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連載小説 神霊術少女チェルニ 往復書簡 1通目

 本日より、『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』の外伝シリーズ『神霊術少女チェルニ 往復書簡』を、noteにも連載投稿いたします。
 〈連載版〉をお読みいただいている皆さま、そして、初めてお読みいただく皆さまも、チェルニとネイラ様との間で交わされる手紙を、ぜひお楽しみください。

▼『神霊術少女チェルニ〈連載版〉』はこちらからお読みいただけます。

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※本連載投稿は、『小説家になろう』に連載されているものと同内容です。
※本noteへの連載投稿は、『小説家になろう』への投稿から遅れての投稿となります。『小説家になろう』では、本noteに連載済みのエピソードよりも先のエピソードをお読みいただけます。
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 レフ・ティルグ・ネイラ様
 
 晩夏の穏やかな日差しにも、遠く秋の気配を感じ始めた今日この頃、いかがお過ごしでいらっしゃいますか? この度は、ご丁寧なお返事をいただき、誠にありがとうございました。ご親切なお言葉に甘えて、またお手紙を書かせていただきます。(本屋さんで〈手紙の書き方〉の本を買ってきて、そのまま真似してみました。手紙の書き出しって、特にむずかしいです。まだまだ暑くって、全然秋の気配なんて感じませんよね?)
 
 ともかく、お忙しいネイラ様から、まさかお返事をいただけるとは思っていなかったので、とても驚きました。そして、とてもとても、嬉しかったです。
 
 うちの父が、ネイラ様からのお返事を渡してくれて、またお手紙を書いてもいいといいましたので、こうしてペンをとっています。(この表現も、一度使ってみたかったんですけど、ありふれてます?)
 わたしのような、田舎街の平民の少女が、ネイラ様に何度もお手紙を出したりして、本当に構わないのでしょうか? 社交辞令とか、適当な儀礼とか、わたしにはまだむずかしいので、これくらいの頻度だったらいいよって、教えていただけると嬉しいです。
 
 ネイラ様のお手紙を運んでくれた紅い鳥は、炎を司る神霊さんのご分体なんですね。余りにも尊くって、綺麗だったので、すぐにわかりました。
 お手紙を運んでほしいときは、紅い鳥を思い浮かべるようにって、ネイラ様が書いてくださったので、早速やってみました。そうしたら、わたしはいつの間にか、何もない空間に立っていて、身体を包む〈業火〉の熱気だけを感じていたんです。
 すごく怖かったけど、この炎は、わたしを守ってくれるものだって、心から信じられました。それで、わたしが炎に身を委ねると、炎はポーンと弾け、無数の朱色の火の玉になって、くるくるくるくる、わたしの周りを嬉しそうに回りました。
 しばらくして、いくつかの火の玉が、わたしの頬に吸い込まれていったときには、魂にくっきりと印が刻まれていたんです。
 
 ネイラ様のおかげで、ご分体にお目にかかれて、印までいただいてしまって、何だかズルをした気になっています。王立学院に推薦していただいただけでも、過分なこと(お父さんが、そういっていました。意味は辞書で調べたので、知っています)なのに、いいのかなって。
 あまりにも厚かましかったら、遠慮なく叱ってください。ネイラ様に呆れられるのは、とても嫌なので、どうかよろしくお願いいたします。
 
 そういえば、今日の夕飯に出てきたパンの中には、早採りのりんごが練り込まれていたものがありました。真っ赤でツヤツヤした秋のりんごじゃなくて、優しい黄緑色をしたりんごです。甘酸っぱくて、美味しくて、わたしは三つも食べてしまいました。大好きなんです、りんごパン。これが出てきたということは、本当に秋が近づいているのかもしれませんね。今さらですけど。
 
 ネイラ様みたいな偉い方にお出しする手紙が、こんな感じでいいのでしょうか? 失礼がありましたら、どうかご容赦くださいませ。かしこ。(手紙の本には、こんな感じの終わり方がいいって書いてありましたけど、何となくしっくりきませんね。かしこって、変な言葉だと思います)
 
     毎日、ネイラ様のご健康とご活躍を祈ることにした、チェルニ・カペラより
 
 
 
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チェルニ・カペラ様
 
 早速、手紙を書いてくれて、どうもありがとう。もしかして、わたしと文通をしてくれるつもりで、〈手紙の書き方〉を買ってくれたのでしょうか? そうであれば、とても嬉しく思います。
 
 きみが成長していく上では、儀礼に沿った手紙を書けるようになることも、それなりの意味があると思います。けれど、わたし宛のときは、きみの心のおもむくまま、自由に書いてください。生き生きとして、明るくて、元気なきみの様子を教えてほしいのです。
 
 手紙を書いてくれる回数は、本当に何回でも構いません。たくさんもらえれば、とても嬉しいけれど、きみの負担になることを望んではいないからです。時間のできたときに、短いものでも結構ですから、きみの近況を教えてもらえれば十分です。
 
 紅い鳥は、きみのことがとても気に入ったそうですよ。お礼状の次の手紙を運んできてくれたとき、それはもう、上機嫌で部屋中を旋回していました。紅い鳥とは、十数年の付き合いになりますが、あれ程喜んでいる姿を見たのは、初めてかもしれません。鱗粉の量が多すぎて、わたしの部屋が朱色に染まっていましたからね。
 きみだったら、あの鮮やかな朱色の奔流を、きっと美しく伝えてくれるのでしょう。文才のない自分が、少し恥ずかしくなります。
 
 紅い鳥に巡り合ったのは、わたしの仲立ちだったとしても、印を授けられたのは、きみ自身が認められたからです。安心して、御神霊の御好意を受け取ってください。これから先も、きみはもっと多くの御神霊と縁を結んでいくのでしょうから。
 
 ここまで書いたところで、わたしの方こそ、こんな手紙でいいのかと、心配になってきました。堅苦しくはありませんか? むさ苦しい男ばかりの騎士団にいるので、きみのような少女に喜んでもらえる手紙の書き方など、想像もつかないのです。何か問題があったら、きみの方こそ、遠慮なく教えてください。よろしくお願いします。
 
 最後に、りんごパンのことを教えてくれて、どうもありがとう。定型的な時候の挨拶よりも、遥かに季節を感じました。いつか、わたしも〈野ばら亭〉のりんごパンを食べさせていただければ、と願っています。
 
     レフ・ティルグ・ネイラ