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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 43通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 そうですよね。何となく、嫌な予感はしてたんですよ。宰相閣下が伯父さん……伯父さんって、普通はもっと親しみやすい言葉のはずなのに……お母さんが先代陛下の姪で、お父さんが確か法務大臣……そうですか……。
 わかってたことですけど、ネイラ様の家庭環境(という言葉が似合わないです)に、衝撃を受けてます。ネイラ様って、本当に本物の高位貴族で、わたしとは住む世界の違う人なんだなって……。こうして、無遠慮に文通してもらってることが、わりと異常な状況なんですよね……。

 ……と、小一時間ほど悩んで……復活しました! もう、いつものチェルニ・カペラ、十四歳です。わたしの心は、〈身分社会のしがらみ〉なんかに囚われず、晴々と澄み渡っています。本当ですよ?

 考えてみたら、ネイラ様が、ものすごく身分の高い方だっていうことは、最初からわかっていたわけですし、何よりも〈神威しんいげき〉なんですよね、ネイラ様ってば。どんなに身分が高かろうと、身内が権力者ばっかりだろうと、ネイラ様の存在そのものが、何よりもすごいんだって、うっかり忘れてました。
 それを思えば、今さら身分違いに動揺する必要もありませんでした。ネイラ様が、いいよっていってくれる以上、ネイラ様とわたしは〈友達〉で、困ったことがあったら話し合いましょうって、約束しているんですから。わたしは、ネイラ様に恥ずかしくない存在であるように、努力していくだけですよね。ははは……はは。

 すっきりと気分を切り替えたところで、またまた受験の話に戻りたいと思います。神霊術の実技試験で、季節外れのサクラの木を、どどんと生やしちゃおうかっていう案は、覚えてもらってますか? 今日、わたしの大好きなおじいちゃんの校長先生に、この話をしてみたんです。
 校長先生は、優しい茶色の瞳をきらきらさせて、わたしをめてくれました。〈すごいのう、サクラっ娘。良い案じゃなぁ〉って。校長先生と話していると、世界昔話全集の世界に迷い込んだ気がすることがあるんですけど、これってやっぱり、おじいちゃんぽい話し方のせいですよね?

 ともあれ、校長先生も大賛成してくれたので、これでいこうかと思います。ただ、校長先生からの希望として、サクラの他にもう一種類、神霊術を重ねがけにしたらどうかっていうんです。重複して神霊術を使える人は、大人でもめったにいないから、試験官を驚かせてやりたいそうです。

 実は、わたし、神霊術を何種類も重ねがけすることができます。校長先生たちは、この〈多重展開〉ができるから、わたしを王都の高等学校に行かせたかったみたいなんです。多重展開について教えられる先生は、王都にしかいないからって。
 校長先生によると、〈身の内の魔力量が多いからといって、多重展開ができるとは限らない〉そうです。〈並列思考が鍵かのう?〉ともいってましたけど、わりと単純な少女であるわたしは、いくつかのことを同時に考えたりとか、できないんですけどね?

 ネイラ様は、神霊術の重ねがけをした方がいいと思われますか? 候補としては、サクラの花びらと一緒に雪を降らせる……とか、どうかと思っているんですけど。

 あっという間に〈定量〉になっちゃったので、また次の手紙でお会いしましょう。お父さん、お母さんにも、よろしくお伝えくださいね。

     ネイラ様のお父さんが面白そうなので、ちょっと会ってみたい、チェルニ・カペラより

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思い切りの良さが美点となっている、チェルニ・カペラ様

 きみの書いてくれた手紙を読んで、少し驚きました。きみとわたしとの間に、〈身分差〉などというものが存在するとは、一度も思ったことがありませんでしたし、きみがそれを気にするだろう可能性にも、まったく思い至らなかったからです。
 きみという人は、極めて思慮深く、社会というものをよく理解し、常識のある少女ですから、そう考えても不思議ではないのですね。年長者であるにもかかわらず、まったく気にしていなかったわたしは、少しばかり世間の常識とずれているのかもしれません。

 しかし、きみ自身が気づいてくれたように、〈友達〉であるわたしたちは、世間の常識では測れない形で交流を持っています。身分など気にしないでほしい……というのではなく、わたしたちの間には、本当にそんなものはないのです。
 現世うつしよの身分制度は、神霊のことわりと同一ではなく、神世かみのよの決まり事でもありません。わたしときみの交流について、人が定めた身分を理由に、異議を差しはさめる者はおらず、わたしもそれを許しはしないでしょう。

 まだ幼さの残る少女でありながら、〈社会の柵〉から解き放たれ、清々しい気持ちで、わたしと向き合おうとしてくれるきみの心こそ、価値あるものだと思っています。本当にありがとう。
 ただ、どうしても気になるようであれば、遠慮なく打ち明けてください。今の身分制を緩和するよう、神霊庁を通して王家に働きかけましょう。

 この話はさておき、きみの神霊術についてです。きみの大好きな校長先生が、神霊術の〈多重展開〉を〈並列思考の産物〉と考えているのは、正解ではないものの、間違っているともいえない考察です。
 神霊から印を授かるという行為は、魂にある種の負荷をかけます。もちろん、悪い意味ではないのですが、魂の器が小さいと、神霊の恩寵を受け止めきれないのです。同じように、複数の術を行使することも、魂に負荷をかける行為ですので、十分な柔軟性と大きさのある魂でないと、同時に術を展開できなくなります。
 並列思考の可能な魂は、柔軟性に富み、容量の大きい場合が多いので、結果として、多重展開に至る可能性が高いといって良いでしょう。きみの校長先生は、素晴らしい教育者であるだけでなく、優れた研究者でもありますね。

 今度、きみと会えたら、こうした話もしたいと思います。それを楽しみに、また次の手紙で会いましょう。

     きみと父とは、きっと仲良くなるだろうと確信している、レフ・ティルグ・ネイラ

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