殿。2人のご令嬢に、いかに深い愛情を注いでおられるか、わたくしも存じ上げております。大丈夫です。令嬢がご成人なされるまで四年、少なくともその間は、ご両親の下でゆっくりとお過ごしになられませ。また、我が主人は、貴族などという意識にとらわれぬ御方でございますので、ご婚姻の後もご自由に、大切なご家族と交流していただけばよろしいかと存じます。むしろ他の方に嫁がれるよりは、お会いになられる機会が、かえって増えるのではございませんか?」
「……少なくとも四年……四年……その後も自由に……会える……機会が増える……」
 
 あ、だめだ。お父さんってば、硝子玉の瞳のまま、ヴェル様の言葉を反復するだけになっちゃってるよ。ヴェル様はヴェル様で、にんまりと微笑んでるし。詐欺師にだまされる瞬間って、こんな感じなのかな? レフ様は、誰に対しても嘘なんてつかないし、ヴェル様も、わたしたちを騙したりはしないだろうけど。
 
 しばらくの間、何かをつぶやいてから、お父さんは正気に戻ったみたいだった。にらんでいるのかっていうくらい、真剣な瞳でヴェル様を見つめて、重々しい声でいったんだ。
 
「畏まりました、猊下。もともと、わたくしの条件さえ受け入れていただけるのでしたら、了諾りょうだく申し上げるとお伝えしております。只今ただいまの猊下のお言葉は、ネイラ様お一方ひとかたではなく、ネイラ侯爵家のご総意そういと受け止めさせていただいても、よろしゅうございましょうか?」
おっしゃる通りです、カペラ殿。それでよろしいのですね、シルベル子爵?」
 
 ヴェル様は、横に座っている銀縁ぎんぶち眼鏡の男の人にいった。すごく上品で賢そうな、ネイラ侯爵家の家令だっていう人。ちなみに、家令っていうのは、王家や王族、高位貴族につかえていて、お金の管理まで全部任されている最上位職の人なんだって。ヴェル様が、家令じゃなく執事なのは、まだレフ様が侯爵位を継いでいないことと、大きなお金は侯爵家が管理しているかららしい。ヴェル様が、〈野ばら亭〉に泊まってくれている間に、教えてもらったんだよ。
 ネイラ侯爵家の家令であるシルベル子爵は、大きくうなずいてから、はっきりと断言してくれた。
 
「仰せの通りでございます、猊下。ネイラ侯爵家では、マルーク・カペラ殿のお申し出を、やはり当然のものとして受け止め、全面的に同意いたしております。正式な婚約の締結ていけつに際しては、神霊庁に仲立ちをお願いし、誓約せいやくさせていただくのも、やぶさかではないとのことでございます」
「横から申し訳ございません。一つ、ご質問をさせていただきましても、よろしいでしょうか、シルベル子爵閣下」
「もちろんでございます、奥方おくがた。何なりとおたずねくださいませ」
「わたくしの夫は、とても確認できないというか、意識に上らせることもできないと思われますので、率直にお尋ねいたします。もし、婚姻後、年数を経ても子供ができなかった場合は、どうなさいますの?」
 
 おっ、おっ、お母さん何をいい出すのさ!? こっ、こっ、子供とか、想像したこともなかったよ。レフ様は大貴族で、一人っ子だから、後継あとつぎがいないと困るのはわかるけど……十四の娘の母親としては、あんまりな質問じゃない?
 わたしが、真っ赤になって硬直していると、ごごんって、すっごい音がした。お父さんが、勢い良く机に額をぶつけて、そのまま突っ伏しちゃったんだよ。本当にすごい音だったけど、大丈夫なの、お父さん?
 
 わたしが心配する間もなく、アリアナお姉ちゃんが、すかさず印を切り、頭痛を司る神霊さんに向かって詠唱した。〈傷心のお父さんの頭痛を治してください〉って。すぐに小さな黄緑色の光球が現れて、お父さんの頭の周りをくるくる回ってくれたから、大丈夫なんだろう、多分。わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんは、素晴らしく優秀な神霊術の使い手なんだよ。
 
 シルベル子爵は、突っ伏したままのお父さんに、生温かい眼差しを注ぎ、わたしに向かって微笑んでから、堂々と宣言した。
 
「何ら問題はございません、奥方。カペラ殿も、ご理解くださいませ。我らがネイラ侯爵家では、この世の太陽にして、人の定めし身位しんいを越えた志尊しそん御方様おんかたさまが、ご誕生遊ばされましたおりより、〈《神威の覡》を守護するべし〉との天命を授かっております。ネイラ侯爵家にとって、レフヴォレフ様のご意向のみが尊く、家の存続のごとき、ものの数ではございません。そもそも、ご令嬢と出会われる以前のレフ様は、数多あまたの令嬢方に一切の関心を示されませんでしたので、婚姻などはなきものと思っておりましたので」
「まあ。そういっていただけると、わたくしどもも安心ですわ。何度も確認させていただいて、申し訳ございませんでした。良かったわね、あなた?」
「……」
「ね、チェルニ?」
「……はい……」
 
 ネイラ侯爵家って、ルーラ王国でも指折りの大貴族なのに、家が続かなくても問題ないんだってさ。何というか……うれしくないわけじゃないんだけど……レフ様と、けっ、けっ、結婚するって、やっぱり重いことなんだね……。
 
     ◆
 
 わたしが、赤くなったり青くなったり、硬直したまま顔色を変えていると、ようやく復活したお父さんが、わたしの方に顔を向けた。お父さんは、外向きの改まった言葉じゃなくて、家族でいるときのお父さんのままの言葉で、優しくいってくれた。
 
「おれたちからは、もう何もいうことはない。ネイラ様に、求婚していただいたのも、それを承諾したのも、おまえだからな、チェルニ。おまえ自身の言葉で、皆様方にお話ししなさい。立場も年も関係ない。おれの、おれたちの愛する娘は、自分の意思で、物事を決められるはずだからな」
 
 そうして、淡く微笑んだお父さんの顔を見て、わたしは、思わず泣きそうになった。優しくて、ちょっと悲しそうで、力強くて、深いいつくしみをたたえた顔。これこそが、親の慈愛っていうものなんだって、誰に教えられなくてもわかったんだ。
 お父さんと同じように、わたしの大好きなお母さんも、アリアナお姉ちゃんも、わたしを応援してくれているから、わたしは、ぐぐっとお腹に力を入れて、ヴェル様たちに顔を向けた。ここぞというときには、照れや戸惑いを捨てて、問題に立ち向かえる少女なのだ、わたしは。
 
「ヴェル様」
「はい。何でございましょう、チェルニちゃん?」
「あの、ものすごく突然で、びっくりしちゃいましたけど、うれしいです。わたし、レフ様……ネイラ様のお申し込みをお受けしたいです。わからないことばかりなので、ネイラ様のご迷惑にならないように、いろいろと教えてください。よろしくお願いします、ヴェル様。ネイラ侯爵家のシルベル子爵閣下も、マルティノ様も、ロドニカ公爵家のハウゼン子爵閣下も、よろしくお願いします。一生懸命頑張って、勉強します」
 
 わたしは、一息ひといきにいい切って、深々と頭を下げた。椅子に座ったままの姿勢で、あんまりびしっと決まらなかったけど、膝の上にスイシャク様、肩の上にアマツ様が乗っかっているままだから、仕方なかった。完璧に気配を消した二柱ふたはしらの姿は、わたし以外の人には見えなかったと思うけど。
 われながら、しっかりと挨拶できたとは思う。銀縁眼鏡のネイラ侯爵家の家令さんが、シルベル子爵閣下。上品なおじいちゃんのロドニカ公爵の家令さんが、ハウゼン子爵閣下。ちゃんとお名前も覚えたよ? 記憶するのは得意だからね、わたし。
 
 わたしの予想としては、ヴェル様が声をかけてくれて、いよいよ具体的な話が始まるはずだったのに……なぜか、誰も何もいってくれない。あれ? あれれ? わたしってば、対応を間違っちゃったんだろうか?
 不思議に思って、慌てて頭を上げると、四人のお使者の人たちが、それぞれにわたしを見ていた。ヴェル様は、優しく微笑みながら目をうるませ、シルベル子爵閣下は、頬を薔薇色に染めて口元を手で抑え、マルティノ様は、心配になるくらい派手に泣いちゃってて……。おじいちゃんのハウゼン子爵閣下なんて、とろっとろにとろけた顔で、わたしに微笑みかけているよ。これは、あれだ。ハウゼン子爵閣下の顔って、すっごい猫好きが子猫を見たときの顔だと思うんだ。
 
 ハウゼン子爵閣下は、にっこにこに微笑んだまま、ほうっと息をいて、わたしに話しかけてくれた。
 
「素晴らしいご挨拶をたまわり、恐悦至極きょうえつしごくに存じます、お嬢様。すでにご記憶いただきました通り、わたくしはロドニカ公爵家の家令を拝命しております、ファニオ・デラ・ハウゼンと申します。ロドニカ公爵家の当主は、ネイラ侯爵閣下の兄君あにぎみに当たられますので、わたくしも、映えあるお使者の一人として参上つかまつりました。我が主人も、正式な求婚の立会人として、お嬢様にお目にかかる折を、楽しみに待っておられます」
「ご丁寧にありがとうございます。よろしくお願いします、閣下」
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます、お嬢様。オルソン猊下やパロマ大隊長からは、お嬢様と既知きちであるのだと、散々さんざんに自慢をされましたのでな。わたくしやセルジュ殿は、それはもう、喜びいさんで参りました。想像を超えて素晴らしく、美しくも可憐なお嬢様であられ、喜ばしき限りでございます。のう、セルジュ殿?」
「まったくでございます、ハウゼン子爵閣下。わたくしは、セルジュ・ロウ・シルベルと申します、お嬢様。我が名をご記憶いただき、誠に光栄に存じます。ネイラ侯爵家では、侯爵閣下も奥方様も、それはもう、大変なお喜びでございます。一日も早く、正式な求婚の日時を決定していただき、お嬢様にお目にかかりたいと、今朝方から矢のような催促さいそくでございます」
「ありがとうございます。あの、今日のお使者と、正式なきゅっ、きゅっ、求婚って、違うんですよね?」
「手間のかかることで、申し訳ございません。侯爵閣下の奥方様も、儀礼にこだわるお人柄ではなく、レフ様におかれましては、貴族社会のしきたりなど、晴れた日の傘ほども必要としておられないのですけれど、仕方のない手順というものがございまして」
「我が主人である公爵閣下が、古式こしきゆかしき手順を踏むようにと、レフ様と侯爵閣下にご進言なされたのでございます。手順を省略したことを理由に、お嬢様を軽んじる愚か者が現れでもしたら、王都が火の海になるから、と」
 
 火の海って……冗談…だよね? でも、話だけでぱちぱちと鱗粉を飛ばしているアマツ様が、暴走しちゃうと困るので、〈古式ゆかしい手順〉っていうものに従ってみよう。何事も体験だし、〈神託の巫〉の宣旨を受けちゃった以上、儀式とか神事とかっていうものは、避けて通れないだろうから。
 お使者の人たちが、丁寧に教えてくれたところによると、伯爵家以上の高位貴族は、婚約までに五回の手間をかけるらしい。まず、先触れのお使者が出て、求婚に応じる意思や条件を確認する。次に、両家の仲立ちの人たちが集まって、顔合わせをする。顔合わせの後は、王城に婚約の申請書を提出する。申請書が認可されたら、神霊庁に報告して、祝福の儀式をしてもらう。そして、最後に、両家の親族とかを招いて、婚約の披露をするんだって。何というか‥‥考えるだけで気が遠くなるね。
 
「はい! はい!」
「どうした、チェルニ?」
「あのね、お父さん。伯爵家以上の高位貴族って、当然、大公家も含まれるんだよね? フェルトさんが、大公家の後継になるってことは、アリアナお姉ちゃんとの婚約も、五回の手順を踏むことになるの?」
 
 わたしが質問すると、お父さんは、〈あ〉の形に口を開けたまま絶句しちゃった。お母さんとアリアナお姉ちゃんは、お揃いのエメラルドの瞳を輝かせて、〈まあ〉っていう感じに首を傾げている。身分だけでいったら、侯爵家より大公家の方が上なんだから、当然、同じだけの手間がかかるんじゃないの?
 
「そうね。チェルニのいう通りね。フェルトさんとは、婚約式のお話もしていたけれど、場合によっては別の形になるのかしら? 何か聞いている、アリアナ?」
「いいえ、まだ何も。ルーラ大公家のオディール様とマチアス閣下からは、状況が落ち着き次第、当家にお出ましになられるとだけ」
「口を挟んでもよろしいですか、奥方?」
「もちろんですわ、オルソン猊下」
「オディール姫は、宰相閣下とご相談の上、ルーラ大公家の家督かとくの相続と、フェルト殿の後継こうけい指名の準備を進めておられます。状況が落ち着くというのは、それらの承認を意味するのでございましょう。大公家の後継者とのご婚約ともなれば、かなりの手順を経ることになりましょうな」
「あらあら、まあまあ。大変ね、ダーリン。落ち込んでいる暇もないようよ?」
「……娘たちの幸せのためとなれば、頑張るしかないだろう。平民の家に生まれた姉妹が、揃って大貴族の家に嫁ぐとか、何という因果いんが……じゃなくて、面倒……じゃなくて、厄介やっかい……じゃなくて、幸運なんだろうな。ははは」
「ダーリンったら。ともかく、まずはチェルニの方のお話を、具体的に固めましょうか。お使者の皆様にも、わざわざご足労いただいたことですし」
 
 本音がだだ漏れになっちゃってるお父さんを、横目でにらんでから、お母さんは、あっさりと話を進めようとする。今、できることからてきぱきと結論を出していくのが、〈豪腕〉と名高いお母さんのやり方なんだ。
 両家の顔合わせの日時を決める前に、大人同士の相談があるからって、わたしとアリアナお姉ちゃんは、いったん席を外すようにいわれた。これは、あれだ。持参金とか結納金とか、こっ、婚約式の費用とか、お金関係の話をするんじゃないの? わたしは、わりと世間っていうものを知っている少女だから、予想がつくんだよ。
 
 お母さんのいいつけの通り、席を立とうとした途端、あの瞬間がやってきた。王都の上空、人の子が仰ぎ見ることもできない、遙かなる高みから、尊くて力強くて神々しい気配が、わたしをめがけて降ってきたんだよ。
 それは、天空を流れる星のようでもあり、降り注ぐ恵みの雨のようでもあり、轟音ごうおんを響かせる雷のようでもあった……。
 
 あっと思ったときには、わたしの意識は、ふわりと大気にけ出していた。祝詞のりとも唱えていないし、祈祷きとうささげていないのに、〈神降かみおろし〉が起こったんだって、すぐにわかった。だって、ぱかんと口を開けたまま、ちゅうに漂っているわたしの前で、チェルニ・カペラの身体は、またしてもぴかぴか発光しちゃってるんだよ!
 わたしの身体は、淡い金色の光に明滅めいめつし、瞳は柔らかな銀色に輝いている。呆然とするわたしの前で、ゆっくりと開いた唇は、こういった……。
 
〈いとも目出度めでた結縁けちえんは、神すら知らぬ分水嶺ぶんすいれい。今、このときに開けたる、新道しんみちにこそ弥栄いやさかえ
 

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