バレンタインに罰が当たった話
こんにちは、opsol bookのヤナガワです。
毎年、2月になるとおいしそうなお菓子がたくさん販売されますね。あまりにも魅力的なスイーツが多いので、2月・3月は積極的にバレンタイン(ホワイトデー)商戦に釣られています。
今でこそ作る機会が無くなりましたが、中学生まではバレンタインに手作りのお菓子を渡していました。本来、学校にお菓子を持ち込んではいけないので、こっそり鞄に忍ばせたり、放課後に自宅へ届けたり、配布方法はさまざまです。ちなみに、高校はお菓子の持ち込みが自由だったものの、手作りする気力がなかったため、市販のチョコパイを配り歩いていました。
さて、今回はそんな私が小学5年生のバレンタインに体験した出来事をお送りします。
いたずら心
当時、近所に住んでいた友人と、毎日のように集まっては夕方まで遊んでいました。私以外のメンバーは、Aちゃん、B君、C君。Aちゃんは、過去のnoteにも少し登場しています。
▼Aちゃんが登場したnote
バレンタインが近付いていた2月某日、流行りの友チョコ(友人に渡すチョコレート)をAちゃんと私でそれぞれ作ってくることになりました。
そこで、Aちゃんが言ったのです。
「バレンタインに作るクッキーさ、2枚だけワサビ入れてみようかな!」
2枚だけワサビ入れてみようかな……!?
B君とC君に渡すクッキーの中に、こっそり少量のワサビが入ったクッキーを混ぜてロシアンルーレットを体験させようとしているAちゃん。せっかくのバレンタインだというのに、どうしてそんな案が浮かんでしまったのか。
「えー! めっちゃいいやん!」
おっと、ここでヤナガワ、引くかと思いきやAちゃんの提案に乗ってしまいました。絶対に普通のクッキーを渡すべきなのに、この2人は一体何を言っているのでしょうか。「じゃあ私はマヨネーズ入れちゃお(笑)」と言い出す始末。(笑)じゃないのよ。
ロシアンルーレット話で盛り上がり、Aちゃんに便乗して血迷った瞬間もありましたが、自宅に戻って我に返った私は、ワサビやマヨネーズは入れずに普通のクッキーを作りました。もしかしたらAちゃんは本当にワサビを入れて作っているのかもしれませんが、それは当日確認してみます。
ワサビの逆襲
やってきたバレンタイン当日。いつも通り、放課後に4人で集まりました。
こっそりAちゃんに確認してみると、「お母さんにバレて怒られたから、ワサビ入りクッキーはやめた」とのこと。期待していた部分も少なからずありましたが、まともなクッキーを渡すのが一番です。結局、2人とも普通のお菓子を持参していました。とりあえず一安心。
友チョコなので、Aちゃんは私にも袋いっぱいに詰められたクッキーをくれました。チョコレートがかかっている、一口サイズのクッキーです。
早速、皆でAちゃんのクッキーをいただくことにしました。友人の手作りのお菓子を食べるだなんて、バレンタイン以外ではなかなか体験できません。いざ、実食。クッキーを口に入れて嚙んでみると、チョコレートがパリッと音を立て、口の中に甘みが広が……ん?
口内に広がったのは、甘いような、苦いような、辛いような、何とも形容しがたい独特な味。そして、ムニュッとした食感と、瞬時に察する嫌な予感。
そう、ワサビです。
ロシアンルーレットはやめたと言っていたのに、なぜ? しかも、袋の中にはたくさんのクッキーが入っているのに、1枚目で引き当てるとは、一体何事? 脳内で思考を巡らせつつ、口内では噛めば噛むほど地獄の風味が広がっていきます。
このまま咀嚼を続けたら危険だ。
そう判断した私は、クッキーを急いで飲み込み、手持ちのお茶をこれでもかというほど胃に流し込みました。当時、11年間の人生の中で味わったことのない感覚。食道を通過することを体が拒むくらいとんでもない味でした。口元を抑えていないと、出してはいけないものが出てしまう予感。虚無を見つめて吐き気とともにクッキーを胃の中へ押し込みます。
なんとか落ち着きを取り戻し、Aちゃんに事の真相を聞いてみたところ、どうやらAちゃんは、クッキー作りの前に怒られたのではなく、作り終えてから怒られたらしいのです。つまり、ワサビ入りのクッキーはすでに誕生していて、入れるつもりのなかった1枚を誤って袋に詰めてしまった。その結果、3袋あったクッキーの内、私が手に取った1袋が大当たりだった、ということらしく。いやいやそんな……。
あの日、Aちゃんを止めなかったから罰が当たったのか。その提案に乗って「マヨネーズ入れちゃお(笑)」などと生意気なことを言ったから、こんなことになっているのか。今更後悔したって、私の胃の中に入ったワサビはなかったことにはなりません。
とはいえ、この世にはおいしいワサビチョコも存在しています。プロの方が商品として販売していますし、レシピサイトでも複数のヒットがあり、私が無知なだけで、実はポピュラーな味なのかもしれません。口に合わなかったのは、ロシアンルーレットの大当たりとして大袈裟に作ったからでしょう。もしくは、私の舌がお子様過ぎたか。大人になった今、もう一度食べる勇気が出たら、いつか勝負を挑んでみます。
一方、何も知らない男子2名は、うれしそうにクッキーを食べていました。良かったね、私を犠牲に幸せなひとときを手に入れられたみたいで。こちらは君たちに向けた悪意が跳ね返ってきて地獄を味わったよ。
人に悪さをすると、必ず返ってくる。大切なことを学んだ11歳の冬の出来事でした。
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