チーズナンの虜
こんにちは、opsol bookのヤナガワです。
時々、無性にチーズナンが食べたくなることってありませんか? 私はあります。一度食べたくなってしまうと、体中がチーズナンを求め続け、もうそれしか考えられなくなってしまいます。
そんなに言うのなら食べたらいいじゃないか。皆さま、そうお思いでしょう。私も思います。でも、違うんです。チーズナンにはとんでもない罠が潜んでいることを、私はすでに知っているのです。
遡ること2年前。私は念願のインドカレーデビューを果たしました。ずっと食べてみたかったバターチキンカレー。画面の中でしか見たことがなかったチーズナン。その2つの食べ物が胃の中に入ると思うと、お店の看板を見つめるだけで、胸の高鳴りが止まりません。
己の鼓動を感じながら、いざ入店。
お店によってさまざまだと思いますが、このお店のチーズナンは円形で、6等分にカットされていました。つまり、6切れを独り占めできるというわけです。
まずは、待ちに待ったチーズナンを一口。この時の衝撃は、今でも忘れられません。こんなにおいしい食べ物がこの世にあったなんて信じられない。これを全て一人で食べていいってこと? 本当に?
チーズなんてなんぼあってもいいですからね、をモットーに日々を過ごしている私にとって、まさに至高の一品。バターチキンカレーと一緒に食べるのはもちろんのこと、単品で食べても最高です。甘いとしょっぱいが合わさって最高においしい。一生口の中にいてほしい。それくらい、本当においしかったんです。
こんなにおいしいのだから、6切れなんてすぐに食べ終わってしまう。そう思っていた私でしたが、残り2切れになった時点で異変が現れました。
私の右手が、チーズナンに触れることを拒否しだしたのです。
ほら、あと2切れあるよ、取りなよ。何度訴えかけても、右手はカレーを掬うために持ったスプーンを離しません。それならば左手、と思い見てみると、左手はカレーの器に添えられていました。私の指示に従う気はまるでないようです。
ここで私は気付いてしまいました。己が満腹であることに。
馬鹿な! 「こんなにおいしいナン、何枚あっても足りないよ~ナンだけに(笑)」としょうもないことを考えていた私はどこに行ったっていうのよ!
すでにウエスト周りはパツパツで、このままではボタンがはじけ飛んでしまうかもしれません。
ちなみに、このお店では食べきれない分の持ち帰りが可能なので、店員さんに声を掛ければこの問題は解決します。しかし、初めての入店で緊張している私に残されていたのは、恥を忍んでウエストを緩めて食べ続けるか、ボタンがはじけ飛ぶことを承知の上で食べ続けるかの2択のみ。「お腹がいっぱいなので持ち帰り用に包んでください」とは言えませんでした。
さすがにボタンを外すのは憚られます。満腹ではありますが、チーズナンのおいしさは変わらないですし、お腹がパンパンなだけで、ほかに食べられない理由はありません。ボタンがはじけ飛んでしまったのなら、またその時に考えればいいのです。拒み続ける右手を何とか説得し、「おいしい!→苦しい……→おいしい!→苦しい……」を繰り返しながら無事に完食。お腹は今にもはち切れそうでしたが、幸いなことにボタンも無事です。
この日初めて食べたチーズナン。今まで自分はチーズが好きだと思い込んでいましたが、実はそうでもないのかもしれません。おいしかったけど、もうしばらくは遠慮しておこう。そうだ、次は普通のナンを注文してみようかな。ライスもありかも。そう心に決めて、この日はお店を後にしました。
それから、しばらくはチーズナンと距離を置いていた私。しかし、その日は唐突に訪れました。
「チーズナンが食べたい」
きました、今もなお定期的に襲ってくるあの症状です。
もうしばらく食べないと誓ったのに。震えるほどの満腹感を味わうことがわかっているのに。こんなにすぐ食べたくなるなんて、とんだ魔性のナンです。少女漫画なら、イケメン御曹司におもしれー女、いや、おもしれーナン扱いされるかもしれません。
結局、我慢できずにお店に行きました。しかも、次は普通のナンかライスにすると誓ったはずなのに、追加料金を支払ってまで注文したのは、やっぱりチーズナン。1回目と同じように、初めはおいしさに感動し、お腹がいっぱいになるにつれて右手が拒絶をはじめ、最終的には虚無を見つめながら完食という典型的なパターン。この時私は、しばらくチーズナンと距離を置くことを改めて誓うのです。
それなのに。
その後も定期的にやってくる「チーズナン食べたい欲」に抗えず、何度も繰り返される愚行。どうして学習しないのか。あの満腹感に幾度となく苦しめられ、いつも食べ終わった後に、「絶対にもうしばらく食べない!」と決意しているのに。
ここまでくると、もう認めざるを得ません。胃が何と言おうと、右手がどれだけ拒否をしようと、私はチーズナンの虜になってしまったのです。チーズナンのことを考えると胸が高鳴り、距離が近くなりすぎると不満が出てきてしまう。でも、離れて初めて大切さに気が付くこの状況、もはや恋なのでは? もしかして、私が御曹司ポジション?
そうとなれば、チーズナン好みの私になるべく、まずは胃袋のトレーニングから始めてみようと思います。いつか、ハッピーエンドを迎えられますように。
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