連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 4-8
ルーラ王国の王国騎士団長で、〈神威の覡〉でもある、レフ・ティルグ・ネイラ様との、こっ、婚約が、本決まりになった翌日。わたしたちは、家族でキュレルの街に帰ってきた。わたしとアリアナお姉ちゃんの卒業式のための帰宅で、それが終われば、本格的に王都に引っ越す予定になっているんだ。
わたしは、すぐに王立学院に入学するし、アリアナお姉ちゃんは、王都に移住するフェルトさんと婚約するし、お父さんとお母さんは、王都に〈野ばら亭〉の支店を出すし……。わたしの、王立学院受験から始まった変化は、わたしたち家族の全員にとって、大きな転換期につながったんじゃないだろうか。
わたしが、〈神託の巫〉の宣旨を受けたことや、フェルトさんが大公家の跡継ぎになっちゃったこと、レフ様とわたしが、こっ、婚約することは、あまりにも突拍子もない変化で、半年前の自分に話したら、〈冗談にしてもあり得ない〉って、お腹を抱えて笑いそうだけどね。
久しぶりに帰ってきた気がする自宅は、やっぱり居心地が良かった。家にいる間は、いつもの生活を続けようって、家族で話し合ったからね。〈野ばら亭〉の看板娘として、短い時間だけどお客さんたちにパンを配ったり、お店の従業員さんたちに、王都のお土産を渡したり、王都に持っていく洋服を箱に詰めたり、家族四人でゆっくりご飯を食べたり、守備隊の総隊長さんとフェルトさんをご飯に招待したり……。数日間は、あっという間に過ぎていった。
フェルトさんは、もう守備隊を退職することが決まっていて、わたしたちと同じ頃に、王都のオディール姫とマティアス様のお屋敷に住むらしい。フェルトさんが、正式に大公家の後継として認められるためには、いろいろな手続きや審査があるらしいんだけど、宰相閣下と神霊庁が強力に後押ししてくれるから、結果は明らかなんだって。
そして、素晴らしく晴れ上がった秋の日、わたしは、いよいよ町立学校の卒業式を迎えた。卒業式用に用意してもらったのは、白い襟のついた紺色のワンピースで、その上から同じ紺色の上着を羽織る。卒業式だからって、派手なドレスを着てくる子も、毎年何人かはいるんだけど、やっぱり学生らしいのが良いよね。
そろそろ寒さを感じるようになってきたから、レフ様に編んでもらった、サクラ色のショートマフラーを巻いていく。柔らかくって、毛糸なのにすべすべしていて、肌触りは最高なんだ。アマツ様の羽根を加工してもらった、紅い毛糸が入っていて、ちかっちかって、動かすたびに紅く煌めく。ショートマフラーをもらったときに、包装紙にかかっていた赤いリボンを、アリアナお姉ちゃんが髪留めにしてくれたから、それもつけていこう。
着替えを終えて、わたしは、鏡の中の自分をじっと見つめた。十四歳の少女であるわたし、チェルニ・カペラは、何だか顔つきが変わってきたような気がするんだ。顔は同じに決まっているのに、ちょっとだけ大人っぽくなったっていうか、目の光が強くなったっていうか、迷いのない顔をしているっていうか……。
少なくとも、元大公たちが捕まった後、レフ様を、すっ、好きになっちゃったって気がついた頃の、思い悩んだ表情ではなくなっている。思えば、あれからたった数週間のうちに、わたしの人生は激変した。〈神託の巫〉の宣旨を受けて、〈神降〉を体験して、魂魄になってレフ様と再会して、思いがけず告白しちゃって、レフ様から、きゅっ、求婚されて、遂には、こっ、婚約まで内定しちゃったからね。必死になって、状況の変化を受け入れているだけでも、顔つきも変わるっていうものだろう。
今日の卒業式を終えたら、わたしは、いよいよ新しい環境に飛び込んでいくことになる。家族が王都で一緒に暮らしてくれるし、神霊さんたちも側にいてくれるし、そんなに不安はないと思う。多分。正確にいうと、不安はあったとしても、前に進むだけなんだけどね。
ぺちぺちと顔を叩き、気合を入れて部屋を出ようとしたところで、扉を叩く音がした。ゆっくりとした優しい叩き方は、きっとアリアナお姉ちゃんだろう。お姉ちゃんは、昨日、無事に女学校を卒業していて、今日はわたしの卒業式に来てくれる予定なんだ。
「用意はできた、チェルニ?」
「うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん。いつでも出かけられるよ」
「紅い髪留めもサクラ色のショートマフラーも、とっても似合っているわ。わたしの大切な妹は、何て可愛いんでしょうね。町立学校の卒業、おめでとう」
「ありがとう、お姉ちゃん。大切なリボンだから、素敵な髪留めにしてくれて、すごくうれしいよ。えへへ」
「喜んでもらえて、わたしも嬉しいわ。お父さんとお母さんも、用意はできているわよ。節目の日に、遅刻するわけにはいかないから、少し早めに出かけましょうね」
そういって、優しく微笑むアリアナお姉ちゃんは、今日も強烈に美しい。それこそ、お姉ちゃんの周りだけ、きらきらと輝いているみたい。蜃気楼の神霊さんのお力で、ずっと〈かなりの美人〉くらいに偽装していたアリアナお姉ちゃんは、もう本来の〈絶世の美少女〉に近い感じになっちゃってるんだよ。
目鼻立ちだけでいったら、アリアナお姉ちゃんは、美人で評判のお母さんと似ているし、わたしも、そこそこ対抗できるんじゃないかと思う。一応、キュレルの街の高級宿兼食堂〈野ばら亭〉の、美人姉妹の看板娘の妹の方だからね、わたし。
ただ、わたしの大好きなお姉ちゃんは、美人としての〈格〉が違っている。内側から発光しているかのような肌も、本物の黄金よりも煌めく髪も、濡れて潤んだエメラルドの瞳も、薔薇の花びらみたいに可憐な唇も、白鳥みたいに優美な身体の曲線も、ちょっと尋常じゃないんだよ。フェルトさんが、大公家の後継になって、アリアナお姉ちゃんが、大公騎士団に守ってもらうって、安心できる話だよね、やっぱり。
お姉ちゃんにまとわりつく悪縁を断ち切ってくれる、尊いご神鋏の〈紫光〉様に、今後ともよろしくお願いしますって、心の中で手を合わせてから、お姉ちゃんと二人、仲良く階段を降りていく。ヴェル様と〈黒夜〉の女の人が、悪者を速攻で倒しちゃった玄関ホールでは、お父さんとお母さんが、先に待っていた。
お父さんもお母さんも、すごく優しい笑顔を浮かべてくれるから、わたしは、すっかりうれしくなって、お父さんとお母さんにぎゅっと抱きついた。
「来たか、チェルニ。卒業、おめでとう」
「ありがとう、お父さん」
「卒業おめでとう、子猫ちゃん。もうすぐ、ネイラ様と正式に婚約するっていうのに、相変わらずの甘えん坊ね」
「良いんだよ、お母さん。こっ、婚約しようと、わたしは、お父さんとお母さんの娘だもん。けっ、結婚したって、こうして抱きつくよ、わたし」
「その通りだ。良い子だな、チェルニ。まあ、何だ。こっ、こっ、婚約するのは仕方ないとして、けっ、けっ、結婚なんて、まだまだ先の話だし、いずれにしても、おれの可愛い娘だ。チェルニとアリアナに嫌がられない限り、おれの腕は、いつでも娘たちのものだ」
「あら、わたしは、ダーリン?」
「おまえは、おれの唯一だよ、ローズ。娘たちとは別の意味で、おれの腕は、ローズを抱きしめるためにあるんだ。もちろん、料理も作るけどな」
「ダーリンったら、こういうときは、ちっとも恥ずかしがらないのね。悔しいけど、素敵なんだから。さあ、行きましょうか。わたしたちの可愛い子猫ちゃんが、一歩だけ、大人に近づく式典ですもの。家族で見届けましょうね」
見事な秋晴れの空の下、わたしたちは、皆んなで家を出発した。周りからは見えないようにしてくれているけど、スイシャク様とアマツ様は、今日も一緒にいてくれる。肩の上が定位置のアマツ様だけじゃなく、左肩にスイシャク様が乗っているのは、わたしの歩きやすさを考えてくれたからだろう。
尊くも教育熱心なスイシャク様からは、〈学舎を巣立つ今日こそ目出度けれ 雛の門出に光満つらん〉って、祝詞っぽいイメージが送られてきた。アマツ様からは、〈結縁す 彼の御方も言祝ぐや 雛の歩まん天の架け橋〉って、わかるようでわからないイメージが送られてきた。二柱とも、温かくお祝いしてくれているのは、確かなんだけどね。
お父さんたちと話しながら、町立学校への道を、元気良く歩いていく。キュレルの街の同級生とは、これから会う機会も少なくなるだろうけど、あんまり寂しいとは思わなかった。わたしは、友達の少ない少女だったし、数人しかいない友達とは、きっとこれからも会えるだろうしね。わたしの大好きな、おじいちゃんっぽい校長先生が、一緒に王立学院に来てくれるのも、寂しくない理由の一つなんだろう。
そして、何よりも、寂しがるよりも先に、わたしには、やらなきゃいけないことがあって、寂しがっているだけの気持ちの余裕がない。卒業前に一回だけ、いつもわたしに突っかかってきた、三人の同級生の女の子たちと、話をするって決めているんだよ。
わたしが王立学院を受験するって、町立学校で噂になったとき、何人もの同級生が、止めた方が良いよって話しかけてきた。理由はいろいろで、〈落ちたら可哀想だから〉とか、〈王都に行くなんて危険だから〉とか、〈一緒にキュレルの高等学校に行かないのはずるい〉とか、わたしには理解できない理屈で、受験を邪魔されそうになった。
中でも、しつこく文句をいってきたのが、三人の女の子たちで、何回も嫌な思いをしたけど、問題はそこじゃなかった。卒業式前の休み中、校長先生に会うために登校したわたしを、わざわざ待ち伏せまでしていた女の子の肩には、悪意と穢れの塊みたいな、小さな蛇がとぐろを巻いていたんだ……。
◆
あの光景を思い出すと、今でも嫌な気分になる。穢れた蛇は、クローゼ子爵家のカリナさんの〈鬼成り〉で見てはいたけど、カリナさんの場合は、スイシャク様の雀の視界を通したものだったからね。自分の目の前で、同級生の女の子が、蛇を肩に乗せていた姿は、ものすごく衝撃的だった。
もう二人、蛇の女の子と一緒にいた子たちは、蛇を乗せてはいなかった。ただ、汚らしい泥の色をした、もやもやとした霧みたいな塊が、女の子たちの胸のあたりで揺れていた。どう考えても、〈善きもの〉であるはずのない、気持ちの悪い霧だったよ。
三人の女の子たちは、そのときも嫌味をいっていたんだと思う。わたしが、校長先生にひいきされていて、ずるい。わたしみたいに特別扱いされていたら、自分たちだって王立学院を受験できたかもしれないのに、ずるい。ずるい、ずるい、ずるい……。
わたしは、わりと気の強い少女で、戦うべきときには戦えると自負している。相手になるのも面倒だから、適当に無視していたたけで、口喧嘩では負け知らずなんだよ。このときだって、しっかり反撃しようと思っていたのに、実際にはろくに口もきけなかった。女の子の肩の上でとぐろを巻いていた蛇が、チッチ、チッチって鳴きながら、小さな牙を剥き出しにして、わたしを威嚇する様子に、目を奪われてしまったからね。
わたしが、じっと見つめると、蛇はすぐに姿を消した。女の子たちも、何となく居心地の悪い思いをしたみたいで、逃げるみたいに去っていった。残されたわたしは……沈んだ気持ちで考えたんだよ。蛇をそのままにしておいても、かまわないのかって。
スイシャク様とアマツ様が、いつも側にいてくれて、厳重に守ってもらっている以上、女の子たちに嫌われようと恨まれようと、わたしには被害はないだろう。〈鬼成り〉しちゃったカリナさんみたいに、蛇が女の子に取り憑いたとしても、それは本人の責任だと思う。でも、わたしが女の子の蛇を無視したら、彼女の人生はどうなるんだろう……。
ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。そんなことを考え続けて、わたしは、一つの結論に達した。町立学校を卒業したら、もう会うこともなくなるだろうから、その前に一度だけ、女の子たちと話してみよう。悪い心に流されたら、悪いものが寄ってくるんだって、一度だけ説得してみようって。
女の子たちを、何が何でも助けたいって思うほど、わたしは親切な少女じゃない。正直にいうと、彼女たちのことは、全然、まったく好きじゃない。憎むほどじゃないにしろ、嫌いだって大声でいいたいくらいには、嫌な思いもさせられてきた。でも、だからといって、何もしないわけにはいかないんじゃないだろうか。
実は昨日、レフ様に手紙を出したとき、蛇の女の子のことも書いてみたんだ。わたしの考えは間違っていないのか、神霊さんに近いレフ様に、教えてほしかったから。わたしが崇拝する二柱、特に炎を司るアマツ様は、こういうことではあんまり当てにならない。わたしに対して、とっても過保護な二柱は、すぐに激昂するんだよ。
レフ様も、そういう冗談を書いてくるときがあるけど、真剣に相談したら、正しい助言をしてくれるに決まっている。わたしが、だっ、大好きになったレフ様は、十四の少女の迷いや悩みにも、真摯に向き合ってくれる人なんだ。
そして、昨夜のうちに帰ってきた返事には、レフ様の流麗な文字で、とっても真剣な助言が書かれていた。
〈きみの同級生である少女は、今、とても危ういところに立っていると思います。肩の上でとぐろを巻いている蛇は、悪しき心が蛇という概念を得て具現化したものであると、以前の手紙にも書きましたね。その悪心が身の内に食い込み、内側から魂を食い破ったとき、人は《鬼成り》の闇へと堕ちるのです〉
〈きみ自身は、神霊の手厚い加護によって守られていますので、仮に《鬼成り》した巨大な蛇と向き合ったとしても、何の危険もありません。この現世で、神霊の眷属にして、神々の愛子である、《神託の巫》を傷つけられる者など、在ろうはずがないのです。まして、わたしと婚姻の縁を結ぼうとするきみに、害を為すことのできる存在など、天上天下に在るものですか〉
〈ですから、わたしが案ずるのは、きみの心のあり様だけです。少し厳しいことを書くとすれば、蛇の少女と対峙する前に、きみは自ら選択しておかなくてはならないでしょう。すぐにでも蛇を滅して、少女を救うのか。忠告だけをして、後は少女の意志に委ねるのか〉
〈まだ幼いきみであっても、蛇に対峙すると決めた以上、選択をする心の強さが求められます。強さなくして慈悲はなく、覚悟なき手助けは、神々の望むところではないでしょう〉
〈今世、人の子の生を生きるわたしは、きみがとても大切です。きみが徒に傷つけられることのないよう、心から願っています。どのような選択をしようと、わたしはきみの味方ですよ〉
いつも思うんだけど、手紙って、その人の本質が表れるよね。文章の上手い下手じゃなく、その人の心っていうものが、自然と伝わってくる気がするんだ。レフ様は、いつも優しくて、誠実で、真摯で、わたしのためなら厳しいこともいってくれて、少しだけ不器用で……だから、わたしは、レフ様のことが大好きになった。そして、昨夜もらった手紙を読んで、はっきりと心が決まった。
わたしが、女の子たちと話すと決めたのは、蛇の存在を知ってしまった以上、知らん顔をするわけにもいかないっていう、義務感があったからだ。神霊さんに助けてもらっている身としての、責任感っていっても良いかもしれない。わたしは、仕方なく、本当に仕方なく、一度だけ女の子たちと話してみようって、決めていただけだった。
レフ様からの手紙は、そんなわたしの気持ちを理解した上で、新しい選択肢を教えてくれるものだったと思う。レフ様ってば、さらっと〈蛇を滅する〉とか書いてくるっていうことは、あの気味の悪い蛇を、わたしが浄化できるっていう意味なんだよね?
まあ、冷静に考えると、蛇をやっつけるのは、そんなに難しくはないかもしれない。わたし自身には、何の力もないけど、神霊さんたちの〈器〉にはなれる。わたしが、祈祷でお願いしたら、蛇を滅する力を貸してくれる神霊さんは、きっと少なくないだろう。スイシャク様はさておき、わりと武闘派らしいアマツ様なんて、大喜びで蛇を燃やしてくれるに決まっている。仄白い浄化の炎で、蛇の骨までこんがりと、灰の欠片も残さずに……。
蛇を滅した後、女の子がどうなるのか、レフ様の手紙には書かれていなかった。当たり前の知識だっていう前提で、省略しちゃった可能性もあるし、わたしには知らせない方がいいことだからって、口を閉ざしているのかもしれない。いずれにしても、わたしの答えは決まっているんだけどね。
わたしは、女の子を助けるために、神霊さんのお力を借りて、蛇を滅しようとは思わない。哀しい〈鬼哭の鏡〉みたいに、本人はちっとも悪くないのに、〈鬼成り〉しちゃうんだったら、絶対に何とかしたい。女の子が、蛇を魂に抱え込むことで、迷惑する人がいるのなら、やっぱり何とかしたい。でも、女の子が、自分で蛇を生み出して、勝手に〈鬼成り〉するのなら、彼女を救うのは、彼女自身であるべきなんじゃないだろうか。
わたしの選択は、あんまり優しいものではないだろう。物語に出てくる主人公だったら、きっと〈女の子を助けなくちゃ!〉って、必死になるんだと思う。それこそ、蛇の女の子だったら、〈同級生が危ない目に遭うかもしれないのに、無責任じゃない?〉とか、〈カペラさんって、冷たいよね〉とか、平気で口にしそうな気がするしね。
でも、今の現実を生きる十四歳のわたし、チェルニ・カペラは、自分が納得できることをするって、固く心に決めているんだ。神霊さんのお力で、蛇を見ちゃった者の責任として、一度は女の子と話をするけど、蛇を滅したりしない。少なくとも、蛇の女の子が、自分で正しい道に戻ろうとするまでは……。
わたしが、そうして決意を新たにしているうちに、いつの間にか町立学校の建物が見えてきた。お母さんが、わたしに向かって、優しく聞いてくれる。
「すっかり難しい顔になっちゃってるけど、大丈夫、子猫ちゃん? 考え事をしているみたいだったから、話しかけなかったんだけど」
「ああ、ごめんね、お母さん。卒業式で何を話すか、考えていたんだよ」
「首席卒業で、卒業生代表だものね、子猫ちゃんは。見守っているから、頑張ってね。お友達と話したいこともあるでしょうし、卒業式が終わったら、お母さんたちは、先に家に帰っているわね。ゆっくりしてきても良いし、お友達を連れてきても良いのよ?」
「ありがとう。頑張るよ、わたし。今日は、大事な節目の日だからね」
そう。神霊さんたちに頼まれたわけでもないのに、穢れた蛇と向き合い、場合によっては、同級生を見捨てる覚悟を決めた今日。わたしが、〈神託の巫〉として生きていく上で、きっと節目になる一日になると思うんだよ……。