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勘違いから始まらないラブストーリー

こんにちは、opsol bookのヤナガワです。

先日、頂き物のチョコレートを食べているときに、とある年のバレンタインデーのことを思い出しました。

あれは、小学4年生の頃だったと思います。

幼いなりに同級生に恋をしていた私は、バレンタインデー当日の放課後に、意中の相手の自宅へと本命チョコを届けに向かいました。

本当に今から渡すのか、やっぱりこのまま帰ってしまおうか。今まで経験したことがないくらいの速度で暴れ回る心臓を感じながら、私は相手の自宅前で行ったり来たりを繰り返していました。怖気づいた私の足は完全に我が家へ帰ろうとしていましたが、せっかく思いを込めて作ったのだから、できれば直接渡して、あわよくば顔を見ておきたいところです。相手は別のクラスなので、今日を逃すとしばらく顔を合わせる機会がないかもしれません。

いつまでも人様の自宅付近をうろついていては、たとえ子どもだろうと不審に思われる可能性があります。私は、10年間の人生の中で上位に食い込むレベルの勇気を出して、玄関のチャイムへと手を伸ばしました。

チャイムを鳴らしてすぐに開いた扉の先には、私がチョコを渡したい張本人が立っていました。日にちが日にちなので、相手も用件をわかっていることでしょう。覚悟を決めたはずなのに、顔を見ると上手く言葉が出てきません。吐く息が白くなるほど寒かったはずなのに、上着なんていらないくらい、顔も体も熱くて仕方がありませんでした。

「あー」や「えっと」などと言いながら、心を落ち着かせるための時間稼ぎをしつつ、次の言葉を必死に考えます。そういえば、そもそも私は告白をするためにチョコを渡しに来たわけではなく、ただバレンタインに便乗して、気になるあの人にチョコを渡したかっただけなのです。今から告白をするつもりでここに立っているわけではありません。たとえ本人に気持ちがバレていたとしても、今日の私に課せられた任務は、ただチョコを渡す、それだけなのです。

もったいぶらずに勢いで渡さなければ、私はただ自宅にやってきて玄関に立っているだけの女になってしまいます。結局何も言えないまま、俯きながらチョコを差し出しました。おそるおそる顔を上げてみると、私の瞳に映ったのは、「ありがとう」と言って笑顔でチョコを受け取るその人の姿。そのとき、私が何を言ったのかは、もう覚えていません。

ただ、私が帰る間際に、チョコを受け取ってくれた相手が「じゃあ、また」と片手を上げたことは、鮮明に覚えています。

私がそれをハイタッチの合図だと思って、手を合わせに行ったことも。

相手は、それはもう戸惑っていました。「え? 急に手合わせてきたんだけど、何?」と言わんばかりの表情で。私も私で、手のひらが重なった瞬間に「あれ? これもしかして、去り際の挨拶として片手を上げただけ?」と気づいたのです。確かに、私がハイタッチのために手を伸ばしたとき、向こうは上げていた手を後ろに引いていました。そりゃ困惑して当然です。

気付いたときにはもう遅く、「あ……じゃあ……」と微妙な空気のまま、玄関の扉は閉まっていきました。

冷静に考えれば、どう考えてもあのタイミングでハイタッチをするわけがなく、もし私が相手の立場だったとしても、あの状況でそんなことは求めないでしょう。「じゃ、またね♪(パチンッ)」なんてシチュエーション、バレンタインデーのエピソードで聞いたことがありません。

謎の恐怖感を与えてしまったにもかかわらず、翌月のホワイトデーにきっちりとお返しをいただきました。なお、受け取ったのはお礼のお菓子のみで、進展はなしです。無念。

片手を上げる仕草が、必ずしもハイタッチだとは限りません。状況を見極め、その時々で相応しい行動をとるために、私はこれからも自身への戒めとして、この出来事を定期的に思い出していきます。

▼この一年後のバレンタインデ罰が当たった話はこちら


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