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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 38通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 今回は、前の手紙に続いて、ネイラ様の部下の方について、書いてみたいと思っていますが……うちに派遣してもらった方々が、全員〈副官〉って、どういうことですか、ネイラ様!?

 いや、ネイラ様が選んでくれたんですから、とっても優秀で、立派な方々だっていうことは、わかっていました。わかっていましたけど、王国騎士団の副官って、それも三人って、ただの平民の一家に、派遣しちゃっていいものなんですか?
 しかも、マルティノ様なんて、王国騎士団の次席なんですよね? ネイラ様の次に偉い方なんですよね? 多分、いや絶対、高位貴族だったりしますよね? クローゼ子爵家に関係する事件だから、そんな副官方の派遣が当然……なんでしょうか?

 ネイラ様の手紙を読んで、衝撃を受けちゃって、ちょっと頭がぐるぐるしてしまいました。これからは、相手がネイラ様だったら、もう〈何でもあり〉だって、覚悟しておくことにします。(考えてみると、《神威しんいげき》で、王国騎士団長で、侯爵家の後継ぎのネイラ様に、こんな気安い手紙を書いている時点で、いまさらなのかもしれませんね)

 身分や立場を抜きにすると、副官の皆さんは、本当にとっても良い方々です。ご飯のときも、最初はスイシャク様とアマツ様の存在に、大きな衝撃を受けていたものの、途中からはすっかり打ち解けて、いろいろな話をしてもらいました。

 ネイラ様ってば、ショートマフラーの毛糸を選んでくれたとき、マルティノ様に相談したんですってね。マルティノ様は、しみじみとした口調でいってましたよ。〈初めて日蝕にっしょくを目にした、古代の人々の如き驚きに、茫然自失と成り果てました〉って。
 そして、マルティノ様の奥様が紹介してくれた手芸屋さんを、王国騎士団に呼んじゃったんですか? マルティノ様ってば、〈我が驚愕きょうがくは騎士団中に伝播でんぱし、王国の危機かとばかりの騒ぎと相成りました〉ですって。

 いくら何でも、驚きすぎじゃないかと思ったりもするんですけど、副官の皆様って、わりとネイラ様のことを、神聖視してたりしますよね。〈神威の覡〉で、英雄のネイラ様だから、当然なのかもしれませんけど。
 わたしには、親切で、優しくて、親しみやすくて、思いやりのある、大切な〈友達〉のネイラ様なんですけどね。いつも本当にありがとうございます。(改めて書くと、すごく恥ずかしいですね。えへへ)

 それから、ネイラ様の手紙に書いてあった、〈わがままな婚約者に振り回されることを楽しんでいる〉人って、財務担当のシモン様だったりしますか? マルティノ様は、すごく優しい良妻賢母の奥様がいるみたいだし、リオネル様は……婚約者の方に、あんまり興味がないみたいだし。
 陽気でお話上手で、女の人の相手に慣れている感じのするシモン様なら、わがままも余裕で受け入れるんじゃないかって、ちょっと思ったんです。他の副官の方を知らないので、単なる勘ですけどね。(そういえば、副官の方って、何人いるんですか? 普通は一人か二人ですよね?)

 では、また。次の手紙でお会いしましょう! 多分、すごく早く、次を書いちゃうと思いますので、一通一通にお返事をもらわなくても、大丈夫ですからね。

     平民の少女が、副官になる可能性はないのか、ちょっと気になるチェルニ・カペラより

        ←→

副官であれば、さぞかし有能に違いない、チェルニ・カペラ様

 きみの予想は、大正解です。相変わらず、素晴らしい洞察力ですね。そう、わたしが、以前の手紙に書いていた、〈わがままな婚約者に振り回されることを楽しんでいる〉部下というのは、シモンのことなのです。

 シモンの婚約者は、伯爵家の令嬢です。男爵家の嫡男であるシモンとは、家格的には差があるものの、エデルマン家といえば、ルーラ王国でも指折りの資産家なので、順当な縁組なのでしょう。
 そして、七歳ほど年下で、生家である伯爵家で溺愛されている令嬢のことを、シモンも大切にしているようです。〈近づくとフーフーと威嚇いかくし、離れると不安そうに寄ってくる。まるでわがままな猫のようで、そこが可愛いのです〉と、シモンが同僚に話しているのを、耳にしたことがあります。わたしには、理解不能な感覚です。

 わたしの副官は、王国騎士団に七人います。歴代の王国騎士団長の副官は、二名から三名でしたし、近衛騎士団長の副官も二名程度ですので、大変多いでしょうね。わたしには、覡としての仕事もあるとはいえ、そちらはパヴェルが差配してくれますし……。
 常に有能な副官が複数名、身近にいる環境は、やりやすくはあります。ただ、わたしの副官が増員されたのは、王城の都合によるところが大きいのです。きっと、各部署、各権力から満遍まんべんなく、副官を入れておきたかったのでしょう。

 正直にいうと、そうした思惑は、面倒でもあり、不愉快でもあります。副官を務めてくれる部下の一人一人は、とても気持ちの良い者たちであり、わたしに対して、誠実な思いを傾けてくれていることがわかっているので、気にしないようにしているだけです。(今はむしろ、副官たちと、彼らを推薦してきた者たちとの確執かくしつの方が、心配なところです。わたしは、問題ないといっているのですが、彼らは、自分の親兄弟、親戚とまで、疎遠そえんになろうとするのです)
 その副官たちが、きみと打ち解け、信頼を築こうとしている様子に、わたしも微笑ましい気持ちになりました。ありがとう。

 そして、わたしをめてくれたこと、とても嬉しく思います。わたしにとって、きみは、清々しく、健気で、可愛らしく、聡明で、大切な〈友達〉ですよ。これからも、よろしくお願いします。(この文章を書くに当たっての心理的抵抗は、きみを〈子猫ちゃん〉呼びする場合の、百分の一以下のものでした。単に本心を書いたからでしょうか?)

 では、また。次の手紙で会いましょうね。

     マルティノと奥方の話まで書き切れなかった、レフ・ティルグ・ネイラ

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