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勝利と引き換えに前歯が欠けた話

こんにちは、opsol bookのヤナガワです。

ついに、第1回ハナショウブ小説賞の応募締め切り日を迎えました。初めての公募企画ということで、本当に応募があるのか不安を抱えたままのスタートでしたが、たくさんの方の作品と出合うことができました。本小説賞にご興味を持っていただいた方、情報の拡散にご協力いただいた方、noteを読んでくださった方、SNSで反応してくださった方、皆さまに感謝申し上げます。

第1回の結果発表は8月を予定しています。また、第2回の企画も進んでおりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

▼小説賞開催までの道のりはこちら

タッチ当番の罠

小学生の頃、学校終わりには必ず友人たちと遊んでいました。学校の校庭や友人の家、自宅、公園など、場所はさまざまです。

当時、私が推していた遊びは氷鬼ケイドロ(地域によってはドロケイ)。どちらにも共通するのは、1ゲーム内で鬼の交代がない事と、捕まると助けが来るまで動かなくて良いことです。足が遅く体力もない私には、至高の遊びでした。鬼になると地獄ですが。

また、私たちの間で流行っていた遊びに「タッチ当番」というものがあります。全国的な遊びだと思っていたのですが、調べてみてもなかなかヒットせず。皆さまはご存じですか?

タッチ当番は、缶蹴りの壁バージョンです。ウィキペディアには、「どんかく・点つけ」と書かれていました。鬼は壁を守りながら、近くに隠れている人達を探す。隠れている側は、鬼が壁から離れた隙に壁をタッチ。壁を守りつつ、全員を発見できれば鬼の勝ち、見つかる前に誰かが壁をタッチできれば隠れる側の勝ちという、簡単なルールです。

ぐるぐると走り続ける必要のないタッチ当番も、私の推し遊びの一つでした。そんな遊びが牙を剥いたのが、小学3年生の夏のことです。

いつも通り学校から帰った後、この日は5人で遊んでいました。

▼その内の1人は、こちらのダンゴムシの話に出てくる友人です。

はないちもんめや氷鬼、泥団子づくりなどを楽しんだ後、一日のフィナーレとしてタッチ当番が始まりました。缶ポジションとなるのは、正方形のゴツゴツとした化粧ブロックからなるコンクリートの壁。じゃんけんの末、私は隠れる側になりました。

鬼の様子を伺えるベストポジションに身を隠し、壁の前が無人になる機会を伺います。隠れた場所は、鬼からそう遠くはありません。日頃から、それほど勝敗にこだわるタイプではなかったのですが、何故かこの日は「勝つぞ!」という強い信念がありました。

しばらくして、鬼が姿を消しました。隠れている人を探すためです。絶好のチャンス。今だ!と一目散に壁に向かって飛び出します。

先ほども書いたように、私が隠れているのは、鬼からそう遠くはない場所。少し走ればすぐ壁に辿り着くのです。しかし、勝利・・の2文字で脳内を埋め尽くされた9歳児に、的確な判断はできません。「壁を触る!」ということだけを考え突っ走る私は、そのままの勢いで壁に飛び込みます。

鬼が戻る前に壁に辿り着くことができた私は、喜びのあまり大口を開けて笑っていました。両手で壁をタッチしたはいいものの、勢いは止まりません。その結果、私は化粧ブロックに剥き出しの前歯を打ち付ける羽目になるのです。

さっきまでの喜びは一瞬で消えました。有り得ないくらい歯が痛いからです。顔面をぶつけたわけではありません。前歯のみを強打しました。経験したことがないほど、前歯の周辺が脈打つ感覚に、頭が真っ白になります。

しかし、ここで泣くわけにはいきません。なぜなら、勝利しているから。勝者が歯を強打して泣いていたら、せっかくの空気が台無しです。私が人知れず前歯を強打したことは、墓場まで持っていくと心に決めました。

友人1(鬼)「あー! 負けた! もう一回やろうよ!」
友人2「やったー!」
友人3「鬼ジャンケンする?」

今回の勝負の勝敗に一喜一憂しながら、次の鬼を決めようとする友人達。盛り上がってきたタッチ当番。仕方ない、前歯の負傷は一旦忘れて、次の試合に移ろう。そう思いながら、口を開く私。

私「もう17時やし、今日は解散にしやん?」

痛すぎて無理でした。震える声で、友人たちにそう提案します。

友人4「確かに、17時のチャイムも鳴ってるし帰ろ!」
友人1(鬼)「うん、また明日やろう!」

ありがとう、17時のチャイム。愛してるよ、17時のチャイム。

こうして、この日は解散することとなり、私は自宅へと帰ります。こっそり前歯を触ってみると、痛みはあるものの、特に欠けている様子はありません。もしかして、これ、セーフなのでは。そんな淡い期待を抱きながら、夕飯を食べていたその時。唇に茶碗が触れた衝撃で、左の前歯がポロッと欠けました。

恐らく、化粧ブロックにぶつかった際のダメージは蓄積された状態で、何かあと一つ衝撃を加えたら終わりだったのでしょう。そんな中で止めを刺したのが茶碗です。お茶の間は大パニック。私は、タッチ当番でやらかした出来事は伏せたまま、すべての責任を茶碗に押し付け、後日歯医者のお世話になりました。

おまけ

勝利への熱い気持ち故に、欠けてしまった前歯の図。

ちなみに、すでに生え変わった永久歯をやってしまいました。

この出来事から数年後。今度は右の前歯が欠けました。夕食の際に茶碗をぶつけたせいです。ついでに何故か唇も切れました。もしかして、左の前歯の時に責任を押し付けた事、怒ってる?


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