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雑巾がけが教えてくれた、譲り合いの精神

こんにちは、opsol bookのヤナガワです。

先日、学生時代の掃除の時間を振り返っていました。水曜日だけは掃除の時間がなかったり、使用した雑巾の水を限界まで絞ってみたり、玄関掃除の時に旅館ごっこをしてみたり(旅館ごっことは)。

掃除といえば、弊社でも毎日始業前に社内の清掃を行っています。短い時間でも毎日掃除を続けることが、その場を綺麗に保つ秘訣なのだと学んだ私は、自宅の洗面台を毎日磨くことに決めました。一度習慣化してしまえば、掃除も楽しいものですね。

さて、今回は私が小学生の頃、掃除の時間に胸に刻んだ言葉を紹介します。

我々の英雄

当時、私のクラスでは男子と女子が対立していました。事あるごとにお互いにいちゃもんをつけ、小競り合いが続く日々。お互いを意識し過ぎたが故の行動だとは思いますが、その症状が激しく現れるのが掃除の時間だったのです。

掃除の際は1クラス6班に分け、教室のほうき係、雑巾係、廊下係、流し台係、トイレ係、玄関係の6つの係を、1週間交代で回していきます。1班あたりの男女の割合は、大体半々といったところでしょうか。

その日、教室の雑巾係だった私は、友人の隣に並んで雑巾がけを行っていました。すると、友人の正面に現れたのは、同じ班の男子。通常は1人1列ずつ水拭きをしていくはずが、なぜか同じ列を両側から拭き始めていたのです。

途中でお互いの存在に気付いた2人は、当然の如く揉め始めました。「ちょっと! どいてよ!」と言う友人と、「お前がそっちに行けばいいやん!」と言う男子。両者共に一歩も引くつもりは無いようです。

一方、私の正面にいたのは、クラスの中でも割と会話を交わすA君でした。クラスの男女ですれ違いは起きていますが、今この状況で対立する必要は無いですし、私が必ずこの場所を拭き上げなければならないわけでもありません。大人しく退散しようとした、その時。

「譲り合いが大切ぅ~♪」

独特なメロディに乗せてそう言い放ち、A君はそのまま斜め方向に進んでいきました。音にしてみると、ドドミミファファソラシド~みたいな。音感がないので適当ですが。とにかく、A君は私に道を譲ってくれたのです。

私が呆然としている中、A君は特に気にすることもなく雑巾がけを続けています。とりあえず、譲ってもらったからには、私もそのまま前に進むしかありません。

友人の方に目をやると、先ほどまで言い合っていたはずの二人が、驚いた顔で見つめ合っています。数秒の沈黙の後、A君の言葉(歌?)に感化されたのか、「じゃあ、私こっち行くから」「俺はこっち拭くよ」とそれぞれが別の方向へ進んでいきました。A君のおかげで、新たな譲り合いの精神が芽生えた瞬間です。

あの一言が強烈な衝撃を与えたのか、この日以降、男女間でいがみ合うことが段々減っていったように思います。譲り合いが大切であることは、もちろん皆分かっていました。小学校では、道徳の授業で思いやりについても学びます。けれども、お互いに意地を張っていた私たちは、学んだことを実践することができなかったのです。

ただ1人、彼を除いて。

年頃の男女間に発生する衝突に流されることなく、己の内に秘めた「譲り合いが大切」という信念を貫き通す姿。その心を、他者にまでも伝えるなんて。紛れもなく、彼は私たちの英雄でした。

あれから月日が経った今でも、「譲り合いが大切」という言葉が、ずっとずっと胸の中に残っています。もちろん、独特なメロディ付きで。更には、雑巾がけをしながら隣を颯爽と走り抜けていくA君の姿と共に。


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