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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-33

 わたしが、元気良く公開実技をお願いすると、司会役の先生が、なぜか微妙な顔をした。そして、手元の名簿を見ながら、大きな溜息を吐いていったんだ。
 
「ああ、その、公開実技を希望するんだね、チェルニ・カペラ君?」
「はい! お願いします」
「……わかった。そうすると、あれだ。きみが公開実技を希望した場合、間近で見学したいと希望している方々がおられるのだが、かまわないかね?」
「見学ですか? ご父兄とは別ですか?」
「きみの父兄だと思ってほしいと、むちゃくちゃ……いや、強制的に……いや、強くお願いされているんだ。王立学院としては、お断りできるようなご身分の方々ではないんだが、受験生であるきみが、嫌だというなら、即座に諦めるとの仰せなんだ」
 
 ……。王立学院が断れない身分で、わたしの神霊術を見学したい人たちって、そういうことだよね? 正直、どこかでこっそり見学していたり、鏡を通して見ているかもしれないって、思ってはいた。思ってはいたんだけど、ここまで正面から見学を希望されるとは、さすがに想像していなかったよ。
 わたしの両肩にいる、スイシャク様とアマツ様が、すかさずイメージを送ってくれた。〈牽制けんせいとぞいうもの也〉〈雛を害さんとする者あらば、我ら荒魂あらみたまと成らん〉〈雛に近付く者あらば、《神威しんいげき》の逆鱗げきりんに触れん〉〈怖や、怖や〉〈仁徳にんとくらは、其れを防がんとぞ望み、地上の権力を使いたる〉って。仁徳っていうのは、ミル様の呼び名だから、要は、今のうちから、わたしと神霊庁の関わりを見せつけて、変な干渉や妨害を防ごうとしているんだよね?
 
 そう聞いちゃったら、見学を拒むことはできないし、そのつもりもない。だって、〈出すぎるくい〉になるって決めたからね。困った顔のまま、返事を待ってくれている司会役の先生に、わたしは、元気良く答えた。
 
「はい! 大丈夫です。大事になりそうな予感しかしませんけど、かまいません。見学していただきます。今からお呼びするんですか? 時間がかかりますか?」
「いや、すぐにお出ましになられるだろう。どういうわけか、本当にどういうわけか、われわれの会話なども、すべて筒抜けになっているのではないかと思われるのだ。ほら、お見えになった。生徒もご父兄も、礼は無用との仰せですので、そのまま待機してください」
 
 大きなため息混じりに話していた、司会役の先生が、最後に大きな声で注意した途端、校庭が揺れた。校庭に並んで座っている、内部進学組の貴族の子たちから、悲鳴みたいな声が上がり、遊歩道から見学している父兄たちから、大きなどよめきが上がったんだ。
 慌てて振り返ると、校舎から校庭に向かって、次々に歩いてくる人たちがいた。わたしが予想していたより、ずっとずっとたくさんの人たちだった。
 
 ミル様を先頭にした、格衣かくえ姿の神霊庁の集団の中には、ヴェル様もいるし、いかにもおごそかな感じの神職さんが十人はいる。まさかと思うけど、大神使しんし以下、七人いるはずの神使が全員いる……なんてことは、さすがにないよね?
 神霊庁の人たちの次に現れたのは、漆黒の軍服に銀糸の襟章えりしょう、腰には細身の剣をいた、五人の男の人たちだった。堂々と先頭を歩いているのは、王国騎士団のマルティノ様だから、多分、全員が王国騎士団の人たちだと思う。ネイラ様の副官さんが勢ぞろい……なんてことは……ないといいな。
 マルティノ様たちに続いたのは、王城の官吏の人たちが着るような服を着た、ルー様たちだった。そう、〈黒夜こくや〉の統率者だって教えてもらった、あのルー様が、何人かの男女を引き連れて、歩いて来たんだけど、〈黒夜〉って、こんなに堂々と顔を出しちゃっていいんだったっけ?
 
 最後に、何となく恐縮した感じの顔で現れたのは、真っ白なひげのおじいちゃんと、わたしの大好きなおじいちゃんぽい校長先生だった。どうして校長先生がここにいるのか、不思議だったのは確かだけど、それまでの見学者が、あまりにも豪華絢爛だったからね。おじいちゃんの校長先生を見て、すごく安心しちゃったよ、わたし。
 校長先生は、わたしと目が合うと、小さく手を振ってくれたから、わたしも、ぶんぶん振り返しておいた。それを見たミル様とヴェル様が、すかさず手を振ってきたから、そっちにもちゃんと振り返しておいた。思うところがないわけじゃないけど、礼節っていうものがあるじゃない?
 
 ざわざわざわざわ、ざわざわざわざわ。校庭を覆ったどよめきは、ミル様たちが整列し、誰かの神霊術で即座に整えられた椅子に座ってからも、中々収まらない。校庭に集まった人たちは、どこからどう見ても〈只者ただものじゃない〉ってわかっちゃうし、人数も尋常じゃないからね。
 見学の父兄や、内部進学の貴族の子たちの中には、ミル様たちの顔を知っている人もいるみたいで、さざ波みたいなささやきが、わたしの耳にまで聞こえてきた。
 
「嘘だろう。あの先頭の方は、大神使のコンラッド猊下ではないか。なぜ、大神使猊下が王立学院の実技試験を見学なさるんだ?」
「コンラッド猊下と共におられるのは、オルソン猊下だろう? 次の大神使は確実だといわれ、今は王国騎士団長閣下の執事を務めておられる、あのオルソン猊下だ」
「どうして、王国騎士団のパロマ子爵閣下がお出でになるんだ? 王国騎士団と王立学院の間には、何のつながりもないじゃないか?」
「あの官服の一団を率いておられるのは、バラン男爵ではないのか? あの恐ろしい、〈黒夜〉の支配者の……」
「しっ! 〈黒夜〉の名は出すな。秘密ではないが、大っぴらに口にできるものでもないだろう」
「白ひげの方は、前学院長だぞ? クラルメ名誉学長閣下が、わざわざ……」
「あの受験生は、いったい何なんだ? なぜ、これほどの方々が見学なさるんだ? とても常識では考えられないじゃないか」
「ひょっとして、大貴族の庶子……いや、王家の庶子か?」
「まさか。第一、王家の庶子だったとしても、神霊庁や王国騎士団が動くものか。どちらの組織も、独立不羈ふきだぞ。〈黒夜〉もそうだ。だからこそ、問題なんじゃないか」
 
 うん。当たり前といえば、当たり前だけど、すっごい噂になっているし、この噂って、入学後も消えることはないだろう。そう確信するくらい、校庭のざわめき、特に見学の父兄たちの動揺はすごかったんだ。
 ミル様たちは、皆んな思慮深い大人だし、わたしのことを大切に考えてくれているから、普通だったら、普通で静かな学園生活を送れるように、配慮してくれると思う。それなのに、こんなに派手に登場したのは、スイシャク様とアマツ様のいう、〈牽制〉なんだろう。わたしに近づいてくる人たちに対する牽制っていうより、そのことで怒って、暴走してしまいそうな神霊さんに対する牽制……っていう感じも、しないではないけど。
 
「あぁ、その、何だ。大丈夫かね、カペラ君。ずい分とざわついているが、このまま公開実技を始められるかね?」
「ありがとうございます。大丈夫です。これ以上、目立つのは嫌なので、ささっとやって帰ります」
「……ささっとやってもらっても、手遅れな気がするが……。大丈夫なら、始めなさい」
「はい!」
 
 大きな声で返事をして、わたしは、試験官の先生たちがいる、長机の前まで進み出た。しっかりと頭を下げてから、後ろを振り返る。生徒たちにいち礼、見学の父兄たちにも一礼。わざわざ来てくれたミル様たちにも、深々と一礼した。正直、ちょっと迷惑ではあるんだけど、わたしのために力を尽くしてくれているのは、確かだからね。
 そして、気持ちを落ち着けるために深呼吸をしてから、わたしは、そっと目を閉じた。何の神霊術を使うかなんて、この場に立った瞬間に、頭から消えていた。神霊術の多重展開に〈霊降たまおろし〉って、おじいちゃんの校長先生と話していたことも、あんまり思い浮かばなかった。だって、印を切る間も、詠唱する間もなく、天上で渦を巻く巨大な力が、わたしに向かって降り注ごうとしていたんだから……。
 
 わたしの肩に乗ったまま、ずっと姿と気配を消していた二柱ふたはしらが、爆発的に神威しんいを高めたのがわかった。わたしの身長くらいの大きさの、麗しい純白のご神鳥と、荘厳な真紅のご神鳥が、ふわりと舞い上がる。ここで初めて、二柱のお姿を見たらしい人たちが、どこかで悲鳴みたいな声をあげていたけど、わたしも二柱も、まったく気にはしなかった。
 天上で渦巻いている、尊い神霊さんたちの気配は、王立学院を覆うばかりに高まってきた。スイシャク様の羽根から白い光の帯、アマツ様の羽根から真紅の光の帯が生み出され、わたしを守るようにぐるぐるまきにしてくれたから、この瞬間のわたしは、自分の魂の器を越えて、天上の神霊さんたちに応えることができるんだろう。
 
 そして、わたしの口は、勝手に言葉をつむいでいたんだ。〈神降かみおろし〉って……。
 
     ◆
 
 校庭にいる受験生たちのことも、見学の父兄のことも、目立ちすぎるミル様たちのことも、綺麗さっぱり頭から追い出して、わたしは、天上の神霊さんたちに意識を集中した。もう何度も経験しているから、むずかしいとは思わなかった。
 空から降った雨が大地をうるおし、川になり湖になり、やがては水蒸気となって大気にけ、天にかえっていくように。わたしの祈祷きとうは、きゅるきゅると音を立てて回路を広げながら、天へ天へと昇っていく。われながら頼りない、小さなサクラ色の祈祷だけど、ちゃんと光の球になっていると思いたい。
 
 サクラ色の光球に込めたのは、神霊さんたちへの深い感謝と、わたしからの呼びかけだった。今は、王立学院の試験で、神霊術の公開実技の時間なんです。わたしの下へ降りてきて、現世うつしよ顕現けんげんしても良いよって、応じてもらえる神霊さんは、どうぞお姿を現してくださいな……。
 神事でも祝詞のりとでもない、普通の会話みたいに形式の整わない呼びかけだったけど、なぜか効果は絶大だった。サクラ色の小さな光球、どう見ても頼りない祈祷が、天に届いたと思った瞬間、わたしが広げた回路を通って、色とりどりの光球が、勢い良く王立学院の校庭に降り立ったんだ。
 
 何らかの神霊術を行使して、顕現してくれた光球が、ご神霊の姿を取るのが〈霊降たまおろし〉。神霊術を行使していないのに、神霊さんのご意志で、自由に顕現してくださるのが〈神降〉。今は、神霊さんに呼びかけただけで、何の神霊術も使っていないから、〈神降〉になるんだと思う。もちろん、そんな単純な区別だけじゃない、何らかの法則があるのかもしれないけど。
 一つ、二つ、三つ……次々に降り注ぐ光球が、ちょうど七つを数えたところで、回路が霧になって消えていった。それくらいが限界だよって、スイシャク様とアマツ様が、やんわりと止めてくれたような気がするのは、きっと思い過ごしではないんだろう。〈魂の器〉っていう言葉が、ぽんっと頭に浮かんできたからね。
 
 ともあれ、天から降ってきた七つの光球は、思わずひざまきたくなるほどの神威しんいをまとい、輝かしい光を放ちながら、校庭に浮かんでいた。金、白、朱、銀、黒、青、緑……。一つ一つの光球が、両手で抱えるほどの大きさで、ゆらりゆらりと揺れている。
 あまりの美しさと神々しさに、息を呑んで見つめていると、金色の光球がひときわ強く輝いてから、ぱんと弾けて姿を消した。後に残ったのは、あたり一面を覆い尽くした、きらびやかな黄金の鱗粉。きらきらと光るその鱗粉が、大きく渦を巻いたかと思ったとき、金の光球だったものは、別の形へと変わっていたんだ。
 
 さわやかな秋晴れの午後、公開実技の試験会場だったはずの場所は、いつの間にか、何もない乳白色の空間になっていた。そして、どこまでも広い空間に浮かんでいたのは、巨大な金色の龍だった。
 細長い身体に長いひげ、前足には七色に輝く宝珠ほうじゅを握って、金色の龍はあたりを睥睨へいげいしていた。龍の威容に驚いて、誰かがまた悲鳴を上げている気もするけど、今はそれどころじゃない。わたしは、爆発的な神威に呆然としながら、金色の龍、わたしの知っているクニツ様に見惚れていたんだ。
 
 クニツ様は、うちの家くらいの大きさになって、ゆうゆうと乳白色の空間を旋回している。一枚一枚のうろこまで、黄金よりも輝いていて、ため息が出るほど美しい。金色のひもみたいに伸びちゃって、わたしの肩にぐでんと引っかかっていたクニツ様とは、似ても似つかない尊さだった。
 クニツ様は、何回か旋回してから動きを止め、きらきらとした黄金の鱗粉を振りまきながら、長い身体を折りたたみ、ふわりと空中に留まった。何の御言葉みことばもないのは、まだ六つの光球が残っているからなんだろう。
 
 クニツ様の次は、雪の結晶みたいにきらめいている、純白の光球の番だった。純白の光球も、ひときわ強く輝いたかと思うと、煌めくだけの透明な鱗粉になって、空にほどけた。やがて、目の前を染め上げた光が収まったとき、空間に浮かんでいるのは、何だか不思議な物体だった。
 神鳥しんちょうでもなく、神龍しんりゅうもなく、神亀じんきでもなく、神羊じんようでもなく、そこに存在していたのは、純白の砂が固まったみたいな、円錐形えんすいけいだったんだ。
 
 純白の円錐形の表面は、波のようにさらさらと動いていた。純白から薄青、薄青から薄紅、薄紅から純白へと、ゆっくりと色を変えていく巨大な円錐形……。変といえば、ものすごく変なんだけど、人の魂では正しく認識できないだけで、これも神霊さんのお姿の一つなんだって、すぐにわかった。わたしは、この純白の円錐形に、何となく親しみがあったからね。
 雪の結晶みたいに輝く光の欠片かけらは、ヴェル様に連れて行ってもらったご神鏡しんきょうの世界で、わたしを助け、浄化の力を貸してくれた、塩を司る神霊さんに違いなかった。
 
 わたしが、そうと認識した途端、純白の巨大な円錐形から、はっきりとしたイメージが送られてきた。〈魂魄こんぱくの長ずれば、我が神名しんめいを名乗るらん〉〈其が魂魄にはすでにして、四柱よんはしらの神名が刻まれたり〉〈こんの器の広がりたるを待たん〉って。
 わたしは、スイシャク様、アマツ様、クニツ様、ムスヒ様の神名を許されているから、今の魂の器では、塩の神霊さんのお名前は、受け入れられないってことだよね? スイシャク様たちの神名も認識できず、あだ名のような御名ぎょめいしか呼べないから、当然だとは思う。わたしってば、スイシャク様たちの御名を口に出すときは、いまだにチュンチュンとかキュルキュルとかだしね。
 
 金色の巨大な龍の横に、純白の巨大な円錐形が浮かんでいる、不思議な乳白色の空間の中で、次に弾けて解けたのは、朱色の光球だった。太陽の残像みたいな、朱色の鱗粉が形作ったのは、朱色の光が凝縮されたような、透き通って輝く巨大な六面体だったんだ。
 六面体は、色を変えたりはしなかったけど、表面の神々しい朱色は、刻一刻こくいっこくと揺れ動き、美しい波紋を描いていく。この不思議な物体は、わたしに印を授けてくれて、やっぱりご神鏡の世界で助けてくれた、鈴を司る神霊さんなんだろう。
 わたしの魂の器が足らなくて、神名はいただけなかった。でも、すごく優しく、〈ときいたれば、我が神名を授けん〉って、それこそ鈴が鳴るような音と共に、イメージを送ってくれたんだよ……。
 
 ここまできたら、わたしにも、よくわかった。今、わたしの祈祷に応えて、〈神降〉で顕現してくれたのは、わたしに印を授けてくれた神霊さんたちなんだって。あまりのおそれ多さとありがたさに、泣きそうになっているうちに、残りの四つの光球も、次々に姿を変えていった。 
 
 銀の輝く光球は、とてつもなく巨大な、銀色にきらめく錠前らしきものになった。目にした途端にうれしくなって、思わず笑っちゃうくらい懐かしいのは、錠前を司る神霊さんのお姿だろう。
 黒の輝く光球は、漆黒の被毛をなびかせた、雄々しい馬のような形になった。ひたいから一本、黒い金剛石かと見紛みまがうばかりに光を弾く、長い角を持っているのは、夜を司る神霊さんのお姿だろう。
 青の輝く光球は、水面に一滴の水を落とした瞬間を切り取ったみたいな、美しい王冠の形になった。青というには冷たそうに、薄っすらと光を通す王冠は、水を司る神霊さんのお姿だろう。
 緑の輝く光球は、緑の木々だけを集めて編み上げた、清々しいリースのようなものになった。新緑の淡い緑から、秋の終わりの深い緑まで、色の濃淡が美しい木々は、植物を司る神霊さんのお姿だろう。
 
 時間にしたら、ほんのわずかのはずなのに、長いときにも思える瞬間を積み重ねて、七色の光球は、それぞれの形で顕現してくれた。乳白色の空間の中で、神々しい光と神威をまとって漂っている、金の龍、純白の円錐形、朱色の六面体、銀色の錠前、漆黒の神馬しんめ、青の王冠、緑のリース……。錠前を司る神霊さんだけ、何となく面白い雰囲気になっちゃった気がするのは、わたしのイメージが影響しているんだろう、多分。
 七柱ななはしらの神霊さんたちが、揃って〈神降〉を終えた瞬間、乳白色の空間の中に、次々と人ならざる声が響いた。
 
〈神託の巫たる雛は、我、やくを司りし□□□□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、じょうを司りし□□□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、めいを司りし□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、かいを司りし□□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、あんを司りし□□□□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、を司りし□□□□□の眷属也〉
〈神託の巫たる雛は、我、せいを司りし□□□□□□□□□の眷属也〉
 
 七柱の御言葉は、言霊ことだまとなって、乳白色の空間に轟き渡った。それと同時に、七柱のまとう七色の光は、まるで光の奔流ほんりゅうみたいに、暴力的なほどに輝き光ったんだ。
 どこかで、誰かが、苦しそうなうめき声をあげたり、喘ぐみたいに助けを呼んだり、かん高い悲鳴を上げたりしている気もするけど、わたしは、それどころじゃなかった。
 現世うつしよとは切り離されているのに、神世かみのよともいえない不思議な空間で、七柱の神霊さんたちが神威を示す、あまりにも尊く美しい光景に、声もなく、息さえ留めて見惚れていたんだ。
 
 半ば呆然として、どうすれば良いのかもわからずに立ちすくむわたしに、スイシャク様とアマツ様の声が、揃っていった。
 
〈見よ。れこそは神秘郷しんぴきょう。神託の巫にのみ許されし、神のそのたる《斎庭さにわ》也〉って……。
 

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