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連載小説 神霊術少女チェルニ〈連載版〉 3-9

 新しくわたしの部屋に顕現けんげんしたのは、契約を司る神霊さんだった。そして、金色の巨大な水引きとなった姿を、きらきらと輝かせたご分体は、わりと無茶な要求をしてきた。ただの平民の少女にすぎないわたし、十四歳のチェルニ・カペラに、神聖な裁判の場で、神霊さんのお言葉を伝えるようにっていうんだよ。
 
 契約の神霊さんのいう〈裁きの場〉っていうのは、もちろん、クローゼ子爵家の裁判だろう。アレクサンス元大公が、マチアスさんをだまして、不当な誓文を捧げさせたことが、そもそもの始まりなんだし、契約を司る神霊さんにとっても、それは許せない裏切りだったと思うんだ。
 
 ちなみに、クローゼ子爵家の〈神去かんさり〉から始まった、一連の事件では、びっくりするくらいたくさんの人が捕縛されている。
 元のクローゼ子爵だったオルトさんと、嫡男ちゃくなんのアレンさん、オルトさんの弟のナリスさん、その息子のミランさん。オルトさんの依頼で、フェルトさんやわたしたちを殺そうとした、〈白夜びゃくや〉っていう犯罪者集団の人たちが三十人以上。このルーラ王国の大公っていう、とんでもなく高い地位についていた、アレクサンス元大公。キュレルの街の守備隊に押しかけてきた、大公騎士団の騎士が四十人くらい。
 改めて数えてみると、びっくりを通り越して、愕然がくぜんとしちゃうね。捕まった人たちの数は、八十人を超えてるよ!
 
 このとんでもない数の人たちは、全員が神霊庁の裁判にかけられるんだって、ヴェル様が教えてくれた。わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんが、大公騎士団を前に、〈神霊庁に告発します〉って、凛々しく宣言したから。
 
 わたしたちの暮らすルーラ王国では、裁判は大きく四種類に分けられる。平民の罪を裁くのは、法理院の司法部っていうところの〈法理院裁判〉。貴族の罪を裁くのは、王城が審理を行う〈王国裁判〉。王族や王家の血を引く人を裁くのが、国王陛下が招集する〈王前おうぜん裁判〉。そして、神霊庁に告発されたすべての身分の人たちに対して、公平に開かれるのが、神霊庁による〈神前しんぜん裁判〉なんだ。
 王国の社会制度については、よく王立学院の入試にも出ているから、ちゃんと覚えているんだよ、わたし。
 クローゼ子爵家の事件は、犯人の身分もばらばらだし、人数もすごく多い。普通だったら、取り扱いに苦労するところだけど、今回は、全部まとめて神霊庁が裁くことになったんだって。
 
 これだけの大事件になると、普通は年単位の時間をかけて裁判をするそうだけど、誘拐された子供たちの安全がかかっている以上、時間的な余裕はまったくないんだって、ヴェル様が話していた。王城も神霊庁も、それはよくわかっていて、ひと月くらいの準備期間で、裁判を開こうとしているらしい。
 〈ルーラ王国の裁判史上、最速の審理と最速の判決〉になるだろうって、ヴェル様は、ほのかに笑っていた。その微笑が、ものすごく怖かった理由は、あえて聞いていない。どう考えても、聞かない方がいい気がするんだよ。
 
 契約を司る神霊さんは、この〈神前裁判〉で、わたしを通してお言葉を伝えたいらしい。神霊さんの言霊ことだまは、あまりにも尊くて重すぎるから、人の子に直接語りかけるのは、できるだけ控えた方がいいそうなんだ。
 スイシャク様とアマツ様によると、神霊さんから直接の神託が降りるのは、〈神託しんたくの出現、神威しんいげきの顕現を寿ことほぐ〉ときくらいなんだって。
 
 神霊さんの役に立つのなら、わたしにできることは、何だってさせてもらいたいと思う。スイシャク様やアマツ様も、それを望んでいるみたいだし、わたしは深いご恩を受けているし。そもそも、ルーラ王国に生まれた以上、神霊さんの恩寵おんちょうを受けているっていうことは、絶対に忘れちゃいけないことだからね。
 
 ただ、正直にいえば、戸惑いは山ほどあった。神霊庁の裁判なんていう、普通は一生に一回も経験しないだろう神聖な場で、ただの平民の少女が、神霊さんのお言葉を伝えるなんて、いくら何でも分不相応じゃないの? そんな大役、わたしに務まるものなの? そもそも、水引の神霊さんは、ネイラ様と〈会話〉していたんだし、ネイラ様にお願いした方が、ずっと正確なんじゃないの?
 神霊さんの依頼を拒否するなんて、そんな選択肢はないにしても、わたしなりに悩んじゃったのは、当然といえば当然だと思うんだよ。
 
 少女への教育的配慮の行き届いたスイシャク様は、悩んでいるわたしに、優しいイメージを送ってくれた。絶対にできないことなら、最初から頼んだりはしないから、安心しなさいって。失敗してもかまわないし、自分たちも助けるから、気を楽にしなさいって。何事も経験だから、頑張ってみなさいって。
 いつも大らかなアマツ様は、真面目なメッセージを送ってくれた。〈我らが化身〉であるネイラ様は、人の法理ではなく、神霊の法理を体現する存在だから、〈人の子が為す裁き〉には、あんまり関わらないものなんだって。わたしが、この〈お役目〉を果たせるように、ネイラ様も力を貸してくれるから、何の問題もないって。
 
 うん。スイシャク様とアマツ様に、ここまでいってもらって、それでもぐずぐず悩んでいるようじゃ、情けなさすぎるよね。わたしの大好きなお母さんが、ときどき口にするみたいに、〈女がすたる〉っていうやつだよ。
 わたしは、ぴしっと背筋を伸ばして、なぜか四柱よんはしらも部屋に集まっている、神霊さんたちに向かって、元気良く宣言した。
 
「わかりました! お役に立てるかどうかわかりませんけど、精一杯、頑張ってみます。ご指導、よろしくお願いします」
 
 その瞬間、わたしの部屋は、またしても発光した。清らかな純白の光と、輝かしい紅い光と、きらめく金色の光と、優しい黒白こくびゃくの光。目を開けていられないくらいのまぶしさで、部屋を埋め尽くした光の洪水の中、キュレルの街で〈謎の発光〉が噂にならないことだけを、わたしは、こっそり祈っていた。
 
 ようやく光が収まったところで、部屋の真ん中に浮かんでいた、きらきら輝く金色の水引が、不意に姿を変えた。複雑な結び目が、端からゆっくりと解けていく。そして、一本の長い金色のひもになったかと思ったら、今度はもっと複雑な形に結び合って、金色の〈龍〉になったんだ!
 冒険物語に出てくるような、大きな翼のあるドラゴンじゃなくて、細長い〈龍〉。神々しい金色の光に包まれた龍は、ネイラ様が誓文せいもんを破棄したときに現れた、純白の龍と同じ存在だった。
 
 わたしの身長くらいの長さのある龍は、優雅に部屋を泳いでいたかと思うと、わたしの頭の上で、ゆっくりと円を描き出した。わたしが両手を広げたくらいの、小さな円。くるくるくるくる、くるくるくるくる。光が尾を引いて、金色の円が切れ目なくつながったとき、唐突にその瞬間がやってきた。
 
 あっと思ったときには、わたしは、淡い金色に輝く空間の中で目をつむり、手足を丸めて眠っていた。まるで卵の中みたいな、小さな空間。薄っすらと外の景色は見えるんだけど、すべてがぼんやりしていて、美しいっていうことしかわからない。空間の中で、わたしはぷかぷか浮いていて、とても穏やかな気持ちだった。
 どれくらい揺蕩たゆたっていたのか、ぼんやりとした頭の中に、小さく響いてくる音があった。透き通った鳥のさえずりと、きらびやかな鈴の音。その素晴らしい音を、もっと聞いてみたくなって、目を開けようとした途端、卵みたいな空間が割れて、わたしは外に放り出された。
 落ちていくのか、昇っていくのか、それさえわからなくて、わたしは必死に目を開けた。すると、まばゆいばかりの金色の光の中で、二つの言葉が、わたしの額に吸い込まれていったんだ。
 
 ひとつは、□□□□□□□□□□っていう言葉で、契約を司る神霊さんのお名前だって、何となくわかった。神霊さんは、わたしに御名ぎょめいを許してくれたのに、わたしの魂の器では、神としてのお名前を認識することはできなかったんだろう。
 
 もうひとつは、〈クニツ〉っていう言葉で、これは契約を司る神霊さんが教えてくれた、呼び名のようなものだった。スイシャク様やアマツ様と同じように、わたしは、金色の水引で、龍でもある神霊さんを、〈クニツ様〉って呼ばせていただけるらしいんだよ。
 
 クニツ様、クニツ様……。何回か口にしているうちに、気がついたら、わたしは自分の部屋の中に座っていた。膝の上には、ふくふくに膨らんだスイシャク様。右肩の上には、勢い良く鱗粉を振りまくアマツ様。ぺったりと腰に寄りかかっているのは、可愛い編みぐるみの神霊さんだった。
 あれ? あれれ? 御名を許してもらったばっかりの、クニツ様の姿が見えないんだけど、どうしたんだろう? 濃密な気配を感じるから、すぐ近くにいると思うんだけど。
 
 わたしが首をひねっていると、ふすーーって息を吐いてから、スイシャク様が教えてくれた。鏡を見てご覧って。
 わたしは、慌てて横を向いて、壁際にある鏡台を見た。小さなサクラの花びらの模様が埋め込まれた、お揃いの家具のひとつで、わたしがとっても気に入っている鏡台の鏡には、神霊さんのご分体に囲まれた、わたし自身が映っていた。
 膝にスイシャク様、肩にアマツ様、腰のところに編みぐるみ。そして、わたしの頭の上には、世にも神々しい金色の龍が、べろんと乗っかっていたんだよ……。
 
     ◆
 
 何というか、鏡に映ったのは、ちょっとひどい絵柄だったと思う。金色の龍は、本当に美しくて神々しくて、現世うつしよのものならぬ神秘性に満ち満ちていたんだけど、長い身体を適当に折りたたんで、少女の頭の上に乗っかっているのって、どうなのさ?
 やけに光り輝いていて、教科書に載っていた各国の王冠の絵よりもきらびやかなあたり、わたしがいたたまれない気持ちにさせられたのは、仕方のないことだったと思うんだよ。
 
 スイシャク様やアマツ様と違って、クニツ様とは初対面みたいなものだから、流石に文句もいえなくて、わたしはひっそりと唸る。気配り上手のスイシャク様は、何となく察してくれたみたいで、〈思うことを告げるべし〉って、優しくいってくれた。
 
 わたしは、頭の上にいる神霊さんのご分体に向かって、メッセージを送ってみることにした。わたしの感覚が確かなら、御名を許された瞬間から、わたしと金色の龍の間には、それなりの太さを持った〈回路〉が開かれている。さっきはまったく不可能だった、メッセージのやりとりが、もう可能になっているんじゃないだろうか?
 心を鎮めて、敬虔な気持ちで、感謝を込めて、わたしは金色の龍に問いかけた。〈どうして頭の上にいるんですか?〉って。スイシャク様とアマツ様と編みぐるみが、揃って笑い出した気配がしたけど、真剣なんだよ、わたしは。
 
 金色の龍のメッセージは、最初は遠くで響く滝の音みたいだった。ごうっ、ごうって鳴るだけで、意味を持たない感じ。でも、それは、わたしが一心に耳を傾けている間に、少しずつ鮮明なものになっていった。
 直接、言葉として認識できるわけじゃなく、送られてくるイメージから、自然に言葉が浮かんでくる……とでもいうんだろうか。気がついたときには、わたしは、クニツ様のメッセージを、どうにか理解できるようになっていたんだ。
 
 クニツ様によると、頭の上にべろんって乗っていることには、特に意味はないらしい。神世かみのよに住まう神霊さんが、現世に長く顕現するためには、何らかの〈よすが〉が必要で、この場合は、わたしの存在そのものが、〈縁〉になっているんだって。
 そして、〈縁〉であるわたしと、直接触れ合っていたら、それだけで現世との関係性が深くなって、顕現しやすくなるらしい。〈□□□□□□□□の眷属にして、□□□□□□□の眷属でもあるは、頼もしき縁也〉って、何だかよくわからないうちに、められちゃったよ、わたし。
 
 わたしが、クニツ様のメッセージを、一生懸命に受け止めていると、右肩に乗っていたアマツ様が、すいっと左肩に移動した。右肩を空けたから、こっちに乗ったらいいよって。
 アマツ様によると、上下左右の方向には、それぞれに意味と序列があって、右肩よりは左肩の方が、〈どちらかといえば上座〉になるらしい。クニツ様は、神霊さんとしての〈階位〉が上位で、わたしの眷属としても〈先の御方おんかた〉であるアマツ様に遠慮して、左肩に乗るのを避けていたんだって。
 神霊さんたちが、のんびりと場所を譲り合うのを感じながら、単なる場所扱いされたわたしは、やっぱりいつもの呪文を唱えることにした。わたしは台座……わたしは台座……わたしは台座……。
 
 クニツ様は、わたしの頭の上から滑り降り、小さなサイズになって、右肩に引っかかった。金色の金剛石みたいな角を輝かせた頭を胸側、長く優美な尻尾を背中側にして、肩に乗っている様子は、本当に引っかかっているとしかいいようがない。
 わたしの頭の中には、〈裁きのときの至るまで、其の間近にて縁を強めん〉っていう、クニツ様のメッセージが流れてきたんだけど、これって、しばらくはうちの家にいるっていうことなんだろうか?
 
 スイシャク様とアマツ様から、ゆっくりと流れてきたメッセージによると、編みぐるみの神霊さんは、すぐに神世に戻るらしいし、金色の龍の神霊さんも、本当なら一緒に神世に戻った方がいいらしい。神霊さんが現世に顕現するのは、ある意味、神世の〈ことわり〉を超える行為だから。
 ただ、誓文を〈けがされた〉怒りは、とても強いものだから、金の龍は、神前裁判での断罪を求めている。スイシャク様とアマツ様は、その意志を尊重して、裁判が終わるまでは、うちの家にとどまれるように〈助力じょりょく〉するんだって。
 
 メッセージを受け取りながら、わたしは、ぼんやりと考えた。ネイラ様が生まれたときから、現世に顕現し続けているアマツ様。わたしを眷属にしているとはいえ、ずっと膝の上にいて、平然としているスイシャク様。
 この二柱は、もしかすると、とっても力が強くって、とっても階位の高い神霊さんなのかもしれないよ?
 
 ともあれ、クニツ様が、うちにいるんだったら、根回しをしておかないとだめだよね。お父さんとお母さんに説明して、ネイラ様にお手紙を書いて、神霊庁の裁判に出してくださいってお願いするんだ。
 ネイラ様を思い浮かべて、わたしが一人で赤くなっているかたわらで、クニツ様がにわかに緊張して、堅い棒みたいになっちゃったのは、気にしないことにしよう。神霊さんにさえ怖がられる、ネイラ様の特殊性なんて、わたしは気づかない。気づかないったら、気づかない。
 
 ネイラ様への手紙は、アマツ様が届けてくれるから、わたしは返事を待っていれば良い。その間に、お父さんとお母さん、アリアナお姉ちゃんに集まってもらって、新しく巡り会えた神霊さんを紹介することにしよう。
 
 実は、けっこう得意な風の神霊術を使って、〈野ばら亭〉にいるお父さんたちに伝言を飛ばす。お父さんたちは、すぐに戻ってきてくれたんだけど、応接間に入ってくるなり、呆然とした顔で立ち尽くした。
 三人とも、視線だけを動かして、わたしの腰に寄りかかっている編みぐるみを見て、右肩に引っかかっている金の龍を見て、相変わらず膝に乗ったままのスイシャク様を見て、もう一度、編みぐるみを見て、金の龍を見る。器用だよね、お父さんたち。
 
 一番最初に立ち直ったのは、わたしの大好きなお父さんで、流れるみたいに自然な動作で、床の上にひざまずいた。お母さんとお姉ちゃんも、すぐにお父さんにならって、静々と跪く。
 お父さんは、両手を床につけ、背筋を伸ばした美しい姿勢を取って、神霊さんたちに話しかけた。
 
「いとも尊き御神霊に在られましては、わが家にお出ましいただきましたること、恐悦至極に存じまつりまする」
「あ。大丈夫だよ、お父さん。わたしの家族なんだから、普通にしていたら良いんだって。わたし、クニツ様の眷属にもしてもらったんだよ」
「……。どれほどの非常識にも、驚天動地きょうてんどうちの出来事にも、いつの間にか慣れてしまえるのが、人の強さかもしれないな。で、おまえが、ギュルギュルいってるのが、ご神霊の御名なんだろう、チェルニ?」
「わたしってば、クニツ様っていえてない? やっぱり、変な風に聞こえちゃうのかな、お父さん?」
「ああ。ご神霊の御名らしきところだけ、ギュルギュル鳴いてるように聞こえる。なあ、ローズ、アリアナ?」
「ええ。ギュルギュルいってるわよ、わたしの可愛い子猫ちゃん」
「ギュルギュル、ギュルギュルって、とっても可愛いわよ、チェルニ」
「うわぁ。そんな気がしたんだよね。まあ、いいや。わたしも、慣れちゃったし。あのね、金色の龍になっているのが、契約を司る神霊さんで、クニツ様。正式な御名を許されたんだけど、魂の器が足らなくって、わたしには、まだ呼べないんだ」
「で、もう一柱のご神霊……ご神霊なんだよな、チェルニ?」
「そうだよ。アリアナお姉ちゃんの作ってくれた、羊の編みぐるみにそっくりなのが、羊を司る神霊さん。御名は許されていなくて、今回は、ご挨拶だけで帰っちゃうんだって。ちなみに、編みぐるみになっちゃったのは、わたしのイメージのせいらしいよ? 羊を司る神霊さんって聞いて、大好きだった編みぐるみを思い出したから、顕現するときに、それに引きずられたんだって」
「そうか。それはまた、申し訳ないことだな。顕現なされた理由は、ゆっくり教えていただくとして、〈神饌しんせん〉を捧げさせていただけるのか、お尋ねしてくれないか、チェルニ?」
 
 うちのお父さんも、神霊さんのご分体が顕現するっていう非常事態に、すっかり慣れちゃった気がする。深い感謝と敬意は感じながらも、祝詞のりととかをすっ飛ばして、ご飯を用意しようとしているよ、お父さんってば。
 
 スイシャク様は、当然、お昼ご飯を食べるつもりだし、クニツ様と編みぐるみの神霊さんも、すごく喜んでくれた。〈神世にても知られたる、神饌の申し子の御饌みけなるか〉〈良きこと也〉〈ご相伴しょうばんつかまつる〉って。
 鳥や龍ならまだしも、編みぐるみがどうやってご飯を食べるのか、密かに心配しちゃったことは、内緒にしておこう。
 
 それからは、とっても楽しい時間だった。ちょうどお昼時だったから、お父さんは、あっという間に用意を整えてくれて、食卓の上は、昼にしては豪華な料理でいっぱいになった。神霊さんが三柱に増えたから、お給仕は忙しかったけど、クニツ様も編みぐるみの神霊さんも、おいしそうにたくさん食べてくれて、すごく嬉しかった。
 
 ご飯が終わってしばらくした頃、ネイラ様のところから戻ってきたアマツ様が、渡してくれた手紙で、神霊庁からのとんでもない打診を告げられるのは、また別の話だったからね。