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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 54通目

レフ・ティルグ・ネイラ様

 長いようで短かった、クローゼ子爵家にまつわる事件も、いよいよ本当に大詰めを迎えたようです。スイシャク様のお力で、クローゼ子爵たちの動きを見せてもらっていたら、大公っていう人のお屋敷に、魔術で転移していって、ヨアニヤ王国にお嫁に行かされたお姫様と、マチアスさんが現れて……。
 次から次へと変化していく状況に、ひたすら驚いていたら、今度はヴェル様まで出かけちゃったんです。ヴェル様のご神鏡の力を借りて、〈鏡渡り〉の神霊術で、大公のお屋敷に行くんだそうです。

 わたしの大好きな歴史小説の中に、大国と小国が戦う話があって、最後の決戦の前に、小国の王様がいうんです。〈さあ、今こそときは至った。雌雄しゆうを決する運命の刻が〉って。
 今まで、表に出なかったヴェル様や、気持ちを隠していたマチアスさん、そしてフェルトさんやわたしたち家族にとって、今が〈雌雄を決する刻〉なんですよね? わたしってば、紅白の光の帯にぐるぐる巻きにされて、完全に安全を確保されたうえで、ずっと見ているだけですけど。

 ヴェル様は、大公のお屋敷に行く前に、鏡を渡してくれました。古ぼけた縁飾りの、小さな鏡です。様子はまったく違っていましたけど、わたしには、それが〈鬼哭きこくの鏡〉だって、すぐにわかりました。
 そういえば、〈鬼哭の鏡〉のことって、手紙に書いていましたよね? ヴェル様に、ご神鏡の世界に連れていってもらったときに、わたしが出会った鏡です。大切な娘さんを殺された悲しみと怒りで、〈鬼成きなり〉してしまったお母さんの魂が、〈鬼哭の鏡〉に封じられて、血の涙を流していたんです。
 あまりにも気の毒で、悲しくて、どうしようもなくなったわたしは、スイシャク様とアマツ様に導かれるまま、ほんの少しだけ、〈鬼哭の鏡〉を浄化するために役に立つことができました。真っ黒に染まって、ぽたぽたと血を流していた鏡は、灰色の鏡面を曇らせただけの、静かな鏡になってくれたんです。

 あの〈鬼哭の鏡〉がどうなったのか、本当はずっと気にしていました。ヴェル様は、これから大公のお屋敷で起こる出来事を、うちのお父さんとお母さんも見られるようにって、鏡を渡してくれたんですけど、それって他の鏡でも良いはずですよね?
 わざわざ〈鬼哭の〉を選んで渡してくれたのは、わたしが、〈鬼哭の鏡〉のその後を気にしていたのを、知っていたからだと思います。優しいんですよね、ヴェル様って。えへへ。

 今、わたしは居間まで降りてきて、お父さんとお母さんを待っています。そばには、スイシャク様とアマツ様だけじゃなく、〈黒夜こくや〉のすっごく強い女の人もいてくれるので、絶対に大丈夫です。
 お父さんとお母さんが来る頃には、〈事件の終幕が始まる〉って、ヴェル様が話していました。そう考えると、何だかどきどきして、ペンを持つ手まで震えてきそうな気がします。

 今から、アマツ様に手紙のお届けを頼んで、じっと〈終幕〉を待とうと思います。では、また。今度の手紙で会うときは、事件の解決後ですね!

     ちょっと早いですが、ネイラ様への感謝の気持ちでいっぱいな、チェルニ・カペラより

追伸/
 大急ぎで書いたので、いつにも増して字が汚いと思います。本当にすみません。

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優しい思いやりに満ちた、チェルニ・カペラ様

 たった今、唐突に〈アマツ様〉が現れたかと思ったら、手紙を渡すだけ渡して、すぐに消えてしまいました。いつも以上に急いでいると思ったら、きみと一緒に、鏡に映し出される一幕を鑑賞するつもりなのでしょう。
 高位の神である〈アマツ様〉は、現世うつしよのすべてを見通すこともできるのに、きみたちと同じ場所にいて、状況を共有したいのでしょう。もともと〈人の子贔屓びいき〉で、妙に世情せじょうを知る神でしたが、きみと出会ってから、益々その傾向に拍車がかかっているようです。

 きみが、この手紙を読む頃には、クローゼ子爵家の事件も、一応の解決を見ていると思いますので、書いてしまいましょうか。わたしは、今、王城の宰相執務室にいます。パヴェルの鏡を通って、大公の屋敷に向かうため、待機しているところなのです。
 わたしたちの目の前には、大きな鏡があり、大公の屋敷の様子が映し出されています。一緒に見ているのは、宰相である伯父、わたしの敬愛するロドニカ公爵閣下と、閣下の優秀な部下たち、そしてわたしの副官たちです。近くの部屋では、ルーラ王国の国王陛下と王族たちも、ことの成り行きを見届けるために待機しています。間もなく、コンラッド猊下げいかが鏡を渡ると思いますので、そろそろわたしも出かける時間でしょう。

 それにしても、大公たちの見苦しい言動に、辟易へきえきとしていたところに、きみからの手紙が運ばれてきましたので、とても清々しい気分になりました。きみからの手紙は、まるで一服の清涼剤のようですね。
 そんなきみに、お礼の返事が書きたくて、伯父に便箋と封筒を頼んだら、興味津々で覗き込まれてしまいました。わたしの伯父は、非常に有能な大政治家なのですが、いつまでも子供のような無邪気さを残している人なのです。伯父の周りの人々は、何だかんだと文句をいいながらも、そんな伯父上だからこそ、深く慕っているのだと思います。

 ああ、そろそろ時間になりそうです。短いですが、ここまでにしましょう。きみの大切な人たちは、必ず守ってみせますので、安心してくださいね。

 では、また。

     取り急ぎ、レフ・ティルグ・ネイラ

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