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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-15

 話し合いの初めから、フェルトさんが突っ走っちゃったせいで、その後はもう、ぐだぐだになった。会話が噛み合わなかったとかいうことじゃなく、皆んな、儀礼とか建前とかいうものを、どこかへ放り投げて、思いっきり〈ぶっちゃけ〉ちゃったんだ。
 まず、赤い目をしたマチアスさん……マー様が、上を向いて息を吐いた。ぷはーって。マー様は、それで気持ちを切り替えたみたいで、向かいの席に戻ったフェルトさんに、にやりと笑いかけた。
 
「さっき、〈お祖父様〉〈お祖母様〉と呼んでくれたな、フェルト。ありがとう。わたしたちへのわだかまりはあるとして、大公家の継嗣けいしとなる道を、考えてくれていると思って良いのか?」
「はい。考えさせていただいています。財産だの地位だの権力だの、そのあたりは、わりとどうでも良いんですが、わたしの大切なアリアナさんは、姿も心も美しすぎますからね。王族や高位貴族の目に留まる可能性を考えたら、大公家を後見こうけんにつけた方が得策だと思うんです」
「それはそうよ、フェルト。アリアナさんが目に入ったら、何としても手に入れようという権力者が、いくらでも現れますからね。その点、ルーラ大公家の継嗣の婚約者、あるいは妻となれば、他国の王族でも手は出せないわ」
「まあ、いざとなれば、〈神威しんいげき〉たる御方様おんかたさまが動いてくださるだろうから、アリアナさんは守られるだろうがな」
「王国騎士団長閣下ですか? クローゼ子爵家の事件でも、過分なご助力を賜りましたが、それは子供たちの誘拐事件が絡んでいたから、というわけでもないんですね?」
「騎士団長閣下は、チェルニちゃんの〈お友達〉だからな。チェルニちゃんはもちろん、チェルニちゃんのご家族のためなら、神霊庁や王家さえ動かそうとなさるだろう。〈神威の覡〉のご命令とあれば、ルーラ王国は何ひとつ逆らえないぞ」
 
 え? どうしてそこで、部屋にいる全員が、わたしのことを見るの? そりゃあ、ネイラ様は、わたしのことを〈友達〉だって、手紙に書いてくれてるし、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんが、悪い貴族とか王族とかに目をつけられたら、助けてくれるとは思うんだけど。何の根拠があって、マー様が、そんなに自信たっぷりにいい切るのさ?
 
 マー様は、目を丸くしているわたしを見て、笑いかけてくれた。すごく優しくて、ちょっとだけ意味ありげな笑顔だったから、なぜか顔が赤くなっちゃったよ、わたし。
 
「はは。りんごのように赤くなって、誠に初々しく愛らしいな、チェルニちゃんは。そう、王国騎士団長閣下は、チェルニちゃんのためなら、この世の何者をも蹴散らしてしまわれるだろう。ご自身で、そう仰せであったからな。まあ、それは閣下だけには限らないが。〈神威の覡〉の御世みよに、国のかじを取る羽目になった王家は、ある意味、大変だろうな」
「大公騎士団の団長が、王家と王国騎士団の間には、軋轢あつれきがあると口走っていました。実際のところ、両者の関係は良くないのですか?」
「騎士団長閣下は、まったく相手にもしておられないし、陛下ご自身は、いろいろと達観しておられるようだ。ただ、王太子殿下と一部の貴族どもが、少々うるさい。王家と同格の神霊庁が存在することさえ、面白くはないだろうに、〈神威の覡〉ともなれば、ルーラ王国の頂点で在られるからな。騎士団長閣下が、お力をひけらかすような方でないことに甘えて、王家の権威を誇示しようとする振る舞いが、ときおり見受けられるらしい」
「わたくしもマチアスも、世捨て人のようなものですけれど、噂はいくらでも入ってくるのよ、フェルト。心ある貴族は、皆、怯えているわ。キャンキャンとうるさく鳴く子犬が、いつか至尊しそんの御方様に、許されざる不敬を働くのではないか、と。まあ、わたくしの愚弟、残虐な性格異常者のアレクサンスと仲の良い王太子など、愛らしい子犬に例えるようなものではないのだけれど」
「あの、横から口を出してもよろしいでしょうか、オディール様、マチアス閣下?」
「おお、シーラ総隊長。何でもいってほしい。フェルトが親代わりと慕う方なら、わたしたちにとっても身内のようなものだからな」
「過分なお言葉、恐縮でございます、閣下。では、率直にお尋ねいたしますが……今のようなお話は、その、口に出して良いものなのでしょうか? どう考えても、王家への批判だと思うのですが。それに、王太子殿下ともあろう方が、元大公と仲が良いというのなら、これからのルーラ王国は、少々困った状況になりかねないのではありませんか?」
「ふふ。シーラ総隊長は、本当に率直だこと。ええ、ええ、危ないですとも。皆さん、他ではあまり口に出さないでくださいな。でも、まあ、半ば公然とささやかれている話なので、それで処罰しようとしても、きりがないでしょうね。王太子殿下は、少しばかり困った方なのよ。わたくしの愚弟と同じように、神霊術がお得意ではないので、鬱屈うっくつしてしまわれたのね。栄えあるルーラ王国、音に聞こえた〈神霊王国〉の王太子殿下で在られるのに。権力を持った馬鹿って、本当にたちが悪いわ」
 
 ディー様の話に、わたしは、頭が真っ白になった。困るわね……じゃないですって、ディー様! 十四歳の平民の少女に、何という話をしてくれちゃってるの? 知りたくない、知りたくない。今まで見聞きしてきた、危ない話と比べても、これだけは本当に知りたくなかったよ……。
 
 ディー様とマー様は、平気な顔でお茶を飲んでいるんだけど、やっぱりどことなく緊張感が漂っていて、本当にのほほんとしているわけじゃないってことは、わたしにもわかった。フェルトさんと総隊長さんは、薄っすらと血の気の引いた顔に、厳しい表情を浮かべていた。そりゃあ、わりとあからさまな王家への批判だったし、ルーラ王国を揺るがす問題にだって、発展する可能性があるんだから、当然の反応だよね。
 アリアナお姉ちゃんも、きっと心配してるだろうなって、そっと表情をうかがったわたしは、思わず目を見開いた。だって、お姉ちゃんってば、一人だけ、まったく動じていないんだよ? わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんは、エメラルドみたいに澄み切った瞳に、強い意志を浮かべて、静かに微笑んでいたんだ。
 
 それまで、完全に気配を消していたスイシャク様とアマツ様が、感心したようにイメージを送ってきた。〈の姉たる衣通そとおりの剛毅なること〉〈流石さすが、□□□□□□□の愛子まなご也〉〈人の子の愛と呼ぶは、夢幻の如くはかなくもあり、はがねの如く強くもあるものなれば〉って。
 可憐で清楚なアリアナお姉ちゃんが、瞳の奥に燃え立たせている、〈不敵ふてき〉って表現しても良いくらいの強さの意味を、スイシャク様とアマツ様は、ちゃんとわかっているみたいなんだ。
 
 アリアナお姉ちゃんの思考回路は、ずっと妹をやっているわたしにも、さすがにちょっと謎だった。お姉ちゃんってば、今の話を聞いただけで、何と戦う決意をしちゃったんだろう? お姉ちゃんって、そういう人だったっけ?
 クローゼ子爵家の事件の終盤、抜刀した大公騎士団の前に立ちふさがって、神霊庁への告発を宣言したときにも思ったけど、わたしのお姉ちゃんが、意外と好戦的なのは、こっ、恋をしているからなのかな?
 
 そのとき、スイシャク様とアマツ様が、ずいっと大きくなった。身体が巨大化したわけじゃなくて、質量が増したとでもいうのかな。見た目は同じなのに、おそれ多い神霊さんであることを、否応なく実感するくらい、圧倒的に尊い存在として、その場に顕現けんげんしたんだ。
 スイシャク様とアマツ様は、いつもよりもおごそかなイメージを、わたしに送ってきた。それは、ただのイメージを超えて、はっきりとした〈言霊ことだま〉に聞こえるくらい、強い強い言葉だった。
 
 〈神霊王国が玉座は、神のさずけたるものにあらず〉〈人の子の選びし者を王と為し、我らはそれを咎めず〉〈人の子のことわりは、我らの理に非ず、神の理は、人の子の知る所に非ざる也〉〈人の子の理のみをと成すならば、我らは現世うつしよを去らん〉〈神人しんじんさかいこととするは、時の流れやも知らず〉〈神威の覡は我らが化身けしんべっして当代が神威の覡は、□□□□□□□□□□の化身也〉〈神威の覡は裁定を成す〉〈神威の覡が現世うつしよを捨てんとせば、全ての神々が去り行かん〉〈神託しんたくは我らがよすが〉〈雛こそが、現世に神託をもたらさん〉〈まったき目覚めがあるまでは、半ば微睡まどろみて器を広げん〉って。
 
 二柱ふたはしらのご神霊からのイメージは、今までで一番むずかしくて、一番厳かで、一番怖くって、一番暖かかった。そのイメージを正確に読み解くことは、今のわたしにはできなくって、でも、大体の意味はわかった。
 スイシャク様とアマツ様は、わたしたちの暮らすルーラ王国の行く末を、とっても心配してくれているんだ。人の子が、神霊さんの〈理〉をかえりみなくなるんじゃないかって。そうしたら、〈神威の覡〉が、現世を見捨てるかもしれないって。もしも、〈神威の覡〉であるネイラ様が、現世を見限っちゃったら、すべての神霊さんたちが、ルーラ王国を去ってしまうらしいんだ。
 
 スイシャク様とアマツ様は、赤と白の神々しい光を発しながら、わたしにイメージを伝えてくれたから、皆んなにも、何か重い〈お言葉〉があったことはわかったんだろう。真剣な顔をして、わたしを注目しているんだけど、できたら気がつかなかったことにしてほしかったよ。
 もしかすると、ルーラ王国そのものが、〈神去かんさり〉になるかもしれません、なんて……いいたくないよ、わたし……。
 
     ◆
 
「御二柱のご神霊からの、御言葉みことばを賜ったのだろうか、チェルニちゃん? もし、そうであるなら、わたしたちも聞かせていただいて良いことなのだろうか?」
 
 皆んなを代表して、マー様が尋ねてきた。スイシャク様とアマツ様は、すぐに〈告げるが良し〉ってイメージを送ってくれたから、わたしは、一生懸命に考えながら説明した。口に出すことで、不安が現実化しそうで、ちょっと怖いなって思ったけど、黙っているわけにもいかなかったからね。
 
 わたしの話を聞いて、皆んなは、表情を固く強張らせていた。わたしたちのルーラ王国は、神霊さんの恩寵おんちょうを与えられた神霊王国で、何よりも〈神去り〉を恐れている。それなのに、王国そのものが〈神去り〉になるかもしれないなんて聞かされれば、恐怖を感じて当たり前だろう。
 正直にいうと、わたし自身は、すっ、好きになっちゃったネイラ様に、見限られてしまうことの方が、〈神去り〉よりもつらいなって思ったんだけど……。
 
 重い空気の中、凛とした声を出したのは、アリアナお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは、わたしの目を見つめて、優しく微笑みかけてくれた。
 
「教えてくれて、ありがとう、チェルニ。とても心配だけど、希望がないわけじゃないのよね? 〈神威の覡〉で在られる方が、王国を見限ってしまわれるって、決まったわけじゃないものね。それに、〈神託の巫〉で在られる方が、わたしたちと〈神威の覡〉、ご神霊の三者を、つないでくださるかもしれないんでしょう?」
「うん。多分、そうなんだと思うよ、お姉ちゃん。神霊さんたちも、王国を見捨てたいとは考えていないから、〈神託の巫〉を通して、神霊さんたちからのお言葉を届けてくれるんじゃないかな?」
「だったら、大丈夫ね。わたしたちは、〈神託の巫〉が教えてくださる、ご神霊のお言葉に従って、身を律するだけのことよ。そして、ご神霊から何らかのご下命があれば、謹んで従いましょう。身命しんめいして、ね」
 
 お姉ちゃんの堂々とした宣言に、皆んな、それぞれに反応した。マー様と総隊長さんは、いかにも感心したように、大きくうなずいた。ディー様は、さっきのにんまりした笑顔になって、ものすごく満足そうに、きらきらと輝く瞳でお姉ちゃんを見つめた。もともと、お姉ちゃんのことが大好きなフェルトさんは……ちょっと、ひどかった。
 フェルトさんってば、さっきまで青白かった顔を赤くして、半分くらい口を開いたまま、うっとりとお姉ちゃんを凝視しているんだ。わたしのお兄ちゃんになる人だから、良いといえば良いんだけど、せっかくの美青年が台無しになるくらい、ほうけた顔になっちゃってるよ、フェルトさん。
 
 わたしは、お姉ちゃんの言葉に慰められながら、頭の隅で別のことを考えていた。お姉ちゃんのいうのは正しいけど、じゃあ、その〈神託の巫〉って、誰なのさ? もしかして、ひょっとして、こうしてスイシャク様やアマツ様からイメージを送られている、わたし自身が、〈神託の巫〉だったりするんだろうか?
 誰かに聞いてみたくて、部屋の中を見回して、わたしは、やっぱり何もいわなかった。尋ねるべき相手は、ここにいる皆んなじゃないって、わかっていたからね。ネイラ様が、〈月の銀橋で会いましょう〉って、そこで説明してくれるんだって、手紙に書いてくれたんだから……。
 
 皆んなが、わたしの様子をうかがっているみたいで、微妙に気まずい空気の中、ディー様が明るく話題を変えてくれた。
 
「いずれにしろ、今から心配していても仕方がないわね。アリアナさんのいう通り、わたくしたちは、わたくしたちに与えられた道を生きるだけよ。それよりも、フェルト。その惚けた顔を元に戻して、聞きたいことを聞いてちょうだいな。まだ、何かあるのでしょう?」
「……え? あ、はい。あります。えっと……あ、そうそう。仕事のことです。もし、大公家の後継の話をお受けしたら、今の仕事を辞めるしかありませんよね?」
「そうね。すぐにとはいわないけれど、王都の屋敷で暮らしてもらうことになるので、キュレルの街の守備隊員を続けるのは、むずかしいのではないかしら? あなたが、どうしても続けたいというのなら、反対はしませんけれど」
「王都に暮らすとしたら、わたしは何の仕事をすればいいのでしょうか?」
「大公家の継嗣として、学ぶべきことは多いのですから、女大公にょたいこうとなるわたくしの補佐をしてほしいの。何よりも、現在の大公騎士団が総入れ替えになる以上、その再編をしなくてはね」
「今のわたしは、母の〈婚外子〉としての身分しかありません。大公家の継嗣と認められるのでしょうか?」
「もちろん、大丈夫よ。実は……」
 
 そう言葉をにごして、ディー様は、白い頬をさっと薔薇色に染めた。年齢的には、おばあちゃんっていっても良いくらいだと思うんだけど、とっても綺麗で、可愛らしくて、若々しい表情だった。
 ぴったりと寄り添ったマー様は、すごく優しい目で、そんなディー様を見つめている。スイシャク様の雀の視界から見た、つらくて苦しそうなマー様とは、同じ人だと思えないくらい、幸せそうな顔に見えたよ。
 
「この年で恥ずかしいのだけれど、お話ししてしまうわね。宰相閣下のお力添えで、わたくしとマチアスは、正式に夫婦として認めていただけたの。〈神威の覡〉たる御方様が、マチアスの不当な誓文を破棄してくださったでしょう? だから、マチアスとクローゼ子爵家の毒婦は、晴れてえんが切れたのよ」
「先日、神霊庁にエレナとの〈白い結婚〉を申し立てたところ、当日中に認められたのでね。その翌日には、姫君との婚姻を正式に届け出て、やはり即日お認めいただいた。宰相閣下が、あらかじめ国王陛下に直談判をしてくださり、すべての手はずを整えていてくださったのだよ」
「わたくしが女大公になると、婚姻の手続きがとても面倒になってしまうので、正式に継承するまでに、届けを出してしまったのよ。マチアスにしても、早々にクローゼ子爵家とのえんを切っておいた方が、何かと安全ですもの。ですから、今のわたくしは、オディール・ド・ブランなのよ」
 
 わたしたちは、大きな歓声を上げた。だって、ずっと悲しい思いをしてきた二人が、とうとう一緒になれたんだよ? こんなおめでたいことって、ある? 良かった、本当に良かった!
 あまりにも幸せそうな二人の様子に、思わず泣き出しちゃったわたしに、お姉ちゃんがそっとハンカチを渡してくれた。そのアリアナお姉ちゃんだって、エメラルドみたいな瞳に、いっぱいの涙を浮かべていたけどね。
 
「ありがとう。皆さんが祝福してくださって、とても嬉しいわ。わたくしも、ヨアニヤ王国の大教会に、王弟殿下との婚姻無効の申し立てをしたのよ。〈白い結婚〉であることの証拠は、ヨアニヤ王国を出るときに提出してあるし。ルーラ王国と違って、少し時間がかかるでしょうから、今のところは再婚になるのだけれど、いずれは認められると思うわ」
「わたしの愚かさから、ねじれてしまったえにしを、〈神威の覡〉たる御方様と宰相閣下が、結び直してくださった。本当にありがたいことだ。わたしたちの婚姻と同時に、クルトもクローゼ子爵家の籍から外し、クルト・ド・ブランとして認知してやれたのだよ。亡くしてしまったが、クルトは、わたしたちの正式な嫡男だ」
「クルトが生きていてくれたら、どれほど幸せだったかとは思うけれど、同じ姓を名乗れるだけでも、救われる気持ちになったわ。ねえ、マチアス?」
「仰る通りです、姫。いや、オディール」
「あなたに人前で名を呼んでもらうのは、初めてね。嬉しいわ」
「これからは、いつでも呼ばせていただきすよ、オディール。そして、フェルト。おまえとサリーナが了承してくれたら、さかのぼってクルトとサリーナの婚姻を届け出て、フェルトを二人の嫡男としたいと思っている」
「亡くなった方との過去の婚姻など、認められるのですか?」
「本人が亡くなっている以上、普通に提出しても却下されるか、長い時間がかかるだろうな。しかし、宰相閣下が証明書を出してくださるとの仰せなので、今回は大丈夫だ」
「母には、この話はしていただいたのでしょうか?」
「もちろんよ、フェルト。サリーナは、すべてはあなたの決断次第だといっていたわ」
 
 フェルトさんは、何ともいえない表情をして、ぎゅっと目をつむった。クローゼ子爵家でいじめられて、小さなフェルトさんと一緒に追い出されたお母さんのこととか、若くして亡くなったお父さんのこととか、お父さんがいなくて寂しかったこととか、色々と思い出していたんじゃないのかな。ディー様とマー様も、そんなフェルトさんの戸惑いがわかるんだろう。それ以上は話そうとせず、じっとフェルトさんを見守っている。
 しばらくして、ゆっくりと目を開けたフェルトさんは、きっぱりといった。
 
「わかりました。いろいろとお教えいただき、ありがとうございます。アリアナさんとの婚姻に関しては、先日、〈野ばら亭〉をお訪ねいただいたときに聞かせていただきましたので、これでもう疑問はありません」
「では、気持ちは固まったのか、フェルト?」
「はい。最終的な回答は、後日にさせていただきたいのですが、わたしの気持ちは決まりました」
「わたくしたちに、今ここで教えてもらえるのかしら、フェルト?」
 
 え? ディー様ってば、それを聞いちゃうの? フェルトさんの回答は、お嫁さんになるアリアナお姉ちゃんの一生に、とっても大きな影響を与えることになるし、わたしたち家族にだって一大事だよ。何て答えるんだろう、フェルトさん……?
 

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