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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 24通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 わたし、チェルニ・カペラは、猛烈に感動しています。やりましたよ、ネイラ様! 今日、うちの家を訪ねてきたフェルトさんが、しっかり、はっきり、アリアナお姉ちゃんに求婚したんです! やったー!

 今、わたしは二種類の喜びに包まれています。もちろん、最初の喜びは、わたしの大好きなアリアナお姉ちゃんが、幸せになってくれそうなことです。
 二年以上も片思いをしていたフェルトさんに、正式に結婚を申し込まれたんですから、お姉ちゃんにとって、これ以上の良縁はありませんよね?

 アリアナお姉ちゃんは、本当に嬉しそうで、エメラルドみたいに綺麗な瞳から、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、微笑んでいました。幸せそうで、美しくって、お姉ちゃんの表情を思い出すだけで、わたしまで泣けてきます。
 フェルトさんは、すごく真面目だし、優しいし、カッコいいし、凛々しいし、お姉ちゃんのお婿さんに相応ふさわしい人だと思います。
 わたしたちの大切なアリアナお姉ちゃんが、大好きな人と結婚できて、その人が〈良き人〉なら、こんなに幸せなことはありません。(この〈良き人〉っていう表現は、ネイラ様が手紙に書いてくれた言葉です。何だか素敵だなって思いました)

 そして、もうひとつの喜びは、〈フェルトさん、よく頑張った!〉っていうものです。あまりのへたれ具合に、一時はだめなんじゃないかと心配していたのですが、やりましたよ、フェルトさんは!
 がちがちに緊張し過ぎて、挙動不審になっちゃって、何度か付き添いの総隊長さんにぶっ叩かれていましたが、最終的には、堂々とアリアナお姉ちゃんに告白していたみたいです。(わたしたちは、気をかして離れていたんですけど、雀を司る神霊さんが、お姉ちゃんたちの様子を〈見せて〉くれました〉

 フェルトさんが、アリアナお姉ちゃんを好きなことは、とっくにわかっているのに、告白までが長かったですからね。へたれのフェルトさんが、ちゃんと勇気を振り絞ったのかと思うと、感無量かんむりょうっていう感じです。
 わたしは、自分でも気づかないうちに、フェルトさんのことが大好きになっていて、〈お兄ちゃんだったらいいのに〉って、思っていたんでしょうね。

 お姉ちゃんとフェルトさんが、うちの家のテラスで、結婚の約束をしたとき、お母さんが花を降らせました。わたしのお母さんは、花を降らせる神霊術が得意なんです。
 白に赤にピンクに黄色にオレンジ……たくさんの可愛らしい野ばらの蕾が降ってきて、お姉ちゃんとフェルトさんの頭上で弾けて、優しい花びらの雨を降らせている光景は、本当に夢みたいに綺麗でした。

 ついさっき、おやすみっていいに来たお姉ちゃんが、わたしをぎゅって抱きしめて、〈わたしの幸せを祈ってくれて、ありがとう、チェルニ。大好きよ〉っていってくれました。わたしも、思いっきり抱きしめて、〈わたしも大好きだよ、お姉ちゃん〉っていいました。
 お姉ちゃんの幸せそうな顔が、胸が痛くなるくらい綺麗で、涙が出そうなくらい嬉しそうだから、わたしも幸せです。寂しいとか、離れたくないとか、わたしのお姉ちゃんなのにとか、ずっとこのままの家族がいいとか、思いません。思いませんったら、思いません……。

 あぁ、いろいろと混乱していますね、わたし。こうして、ネイラ様に手紙を書いているうちに、ようやく気持ちが落ち着いてきました。やっぱり、アリアナお姉ちゃんの縁談ともなると、わたしも普通ではいられないみたいです。
 お父さんとお母さんは、わたしたちのことを従業員さんに頼んで、二人で出かけています。お母さんは、〈わたしたちの思い出の場所で、ダーリンを慰めてくるわ〉って、すごく優しく微笑んでいたので、そういうことなんだと思います。

 書きたいことも、教えてほしいことも、まだまだあるんですけど、続きは次回にします。あと何回かは、お姉ちゃんとフェルトさんの話になるかもしれませんが、どうかお付き合いくださいね。
 ということで、また次の手紙で会いましょう!

     笑い出したいのか、泣き出したいのか、自分でもわからない気分の、チェルニ・カペラより

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美しい感情に満ち溢れている、チェルニ・カペラ様

 きみの大好きな、大切なお姉さんと、フェルトさんとのこと、早々に教えてくれて、ありがとう。首尾について、心配はしていなかったはずなのですが、改めて吉報を聞くと、やはり安心するものですね。
 絶望的に奥手なフェルトさんが、無事に求婚できたこと、本当に良かった。何故だか、わたしまで感動してしまいました。きみが〈フェルトさん、よく頑張った!〉といいたくなる気持ちは、よくわかります。

 きみに教えてもらうまで、わたしが見てきた世界では、貴族家と貴族家との契約による婚姻がほとんどでした。そこで重要視されるのは、家の利害であり、外聞であり、少しもわたしの興味を惹きはしませんでした。
 実際には、貴族でも恋愛結婚に至る人々はいて、それぞれの物語が紡がれていたのでしょう。わたしは、只々ただただ、無関心なだけだったのだと思います。

 きみのおかげで、わたしは、アリアナさんとフェルトさんのことを知りました。きみの手紙に書かれている、二人の関係は、とても微笑ましく、いじらしく、愛おしいものでした。幸せになってほしいと、わたしまで願ってしまうほど、生き生きとした〈生きる喜び〉にあふれていました。
 この現世には、きっと何千何万の〈アリアナさんとフェルトさん〉がいるのでしょうね。そんな当たり前のことを、十四歳のきみが教えてくれました。

 今回は、アリアナさんとフェルトさんが、幸せな約束を結べて、本当に良かったと思います。願わくば、多くの人たちが良縁を得ますように。祈ることは望ましくないので、それとなく願っておくことにしましょう。

 そうそう。きみの手紙を読んでいるところに、きみの父上からも手紙と贈り物が届きました。丁寧にショートマフラーの礼を述べられ、大きなブランデーケーキをいただきました。手紙には、きみの母上からの謝辞もありましたよ。父上も母上も、とても美しい字を書かれるのですね。
 ブランデーケーキは、父の目に止まってしまったので、二人で食べました。これまでにわたしが食べた菓子の中で、最高の逸品でした。マロングラッセとどちらが一番か、かなり迷うところではありますが。

 わたしの父は、ブランデーケーキを一口食べた途端、目を見開いていました。父の言葉を借りると、〈鮮烈なブランデーの香りと、ぎりぎりまで削ぎ落とした甘味が、渾然一体こんぜんいったいとなって新たな味の世界を作り上げている〉そうです。
 大変においしいと、いえばいいだけだろうと思うのですが、ともあれ、喜んでいたことは確かです。ありがとう。

 では、また。次の手紙で、続きの報告をもらえることを、楽しみにしていますからね。

     〈野ばら亭〉に通える人たちが羨ましい、レフ・ティルグ・ネイラ

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