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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 68通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 ネイラ様と文通をさせてもらって、たくさんの手紙を読ませてもらって、わたしにも、わかってきたことがあります。ネイラ様って、とっても真面目な方で、いつでも本当のことを書いてくれますよね? 軽い冗談って、あんまりいいませんよね? ということは、編みぐるみの件……本気だったりしませんか?

 ネイラ様に編んでもらったショートマフラーは、わたしの一生の宝物です。すごく可愛くて、綺麗で、肌触りが良くて、見るたびに幸せな気持ちになります。(神々しい気配が漂いすぎて、ショートマフラーを飾ってあるたなが、今にも神座かみざになりそうな勢いですけどね)
 なので、本音をいうと、ネイラ様が作ってくれた編みぐるみとか、ほしくてほしくて仕方がありません。わたしは今、そんなに甘えるのは不敬だっていう、常識を無視してしまいたいって、強烈な欲求と戦っているところなんです。

 編みぐるみの神霊さんに似た、白黒パッチワークの羊は、わたしが五歳くらいのときに、アリアナお姉ちゃんが作ってくれたものです。わたし、ラム肉のローストが大好物なんですが、ラム肉が子羊のお肉だって知らなくて。ある日、小さな可愛い子羊が、わたしの食べているラム肉になったんだって気づいて、あまりの衝撃に何日も泣いていたら、アリアナお姉ちゃんが、編みぐるみをくれたんです。
 お父さんは、わたしが〈可愛い子羊、食べちゃった〉って大泣きしたら、〈そうだ、チェルニ。おれたちは、可愛い子羊を食べている。だからこそ、いつも感謝して、ありがたくいただこう〉って、真剣な顔でいいました。お母さんなんて、〈わたしたちは、他の命をいただいて生きているの。可愛くても、可愛くなくても、罪深いのは同じことよ〉って、五歳の子にはちょっとどうかっていう話をしていました。
 でも、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんは、黙って編みぐるみを渡して、ぎゅっと抱きしめてくれたんですよね。あのとき、アリアナお姉ちゃんは、八歳くらいだったと思います。お姉ちゃんだって、小さな子供なのに、優しい声で〈可愛いチェルニ。泣かないで〉って……。まったく、素晴らしいお姉ちゃんですよね。

 編みぐるみの羊は、わたしの大切な宝物の一つです。長い間、一緒に遊んでいたので、純白だった身体は変色しちゃってるし、黒い顔と手足も、色褪せていますが、今でも、見るたびに温かい気持ちになるんですよ。

 ということで、わたしも、ネイラ様への次の贈り物として、編みぐるみを作るっていうのは、どうでしょうか?(ということでって、つながりが変なのは、気にしないでください)羊だと同じになってしまうので、獅子の編みぐるみとか、いかがでしょう? ネイラ様のお名前って、〈獅子の中の獅子〉っていう意味だから、良いかなと思うんです。
 わたしは、作成に時間がかかるので、新年の贈り物に間に合うように、そろそろ準備を始めた方が良いかもしれません。獅子の編みぐるみはを作るとして、ネイラ様のルビーみたいな真紅の髪の色に合わせるか、ご神鏡しんきょうみたいな瞳の色に合わせるか、獅子らしく金色にするか……。考えると、何だか楽しい気分になってきました。ショートマフラーよりは、むずかしそうだし、頑張りますね。

 では、また、次の手紙で会いましょう。編みぐるみがご迷惑だったら、手紙の中で止めてくださいね。

     今でも子羊のローストが大好物の、とっても罪深い、チェルニ・カペラより

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五歳の頃も、さぞかし愛らしかっただろう、チェルニ・カペラ様

 きみとアリアナ嬢は、本当に微笑ましい姉妹ですね。〈可愛い羊、食べちゃった〉と泣いている、五歳のきみは、どれほど愛らしかったことでしょうか。そして、羊の編みぐるみを作り、小さなきみを抱きしめてくれるアリアナ嬢は、素晴らしい姉上です。現世うつしよの姉妹が、すべてきみたちのようであれば、誰もが心穏やかに過ごせるのではないでしょうか。

 きみの素敵な思い出を聞かせてもらったのですから、わたしも、編みぐるみの作成に着手したいと思います。きみが、獅子の編みぐるみを作ってくれるのなら、わたしは、子猫にしましょうか。きみの母上が、きみのことを〈わたしの可愛い子猫ちゃん〉と呼んでおられるので、ぴったりではありませんか。
 きみの母上の呼び方は、独特の感性だと思っていましたが、編みぐるみにするには、子猫は最適ですね。きみの美しい髪色に合わせて、桜色の子猫にするべきか、きみの鮮やかな瞳の色に合わせて、夏空の色の子猫にするべきか、よく考えてみることにしましょう。

 実をいうと、前回の手紙を書いている時点では、わたしは、編みぐるみというものを、見た記憶がありませんでした。漠然とした予想として、〈こんなものだろう〉という像はあったものの、わたしの人生において、編みぐるみが登場する機会はなかったのです。
 副官の一人に頼み、急いで編みぐるみの本を取り寄せてもらいましたので、今は、作り方まで理解しています。色と大きさと素材を決めたら、製作に取りかかれる状態ですので、わたしからの新年の贈り物には、十分に間に合うだろうと思います。

 新年の贈り物といえば、きみが獅子の編みぐるみを作ってくれるのは、とてもうれしいのですが、負担になったりはしませんか。きみは、王立学院の入試を控えているのですから、無理のないようにしてくださいね。きみの手作りであれば、わたしは、ほんの小さなもので十分なのですから。

 では、また。次も手紙で会いましょう。あと何通か、何十通かの後、本物のきみに会えるまでは。

     猫の編みぐるみの大きさに迷っている、レフ・ティルグ・ネイラ

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